2013年6月 

ミュージカル「ミー&マイガール」5月17日 梅田芸術劇場・・・・・川上博
 ロンドン・ミュージカル「ミー&マイガール(Me & My Girl)」のロンドン初演は1937年で、筆者は1985年2月2日のロンドン・リバイバルの初日から始まり、ニューヨーク、メキシコ・シティ、ストックホルム、ブダペスト、ウッチ (ポーランド)、タンペレ (フィンランド)、ベルリン等の外国版を含めて、昨年までに19回観ている大好きな作品だ。

「ミー&マイガール」との出会いと観て歩き (1)
http://www.musicpenclub.com/talk-200805.html
「ミー&マイガール」との出会いと観て歩き (2)
http://www.musicpenclub.com/talk-200806.html
「ミー&マイガール」との出会いと観て歩き (3)
http://www.musicpenclub.com/talk-200807.html

 舞台は1930年代のロンドン。名門ヘアフォード伯爵家の当主が亡くなり、下町ランベスに住むビルが、当主の一人息子と判明する。ところが、現れたビルは下町のコックニー訛りの粗野な若者だった。男性版「マイ・フェア・レディ」と称されるように、ビルが厳しい教育によって、紳士に変貌する様がコミカルに描かれるミュージカル・コメディ。

 ノエル・ゲイ作曲のこの楽しい「ミー&マイガール」を今年は早くも2回観る事となった。宝塚初演 (1987) の主役・劍幸が26年後の今年、宝田明、中尾ミエ等と共演した2月28日に富山市オーバード・ホールで、(http://www.musicpenclub.com/talk-201304.html)富山公演を楽しんだばかりだが、梅田芸術劇場の宝塚月組による最新版を見逃すわけにはいかず、日帰りの旅でマチネーを観に大阪に向かう。

 この日の配役はビルが龍真咲、サリー・スミスは愛希れいか、ジョン卿: 越乃リュウ、マリア公爵夫人: 憧花ゆりの、ジャッキー: 凪七瑠海、ジェラルド: 美弥るりか 、パーチェスター: 星条海斗、ランベスクイーン: 玲実くれあ、ランベスキング: 煌月爽矢、その他。

 客席数1,905の梅田芸術劇場メインホールは、宝塚ファンで満員の盛況。宝塚ファン独特の華やいだ雰囲気が、舞台の時代設定と重なり、楽しさが倍増する。生の舞台の良さは、何と言っても役者と観客の織りなす一体感にあるが、要所、要所での熱烈な拍手ひとつをとっても、宝塚公演ほど役者と観客の繋がりが大きいのは他に類をみないように思う。

 舞台全体はその観客の期待に充分応えて、楽しさ満載となったが、特にフィナーレは金色に輝く大階段を全員が「ランベス・ウォーク」を歌いながら降りてきて、第1幕の終わりと同じように、そのまま客席に向かうという趣向で、作品を十二分に盛り上げ、満足度の高い仕上がりとなっていた。
<写真撮影: 岸隆子 (C)宝塚歌劇団>

韓国ミュージカル「チョンガンネ」4月26日 本多劇場・・・・・本田浩子
 韓国発の小劇場ミュージカル「チョンガンネ」が、ワタナベエンターテインメント制作の初のミュージカル作品として、日本人キャストにより上演された。脚本イ・ジェグク、作詞チョン・ヨン、作曲キム・へソンのこの韓国独特の文化に基づく物語が、中屋敷法仁の演出・訳詞・上演台本で、日本人の感性に分かりやすい明解なストーリーとなっていた。

 韓国の学歴やコネを重視する社会を嫌って、脱サラを決行した独身男(チョンガー)のテソン(和田正人)は、トラック一台で野菜の行商を始める。美味しい野菜だけでなく、楽しさを売りにしたテソンの商売は、やがて売り上げを伸ばし、店舗チョンガンネを構え、独身男ばかり4人ミンソク、チョルジン、ユンミン、チファン(牧田哲也、橋本汰斗、三津谷亮、近江陽一郎)の社員を抱えるようになる。

 社員というよりも、楽しさを売り、お客に満足してもらうことをモットーにした仲間たちである。同じ目的を持つ仲間とはいえ、当然育った環境、考え方にも違いがあり、紆余曲折があり、時には全てが無になりそうな危機を迎えるが、ともかく若さみなぎるパワーで乗り切っていく。女性キャストとして宝塚出身の舞羽美海、ヴォーカリストの黒崎ジュンコ、新良エツ子が加わり、更に華やかに舞台を盛り上げて、まさに楽しさを売る舞台となった。

<写真提供: ワタナベエンターテインメント>

「宝田座ミュージカル」 5月19日 内幸町ホール・・・・・本田浩子
 昨年のミュージカル「ファンタスティックス」http://www.musicpenclub.com/talk-201212.html で宝田明は制作・演出・主演をこなしただけでも素晴らしいのに、作品に対して芸術祭大賞を受けるという快挙を成し遂げた。その宝田を中心として、ミュージカル界の実力者を集めてのコンサートが三日間に亘り5回開かれた。歌姫伊東えり、沢木順、青山明、あぜち守、光枝明彦が出演する、何とも豪華なキャスティングで、観る前から期待感が膨らむ。舞台は宝田の軽妙なトークに始まり、「踊り明かそう」、「君住む街角」、「ラブ・フォー・セール」などで、まずは観客を懐かしいミュージカルの名舞台へと誘う。

 宝田と出演者全員で「ファンタスティックス」から「トライ・トゥ・リメンバー」を歌った後は、宝田が若い頃に飲み代稼ぎに、キャバレーで歌っては役者仲間におごったというそんなキャリア?を披露しながら、「ス・ワンダフル」「ムーン・リバー」「想い出のサンフランシスコ」他を聞きやすい英語で披露、昔のジャズメンの日常会話は英語だったと聞いた話を思い出した。まだ、ギャラはもらえないので、飛び入りで歌っては、水割りを稼いだそんな時代が宝田にあったのかと感無量で、魅力溢れる歌い振りに聞き惚れた。御年79歳と舞台で沢木がバラシテいたが、とてもそうはみえないダンディ振りに観客から熱烈な拍手を受けていた。

 伊東の「星に願いを」他も素敵だが、光枝の東北への応援歌として、ミュージカル「ユタと不思議な仲間たち」から東北弁の歌「友だちはいいもんだ」には、思わず涙ぐんでしまった。あぜちの「ジャッキー」は秀逸、青山の「雨に唄えば」はタップ・シューズを履いていないのが惜しまれる達者なダンス、沢木と伊東の「オペラ座の怪人」から「ミュージック・オブ・ザ・ナイト」等、舞台装置はないものの、いずれも舞台を彷彿とさせる力量。何と言っても、伊東以外は60代70代とミュージカルを切り開いてきた芸達者揃い、おまけに全員若さあふれる張りのある歌い振りに、一曲毎に心を揺さぶられた。

 そして若手歌手の鐘丘りおもベテラン光枝と「タイタニック」から「スティル」を見事にデュエット、休憩ナシの舞台はどんどん進んでいく。偶然、客席には今日で二回目という阿川泰子がいて、舞台に引っ張り出された。「又来たの?」と宝田に聞かれると、「今日で終わりなんですもの、もう一度見たかった。いけなかったかしら?」と応じ、ジャズ・ピアニスト岸ミツアキとの打ち合わせもできないまま、宝田をハンフリー・ボガードにみたてて、「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」を見事に歌って、大輪の花を添えた。最後に平均年齢63歳というおじさん素人コーラスが登場して会場を沸かし、何とも楽しい宝田座を満喫した。

<写真提供: 宝田座>

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