2014年9月 

  

旬のギタリスト、西藤ヒロノブ・・・・・・・三塚 博
 西藤ヒロノブIsland Jazz Tour2014と題したライヴを、8月4日〔月〕渋谷クラブ・クアトロで聴いた。ツアー最終日とあって、十分にこなれたステージはリラックス・ムードで進行し、メンバーの和気藹々とした空気が観客席にも伝わってホール全体を包み込む。
 西藤のギターは鋭くスピード感をたたき出すかと思えば、波に乗ったような心地よさをかもし出し、ギター小僧のようなちゃめっけも覗かせて、観客の耳にすんなりと入ってくる。

 2004年にスペインのフレッシュサウンドレコードから「The Remaining 2%」でデビュー、昨年の「Golden Circle」まで10年間に6枚のアルバムを順調にリリースし続けてきた。デビュー作はストレートなジャズ・アルバムでジャズ・ギタリストとしての西藤が強く印象付けられる内容だったが、時とともにウクレレやスラッキーまでも取り込んで今日のヴァーサタイルなスタイルへと進化していった。ずばぬけたセルフ・プロデュース力の持ち主といえるだろう。

 第一部は最新盤のタイトルチューン「ゴールデン・サークル」で幕が開く。レコーディング・メンバーでもあるミルトン・フレッチャー(p/keyb)、マルコ・パナシア(b)、新たにメンバーとなったマーク・ホイットニーフィールド.ジュニア(ds)に西藤(eg)というクアルテット編成で全員がバークレー音楽大学出身という共通項を持つ。「トラベラー」「リメイニング2%」「ワン・ツー・スリー」など既発表のオリジナル曲に、未発表曲を加えてタイトなサウンドを聞かせる。コンテンポラリーなジャズ・ユニットとして歯ごたえのある演奏を存分に楽しませて、存在感を見せ付けた。

 西藤は2010年度(第23回)MPC音楽賞を受賞している。これからの活躍が期待されるベスト・ニューアーティスト部門での受賞だ。1999年にバークリー音楽大学に留学、ギター・アチーヴメント賞を獲得するなど早くから実力が評価されていた。2004年にスペインのレコード会社からデビュー作を発表し、4作目となる作品「Reflections」〔2010年〕でウクレレを加えてアイランド・ジャズという新しい試みに挑戦した。早くから西藤を評価してきた音楽評論家の鈴木道子さんは「デビュー作を聴いたとき、なかなかいいジャズ・アルバムだと思いました。彼は宮崎の出身で東京に出てこようというときに、音楽関係者に足がかりがなかったようで、知り合いが私を西藤君に紹介したのです。会ってみて人柄がよく、もちろんギタリストとしておおいに期待が持てました」と語る。今日ではニューヨーク、ハワイはもちろんヨーロッパ、アジア諸国、北中南米に活動の範囲を広げている。
  
 第2部はスラッキー・ギターを抱えて登場、ハワイ語で家族の唄を意味する「オハナ・ソング」で始まる。第一部とは趣も変わりエレクトリックなサウンドからアコースティックなサウンドへとアンビエントな雰囲気に包まれるようになる。ミルトン・フレッチャーのソロ・ピアノ、西藤のウクレレ演奏、名曲「イマジン」など数曲を披露。
 本日のゲスト、Sandiiがオリを唱えながらステージに登場するとそれまでの流れはさらに一変。ハパ・ハオレ・ソングの逸品「ブルー・レイ」をジャジーに歌い上げ、彼女のフェイバリット・ソング「ワイキキ」では、フラの女性とともにステージを盛り立てる。
 
 サンデイ&サンセッツの時代から好んでいた西藤のたっての頼みでこの日のステージが実現したという。フラの名曲「キモフラ」、タヒチアン・ウクレレに持ち替えてのナンバーなどダンサーを交えながらの舞台は、彼が取り組むIsland Jazzの一面を見せてくれたように思える。「一粒で二度おいしい」とはよく言ったもので、一晩にニューヨークとハワイの二度の楽しみを味わったような気分に満足した。二度のアンコールに気がつけば3時間以上が過ぎていた。

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