2014年4月 

  

清く、正しく、美しく、ザ・ローリング・ストーンズらしくなく。・・・池野 徹
 ミュージックとは、それを創る人にとっては、常に新しいものを創造することに喜びを感じるだろうが、それを聞く人にとっては、生きていく中で人の感性を刺激してくれて、心地良い気分にさせてくれるものだと思う。ミュージックのジャンルは広い、原始的なものから、民族的なものまで、クラシックからポピュラーまで、様々な音色をインスツルメンツで、人の肉声で表現してくれて、人の五感へ滲み込んでくる。どんなジャンルの音に接触するかは、生まれたときから死ぬまで多様ではあるが、ある時期、すっと身体に入った音は、忘れがたく身体が記憶してくれる。そんな自分にいちばんフィットした音が、まだ60年あまりの浅い歴史であるが、ロック、ロックン・ロールだった。その発生時と自分の生きて来た時期が寄り添っていたと思う。1963年登場した、ザ・ローリング・ストーンズが、自分の身体を圧倒したのだ。

 ロックは、ライブが究極だ。レコードは、定着された音楽コードを確かめられるものだが、ライブは、パフォームするミュージッシャンが音を肉体で表現する。その生き様が、観衆に直接伝わる。そのライブ感が、観衆を楽しませてくれる。ストーンズは今回8年振りの来日だが、その初日をいつもの様に楽しむことができたのである。この普通に、共に、楽しめる事が何よりのサティスファクションだ。

 1978年、初めてロスアンジェルスのアナハイムで真夏の光の中、揺れるスタンドを見ながら"Brown Sugar"を聞いた。ミックと観衆は、スニーカーと放水の合戦だった。1982年、南フランス、ニースで、ネグレスコのバーで、ロニー夫妻とチャーリーに突如遭遇した。日本に来たらと云うと「ネヴァー」と言った。翌日プライベートビーチで再会、招待カードをくれたのである。シャンパンを飲みながら、ゲスト席で写真も撮れた。ミックの少年のごときムーヴィングがまぶしかった。そして、遂に東京に現れた1990年。メンバー全員と再会し、ミックのカリスマ性、キースの陽気さに触れる。ロニーのファミリーとも会え、希有の時を過ごした東京の夜になった。その後のロンドン、マルセイユ、パリ、ニューヨーク、ピッツバーグ、サンノゼ、ハワイ等20数回に及ぶライブ体験は、まるで、ストーンズが漬物石のごとく、身に滲みたのだった。だから、2014年、東京で聞くストーンズは、ストーンズのルーティンミュージックとして、共にここまで来れて、聞ける事が、こよなく喜びであった。

 それゆえに、50年もロックしているロックグループが存在しているのは、奇跡的だと思う。60年代のはじめ暴動ライブを続け、ビートルズに対し悪ガキに演出されたストーンズ、そして、ドラッグに取り憑かれたミックとキース、ブライアン・ジョーンズの死、オルタモントの悲劇、そこをくぐり抜けて成熟の80,90年代、ビッグマーケットで、ビッググループになった。ストーンズのカッコいいのは、70年代までのデカダンスで、怪し気で、セクシーなストーンズだったと思う。今にして、ある音楽批評家は、レジェンドだの、古典になったとストーンズを持ち上げ表現したが、そんな事ではない。50年も現役で眼前でライブしてるロックグループが存在してる事がザ・ローリング・ストーンズなのだ。

 Feb.26.2014,Tokyo。ストーンズにしてはシンプルなステージで"Get Off Of My Cloud"からスタートした。ミック・ジャガーの声が、突き抜ける。チャーリー・ワッツは信じられないくらいのスティックさばきだ。キース・リチャーズはやや太めだが、そのギターリフは心地良い。ロニー・ウッドはスキニーでシャープなスライドを見せてくれる。この日のミックのクライマックスは、"Midnight Rambler"だった。ゲストのミック・テイラーもジョインし、ミックのブルースハープが鳴り響き、緩急のあるミックダンシングがマックスだった。それにしても、ドームのサウンドは、やけに抜けが良かった。リサ・フィッシャーとのセンターステージでの"Gimme Shelter"は、あのティナ・ターナーを彷彿させる迫力だった。ストーンズの十八番が続き、アンコールエンディングは、1965年発表した"(I Can't Get No)Satisfaction"だった。この曲は、ストーンズの全米全英ナンバーワンヒットになったストーンズにとっては忘れ得ぬ曲だ。

 ストーンズの曲は、ミックとキースの曲ではあるが、殆どは1960-70年代中心の曲だ。それが、現実に聞いていても時代を超えた曲としてナチュラルに聞こえて来るから不思議だ。これは、まさに、50年間も変わらずパフォーマンスし続けているストーンズだからだ。オリジナルメンバーのミック、キース、チャーリーが眼前でパフォームしてる。解散したり、リタイアしたり、再結成したグループは、全く寄せ付けないパワーがある。

 ヴォーカル、ミック・ジャガーは、年齢を超えた超人だ。観客は、周りは70歳のミックはスゴいと言ってるが、ミックは歌い手のプロとしてごく自然にパフォーマンスしてる。ヌレエフや、空手に学んだ色気ある身のこなし、ストイックに鍛えた肉体からは、そのフラットしないヴォイスと独特の太いシャドウは、衰え知らずで、全ての人を圧倒する。

 悪ガキで、反世俗的で、ドラッグまみれを振り捨てて甦った、<清いストーンズ>。アフリカンビートとブルースを、ロックン・ロールミュージックとして貫き通してる音楽性の、<正しいストーンズ>。その肉体を含め、エンターテインメントは、時代を超え、カッコ良く見せてくれる、<美しいストーンズ>。およそ、らしくないストーンズが、現在、存在する理由はそこにあると思う。

 ミックは歌う事が誰よりも好きに違いない。自分がその表現を一番楽しんでいる。そのミックのストーンズと共に、ここまで来れて、まだ続くという事は、ローリング・ストーンズと共に、楽しい人生を転がれた事である。音楽は、ミュージックは、ロックは、ロックン・ロールは、そんなものだ。
<Photo by Tohru IKENO>


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