2014年4月 

  

Audio Blu-Ray Disc & DVD Review

「ブリテン:歌劇《グロリアーナ》」(オーパスアルテOABD7134D)
 作曲者の生誕百年を記念した英ロイヤル・オペラハウスの2013年の上演記録映像。このオペラはエリザベス二世(現女王)の戴冠を記念して作曲されたエリザベス一世の物語である。つまり祝典的な作品なのだが大英帝国万歳でなく、国王である前に一人の女であったエリザベスのジレンマがテーマ。愛人であった(とされる)エセックス公の裏切りに苦しみ処刑を決断、「朕は国家と結婚した。愛するものは唯、国民なり。」と宣言するまでの苦悩を現代的に描く。

 本作がブリトゥンの他のオペラに比べて上演機会が少ない理由は、オペラとしての聴き所が少ないためである。しかし今回はベテラン歌手スーザン・ブロックという適役(ジュディ・デンチみたい)を得、舞台作品としての本作の真価を味わえる。

 ロイヤル・オペラの映像記録はどれも高画質だが今回は特に優れている。横からの光線を活かした舞台演出は美しく、同オペラの「コジ・ファン・トゥッテ」1994年日本公演を思い出した。輸入盤だが日本語字幕の採用も特筆に価する。音声形式はリニアPCMステレオとDTS-HDマスターオーディオ5.1CH。(大橋伸太郎)

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「メリー・ポピンズ 50周年記念版」(ディズニーVWAS2858)
 本作の製作秘話が公開されたばかり。ウォルト・ディズニーは毀誉褒貶相半ばする20世紀のイコンだが、筆者は映画人としてのウォルト・ディズニーを尊敬する。それは、ひとえに冒険精神の持ち主だからである。本作は実写とアニメーションのハイブリッド映画の先駆作だが、このジャンルでこれだけ成功した例はその後もない。

 シャーマン兄弟のスコア、ジュリー・アンドリュースの歌唱、ディック・ヴァン・ダイクのダンス共申し分がなく、ディズニー・スタジオ製作のミュージカル映画のベストである。『魔法にかけられて』が本作のオマージュ作品なのは、冒頭の語りをアンドリュースが担当していることで明らか。つまり、本作はディズニー自身にとっても誇り高きレガシーなのである。

 父親に子供を愛する大切さに気付かせ、風に乗って潔く去っていく姿が何ともカッコイイ。実写部分とアニメは光学合成である。ブルーレイディスクを4K解像度で見るとさすがに合成が目立つ。ミュージカルとしての見せ場が煙突掃除夫の屋上の群舞だが、格段に暗部表現が改善されその中に溢れかえるダークな色彩の美しさはBDの恩恵。7.1CH音声も美しく入っている。大画面で是非。(大橋伸太郎)

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「ノーコメントbyゲンズブール」(DVD キングKIBF-1220)
 1960〜70年代を代表するシャンソン&フレンチポップスの作曲家兼歌手の肖像を追ったドキュメンタリー。「俺のせいで何人の女が自殺したか分らない…。」ゲンズブールの台詞に少年の私は畏怖を抱いたものだった。しかし、気難しさの奥に根深いコンプレックスを抱えた人懐っこい男だったのですね。

 かつてフランスのポピュラー音楽には一種排他的文化の魅力と香りがあった。一昨年の『ゲンズブールと女たち』、その前の『エディット・ピアフ 愛の讃歌』そして『最後のマイ・ウェイ』。往年の名歌手を主人公にした映画の企画が続いている背景は、フランスのポピュラー音楽界もボーダーレスになり他国との差異が薄れ、大衆的なスターが不在になって久しいからである。

 本作は劇映画でなく生前の実写フィルムを編集したドキュメンタリーである。したがって画質はTV映像やプロモーションフィルム、出演映画の範囲内である。音楽もそれほど多くないのでDVDクオリティで満足出来る。(大橋伸太郎)