日本でも「今日を生きよう」(1967年:オリコン89位)、「ペイン(恋の傷跡)」(1970年:同88位)、「恋は二人のハーモニー」(1971年:同40位)、「涙の滑走路」(1972年:同71位)といった全国区のヒット曲があり、'ヤンキー・サウンド'とも呼ばれてとりわけ1970年代前期の洋楽ファンには広く親しまれていたはずのグラス・ルーツ。だが、その後、今日に至るまで彼らの音源はどれほど'大切に'扱われて来たのだろうか?彼らが所属するオリジナル・レーベル(Dunhill)の発売権は日本ビクター→東芝音楽工業(グラス・ルーツの現役時代はここまで)、その後は日本コロムビア→ワーナー・パイオニア→MCAビクター→ユニバーサルミュージックと移り変わったが、再発盤として出されるのはお決まりのベタなベスト盤のみでオリジナル・アルバムはパスされるばかり。CDの時代になってからすでに四半世紀余りになるが、出されたCDと言えば1996年11月21日発売の「スーナー・オア・レイター〜グレイテスト・ヒッツ」(MCAビクター:米国編集盤+日本独自の1曲)1枚っきり。実は海外でも似たような状況で、ポップス・ファンにとっては苦々しい思いを抱く日々が長らく続いていた。全米チャートには21曲も送り込み、世界的に見ても彼らの曲を愛好するファンは少なくないのに需要と供給のバランスがとれていなかったと言える。
しかし、ようやく!である。昨年からダンヒル・レーベルの人気グループだったスリー・ドッグ・ナイト、ステッペンウルフ、ママス&パパスのオリジナル・アルバムを次々と紙ジャケット盤で復刻して好評を得ていた(セールス的にも好調♪)ユニバーサルミュージックがついにグラス・ルーツに手をつけ、3月26日にひとまず5枚が(同社が出せるのは全8枚分)陽の目を見ることになった。
売れっ子のソング・ライター&プロデューサー・コンビであるP.F.スローン&スティーブ・バリのスタジオ・セッション・グループとして産声を上げるも評判が高まったことでツアーに出る'実体'が必要となり、既存のグループを'グラス・ルーツ'に仕立てあげたのがそもそもの始まり。
L.A.のトップ・スタジオ・ミュージシャンのサポートと有能なソング・ライターが書き下ろす作品の数々を得て彼らはヒットを連発。当初は時代背景もありフォーク・ロック系ではあったが、1968年の「真夜中の誓い」を契機にブラス・セクションを取り入れた華やかなポップ・ロック・サウンドへと変身。快活でキャッチーな魅力全開で時代を突っ走った彼らをシングル・ヒットだけではなくアルバムで聴くといろいろな発見もあるだろう。メンバー自身のオリジナル曲も少なくない。じっくりチェックしていただきたいところだ。
ちなみにおなじみのヒット曲「今日を生きよう」「真夜中の誓い」「いとしのベラ・リンダ」「ラヴィン・シングス」「ザ・リヴァー・イズ・ワイド」はいずれもカヴァー曲なのだが、そういった楽曲をモノラルのシングル音源でまとめ上げたのが「The Complete Original Dunhill/ABC Hit Singles」で、偶然にも紙ジャケ盤のタイミングとピッタリ合致(3/21国内配給)。ファンにとってはまさに降って沸いたようなグラス・ルーツ人気の再燃。長生きはするものだ♪