2014年3月 

  

Popular ALBUM Review


「KIN(→←)/パット・メセニー・ユニティ・グループ」(ワーナーミュージック・ジャパン:WPCR-15523)
 パット・メセニー・ユニティ・グループの新作はマルチ・プレイヤーのジュリオ・カルマッシを新たなメンバーに迎えての意欲的な作品。ユニティ・グループはこれまでにも、レコーディング、ライブ活動そしてグラミー賞(ジャズ部門)受賞と精力的に活動して大いに注目され成果を挙げてきた。今回4人編成から5人のユニットへと進化を遂げてその最初の作品となったのがこれだ。クリス・ポッター(ts)、ベン・ウィリアムス(b)、アントニオ・サンチェス(b)と技巧派・実力派のメンバーを揃えて大胆かつ繊細な演奏が繰り広げられる。タイトルのKINは家族や家系といった意味だが、ここでは過去の偉大なミュージシャンたちから今日のあるいは未来の音楽家たちへと脈々と続く音楽的なつながりを意味する。(三塚 博)


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「スタンダード・ソングス/ブリーズ&ジェフ・ハミルトン・トリオ」(オール・アート:AAP-0086)
 2007年に日本人グループとして初めて富士通コンコード・ジャズ・フェスティバルに出演した日本を代表する混声コーラス・グループ「ブリーズ」は、その時、舞台を分けたバド・シャンクやハリー・アレン等に大変称賛されていた。「ブリーズ」は、後藤芳子門下生4人で1993年に結成されて2005年に今のメンバーになった。本アルバムは、2013年のフェスティバルで来日したジェフ・ハミルトンのトリオにハリー・アレンとグラント・スチュアートを加えた豪華メンバーと共演する今のメンバーとしては初のCD。中村新太郎他の編曲も良く素晴らしいハーモニーを聞かせる。ジェフ・ハミルトン、ハリー・アレン等伴奏陣も気合いが入っている。中でもジェフのドラムスだけで歌う「アイ・ガット・リズム」が聞き物だ。(高田敬三)


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「Con Anima 魂をそえて/水谷川優子」(ハーブクラシックス:HERB-019)
 世界中で活躍するチェロ奏者水谷川優子の最新アルバム『Con Anima 魂をそえて』は、水谷川がライフワークとしている今演奏したい楽曲が散りばめられた渾身の力作だ。バッハの「無伴奏チェロ組曲第1番 ト長調 BWV.1007」では、正確無比な演奏だけでなく、天性の感覚で如何にチェロを気持ち良く鳴らすことが出来るかを会得した様な響きを聴かせる。ポッパーの「ハンガリー狂想曲 ニ長調 Op.68」は、テンポの移り変わりと細やかなタッチが、ピアノ奏者小柳美奈子の好サポートにより鮮やかに表現される。黛敏郎の「BUNRAKU」では、あらゆるテクニックを駆使し、想像を絶する演奏で聴く者を釘付けにする。正に、水谷川の真骨頂と言える演奏だ。異色を放つガーシュウィンの「アイ・ガット・リズム」と「サマータイム」は、水谷川のジャンルを越えた活躍を物語る演奏であり、ここでも小柳のピアノは、心憎いばかりに曲の雰囲気を醸し出し、思わず拍手したくなる。この一枚こそが、水谷川優子の真の姿なのかも知れない。一人のチェロ奏者が到達した、入魂の傑作がここにある。(上田 和秀)


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「類家心平セッション」 2013年12月16日 新宿ピットイン
 トランペット奏者が元気だとジャズ界は楽しい。欧米でも逸材がガンガン登場しているが、日本では類家心平がすさまじい。フレーズの多彩さ、リズムの面白さ、音色の力強さ、そしてスタミナ。どれも申しぶんない。この日はスガダイロー(ピアノ)、須川崇志(ベース)、江藤良人(ドラムス)とのカルテット編成。レギュラーで率いている“5ピース・バンド”では自作曲中心のステージを繰り広げているが、カヴァー曲にたっぷり浸れるのがこうした臨時組み合わせの面白さである。いきなりオーネット・コールマン作「ロンリー・ウーマン」を20分に渡って展開し、ブルース調の「男はつらいよ」(もちろん渥美清で有名な映画のテーマ曲だ)、マイルス・デイヴィス「ビッチェズ・ブリュー」のベース・ラインだけを拝借した即興など、どのナンバーでも類家のトランペットが炸裂する。フリューゲルホーンを使ったりミュートでチマチマ吹くのとは正反対の芸風、音圧をライヴハウス中に轟かすような吹きっぷりだ。その背後で鋭利な和音をぶつけるスガ、ガット弦をかき鳴らす須川、ポリリズムの塊と化す江藤。皆、燃えに燃えている。この熱さがジャズには必要なのだ!(原田和典)


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「Blue Note TOKYO plays BLUE NOTE」 1月22日 ブルーノート東京
 ジャズの名門レーベル、ブルーノート(BN)は、今年で創立75周年。それを記念して所縁のある邦人ミュージシャンによる、一夜限りのイベントが開催された。トップバッターは2008年結成の4人組若手インストバンドbohemianvoodooで、全体のMCも務めたクオシモードの松岡高廣(per)が加わった。ケニー・バレルの「ミッドナイト・ブルー」で幕を開けると、バド・パウエルのピアノ・トリオ曲「クレオパトラの夢」をラテン・アレンジで演奏。ドラムスとパーカッションの応酬も盛り込んで、躍動的に仕上げた。山本玲子(vib)参加の「黒いオルフェ」はデクスター・ゴードンのBN盤を想起させ、「ニカの夢」ではバイブとピアノの掛け合いが、前半のハイライトとなった。後半は山中千尋(p)トリオの「ドント・ノウ・ホワイ」で始まり、日野皓正(tp)が味わい深く「サマータイム」をプレイ。特別ゲストのロン・カーターを迎えた「クール・ストラッティン」に、今や伝説となっている四半世紀前の<マウント・フジ・ジャズ祭>の名場面が重なった。アンコールは出演者全員による「チュニジアの夜」で大団円。(杉田宏樹)
撮影:Takuo Sato


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「テデスキ・トラックス・バンド」 2月6日 渋谷公会堂
 テデスキ・トラックス・バンドのライヴは、スーザン・テデスキの可愛い挨拶から一転、最新アルバム『メイド・アップ・マインド』のタイトル曲「メイド・アップ・マインド」で、熱く派手に幕を開けた。心配されていたベーシストの交代も何のその、息の合ったバンドをバックに力強いヴォーカルを聴かせるスーザンと既に貫禄充分なデレク・トラックスのスライド・ギターが唸りを上げる。前回にも増し聴かせ処満載のセットリストに加え、以前エリック・クラプトンのバンドで共演したドイル・ブラホールⅡのゲスト出演により、南部の泥臭さが薄れ、垢抜けした演奏が披露された。何よりもこのバンドは良い所は楽曲の良さに加え、ミュージシャン・シップに則ったメンバー全員の確かなテクニックと如何に観客を楽しませるかを心得た演奏・パフォーマンスにある。世界最強のブルース・カップルが率いる最高にいかしたバンドは、寒さに凍えた東京を熱くしてくれた。(上田 和秀)
撮影:Yuki Kuroyanagi


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「ジョン・カウハード・マーシー・プロジェクト」 2月10日 コットン・クラブ
 スペルはJON COWHERDと書く。彼自身のMCに接した限りではカウハードというよりは“カワード”と聞こえたのだが・・・。日本のジャズ・ファンの間では何よりもブライアン・ブレイド・フェロウシップのピアニストとして知られていると思う。今回のセッションはジョンのリーダー作『Mercy』のライヴ版というべきもので、ブレイド(ドラムス)、ジョン・パティトゥッチ(アコースティック・ベースに専念)、スティーヴ・カーデナス(ギター)を迎えた豪華版。フェロウシップの来日公演は何度も見ているけれど、ジョン自身の音楽表現を生で聴くのは初めてなので大いに期待して出かけた。だが演奏は、ぼくにはスムース・ジャズ〜フュージョンの中にちょこんと収まっているもの、という風にしか訴えてこなかった。とくにジョンの軽いタッチのピアノは「フュージョンに慣れてしまったキーボード奏者がジャズっぽく生ピアノを弾こうとしている図」にしか感じられず、個人的には、ときおり爆裂するブレイドのドラムスに溜飲を下げることでどうにか関心をつなぎとめた。(原田和典)
写真提供 : COTTON CLUB
撮影 : 米田泰久


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「さくら学院 The Road to Graduation 2013 〜Happy Valentine〜」 2月15日 六本木・EX THEATER ROPPONGI
 12人組ユニット、さくら学院をバレンタイン・シーズンに見ることができる。これは大きな喜びだ。外はあいにくの雪景色で寒かったが、会場の中は沸騰しそうな熱気に溢れていた。さ学の校歌というべき「目指せ!スーパーレディー」から始まり、もはや古典といっていい「Hello!IVY」や「ベリシュビッッ」、最新シングル「Jump Up〜ちいさな勇気〜」、そしてバレンタインのために用意された「小さな恋のうた」(MONGOL800のカヴァー)など、数々の楽曲と暖かなMCに包まれたプログラムは時間の経過を一瞬に感じさせる。見るごとに背が伸びているメンバーも、すっかり大人っぽくなったメンバーもいる。さ学のファンは“父兄”と呼ばれるが、ぼくはまさに父兄のような気分でライヴを楽しんだ。アンコールの1曲目では、3月に卒業してしまう堀内まり菜、飯田來麗、杉崎寧々、佐藤日向がモンキーズの「デイドリーム・ビリーバー」をタイマーズ・ヴァージョンの歌詞で披露。飯田と佐藤はアコースティック・ギターを流麗に奏でた。ニュー・アルバム『さくら学院2013年度 〜絆〜』の発表も秒読み段階に入った、さくら学院。メンバーの卒業は悲しいけれど、可能な限り今このときの姿を目に焼き付けておきたいと改めて思った。(原田和典)


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「@JAM the Field vol.5」 2月16日 恵比寿・LIQUIDROOM
 6時間以上にわたって開催された、文字通り空前のアイドル・イベント。それが@JAM the Field vol.5である。会場のLIQUIDROOMはもちろん超満員。この時期になっても「アイドル・ブームはいつまで続くのか」と思っているひとも少なくないようだが、これはブームではなく、いまやすっかり定着した「文化」であることが、こうした現場に足を運べばたちどころにわかる。出演はWHY@DOLL(オープニング・アクト)、つりビット、愛乙女★DOLL、妄想キャリブレーション、GEM、THE ポッシボー、乙女新党、いずこねこ、東京女子流、アップアップガールズ(仮)、DJ和。AKB、ももクロの次の扉を開くアイドルたちがずらりと揃った趣だ。しかも各グループ、独自の方向性を打ち出しているので、「アイドル・ソングの多彩さ、奥深さ」を味わうにも絶好のプログラムである。@JAMの顔というべき存在であるアプガは今回、初めて大トリをとり、2月19日発売の新作『セカンドアルバム(仮)』から「チョッパー☆チョッパー」のリミックス・ヴァージョンを世界初披露。アスリート級の切れ味鋭い動きとバラエティに富んだサウンド作りは、他のグループのファンにも強いインパクトを与えたに違いない。来る6月1日の中野サンプラザ単独公演に向けて、ますますパフォーマンスを磨きこんでいるアプガに要注目だ。(原田和典)


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「パトリシア・カース」
 フレンチ・ポップス界を代表する大人の歌手パトリシア・カース。ジャズやシャンソンの要素を取り入れたモダンで気骨ある歌手で、昨年エディト・ピアフ没後50周年に新作『カース・シャントゥ・ピアフ』をリリース。来日公演も反響を呼び、『ピアフに想いを寄せて』と題して再来日する。フランス好きは逃せない。(MS)

* 5月9、10日 Bunkamura オーチャード・ホール(東京公演のみ)
お問い合わせ:キョードー東京 0570-550-799
http://www.kyodotokyo.com/


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「TOTO」
 70年代後半から80年代にかけ、あらゆるセッションに参加し、アメリカン・ミュージックの中枢にいたスタジオ・ミュージシャンの集合体TOTOの結成35周年記念となるジャパン・ツアーが決定した。なかなか決まらなかったメンバーもスティーヴ・ルカサー(vo, g)、デヴィッド・ペイチ(vo, key)、スティーヴ・ポーカロ(key, vo)、ジョセフ・ウィリアムス(vo)、ネイザン・イースト(b)、キース・カーロック(ds)に決まった。スーパー・テクニシャン達が演奏する名曲の数々を是非堪能して欲しい。 (UK)

* 4月23日 名古屋市公会堂
* 4月24日 フェスティバルホール
* 4月26,27日 TOKYO DOME CITY HALL
* 4月28日 日本武道館
* 4月30日 東京エレクトロンホール宮城
* 5月2日 ニトリ文化ホール
お問い合せ:ウドー音楽事務所 03-3402-5999
http://udo.jp/


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