2014年2月 

  

2013年の回顧と今年のジャズ展望・・・・・・・・瀬川昌久
 2013年のジャズ界は東京からの視点で見る限り、総じてより活発化した。
関東域内のジャズのライブハウスの大小合わせて100店は下らない多数のステージで、弾き語りのソロからビッグバンドまで、毎日何かの演奏が実施されている。
 夏を中心に横浜・神戸・干葉はじめ全国各地のフェスティバルも盛んだ。東京では新宿や六本木の地域で各店連合のジャズウィークが沢山の客を集めた。

固定化するトップアーティスト群像
 海外ジャズメンの来日も盛んで、「東京JAZZ」や「川崎モントレー」をはじめ「ブルーノート」や「コットンクラブ」「モーションブルー」など、何れも繁昌している。
 こういう高級クラブに出演できる日本人アーティストは、この数年大体固定している。
ピアノでは自己のザ・トリオで欧米ツアーを年中続ける上原ひろみ、ピアノのソロとデュオ、コンボ、ビックバンド「No Name Horses」、さらに新年はニューヨーク・フィルとのクラシック曲共演まで多彩に活躍する小曽根真、やはりピアノソロからニューヨーク・トリオまで多忙な山下洋輔の3人がダントツだ。

 サックスでは渡辺貞夫(as、fl)が80歳を迎えてますます元気で、従来のアフロ・リズムのセッションに加えてブラジル勢との新作発表とライブを行った。もう一人マルタ(ts、as)も非常に活発なプレイで人気を拡大している。トランペットは依然、日野皓正の一人舞台で絶大な説得力を発揮する。エリック宮城(tp)のプレイも大型だが、ビッグバンドが多く、コンボのライブをもっと出してほしい。
 最近大人気のギターでは、やはり渡辺香津美が絶大な影響力を保持し、谷川公子(p)とのデュオの新作をはじめ、幅広い活動を続ける。
 ストリングスのジャズ奏者も非常に増えているが、トップの寺井尚子(vln)が新作で更なる前進を示した。

フュージョングループの進出
 昨年度の目立った傾向はフュージョン系の人気グループが極めて活発な演奏を展開したことだ。その頂点を示すT−SQUAREスーパーバンドとCASIOPEA3rdの2大バンドが長い歴史の輝かしさを示した。これに従うように野呂一生(g)のINSPIRITS、是万博邦(g)の野獣王国、増崎孝司(g)のDIMENSIONなどが新作を発表してフュージョン・サウンドの根強い人気をあおった。村山ボンタ秀一(ds)が岡沢章(b)と組んだPONTABOXや、桜井哲夫(b)のジャコ・トリビュート・バンドもこの類に属する。

アコースティック・ジャズを追求するアーティストたち
 フュージョン系に偏らずアコースティックなサウンドを中心に演奏するジャズメンが依然として大部分のライブハウスの主体になっている。
楽器別に見ていくとまずピアノで大西順子が惜しまれつつ引退してしまった。新作を活発に発表して話題に事欠かないのが山中千尋、第2作を出して注目されるハクエイ・キム、N.Y.在住の海野雅威、海外で活躍し、待望の自作を出した宮本貴奈、若手で異彩の桑原あい、浜崎航(ts)とのトリオが注目の松本茜はじめ若手の新作は数多い。ベテラン山本剛の久方ぶりの新作も大きく評価された。アバンギャルドで独自の音楽性を発する藤井郷子の存在は貴重だ。大ベテランの秋満義孝、今田勝、前田憲男ら長年蓄積した個性溢れるプレイがますます輝きを増していることも特筆に値しよう。
 ギターの大流行に伴いジャズギターを志す若手が増えているのが心強く、小沼洋輔と布川俊樹がその先頭を切って活躍している。
 管楽器奏者については、若手が多数参加してくるが、ホーン付きのコンボが継続的に演奏出来るライブハウスが少ないのが問題だ。

  女子の多いアルトサックス界では、バークレー留学中の寺久保エレナがアメリカの巨匠たちとの新作を出し、纐纈歩美もニューヨーク録音で進境を示した。先輩格の小林香織はもともと好きなR&B路線で、全曲打ち込みの新作を録音して特性を発揮した。テナーサックスは依然男性の天下で、川島哲郎のリーダーシップはゆるぎを見せないが、松本英彦、宮沢明に次ぐスター性を身に付けてはしい。
 トランペット界も大学出の若手が参入しているが岡沢綾がテナーサックスと組んだクインテットが新鮮な印象を与えた。

ホーン付きコンボの現状
 すでに述べたようにジャズ界の現状の問題点は、ピアノトリオは山ほどあるが管をフロントに据えたコンボが継続的に出演できる機会が少なく、そのためにメンバーの固定したレギュラー・グループが育ちにくいことである。
 ワンホールのカルテットではソロ・プレイが主体となってしまうので、少なくとも2管ないし3管が望ましい。何度も指摘したように困難な状況の中で長い歴史を有するのが村田浩(tp)のTheBopBandと小林陽一(ds)のジャパニーズ・ジャズメッセンジャーズ(JJM)の2つのクインテットで、常に若手の有望なプレイヤーをサイドに起用しながら、定期的にその若返りを図ってサウンドを増強拡大し、全国ツアーを含む活動を続けてきた。その間新作アルバムの制作も続け、小林JJMは、在米の大野俊三(tp)をゲストに録音と国内ツアーを敢行した。もう一つ松島啓之(tp)もクインテットを組んで、10年来のライブを続けている。昨年は、近藤和彦(as)が3管のセクステットを編成して、下丸子で充実したサウンドをきかせ、諸田富男(ds)もアレンジした6重奏団で定期出演している。
 この点で、最近目覚ましいのは、先月にも報じた安力川大樹(b)の9人編成のD−musica Large Ensembleが、各月定期出演していることで、各メンバーのオリジナル曲を含めてアレンジしたアンサンブルとソロ・プレイの絶妙なブレンドを図っており、2月にはタップ・ダンスとのコラボも別途企画しており、その成果が期待される。

三木敏悟のIGO再編で活気付くビッグバンド界
 昨年のジャズ界の特筆すべきイベントの一つが、作編曲家の三木敏悟が、30年振りに再結成したインナー・ギャラクシー・オーケストラ(IGO)が、12月17日TUCで初のライブを実現したことであった。数次の念入りなリハーサルを経て、三木が新たに書き下ろした新旧のスコアは、期待にたがわず、極めて新鮮で、熱気に溢れ、80年以降のジャズの進展をも見事に融合した現代的サウンドを表現した。最大の特色は<五束六文>と題する三木育成の女性ボーカル3人組のスキャット・コーラスを加えたことで、バンドのブラスとサックスのセクションと同等の比重をもつ新しいセクションとして機能されて、絶大な効果を上げた。2回目のライブ(2月8日TUC)でサウンドはさらに熟成するだろう。
 期せずして、昨年は大編成ジャズに新風が吹いた。正月のオペラシティで山下洋輔(p)の東京フィル共演をアレンジした後、自作の13名オーケストラのアルバムの発表ライブを開催した狭間美帆の登場である。在米中ギル・エバンスやマリア・シュナイダーを研究し、ストリングス・アンサンブルを含む独自のアレンジが好評を博し、新年のオペラシティで再び山下との共演をアレンジする。この他、新鮮なオーケストラ作編曲の企画に女性が何人か登場したことも記憶に残った。既存の守屋純子始め、三木俊雄のフロントページ、松尾明のTake10、吉田治のバトル・ジャズなど何れも話題を残すバンド活動を行い、ビッグバンド界はかってない活況を呈そうとしている。この背後には、大学バンドを始め、小・中・高校バンドのジャズ演奏が質量共に増大し、更に社会人バンドが全国的に増加している状況がある。
 最後になったが、ボーカル界は益々の百花繚乱状況にあり、その詳細は本紙の毎号に尽くされているので、ボーカル賞の一層の発展を祈って結びとしたい。(ジャズワールド紙2014年1月号より許可を得て転載)


2013年ミュージカル回顧と2014年の展望・・・・・・・・瀬川昌久
〜劇団四季、宝塚の攻勢と個人では玉野和典が活躍〜
2013年のミュージカル界は、数量共に一層拡大し、活況を呈した。
 最大手の劇団四季は、久方振りに新作「リトル・マーメイド」をオープンし、ディズニーで著名なだけに、海中の美しい美術など人気を呼び、「ソング&ダンス」も新版を上演した。「キャッツ」30周年、「ライオンキング」15周年続演を含めて、専用8劇場と全国公演合計11作品が常時フル稼働している。キャスト割り振り多忙な中で、今年も昭和史3部作(「李香蘭」「異国の丘」「南十字星」)を夏期に上演した労を多としたい。
 宝塚は創立百周年を控えて活溌化を計り、東京宝塚劇場年間9本の中、5本は「ベルばら」などのヒット作を再演し、加えて一本立てを6作、更に鳳蘭を始めとするOGを動員した豪華作で人気をあおった。
東宝も大作を増やし、帝国劇場や日生劇場に加え、シアターオーブ、シアター・クリエなどで、「レミゼ」始め外国物翻案10作以上を上演した。
 以上の大作の多くが外国物で占められる中で、ジャニーズは、ジャニー喜多川の演出する「滝沢演舞城2013」など何れもオリジナルで圧倒的な人気を博し、今後も上昇する気配にある。
 外国物翻案で注目すべき作品は、スティーブン・ソンドハイム原作を宮本亜門が演出した「メリリー・ウィー・ロール・アロング」で、邦題の「それでも、僕らは前へ進む」が示すように、ブロードウェイ伝統の意欲的な芸術性が感ぜられた。
 一方オリジナル作品を指向する中小型のミュージカル劇団は、苦闘し乍らも良質作品の制作を続けている。その最大手音楽座は、浅田次郎原作の「ラブ・レター」を年末に発進し、全国公演に出た。ミュージカル座と劇団スイセイ、イッツ・フォーリーズも小型の新作を出した。新生ふるきゃらの「ドリーム工場−東北のプレタポルテ」は傑作に価する。秋田県に本拠をおく劇団わらび座は、手塚治虫の「アトム」に続く「ブッダ」を初演。富山市民文化事業団が独自に制作する米国物で、剣幸が主演する「ハロー・ドーリー」の東京公演は、市の総力を上げた上質舞台で賞賛された。
 韓国とは政治的な関係が良好でないに拘らず、ミュージカル作品の来日公演が続いたのは喜ばしい。アミューズが六本木に専用劇場を設立し、一月単位で小型の人気作を続演し、KAAT神奈川芸術劇場が大型の「ジャック・ザ・リッパー」を招いて、若手の人気俳優多数を交代で出して、ファンを集めた。
 年間活躍の目ざましかった個人として、作演出振付主演までこなす玉野和典を上げたい。オリジナル作「私のダーリン」とショウ「クラブ・セブン」に非凡な才を発揮しており更なる活動を期待したい。(週刊オンステージ新聞2014年1月3日号より許可を得て転載)


プロデュース41年。内田裕也のロックンロールライヴ。・・・・・・池野 徹
 日本のロックは、といまさら言ってもと思うが、日本にロックはあるのだろうか。1952年アメリカのDJアラン・フリードが「ロックンロール」と叫んで以来、60年のロックのヒストリーはあるのだが、日本にはいちはやくロックは伝わって今日があるのだが、時代の背景と若者の動向とロックのリズムの流れが続いて来ている様に見えるがそれは間違いないが、プリミティブなロックの音楽感は変化してしまい、その独特の音楽的感性は、失われているとしか思えないのだが。早い話、ストレートなロックに出会えない。

 そんな中でロックにこだわって来た男がいる。内田裕也だ。自分の歌はさておき、ロックの光を見せる男達を捕まえ、世の中に投げ出して来た。毎年年末に、NHKの紅白ぶっ飛ばせと、1973年以来、41年もロックフェスを続けている。継続は力なりというだけではすまないが、裕也流にロックに関わり表現し、その場を提供して来た男でもある。

 40+1st New Years World Rock Festivalは、博品館で銀座の未明に鳴り響いた。オープニングは、「石橋勳BAND」マジメ過ぎるストレートなロックだ。つづいて、久方ぶりの「金子マリ」のブルージーなバラード。不思議な惹き付けるシャウトは貴重だ。「氏神一番」はその歌舞伎コスチュームは飽きるほどだが美声の中に諦めぬロックがあるのだろう。10代の頃からの美少女も10年近くなる優子の「新月灯花」は、女性だけの魅せるバンドでもあるが、ハードな反戦ソングをロックする。「Mil9」のビリーはそのムーヴィングにシャープなキレがある。もっとメジャーに登場して良い男だ。「PANTA & NUMBER42」は、PANTAの吟遊詩人的ロックを語る。大太鼓を打つ女性の鼓手の射つリズムにハラハラしながらカウントダウンを迎える。「内田裕也 & Truman Capote Rock'n'Roll Band」が登場。内田裕也が「朝日のあたる家」を熱唱。裕也舞いも見られ、歌に対する熱さを、そしてロックが歌える男の存在を魅せた。セレモニーの後、「カイキゲッショク」のヒロがアヴァンギャルドハードロックを毎年だが、これでもかとパフォームする。そして、ソウルの匂いを背負い、「白竜」が切なるロックを披露する。トリは、「シーナ&ロケッツ」が会場を一変する。35周年を迎えてるシーナ&マコトのロックのベーシックなオーラを秘めての中で、これほどのパフォーマンスできるエネルギーに驚く。フィナーレは、オールロッカーズで「Satisfaction」で締めくった。

 そのパフォーマンスを見てると、ロックは、ディスク盤より、ライヴだなと痛感する。ロッカーの感情、歌のクオーリティ、ムーヴィングのパフォーマンス、何よりロックが好きだと言う感性がオンステージで見れる事である。
日本中の街の地下のライヴハウスでロックする若者達に、一流のステージでPAで、ライティングで、歌う事のロックのクオーリティ&パフォーマンスを見て欲しいものだ。

 今回は、福島の石巻でも「三原康可」プロデュースでロックフェスを行った。惨状から立ち上がった若きロッカーをロックができる事で内田裕也はバックアップしている。また、London,New York,Taipei,Seoulの地でも現在の若手のロックンローラーをテレビプログラムで紹介した。世界のロックの流れも現状や、先行きどんなディレクションになるかは、なかなか見えて来ないが若者の気概はある様だ。

 日本では、松田優作、原田芳雄、ジョー山中、安岡力也、桑名正博等の第二世代のロックンローラーが登場してコンティニューしていくと思うのだが。この不安な日本で、ホンモノのロックを武器にして人々を喚起させる必要があると思う。
内田裕也はそれでもロックで突き進む。「死ぬなよ」と切に願う。
<Photo by Tohru IKENO>

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