2014年2月 

  

Classic CD Review【交響曲、管弦楽曲】

「ブラームス:交響曲全集(第1番〜第4番)、悲劇的序曲、ハイドンの主題による変奏曲、大学祝典序曲、間奏曲作品116-4(クレンゲル編)、同作品117-1(クレンゲル編)、ワルツ集《愛の歌》から(ブラームス編)、3つのハンガリー舞曲(ブラームス編)、交響曲第4番-改訂版冒頭、交響曲第1番-第2楽章初演版/リッカルド・シャイー指揮、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団」 (ユニバーサル ミュージック、デッカUCCD-1388~90〈3枚組〉)
 早いものでシャイーも60歳。当初オペラをメインに活躍してきたが、現在世界最古の伝統に則ったオーケストラ、ゲヴァントハウスの第19代カペルマイスターとして、新鮮な解釈でこの歴史を感じる渋いオーケストラを徐々に近代的に改革し始めている。バッハ、ベートーヴェン、メンデルスゾーン、シューマン、ブラームス、マーラーを始め、近、現代曲まで数多くの名演奏、名録音を生みだし、ファンの輪を大きく広げつつある。今回の3枚組ブラームス特集を聴けば、あのコンビチュニー時代の伝統的ともいえるやや暗い音からの脱却を、現実的に取り組んでいる事が分かるであろう。そしてシャイーの考えによって、このアルバムには交響曲第1番の第2楽章初演版、後に削除された第4番の冒頭の4小節を始め、世界初録音のポール・クレンゲルがアレンジしたピアノのための間奏曲2曲などの珍しい曲が収録されている。ブラームス・ファンにとっては興味深いアルバムである。 (廣兼 正明)

Classic CD Review【交響曲、管弦楽曲】

「シューマン:交響曲第4番 ニ短調 作品120(1851年稿)、序曲・スケルツォとフィナーレ 作品52、4本のホルンと管弦楽のためのコンツェルトシュトゥック ヘ長調 作品86/パーヴォ・ヤルヴィ指揮、ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメン」(ソニー・ミュージックエンターテインメント RCA SICC-10208)
 Vol.Ⅰの交響曲第1番と第3番、Vol.Ⅱの交響曲第2番と「マンフレッド」と「ゲノフェーファ」等の序曲に続いてのパーヴォ・ヤルヴィとドイツ・カンマーフィルハーモニーのシューマン交響曲全集Ⅲ(完結編)である。それにしてもこの歯切れの良い演奏は実に心地よい。冒頭の普段は余り聴く機会のない「序曲・スケルツォとフィナーレ」に於ける序曲の序奏でのモティーフの一つひとつに独立性を持たせ、主部アレグロからフィナーレまでの生気漲る音の流れに驚くほどの元気さを感じる。2曲目の4本のホルンを使ってのコンツェルトシュトゥックは、世のホルン奏者にとっては生涯1度は吹きたいと思う曲のひとつであろう。このCDでは全員が名手エーリヒ・ペンツェルの門下生であり4人のホルン奏者たちが見事なソロトーンとアンサンブルの完璧さを披瀝している。最後の交響曲第4番第楽1章の序奏から主部への橋渡しの上手さは、これぞパーヴォの独壇場である。パーヴォとドイツ・カンマーフィルハーモニーの相性は兎に角素晴らしいのだが、中でもシューマン交響曲全集のすべては他のオーケストラとの組み合わせと較べ、抜群の出来と言えよう。その理由のひとつがドイツ・カンマーフィルハーモニーの圧倒的な上手さなのだ。(廣兼 正明)

Classic CD Review【管弦楽曲】

「ニューイヤー・コンサート2014/ダニエル・バレンボイム指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団」(ソニー・ミュージックエンターテインメント RCA SICC-1705〜6〈2枚組〉)
 今年の棒はバレンボイム、CDのタスキにもあるように、今年2014年は第1次世界大戦勃発以来100年目にあたり、コンサート今年のテーマは「世界の平和」である。世界が戦争に巻き込まれる発端となった第1次世界大戦を決して忘れないで欲しい、というバレンボイムの願いがこのテーマに繋がっている。今年はR.シュトラウスの生誕150年に因んで彼の曲2曲も選ばれている。1939年(12月)のクレメンス・クラウスが振った第1回以来、今年で74回を数えるニューイヤー・コンサートはウィーン・フィルの最も由緒あるコンサートと言えるだろう。今や全世界にTV 中継されており、多くのクラシック・ファンは元旦にみることが出来るのだから、このCDは当日に視聴することが出来なかったか、スーヴェニールとしてライブラリーに置いておくためのものであることが多いだろう。昔は筆者も民間のチケット・ビューローのおばさんと知己になり、立見席とか2階席をキャンセル・チケットで手に入れたりしたが、今や歳も取ったことだし、自宅のTV前特等席で視ることにしている。来月にはDVDとBD も発売されるので、今一度視てみたい。(廣兼 正明)

Classic CD Review【室内楽曲(弦楽合奏)】

「ベルリン・フィル弦楽ゾリステン録音全集」(ユニバーサル ミュージック、EMI TYCE-85006〜10〈5枚組〉)
 約20年前、東芝EMI 時代に発売されたもののリマスター再発盤である。当時のベルリン・フィル第1コンサートマスターだった安永徹が、このアンサンブルのリーダー時代の1989年から1993年にかけて録音された32曲がこの5枚に収録されている。世界一と言われる勝れたアンサンブルを誇るベルリン・フィル、そしてその中でも粒ぞろいの名手たちによって組織されたベルリン・フィル弦楽ゾリステンの実力は、世界の数ある弦楽合奏団の中でもトップ・クラスに値する極少数のグループであることだけは間違いない。そして指揮者を置かない12人から成る見事なアンサンブルにベルリン・フィルの真の実力を感じる。
 この5枚セットの主な収録曲は以下の通りである。レスピーギ:「リュートのための古風な舞曲とアリア第3組曲」、バルトーク:「ルーマニア民族舞曲」、J.S.バッハ:「G線上のアリア」、モーツァルト:「アダージョとフーガ ハ短調 K.546」、バーバー:「弦楽のためのアダージョ」、エルガー:「愛の挨拶」、パッヘルベル:「3声のカノン」、エルガー:「弦楽セレナード」、ヴォルフ:「イタリアのセレナード」、ドヴォルザーク:「弦楽セレナード」、ブリトゥン:「シンプル・シンフォニー」、グリーグ:「ホルベアの時代より」、チャイコフスキー:「フィレンツェの想い出」、テレマン:「ヴィオラ協奏曲 ト長調」(ヴィオラ独奏=ヴォルフラム・クリスト〈以下同じ〉)、ヒンデミット:「葬送音楽」、J.C.バッハ(アンリ・カサドシュ編):「ヴィオラ協奏曲」他、今や日本でもアマチュアの弦楽アンサンブルの数は可成りのものを数えるだろう。しかしなかなか趣味に合うものは少ない。チャイコフスキーの「弦セレ」を除く殆どの名曲がこの5枚組アルバムに収まっていると考えてもよいだろう。多分立派なテキストになり得ると思う。(廣兼 正明)

Classic CD Review【協奏曲(ヴァイオリン)】

「J.S.バッハ:ヴァイオリン協奏曲第2番 ホ長調 BWV1042、第1番 イ短調 BWV1041、オーボエとヴァイオリンのための協奏曲 ハ短調 BWV1060、チェンバロとヴァイオリンのためのソナタ第3番 ホ長調BWV1016、チェンバロとヴァイオリンのためのソナタ第4番 ハ短調BWV1017/ジャニーヌ・ヤンセン(Vn)、ラモン・オルテガ・ケロ(Ob)、ヤン・ヤンセン(Cem&Org)、他ジャニーヌ・ヤンセンの仲間たち(Vn=6、Va=2、Vc=1、CB=1)」(ユニバーサル ミュージック、デッカUCCD-1391)
 このCDは、昨年6月にベルリンのヴァンゼー、アンドレアス教会に於いて収録したもので、ジャニーヌとデッカの契約10周年、そして彼女自身が創設したユトレヒト国際室内楽フェスティヴァルのやはり創立10周年にあたる記念盤である。今回の編成は上記の「ジャニーヌ・ヤンセンの仲間たち」と名付けられた、いつも一緒にアンサンブルを組んでいる連中ばかりなので、アンサンブルの良さは又格別である。協奏曲(特に最初の第2番E-Durの第1楽章)において最初のトゥッティで4分音符に付いているスタッカートは強烈に耳をえぐるスタッカティッシモであり、その歯切れの良さは絶品だ。反面ソロは美しく朗々と歌う。そしてa-Mollの第1番は第2番とは逆にすべてが優しさに満ちており対照的である。次のオーボエとヴァイオリンの協奏曲はどうしてもオーボエが主体となることは致し方ないが、オーボエ・ソロの時オブリガートで弾くジャニーヌの奥ゆかしさは矢張り女性らしい。最後のソナタ2曲はジャニーヌの誰にも気兼ねしない仲間たちとのデュオに、えも言われぬ暖かさを感じる。それもその筈、チェンバロは父親のヤンがサポートしているからであろう。因みにこのアンサンブルのただ一人のチェリスト、マールテンはジャニーヌの実の弟である。(廣兼 正明)

Classic CD Review【協奏曲(ヴァイオリン)】

「プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第1番 ニ長調 作品19、第2番 ト短調 作品63/庄司紗矢香(Vn)、ユーリ・テミルカーノフ指揮、サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団」(ユニバーサル ミュージック、ドイツ・グラモフォンUCCG-1647)
 紗矢香ファンが待ち望んでいたプロコフィエフの2曲の協奏曲がようやくお目見えした。紗矢香自身最も得意とする協奏曲と言える。2曲とも演奏は若さに溢れ、有り余る技巧を十二分に駆使して、これでもかと聴き手に迫るかと思えば、情緒豊かに歌の世界に没入してしまう様はまさに神出鬼没の世界と言って良い。大編成のサンクトペテルブルク・フィルを向こうに回して堂々と立ち向かう様は恐るべきヴァイオリニストと言うべきか。特に第2番では自分の思いの丈を精一杯聴き手に吐露しており、その際の低弦による弓を押さえつけての響きは決してきたなさが感じられないどころか、あれだけ低弦が鳴るのを筆者は聴いたことがない。 これは楽器の良さだけではなく、庄司紗矢香の意志の強さではないか。指揮のテミルカーノフの見事な指揮と、サンクトペテルブルク・フィルのベスト・サポートによって久し振りの力の籠もった素晴らしい演奏を聴くことが出来た。(廣兼 正明)

Classic CD Review【室内楽曲(弦楽四重奏)】

「ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第1番 へ長調 作品18-1/アマデウス弦楽四重奏団、スメタナ:弦楽四重奏曲第1番 ホ短調《わが生涯より》/スメタナ弦楽四重奏団」(ユニバーサル ミュージック、TBS ヴィンテージ クラシックスTYGE-60015)
 1958年に来日した2組の弦楽四重奏団のライヴである。アマデウスはイギリス、スメタナはチェコスロヴァキア(現在のチェコ)からの来日である。筆者は当時既にサラリーマン、学生オケ時代からクァルテットを組んでいた連中と室内楽を楽しんでいた時代の事で、本場のクァルテットの来日は必ずと言って良いほど聴きに行った事を覚えている。この二つのクァルテットも確か日比谷公会堂で聴いた気がする。筆者の印象は一言で言ってアマデウスは「上品」、スメタナは「粗野」である。生で聴いたことを特に憶えている曲は、アマデウスではハイドンのOp.77-1、モーツァルトのK.428、ベートーヴェンのOp.59-1等、スメタナでは「わが生涯より」、ドヴォルザークのOp.96「アメリカ」、ベートーヴェンのOp.135程度だろうか。特にアマデウスではハイドンのOp.77-1「挨拶」第1楽章最初の4小節でセカンド以下の4分音符のリズムに乗って第1ヴァイオリンのノーバート・ブレイニンが奏でる「挨拶」の流麗な表現が素晴らしかったことを思い出す。今回のベートーヴェンも流れるようなアンサンブルで実に美しい。一方スメタナの「わが生涯より」はボヘミアの土の香りが紛々とする演奏である、とするのが最も適当な言い方であろう。そしてヴィオラのシュカンパの音はもっと良かったような気がするのは気のせいか? (廣兼 正明)

Classic CD Review【器楽曲(オーボエ)】

「歌う−邦人オーボエ作品集−/広田智之」(オクタビア・レコード OVCC-00105)
 日本を代表するオーボエ奏者広田智之の最新アルバムは、広田のライフワークとなる邦人オーボエ作品集である。前衛的な世界観を広田の超人的テクニックと感性で見事に表現し、オーボエの未知なるポテンシャルに挑んだ問題作であり、傑作アルバムだ。緊張感溢れる絶妙な間とニュアンス、そして気合を入れて聴かないと聴き負けてしまいそうな迫力ある演奏を堪能でき、虚を突いた内容の様だが楽曲への愛情を感じる。それ程聴き応えがあり、趣の深い作品に仕上がっている。また、三輪郁のピアノも見事と言うほかに表現のしようがない程完璧なアレンジで、演奏にアクセント加えている。このアルバムは間違いなく広田智之渾身の作品であり、世界に誇れる作品であると言える。(上田 和秀)

Classic CONCERT Review【オーケストラ】

「日本フィルハーモニー交響楽団 第208回サンデーコンサート」 1月12日 東京芸術劇場コンサートホール
  成人式の前日、東京池袋・芸術劇場で開演を待つロビーでは、年始めの挨拶を交わす大勢の人々で華やいだ雰囲気であった。
 オープニングはモーツァルトの「フィガロの結婚」序曲で幕を開けた。続いてシベリウスの「ヴァイオリン協奏曲」は日本フィルのソロ・コンサートマスターである木野雅之が気心の知れた仲間の熱演を得てのびのびと演奏した。休憩後はヨハン・シュトラウスⅡ世の喜歌劇「こうもり序曲」で始まり二曲目のヨゼフ・シュトラウス「鍛冶屋のポルカ」では鍛冶屋に扮した打楽器奏者がステージ中央で鉄床を打ったり、花火のような音響を使ったりのパフォーマンスで観客を沸かせた。続いてヨハン・シュトラウスⅡ世のワルツ「芸術家の生涯」「トリッチ・トラッチ・ポルカ」「美しく青きドナウ」とお馴染みの曲が演奏され、会場は一気にウィーンでニューイヤーコンサートを聴いているような空気に包まれた。指揮者・阪哲朗はウィーン・フォルクス・オーパーで「こうもり」を指揮した経験を持ち、若々しいタクトで躍動感溢れる演奏であった。
 ただ、まだお屠蘇気分の抜けきらない聴衆としては、ワイン片手にほろ酔い気分で聴けるシュトラウスも良かったのではないかと思えるコンサートであった。(斎藤 好司)