ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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Popular Review

- 最新号 -

ALBUM Review

Beverley Church Hogan
SWEET INVITATION

Café Pacific Records CPCD 7060

 シーラ・ジョーダン、マリリン・メイ、ピンキー・ウィンターズなど高齢でも現役で活躍するシンガーは何人もいるが、ここで紹介するべヴァリー・チャーチ・ホーガンもその一人だ。今年86歳になる彼女の2017年に発表したデビュー・アルバム「Can’t Get Out Of This Mood」に続く2作目の作品になる。カナダ・モントリオール出身の彼女は、12歳で歌手デビューしてラジオ番組で歌い、クラブでも活躍もして、21歳の時ロスアンジェルスへ移り、キャピトル・レコーズからレコーディングのオファーを貰ったが、当時すでに結婚をしていて生まれたての子供を抱えていたので、レコ―ディングの後の長期のツアーは、無理で、これを断り家庭に入ったという。然し、歌は好きで折に触れ歌っていたが、2002年にロスアンジェルスの有名な「カテリーナ・ジャズ・クラブ」のコンサートに招かれ、満員の聴衆を前に歌い大成功をおさめ、以降、毎年恒例のように当クラブに20年間、出演してきた。そして2017年のアルバムの制作となった。
 第二作目の当アルバムは、自らも歌手で作詞家のマーク・ウインクラーが制作を担当、ピアニスト、シンガー、作編曲家のジョン・プルーがピアニスト、アレンジャーを務める。彼は、長い間、彼女のコンサートを支えてきた彼女の歌を最もよく理解している人だ。スインギーな「Don’cha Go Way Mad」からシナトラで有名な「Why Try to Change Me Now」まで9曲のロマンチックなナンバーを、緩急とりまぜて明確な歌詞表現で歌っている。歳のせいで声のレンジが限られているが、大変味わい深い歌を聞かせる。特にピアノだけの伴奏で歌う自らの今の気持ちを歌ったという「When October Goes」が印象的だ。カーメン・マクレエの「Angel Eyes」を思い出させるエンディングが面白い。伴奏陣には、ボブ・シェパード(sax)グラント・ギ―スマン(g)レイマン・メデイロス(b)クレイトン・キャメロン(ds)ディーン・コバ(ds)ケヴィン・ウィナード(per)のロス近辺で活躍の錚々たるメンバーが参加して好演する。(高田敬三)

ALBUM Review

Vicki Burns
LOTUS BLOSSOM DAYS

ViBu JAZZ VBNY 183

 サンフランシスコからニューヨークへ移って今は、レキシントン・ホテル等で定期的に活躍しているヴォーカリスト、ヴィッキ・バーンズの2005年の「Siren Song」、2008年の「Live at Anna’s Jazz Island」に続く第3作目のリーダー・アルバム。エラ・フィツジェラルドの様にスキャットが出来るようになりたいと若い頃から訓練してきたという彼女だが、今回の作品は、サム・ジョーンズの「Del Sasser」に歌詞をつけた「If Never Fall In Love With Me」、リー・モーガンの「The Sidewinder」に詞をつけた「Watch Out」,コルトレーンの「Equinox」に詞を付けた「A Long Way To Go」、モンクの「Well You Needn‘t」に詞をつけた「Its Over Now」等、器楽曲に歌詞をつけたものを12曲の中半分で取り上げている。残りは、最初のアルバムのタイトルにした自作の「Siren Song」、「Love Spell」そして親友の歌手テッサ・ソウタ―作の「You Don’t Have To Believe」とスタンダード・ナンバー3曲、「Close Your Eyes」,「This Time The Dream’s on Me」,「Out Of This World」を歌っている。3オクターブは出せるという美声の持ち主でエラに学んだというスキャットも得意でインスト的なアプローチも上手い彼女ならではのレパートリーだろう。二度目の録音となった彼女の代表作の、貴方の「破滅への魅惑的な誘い」という「Siren Song」をはじめ、このアルバムでは、恋の芽生えから愛の破局まで人生におけるLOVEの色々な側面を取り上げた歌を見事な表現で歌っている。伴奏陣は、サンフランシスコ時代からの仲間、アート・ヒラハラ(p)サム・べヴァン(b)にビリー・ドラムンド(ds)が加わるトリオにディナ・スティ‐ブンス(ts、bs)ジョッシュ・ドイチュ(tp)、マス・コガ(fl、bs)ニック・ヴァイエナス(tb)が曲によって加わる。(高田敬三)

ALBUM Review

加山雄三「若大将ベスト」

MUCD1491 (ドリーミュージック)

 年輩(高齢)のミュージシャンによる‘引退’宣言が相次ぐ昨今。年内(2022年)を以てコンサート活動から身を引く加山雄三もその一人。9月9日の「加山雄三ラストショー~永遠の若大将~」(東京国際フォーラムホールA)に合わせたのがこの21曲入りの最新ベスト盤。タイトルが「若大将ベスト」とはあまりにもベタであるが、とはいえこれ以上に相応しい題名というのも他に思いつかない(特に筆者のような‘年寄り’にとっては)。 60年を超える長い歌手キャリアからすれば21曲は少な過ぎるだろうがリアルタイムで若大将と呼ばれていた若い頃のスタンダードな楽曲の数々に加えて‘永遠の’若大将と言われるようになった時代の「サライ〜若大将50周年!Ver~」(2010年:谷村新司とのコラボ)や加山雄三とザ・ヤンチャーズ名義でのデビュー50周年記念シングル「座・ロンリーハーツ親父バンド」(同年)、そして昨年(2021年)の最新シングル「紅いバラの花」(当時は配信のみ)など2000年代の楽曲も6曲収録されており、ツボを押さえた若大将の魅力がコンパクトに収められている(曲はファンが選んだとのこと)。
 思えば初めて買った(正確には父親に買ってもらった:1966年、中3の時)レコードの1枚が加山雄三のシングル「夕陽は赤く/蒼い星くず」(1966年4月)。クラシック一辺倒で流行歌などハナにもかけなかったもののふとしたことで突如、洋楽ポップスに目覚めてから耳にした加山雄三の楽曲は俗世間の歌謡曲とは一線を画して臭さもなく、筆者にとっては洋楽と同列扱いだった。
 ナベプロの渡辺晋さんから「恋は紅いバラ」(1965年6月)が25万枚売れたのでこれとおんなじコード進行でいいからもっといい曲を作ってくれ、と言われて書いたのが「君といつまでも」(1965年12月)で350万枚以上も売れたという。そんなソング・ライターとしての姿と共に別格扱いのカッコ良さがあった。日本のポップス界に及ぼした影響の大きさをこの新規ベスト盤で改めて認識したい。(上柴とおる)

LIVE Review

~デビュー20周年記念~
小沼ようすけ『Both Sides』Live at Blue Note Tokyo

6月25日、26日 ブルーノート東京

 人気ギタリスト、小沼ようすけが二日間にわたって20周年アニヴァーサリー・ライヴを開催した。ソロ・デビュー前、アクアピットというグループで初アルバム『ライヴ・アット・オニキス』を出した頃、その発表ギグに足を運んで“乗りのいいギターだな”と圧倒されたことを昨日のように思い出す。25日は無伴奏ギター演奏と、弦楽四重奏(金原千恵子ストリングス・カルテット)を迎えたパフォーマンスを披露。アレンジは笹路正徳が担当、粒立ちの良いギターの音色とストリングスの幻想的な響き、鈴木正人のコントラバスが心地よさを運ぶ。ファースト・アルバム『nu jazz』に収録されていた定番「コーヒー・プリーズ」など初期の楽曲、一大転機となったクレオール・ジャズ・アルバム『ジャム・カ』からの「シースケイプ」「フライウェイ」等を届けた。そして26日は、笹路正徳(アコースティック・ピアノ)、鈴木正人(エレクトリック・ベース)、平陸(ドラムス)との、火の出るようなセッション。平陸の煽るようなドラムが、「アフロ・ランナー」、「ジャングル」など、スケールの大きな曲想に実によく合う。「コーヒー・プリーズ」の大きな聴きどころであるカッティングも、“怒涛”と呼ばずにはいられないほどの迫力だ。「20年を迎えて、また新たなスタートに立った気がする」とMCで語っていた小沼ようすけ。今後の活動に一層の期待がつのる。
(原田和典)

Photo by Tsuneo Koga  撮影 : 古賀 恒雄

MOVIE Review

映画『ブライアン・ウィルソン 約束の旅路』

監督:ブレント・ウィルソン
8月12日から全国公開

 可能な限り語り続けたい気分にしてくれる“音楽の天才”がブライアン・ウィルソンだ。「プリーズ・レット・ミー・ワンダー」、「ウォームス・オブ・ザ・サン」、「ビジー・ドゥーイン・ナッシン」、「アイ・ジャスト・ワズント・メイド・フォー・ジーズ・タイムズ」などビーチ・ボーイズで初出となった楽曲、ソロ・アルバムからの「メルト・アウェイ」等、聴くごとに胸を締めつけられる。往年の貴重な映像もふんだんに使われているが、メインとなるのは、ローリング・ストーン誌の編集者であるジェイソン・ファインとの、車中でのやりとりだ。ジェイソンはインタビューというよりも、気の置けない会話という感じでブライアンに話しかける。そしてブライアンはユーモアも交えて、融通無碍そのものの感じで問いに答えていく。先に旅立った弟たち・・・カール・ウィルソン、デニス・ウィルソンに寄せる、限りなく優しい思いがうかがえるのもこの映画の美点だ。レコーディング風景、ハリウッド・ボウルでのステージ等が収められているのも嬉しい。個人的には、自分が最初にブライアンのソロ公演を見た時に獅子奮迅の活躍をしていた若手ダリアン・サハナジャがすっかり風格を増して、いまなおブライアンの音づくりに尽くしている場面にも心が熱くなった。監督したブレント・ウィルソン(血縁関係はない)は、9歳の頃からビーチ・ボーイズのファンなのだという。ブライアンの映画を作れてどんなに嬉しかったか、映画の躍動感がそのまま物語る。
(原田和典)

■コピーライト表記: Ⓒ2021TEXAS PET SOUNDS PRODUCTIONS, LLC
■配給: パルコ ユニバーサル映画
■公開表記:8/12(金)、TOHOシネマズ シャンテ、渋谷ホワイトシネクイントほかにて全国公開