ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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Popular Review

- 最新号 -

ALBUM Review

Deb Bowman
Reflection

Mama Bama Records No number

 デブ(デボラ)ボウマンは、幼少の頃からアトランタの教会でピアノを弾きゴスペルを歌っていた。アラバマの大学で演劇と舞踏を習い、1999年にニューヨークへ出て、女優として映画、テレビ、劇場、キャバレー等で活躍、その派手やかで勢力的な演技で注目を集めた。2011年に初アルバム「Addicted To Love Song」を発表、グラミー賞にもノミネートされる。続いてクリスマス・アルバム「A Big Love Holiday」を、そしてガンで亡くなった姉へのトリビュート「Fast Heart」を2019年に発表している。長い準備期間をおいて制作された最新作の本アルバムは、音楽監督にピアニストのディ―ン・フランセンを迎えて2019年から2023年の間に亡くなったミッシェル・ルグラン、バート・バカラック、ステフェン・ソンドハイムというコンテンポラリーな作曲家の「How Do You Keep Music Playing」、「This Girl’s In Love」、「Send In The Clowns」等を歌うトリビュート作品の予定だったが、途中で変更してタイトルの「Reflection(回想」)」のように彼女の思い出の深い「Moon River」、「Over The Rainbow」などスタンダード・ナンバーも加えたという。聞き慣れたナンバーをフランセンの一工夫も二工夫もある編曲でディブ・ボウマンは、伸びのある奇麗な声でそれぞれの歌の心をつかんだ素晴らしい表現力で披露し、大変心地よく聴かせてくれる。次作は、初心に帰ってゴスペルを題材にしたものを考えているという。(高田敬三)

ALBUM Review

Ellie Martin
MORNING GLORIES

elliemartinmusic.com

 ジャズ・ヴォ-カリスト、作詞、作曲家、ジャズ・ヴォーカルの歴史研究家で教育者としても活躍する現在39歳のエリー・マーチンは、モントリオールのマギル大学や、オハイオ州のトレド大学でジャズ・ヴォーカルを研究、トレド大学ではジョン・ヘンドリックスについてランバート・ヘンドリックス・アンド・ロスなどジャズ・ヴォーカル・グループの音楽を研究したというアカデミックな経歴を持つシンガーで今は、トレド大学で教鞭もとっている。彼女は、2023年5月に「Verdant」(未熟)というデヴュー・アルバムを発表している。彼女自身の女性として、母親として、また ガン克服者としての経験を歌った全曲自作のものだった。今回の作品もピーター・エルドリッジ(p,v.)カート・クランケ(b)旦那のオルマン・ピードラ(ds,per)と効果的なソロもとるアンドリュー・ビショップ(ts)キース・グランツ(g)ベン・ウォーキンス(tp)にボブ・アヴシャリアン(ds)と前と同じメンバーをバックに歌うものだ。ピーター・エルドリッジは、歌も聞かせる。女性らしい優しく細めの声でタイトル曲「朝顔」のように子供の目線で見る世界や日頃感じる人生に関すること、など身近な題材を歌っている。異色なヴォーカル・アルバムだ。(高田敬三)

ALBUM Review

Be Real/Wakasa

airgroove YZAG-1124

 実力派シンガー Wakasaの新作。前作『Advent of the Soul』は、洋楽のカヴァー曲集だった。一転して、本作『Be Real』は、待望の完全オリジナルアルバムである。
 Wakasaは、ニューヨークの「アポロアマチュアナイトジャパン」のオーディションで審査員特別賞を受賞し、NYアポロシアターの決勝ラウンド「スーパートップドッグ」でアジア人初の「決勝ゲスト」として出演した実力者。ホイットニー・ヒューストンやマリーナ・ショウを彷彿とさせる情熱的な歌声と圧倒的な歌唱力を持つ。
 さて、本作には、全10曲を収録。素晴らしい出来栄えに、心が深く揺さぶられる。その楽曲作りのメンバーには、大変驚いた。まず、作詞は、朝水彼方が8曲、松井五郎が2曲。作曲は、中西圭三 、中崎英也、山川恵津子、東野純直、原久美 、林田健司、芳野藤丸 、都志見隆、濱田金吾、安部潤という豪華な面々が集結。すなわち日本屈指の作詞家作曲家陣(J popの歴史を築いてこられた方々)と共に、「時代を超えて心に響く歌」を追求した珠玉の一枚と言えるだろう。さらに、サウンド・プロデュースとアレンジは、カシオペアに加入したばかりの安部潤の手による。安部潤の研ぎ澄まされた感性とWakasaの個性が、類まれなる作品を作り上げたと高評価したい。
 全てが、良い曲ばかりだが、少し紹介しよう。「Sparkling Island」(作詞:朝水彼方,作曲:中崎英也)は、希望の歌。Wakasaは、平和への願いを込めて、心を込めて歌う。抜群の歌唱力が、心地好い。「Vega」(作詞:朝水彼方,作曲:東野純直)は、バラード。Wakasaの心に沁み込むような歌声が、美しい。なんだか暖かい気持ちになれるから不思議だ。タイトル曲「Be Real(作詞:朝水彼方,作曲:林田健司)は、全編カッコ良い曲。スピード感あふれる曲だが、実は優しく受け止めてくれる歌。「Still Water」(作詞:松井五郎,作曲:都志見隆)は、バラード。Wakasaは、じっくりと歌い上げていく。まだ大丈夫。諦めないでという気持ちを歌っている。
 どの曲でも、Wakasaが自由な広がりを感じさせる圧倒的な歌声を聴かせてくれる。また、バックは、安部潤が集めた次世代を担う活きのいいプレイヤーたちが、互いを刺激し合い極上のインタープレイを展開している。この上なくリスナーたちを魅了し続ける。(高木信哉)

LIVE Review

デイタイムライブ 紗理×若井優也
「Musical Theater Songbook vol.1」発売記念ライブ

3月9日 渋谷BODY&SOUL

 私にとって心の底から落ち着いて聴ける“英語で歌う日本人シンガー”の数少ないひとりが紗理である。楽曲への敬意が伝わるアプローチ、表情豊かな歌声、確かなディクションが快い。今回のマチネ公演は力作アルバム『Musical Theater Songbook vol.1』の世界を存分に楽しんでもらおうというもの。アルバム・ジャケットや内部のイラストは武部実里が担当、まるで絵本のような豪華なパッケージの中にCDが収められていたが、BODY&SOULでのステージはその“立体版”というべきか、武部による絵が「パネル」となって会場におかれ、なんともカラフルな、華やいだ雰囲気の中でパフォーマンスが行われた。『マイ・フェア・レディ』や『サウンド・オブ・ミュージック』など歴代ジャズ・ミュージシャンがとりあげてきた古典的ミュージカルからのナンバーはもちろん、『美女と野獣』、『レ·ミゼラブル』、『アニー』など(それらよりは)年代の新しいナンバーもじっくりと聴かせ、曲ごとに歌詞の大意を説明するのも親切だ。紗理とピアノの若井優也は演唱もトークも息がぴったり、スペシャル・ゲストの馬場孝喜もソロにコード・ワークにオブリガートに、美麗なギターの音色をたっぷり響かせた。(原田和典)

LIVE Review

三宅伸治 BIRTHDAY TOUR 『 GOLD OLD 64!』
三宅伸治&the spoonful with RED HORNS

3月9日 下北沢440

 3月5日にアルバム『BLACK GOLD LIVE! /三宅伸治&The Red Rocks』を発表、8日に誕生日を迎えた三宅伸治が翌9日の夜に猛烈に熱く、ソウルフルでブルージーなライヴを開催した。他のメンバーは高橋“Jr.”知治(ベース)、AKANE(ドラムス)、MONKY(サックス)、MAKOTO(トランペット)、KOTEZ(ハーモニカ)。キーボードが入っていないということもあってか音の感触は実にソリッド、リード・ギターとサイド・ギターを兼ねる三宅の弾きっぷりが鮮烈に耳に飛び込んでくる。ホーン・セクションの中にブルース・ハープを加えて、なんともいえない濁りの入った響きを出すあたりも絶妙だ。演目はもちろん『BLACK GOLD LIVE!』からのものが中心ではあったが、できたばかりの新曲も「今のうちに」、「暴飲暴食」、「すべてはうまくいったのだ」とたっぷり届けてくれるあたり、本当にアーティストの“前へ、前へ”というべき前進意欲には限りがないのだなという認識を新たにさせられた。また第2部の「歩くよ」では場内練り歩きのあと外に出て、ちょっとしたパレードも披露。手ごたえあるオーディエンスの反応も含めて、ブルースやロックへの深い愛情が炸裂するひとときであった。(原田和典)

LIVE Review

デュオ 大田・リンダーマイアー〈NOZOMI のぞみ〉

4月11日 ゲーテ・インスティトゥート東京 ホール

 ドイツのレーベル“ウィンター&ウィンター”(ジャズ・ファンにはポール・モチアンの力作や、菊地雅章のテザード・ムーンで知られていようか)からアルバムを出すピアニストの大田麻佐子と、やはりドイツのレーベル“エンヤ”(山下洋輔や高瀬アキなど日本人ジャズ・ミュージシャンの作品も多い)からアルバムを出すトランペット奏者のマティアス・リンダーマイアーによるデュオ公演。ふたりは2019年に出会い、現在までアルバム『MMMMH』と『NOZOMI のぞみ』をリリース。クラシックや現代音楽を即興的なジャズと融合させた独自の音楽の創出を目指しているとのことだが、音自体に「なにか独自のものを是が非でも」と力こぶを入れているところはなく、ごく自然にサウンドが流れていく。マティアスのプレイもなんというのだろう、トランペットの持つ華やかで輝かしい部分をあえて使用しないような、人の声でいえばささやきのようなアプローチを徹底してとっていた。セットリストもマティアスの単独作が半分ほど、そこに大田の単独作や共作、さらに坂本龍一の「ひばり」が加わるという興味深いものだった。(原田和典)

写真:© ゲーテ・インスティトゥート東京 片岡陽太