ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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Popular Review

- 最新号 -

ALBUM Review

Betty Bryant
LOTTA LIVIN’

Bry-mar music

 今年94歳になるベティ・ブライアントの88歳の時に出した「Project 88」以来、6年振り、通算14枚目のアルバム。3月上旬、全米・ラジオのJAZZ WEEKのチャートで17位を付けたという。カンサス・シテイ生まれのベティ・ブライアントは、4歳からピアノを始め、ジェイ・マクシャンに影響されたべテラン弾き語りピアニストで、カンサス・シテイの名誉市民にも選ばれている。本アルバムの裏の若い頃の写真は、アメリカン・ジャズ・ミュージアムにジェイ・マクシャンのものと共に飾られているものだ。9曲入りの本CDでは、旦那の態度にユーモラスに文句をいう「Put a Lid on it」を始め自作曲を4曲、スインギーなインスト曲を一曲、後は、永年の付き合いのロバート・カイルが素晴らしいソロを聞かせる「Stormy Monday」などスタンダード曲を5曲歌い演奏する。声も良く出ていてまだまだやれる94歳だ。2000年代に良く代官山の「Tableaux Lounge」に出演していた。体調不良で2009年11月にお別れ会が開かれたが、最後の特異な節回しで歌う「Bye Bye Birdie」からの「A Lot of Livin’ to Do」では日本へもまた戻りたい、という言葉を織り込んでいる。また、元気なところを見たいものだ。(高田敬三)

ALBUM Review

Lauren White
Making It Up As We Go Along

CPCD6070

 ローレン・ホワイトは、ロスアンジェルスをベースの活躍する俳優兼ジャズ・キャバレー・シンガー。ニューヨークで育ち4歳の頃から演技が好きで早くからミュージカル劇に出演、ニューヨーク大学を卒業後はTVのソープ・オペラやオフ・ブロードウエイに出演しクラブで歌っていた。その後ロスに移り歌の仕事も積極的はこなし、日本でも紹介された2007年の「At Last」を皮切り5枚のCDを発表してきている。本アルバムは、プロデューサーのバーバラ・ブライトンと選曲したLOVEの側面を歌う歌11曲を以前からの仲間のジャズ・ラテンまで幅広く活躍のピアニスト、クイン・ジョンソンの好アレンジで歌うもの。彼の他、随所で好演するラリー・ク―ンズ(g)ケヴィン・アクスト(b)等トランペット、サックスも含めロスの精鋭ミュージッシャンをバックに歌う。取り上げた歌は、ドナルド・ヘイゲン、スティビー・ワンダー等のものも含め、あまり知られていない曲が多い。タイトル曲はロレイン・フェザーの書いたLOVEソングだ。特徴のある発声で、優しく語り掛ける彼女の歌は、大変魅力的だ。(高田敬三)

ALBUM Review

ディア・エロイズ/キング・マイダス・イン・リヴァース
ホリーズ

ODR-7336(オールデイズ)

 サイケデリック時代を背景に制作された1967年のアルバム「バタフライ」のアメリカ盤(当時このタイトルでリリース)が本邦初登場。本国イギリス盤の「バタフライ」(全12曲)から9曲をピック・アップして英盤未収録の2曲を加えた全11曲というアメリカ盤に今回は特別にボーナス9曲(英盤「バタフライ」から省かれた3曲+各シングルのB面曲や米ベスト盤に収録のヒット曲「恋のカルーセル」など)を加えた全20曲でのリリース。  米盤の表題曲となったのは当時のアメリカにおける最新ヒットで「ディア・エロイズ」は1967年12月30日付~1968年1月13日付で米50位(イギリスではシングル・カットなし)、「キング・マイダス」は1967年10月28日付で米51位(イギリスでは10月に18位。英盤アルバムには未収録)。ホリーズにしては米チャートでの上がり方が芳しくなく、それもあってかアルバムは米チャートに顔を出さず、ばかりかイギリスでもノン・チャートに終わってしまった。
 サイケデリックなアルバムとは言われるが、この年(1967年)「サージェント・ペパーズ~」(1967年6月)を出したビートルズの音作りを反映したかのような色彩感のある楽曲が散りばめられており、いつものようにホリーズ本来の魅力でもある親しみやすいキャッチーなポップ・ソングの数々が楽しめる仕上がりになっている。サイケデリックそのものではなく、フラワー・ミュージックともども時代のエッセンスをホリーズ流に取り込んで表現してみたという印象。
 当時、日本では英盤仕様の「バタフライ」が発売されたが、それに合わせて公演を兼ねたプロモーションで翌1968年4月に来日(お昼のワイド・ショーだったかテレビで彼らを視た記憶がある)。「ミュージック・ライフ」誌のインタビュー記事(1968年6月号)を興味深く読んだものだが、その5人が居並ぶ姿を見るのはこれが最後になるとは思いもせず。
 前作「エヴォリューション」ともどもこのアルバムも思うような成果を上げられなかったこともあってか、オリジナル・メンバーでバンドの創設者でもあるグラハム・ナッシュが1968年を以て脱退。翌1969年にクロスビー、スティルス&ナッシュを結成して新天地へ。ホリーズの方もメンバーを補強して再出発。新たな世界へと旅立つことになった。「バス・ストップ」(1966年:英米とも5位)で日本も含む世界を席捲したホリーズがひとつの時代の終焉を迎え、リセットするきっかけともなったのがこのアルバムである。(上柴とおる)

LIVE Review

デュオ・ライバート/ブレーデローデ

2月25日 柏・Nardis

 ユリ・ホニングやミケル・ボルストラップ等との共演でも知られる打楽器奏者のヨースト・ライバートと、やはりユリのバンドに在籍し、ほかミシェル・ポルタルやアルヴェ・ヘンリクセン等ともプレイするピアニストのヴォルファート・ブレーデローデがデュオ公演を開催した。彼らが一緒にプレイした最新のアルバムは、弦楽四重奏も加わったブレーデローデのECM盤『ルインズ・アンド・リメインズ』(2022年発表)であろうが、この来日公演ではふたりきりの、一切マイクを用いない、文字通りの生音によるデュオローグに浸ることができた。ジョニ・ミッチェルの「逃避行(Hejira)」にインスパイアされて生まれたという楽曲「ミッチェル」、ギター奏者ラルフ・タウナーの楽曲を再解釈した「ソリタリー・ウーマン」などに心を奪われ、毎回のライブで必ず取り組むようにしているという完全即興での“相手のフレーズを捉える耳”と“それに反応し、表現する技巧”の美しいバランスに心の中でため息が漏れた。ドラム・セットを演奏する領域にとどまらず、音の出る道具なら何でも取り込んでやろう的なアプローチを実にクールに行うヨーストのプレイにも、惚れ直してしまった。
(原田和典)

MOVE Review

映画『ジョン・レノン 失われた週末』

監督:イヴ・ブランドスタイン、リチャード・カウフマン、
スチュアート・サミュエルズ
5月10日より角川シネマ有楽町、シネクイント、新宿シネマカリテ、
池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

 ジョン・レノン史には必ず登場する“もうひとりの”アジア人女性、メイ・パンの視点から編まれたドキュメンタリー映画である。ニューヨークに住む音楽好きの少女がいかにジョン夫妻の個人秘書となったか、いかにしてジョンと交際するようになったのかがテンポよく描かれているのはもちろん、『Mind Games』と『Walls and Bridges』をジョンの全ソロ・アルバム中の白眉だと思っている私は、傑作誕生の舞台裏を知るまたとない資料としても画面に見入った。交際時に撮影された数多くの写真や映像も挿入されているが、どこをとってもジョンが本当にいい顔-----解き放たれたかのような、実に自然な表情をしているのも印象に残った。そしてメイ・パンが、ジョンの先妻シンシアや、しばらく父(=ジョン)に会うどころか電話のチャンスすら堰き止められていた息子のジュリアン・レノンをいかに気遣い、ジョンに「親子水入らずの日々」を働きかけていたかも知ることができた。こんな愛人、ほかにいるだろうか。「ポール・マッカートニーと久しぶりに再会し、スティーヴィー・ワンダーを交えてセッションを行なった」というようなヨダレ物の話も惜しげなく登場するし、伝え聞くフィル・スペクターの暴君ぶりはやはり恐ろしい。ラストには、なんとも胸が熱くなるサプライズ・シーンも登場する。次回、メイ・パンにはぜひ、名プロデューサーのトニー・ヴィスコンティと結婚していた時代のドキュメンタリーもお願いしたい。(原田和典)

■タイトル:『ジョン・レノン 失われた週末』
■コピーライト表記:© 2021 Lost Weekend, LLC All Rights Reserved
■配給:ミモザフィルムズ
■公開表記:5/10(金)より角川シネマ有楽町、シネクイント、新宿シネマカリテ、
池袋シネマ・ロサ、 アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
■キャッチコピー:ヨーコとの「別離」が生んだ奇跡の日々