ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
ミュージック・ペンクラブ・ジャパン

Popular Review

- 最新号 -

ALBUM Review

BLUE ROSE
Midori Shimizu/Takayoshi Baba

NYX-10077

 清水翠がデビュー・アルバム「Remains」を発表してから早くも22年になる。2000年に2作目の「SONGBIRD」を聞いて彼女の歌に魅せられて横浜ゲーテ座のコンサートなどに通ったのは一昔前になる。そんな長いキャリアを持つ彼女の久々の新しいアルバムは、馬場孝喜のギターとのデユオだ。彼は、NYやブラジルでギターを勉強、2005年のギブソン・ジャズ・ギター・コンテストの最優秀賞に輝く逸材。コール・ポーター、ジュール・スタイン、サミー・カーン等のスタンダート・ナンバーに加えてスティング、ビートルズ、エルヴィス・コステロ等の比較的新しい歌、ジルベルト・ジルなどブラジル・ナンバーも交えヴァラエティーに富んだレパートリーをしっかりと歌いこんだ感じの安定感のあるデユオで聞かせる。心地よく聴き手の心に届いてくる彼女の歌だ。物悲しいスコットランド民謡をベースにした最後の「The Water Is Wide」が終わった後も、その声が耳に残る素晴らしいアルバムで、多くの人に聞いて欲しい彼女の歌だ。(高田敬三)

ALBUM Review

「MOMENTS(モーメンツ)/
bohemianvoodoo(ボヘミアンブードゥー)」

Playwright:PWT-053

  人気グループ、bohemianvoodooの最新作。bohemianvoodoo(以下ボヘ)の音楽は、どうしてこれほど魅力的なのだろうか。ボヘの演奏を聴いていつも感じるのは、スタイリッシュなサウンドと、心暖かさである。リスナーの心にすっと入ってくる美しいメロディと、自然だが圧倒的なアドリブ(即興演奏)は、見事である。ボヘは、バシリー(g)、木村イオリ(p)、ナッシー(b)、山本拓矢(ds)からなる4人組グループ。4年ぶりのスタジオ録音盤である。待たされただけのことはある。紛れもないマスター・ピースの誕生だ。何度でも繰り返し聴きたくなる。スタイリッシュなサウンドは、情緒や風情といったものを絵画的に美しく表現している。本作にかけるメンバーたちの想いも、並々ならぬものがあったことだろう。彼らの大きな特徴は、1バンドの中に、バシリー(g)と木村イオリ(p)という屈指のメロディ・メーカーが2人もいることだ。だから純粋にメロディが楽しめる。バンド全体が、無意識にメロディが歌えるように楽器を弾いているのだ。本作で、バシリーと木村イオリは、普段より多くの楽器を使用している。バシリーは、エレクトリック2本と、アコースティック2本によるギター4本を使用。木村イオリは、スタインウェイ(グランド・ピアノ)、ハモンド・オルガンB3、nord electro 4d、フェンダー・ローズによる4台を使用している。すなわち、演奏内容ももちろんだが、楽器そのものの音色もじっくりと楽しむ(味わう)ことができる。 更に、数曲に3人のホーン・セクションも加わり、サウンドに厚みが増している。
 さて、アルバムには、木村イオリのオリジナルが6曲、バシリーが5曲の合計11曲収録されている。すべてが、情景が浮かんでくるような良い曲ばかりである。冒頭の「石の教会」は、木村イオリの曲。ライブ盤『エコーズ』で評判になった美旋律曲だ。2016年の秋、木村の弟が石の教会(軽井沢)で結婚式を挙げた際に、サプライズでプレゼントした曲。テーマ・メロディは、弟夫婦の明るい未来をイメージしている。木村はピアノとハモンド・オルガン、バシリーはフルアコとフォーク・ギターを弾いている。このため、音に驚くべき広がりが出ていて、素晴らしいサウンドが味わえる。木村の生ピアノがたまらなく美しい。後半のピアノ・ソロが見事である。タイトル曲「モーメンツ」は、バシリーの曲。ボヘのライブでの人気曲だ。病気と闘う福岡の友人に向けて送った応援歌。〈早く良くなってまたライブ見にきてな、未来は明るいよ〉というメッセージ。ところが亡くなってしまったので直接聞かせることは叶わなかった。切なくも明るいメロディを全員が心を込めて演奏する。きっと天国で、福岡の友人が喜んでいることだろう。バシリーのガットギターの音が綺麗で、泣けてくる。「ジプシー・ファンク」は、木村イオリの曲。ボヘの楽曲の持つジプシー音楽感と、ファンクミュージックのクールさが絶妙に混ぜ合っている。16ビートから4ビートに移り変わった瞬間からのバシリーのギターと木村のハモンド・ソロが共に格好いい。「テーマ・オブ・ザ・ストローリン」は、バシリーの曲。 架空の少しコミカルな人情刑事ドラマ用に作った劇中曲。テンポ136(BPM)という速い8ビート。キレの良さが心地良い。この曲も途中でテンポが変わる。後半、木村の生ピアノが8ビートに乗って、空前のソロを取る。ハービー・ハンコックを彷彿とさせる見事な展開で格好いい。「ア・シーサイド・ハット」は、木村イオリの曲。毎年夏に行く逗子海岸の海の家のこと。ベースとドラムが奏でる抜群のビートに乗って、木村が奏でるフェンダー・ローズの音が実に心地良い。バシリーのナイロン弦のガットギターの音も素敵だ。逗子海岸の「Breezin’な空気感」が気持ち良い。(高木信哉)

ALBUM Review

「REIKO YAMAMOTO THE SQUARE PYRAMID
(山本玲子スクウェア・ピラミッド)」

SOMETHIN'COOL:SCOL-1032

 人気ヴィブラフォン奏者、山本玲子の最新作(通算3作目)。2013年1月、デビュー作『山本玲子テンパス・フュジット』をリリース以来、ヴィブラフォンの第一人者として、ブルーノート東京出演など、J-JAZZシーンに確固たる地位を築いてきた山本玲子が、新たな地平を開いた力作だと高評価する。ヴィブラフォンの魅力はもちろんだが、本作には 一人の作曲家としての作品、バンド・リーダーとしての推進力も加味されている。全部で9曲が収録されているが、全曲が山本玲子のオリジナル。これは初めてのことだ。1作目の『山本玲子テンパス・フュジット』と2作目の『ウィルトンズ・ムード』には、彼女のオリジナルが各々3曲ずつ収録されていた。そして、この度、遂に「自分のオリジナルのみの作品集」を作り上げたのである。彼女はヴィブラフォンを弾くことが、自分の音楽を表現しやすいので、今までそうしてきた。しかし本作をヴィブラフォン奏者のアルバムということだけではなく、「一人の作曲家の作品」として、このアルバムを聴いてもらいたいという気持ちがあるのではないだろうか。彼女は、作曲はピアノで行っている。今後は自分の楽曲を、他の音楽家に提供することもあるだろう。本作は、山本玲子という音楽家としての成長が遺憾なく発揮されている。その音楽は、ドラマと感動に満ちている。
 さて、「スクウェア・ピラミッド」とは、山本玲子の新バンド名である。メンバーは、山本(vib)、栗林すみれ(p)、古木佳祐(b)、木村紘(ds)の4人。山本と栗林すみれは、親友だ。栗林のリリカルなピアノが、バンドの大きな力になっている。4人は、2018年4月末にライブを行った。1回限りのセッションライブのつもりだったが、このメンバーのサウンドが想像を超える出来だった。4人の音楽をしている感覚が抜群で、お互いを聴き合い、かつ1つの音楽に向けて演奏していて、それをイメージ化した時に「四角錐」、つまり「スクウェア・ピラミッド」の形が描けた。そこからバンド名、ザ・スクウェア・ピラミッドの名前をつけた。このバンドは、基本的に山本玲子のオリジナルを演奏することがコンセプトになっている。新バンドの活気のあるリズム、瞬時の変化、一体感、そして山本玲子と栗林すみれの歌心と音色が実に素晴らしい。
 冒頭の「ヴァイブラント・ライン」は、目の覚めるような山本玲子の素晴らしいヴィブラフォン・ソロが楽しめる。これは、ヴィブラフォンのアンサンブル用に書いた曲。“vibrant”とは、ヴィブラフォンの名前の由来でもある”vibrate”の、語源となっている単語。振動、震えの意味の他に、活発な、躍動的なという意味が含まれている。打楽器的なアプローチとヴィブラフォンの響きから、音楽の躍動感が感じられる。「ミッドナイト・ブルー」は、格好いい曲。真夜中の首都高を駆け抜けるような感じがする。一体感のあるバンドが躍動し、山本のヴィブラフォンが疾走する。栗林すみれのクールなピアノ・ソロも良い感じだ。「Piano Songs No.2」は、美しい響きの曲。2017年、山本は、ゲイリー・バートン(vib)の引退前ラストとなる、<小曽根真(p)とのデュオ・コンサート>を見に行った。その時、彼女は「小曽根真のピアノが、とても愛おしく切なく聴こえた。この時間が終わらなければいいのに、」と。これは恩師の人生の軌跡に寄り添う、あるピアニストの歌なのだ。ここでは、栗林すみれと山本玲子のソロが、とても綺麗だ。気持ちのこもった素晴らしい演奏である。(高木信哉)

ALBUM Review

「Deborah Shulman / THE SHAKESPEARE PROJECT」

Summit Records DCD 793

 デボラ・シュルマンは、ロスアンジェルスを中心に活躍するシンガー。以前、「ボビー・トゥループ作品集」などちょっとマニアックなアルバムを出していたので気にしていたアーティストだ。彼女が、今回は、ウイリアム・シエィクスピアの詩を歌うというプロジェクトを発表した。学生時代から親しんで来たシェイクスピアの書いた言葉は、彼女にとって人生の一部と言って良い程のもので長いこと温めていた企画だという。シェイクスピアとジャズ・ヴォーカルというと先ず英国のクレオ・レインがジョン・ダンクワースと1964年に録音した「Shakespeare and All That Jazz」が思い浮かぶ、事実、デボラは、クレオ・レインがこの中で歌っていたダンクワース、アーサー・ヤング、デュ―ク・エリントン作曲のナンバーを8曲取り上げている。クレオ・レインは、1977/78年に「Sings Word Songs」というLP2枚組のよりふくらませた作品を作っていて、デボラにとっては大先輩だ。デボラは、ピアニスト、アレンジャーのジェフ・コレーラの協力を得て彼の素晴らしい編曲で歌う。彼は、作曲面でも2曲提供している。伴奏陣に、アブラハム・ラボリエルとクリス・コランジェロ(b)ジョー・ラバーベラとケンダル・ケイ(ds)、ボブ・シェパード(ts,ss,cl, fl)、ボブ・マックチェスニー(tb)、ラリー・クーンス(g)という手練れたミュージッシャンの参加を得て、よりモダンなアレンジでシェイクスピアを聞かせる。トロンボーンとギターの活躍が特筆されるが、何といっても素晴らしい歌唱技術を持ったデボラの歌がシェイクスピアを現代に蘇らせる。歌詞カードがついているのも曲の理解を深めさせてくれて嬉しい。(高田敬三)

ALBUM Review

「BETTY BRYANT / PROJECY 88」

bry-mar music 7735703752

 代官山のシガー・バー「Tableaux Lounge」は、ダリル・シャーマン、ボニー・ジャンセン、ロバート・ヒックス、ダイアン・ウィザースプーン,スコッティ・ライト等など世界のピアノ弾き語りシンガーが定期的に出演する素晴らしい所だった。べティ・ブライアントは、何年か前までそこに13年間も定期的に出演していたファンにとってお馴染みのベテラン・ピアノ弾き語りシンガーだ。確か80歳の時、歳だからというので、長期出演は、無くなったが、今もロスで元気に活躍している。彼女は、カンサス・シティ出身、若い頃は、ジェイ・マクシャンの薫陶を受けて、アール・グラントにも世話になったという。彼女の9作目になる最新盤「プロジェクト88」は、彼女の米寿の88歳を記念して、ピアノの88の鍵盤とひっかけて作ったというアルバム。旧友のテナー・サックスとフルートのロバート・カイルをはじめ彼女の多くの仲間が集まって、ブルージーにスイングするカンサスのビッグバンド風のトラックあり、カウント・ベイシー風の彼女のピアノ・トリオあり、ドラムのジェームス・ガドソンとのヴォーカル・デユオあり、べティのトリオでしっとりと歌う「But Beautiful」のバラードありと「クール・ミス・B」のすべてといった感の楽しいアルバムだ。在日時にも良く歌った自作のクロージング・ナンバー「It’s Hard To Say Goodbye」が懐かしい。まだまだかくしゃくとして味わいのある歌を聞かせる元気一杯のべティ・ブライアントだ。(高田敬三)