ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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Audio Review

- 最新号 -

AUDIO REVIEW

「linear classicシリーズのセパレートアンプ登場。
瀟洒な外観に似ず、愚直さとこだわりのカタマリ」

Aura LCP1(ステレオパワーアンプ)
価格¥396,000(画像奥)

Aura LCC1(ステレオ・ヘッドフォン / プリアンプ)
価格¥495,000

 Auraは1990年代にインテグレートアンプVA40等で注目を集めたイングランドのアンプメーカーだが、現在は当時輸入業務を務めた日本のユキムが商標権を取得、回路技術と秀逸なデザインを引き継いだ製品を送り出している。一昨年には 名機VA40を日本の最新技術でリブートしたVA40rebirthを送り出しファンから喝采を浴びた。この秋、ユキムがlinear classicシリーズと名付ける新製品群がスタートした。シリーズ名通り、両機ともスウィッチング電源でなくリニア電源搭載の純然たるアナログアンプで日本国内生産される。
 Auraの一連の製品は、B&Wマトリックス800の誕生に関わったサー・ケネス・グランジが造形した。小は男性化粧品のボトルから大は英国の鉄道車両まで幅広く手がけたインダストリアルデザイナーだが、惜しくも昨年物故した。ユキムはlinear classicsシリーズの設計にあたり、ステンレス製フロントパネル始めグランジの用いたデザインテーマを活かし、若い世代のデザイナーの手で21世紀にAuraを再創造してみせた。
 パワーアンプLCP1はアナログAB級パワーアンプ。出力段MOS FETシングルプッシュプルはAuraの伝統だが、EXICON製EXW20N20/ECW20P20を採用。VA40 rebirthに比べ定格電流の余裕が生まれ、出力が増した。高さ55mmの薄型に抑えられた筐体だが、リニア電源にこだわり、超薄型トロイダルトランスをカスタムメードの上搭載。仏ヴィシェーの金属皮膜抵抗、ニチコンMUSEシリーズのオーディオ用高品位コンデンサ、金クラッド接点リレーなど、高品質パーツが随所に奢られている。
 本機はBTL接続によるモノラル・パワーアンプとしての使用が可能。後述のLCC1と組み合わせた場合、専用ケーブルで電源オン/オフの連動が可能だ。
 いっぽうのヘッドフォンアンプ/プリアンプLCC1。EXICON製ECX10P20/ECX10N20をL/R用に2組ずつ合計8個の出力素子で駆動するディスクリートのフルバランス構成である。linear classicシリーズは国内外で展開される。汎用のスウィッチング電源にすれば事足りるが、トロイダルトランスを注文製作、使用国の地域電圧に合わせ100V/110V/125V/230Vそれぞれの電圧に対応するトランスを搭載する愚直さである。ボリューム操作用モーターの電流は信号回路に影響を与えないよう小型トランスを備えた別電源から供給される配慮も見逃せない。
 なお、LCP1、LCC1とも、金属加工は聖地、新潟県燕三条市で、メイン基板へのパーツ取付け等は日本国内にて手作業で行われる。
 LCP1+LCC1の組み合わせでSACD等を聴いた。スキニーで瀟洒なたたずまいから穏やかな音質を想像すると裏切られる。力強くのびやかで開放的な明るい音調だ。両機の構造上の特徴に、VA40で採用済みのメイン基板をシャーシ上に置くのでなく上部リッドから吊り下げる「基板吊り下げ方式」を採用した。頭を抑えつけられたような窮屈さのない開放的な音質は、この構造に由来するものと感じられる。分解能も豊かで、CDからストリーミングまで、フォノイコライザーを別途用意すればレコードまでオールラウンドに楽しむことができよう。
 さて、LCP1の価格は¥396,000、LCC1は¥495,000である。(いずれも税込) 常軌を逸した天井知らずの高価格化が進行する現在のオーディオで、部品にこだわった日本生産の製品として信じられない良心的な価格設定である。ユキムのふんばりと誠意のあらわれをみた。Linear classicシリーズは今後継続しての展開が予告されている。期待する所、大である。
(大橋伸太郎)