ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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エッセイ

最新号

Little Glee Monster『足跡』 ハーモニーの多重性

松島 耒仁子(クニコ)

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初回生産限定盤

 リトグリの愛称で知られるLittle Glee Monsterは2012年結成の5人組の女性ボーカルグループ。
 ソニー・ミュージックとワタナベエンターテインメントによる世界に通用する最強の女性ボーカリストの発掘を目的としてオーディションによって結成された。
 彼女達の名を広く知らしめた楽曲は2018年の『世界はあなたに笑いかけている』(コカコーラCMソング)又、昨年のラグビーワールドカップNHKテーマソング『ECHO』がある。
 今回発売された新曲『足跡』は16枚目のシングルであり、2021NHK合唱コンクール中学校の部の課題曲になっている。
 

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通常盤
 グループの大きな特徴は、ハーモニーが多重の立体構造になっているところにある。普通、ボーカルグループに於けるアレンジは、ソロパートがメインにあり、それを補足する形のバックコーラス的なハーモニーが付けられる場合が大半である。しかし彼女達の場合、ソロパートと同等の比重でハーモニーパートの音声が鳴り響き、複数のメロディーラインが交錯しながらハーモニーを作り上げて行く。
 これが既存のボーカルグループと全く違うところで、5つの音が独立したラインで交錯しながら多重的立体構造のハーモニーの世界を作り上げて行くために、非常にエネルギッシュな音の構造になるのが特徴と言える。
 こういう構成が出来るのは、5人それぞれの持つ音域が非常に広く、さらに女性で難しいとされる低音域のパートをしっかり支えるメンバーがいることによる。
 ハーモニーの多重構成は、低音域をどれくらい支えられるかに懸かっていると言っても過言ではなく、彼女達のハーモニーの世界が立体的なのは、低音部の優秀さにある。また高音部パートの音程の正確さは、ハーモニー全体の正確さを作り上げる上で強力な武器となっており、正確な音程がリトグリのハーモニーの音色を決定している。
 新曲『足跡』ではこの特徴に加え、5人それぞれが歌うソロパートは見事に音色が統一され一本の線で歌い継がれていく。
 中盤から後半にハーモニーの音がソロパートに重なって行くことで、立体構造の音楽を作り上げるという構成になっており、彼女達の多重音楽の世界の魅力を余す所なく伝えている。

ジェジュン『Love Covers II』に見るJPOPの世界

松島 耒仁子(クニコ)

写真  韓国人アーティストであるジェジュンがJPOPカバーアルバム2枚目を発売している。
 『Love Covers』と名づけられたアルバムシリーズは、過去のJPOPの様々な楽曲のカバーが収録されている。
 昨年発売された1枚目は評価が高く、日本レコード大賞企画賞とゴールドディスクのアルバム部門賞を受賞した。今回発売された2枚目には、高橋真梨子の『for you』小田和正『たしかなこと』井上陽水『少年時代』やMISIA『逢いたくていま』などの楽曲に加え、1980年代の中森明菜『セカンド・ラブ』や上田正樹『悲しい色やね』とさらには最近の楽曲であるwacciの『別の人の彼女になったよ』など、非常に多角的なラインナップになっている。
 ジェジュンは韓国人でありながらJPOPの楽曲に拘りを持ち、日本活動を中断している間も来日コンサートにおいて必ずJPOPのカバー曲を歌うほど、アーティストとしての思い入れが強いものを感じる。かつては、中島みゆきの『化粧』の楽曲を韓国語に自ら翻訳して韓国のアルバムに入れるほどであり、その彼が日本活動再開後にJPOPのカバーアルバムを出すのは自然の流れとも言える。

写真  今回のアルバムの中で、彼は実に多種多様な歌声を披露している。それは楽曲の持つ音楽性や多様性に合わせた歌声になっており、エネルギッシュな歌声を披露する『for you』や『逢いたくていま』に対して、『少年時代』や『たしかなこと』ではポップな軽い歌声を使用している。『悲しい色やね』における歌声は、元来彼が持つ声よりもハスキーな音色を作り出して歌っており、大阪の地方性の持つ独特の世界観を構築していると言えるだろう。
 また今回のアルバムではいつもにも増して、非常に日本語の言葉の明確さが際立つ。
韓国人が苦手とする日本語の母音“え”を持つ単語の発音は全く違和感のないものになっており、その他の言葉においても、外国人特有の発音の癖はどこにも見受けられない。
これほどに綺麗な日本語の発音が出来るのは、彼が日本語の意味を完全に把握し、さらにその言葉の持つ世界観をも踏み込んで理解しているからで、日本語を使った音楽の世界を見事に具現している。

写真  2004年の韓流ブーム以降、多くの韓国人歌手やグループが日本活動を行っているが、彼ほどにJPOP音楽に拘って活動している歌手は他に見当たらないのではないか。
 彼は「『Love Covers』シリーズはこれからも続けて行きたい」と言っている。
アジアだけでなく世界中に多大なファン層を持つ彼が、日本語で歌う楽曲を出すことで国外でのJPOP音楽の評価と広がりに繋がり、さらに、彼が歌うことで、それらの楽曲を知らない日本の若い世代のファン層があらためて楽曲を知るという現象にもなっている。
 彼が歌うことによって、今後、多くのJPOPの楽曲が掘り起こされ、新たな魅力を吹き込まれ蘇ることになるかもしれない。