ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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エッセイ

最新号

藤井風「Prema」アルバムに見る歌声の帯

久道りょう

NHK Music Special:「 藤井風 ~登れ、世界へ~ 音楽誕生の瞬間を記録」を拝見した。
彼の今回の全編英語歌詞によるアルバム「Prema」の是非の議論は横に置くとして、彼の英語の歌を聴いてあらためて感じたことがある。

それは、藤井風の歌は、歌声全体がまるで音の帯のように横に流れる、ということだ。
この特徴は日本語でも英語でも変わらない。

彼の日本語の歌は、独特のタンギングを持つ。
タンギング、即ち、声を出す時の子音のアクセントのことだ。
これが彼の場合、決して強くないにも関わらず、明瞭に言葉が立ち上がってくるのは、なぜなのか、といつも思っていた。

今回、彼の英語の歌声を聞きながら、やはりその印象は変わらなかった。
即ち、英語であっても、彼の言葉は鋭角的にならないのだ。
非常に滑らかな言葉が歌声の中で並んでいる、という印象だ。

彼の歌声は、歌が横に帯のように流れていくのだ。
歌声が幅を持って、ズドーンと横に流れ続ける。その帯の中に言葉が存在していくのだ。
だから、タンギングが曖昧でも、音楽の流れ、言葉の流れの中で、受け取り側は補完しながら聞き取っていく。
普通なら言葉が横に流れるだけで不明瞭になるものが、彼の場合は、豊かな声量に乗せられて音の帯の中でことばが存在するために、1つ1つが丸みを帯びた響きになり、曖昧さが気にならない。
彼の独特のグルーヴと歌声の帯が一体になり、独特のタンギングを形成している。
それは、彼の滑らかで豊かな声量と豊かな呼吸に乗せられた響きの中に言葉が存在するからなのだと思った。
英語の歌声も横へ流れ、1つの大きな音の帯の中で言葉が構成されていく。
ここにボーカリストとしての藤井風が他のアーティストと差別化出来る特徴がある。

バリトンの豊かな声量は、独特の音楽を形成していく。それは、日本語、英語に関わらず、彼のパフォーマンスの根幹を成す1つの特徴だ。
藤井風が他のアーティストと全くスケール感が違うと感じる理由がここにあると気づいた特集だった。

ビリー諸川(著)
「THIS IS ELVIS!エルヴィス・ミュージック・ガイド」

(シンコーミュージック・エンタテイメント)ISBN9784401656394

上柴とおる

写真 1977年8月16日、42歳で急逝したエルヴィス・プレスリー。今年(2025年)は生誕90周年となる節目の年ということもあって改めて‘全仕事’がまとめられた。1954年から亡くなる1977年までの23年間に(振り返れば決して長くはないキャリア)日本国内でリリースされたいろいろなアナログ・レコードの紹介だけではなく全224ページの中にはファンでなくても興味を惹かれる記事やデータが散りばめられていて何とも楽しい♪
 エルヴィスが影響を受けたアーティスト10組(ハンク・ウィリアムズ、マヘリア・ジャクソン、アーサー・クラダップなど)や逆にエルヴィスに影響を受けたアーテイスト10組(ジョン・レノン、ボブ・ディラン、デヴィッド・ボウイ、エルトン・ジョン、ブルース・スプリングスティーン、ジョン・ボン・ジョヴィ、スージー・クアトロ、ビヨンセ、レナード・バーンスタイン、ボノ)、また著名なアーティストたちとプレスリーとの意外?なエピソード(ビートルズ、レッド・ツェッペリン、エリック・クラプトン、エルトン・ジョンなども。さらにエルヴィスが結婚を考えた女性6人とか(その中にはアン・マーグレットも)。各30編の雑学&語録も面白い。
 言うまでもなくエルヴィスのレコーディングを支えたミュージシャンの紹介や出演した映画全33作品のリスト(当時の日本公開時のポスター写真と共に)に加えて1954年7月~1977年6月まで開催したコンサートの全記録までも掲載されていて思わず「これは保存版♪」と。レコードについてもLPだけではなく日本独自の4曲入りコンパクト盤の紹介や「昭和30年代の‘お宝’レコード・コレクション」といった‘刺さる’記事もちゃんと用意されている。各記事はどれもが簡潔で読み易く写真も多く、ポップでキャッチーな紙面展開。単なる事務的なカタログ本の類などではなくて親近感も抱かせる。
 著者のビリー諸川さんはロックン・ロール~ロカビリー業界ではよく知られた人でHARVEST MOONというバンドでヴォーカル&リズムギターを担当しつつ、ライターとしても活躍。エルヴィスやロカビリーに関する多数の著作やライナーノーツ(CD)でもおなじみ。プレスリー所縁のサン・スタジオ(メンフィス)でレコーディングの経験もありという諸川さんは誰よりもエルヴィスのガイド役に相応しい。 (上柴とおる)

◆物故者(音楽関連)敬称略

まとめ:上柴とおる

【2025年9月下旬~2025年10月下旬までの判明分】

・9/19:ソニー・カーティス(バディ・ホリーの盟友。ザ・クリケッツのメンバー)88歳
・9/19:キース・マクイヴァー(グラスゴーのDJコンビ、OptimoのJD Twitch。DJ&プロデューサー)57歳
・9/23:ダニー・トンプソン(アレクシス・コーナーズ・ブルース・インコーポレイテッド~ペンタングルなど)86歳
・9/25:クリス・ドレヤ(ヤードバーズ、ボックス・オブ・フロッグスなど。写真家としてレッド・ツェッペリンのデビュー・アルバムの裏ジャケット写真も担当)79歳
 ★「クラプトン、ベック、ペイジだけでヤードバーズを語るのは禁止」
 https://merurido.jp/magazine.php?magid=00012&msgid=00012-1760695455
・9/26:史佳Fumiyosh(三味線プレイヤー。2021年、N.Y.のカーネギー・ホールでロン・カーターと共演)51歳
・9/29:レナート・カサロ(イタリアのポスター・デザイナー。「荒野の用心棒」「さらば青春の光」「フラッシュ・ゴードン」「ターミネーター2」「コナン・ザ・グレート」「007/オクトパシー」「ネバーエンディング・ストーリー」「ランボー/怒りの脱出」「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」「デューン/砂の惑星」」など数多くの有名映画ポスターを担当)89歳
・9/29:金子洋明(音楽プロデューサー。音楽制作会社「ミュージカルステーション」設立。森山良子や五輪真弓らのマネジメント、加山雄三らのコンサート・プロデュースを担当)81歳
・9/29:マチ・ロジャース(清水真智:元ポール・ロジャース夫人。元歌手=1970年シングル「光源氏の殺し文句」)77歳
・9/30:スーザン・ルーカス(愛称スー・キャット・ウーマン。ロンドン・パンク・シーンのアイコン。セックス・ピストルズとは密接な関係)70歳
・10/04:アイク・ターナー・ジュニア(音楽プロデューサー。アイク・ターナーの息子。ティナ・ターナーの養子)67歳
・10/08:テリー・ジョンソン(フラミンゴスのリード・シンガー)86歳
・10/10:ジョン・ロッジ(ムーディー・ブルースのベーシスト)82歳
・10/10:トミー・プライス(米ロック・ドラマー。ジョーン・ジェット&ザ・ブラックハーツで長く活躍。スキャンダルやビリー・アイドルなどでも)68歳
・10/11:ダイアン・キートン(米俳優。「ゴッドファーザー」シリーズや「アニー・ホール」「アーサーズ・ウィスキー」など。映画監督、映画プロデューサー、音楽ビデオ制作者、脚本家としても活躍)79歳
・10/11:イアン・ワトキンス(ロストプロフェッツの元ボーカリスト)48歳
・10/14:ディアンジェロ(R&Bシンガー・ソング・ライター。ネオ・ソウル)51歳
・10/15:サンディー(黄小玫:台湾出身のシンガー・ソング・ライター。日本向けに自主制作した台湾観光PRのミュージックビデオで注目)34歳
・10/16:エース・フレーリー(元KISSのギタリスト)74歳
・10/16:疋田拓(TV番組制作プロデューサー。「夜のヒットスタジオ」など)83歳
・10/17:草野浩二(音楽プロデューサー。元東芝音工制作部。坂本九「上を向いて歩こう」など担当。実兄は訳詞家の漣健児=草野昌一)87歳
・10/18:サム・リヴァース(リンプ・ビズキットのベーシスト)48歳
・10/19:アンソニー・ジャクソン(米セッション・ベーシスト。ビリー・ポール、オージェイズ、ロバータ・フラック、チャカ・カーン、スティーリー・ダン、リー・リトナー、チック・コリア、アル・ディ・メオラ、ミシェル・カミロなど)73歳
・10/21:キム・サンヨン(韓国のロック・バンド、TearDropのベーシスト)42歳
・10/22:デイヴ・ボール(英シンセサイザー奏者。ソフト・セルなど)66歳
・10/23:リンダ・コラソン(フィリピン出身の歌手。作曲家の鈴木淳に師事。徳間ジャパン所属)<逝去日は公表日>
・10/25:ビョルン・アンドレセン(スウェーデンの俳優、歌手。「ベニスに死す」「ミッドサマー」「世界で一番美しい少年」など)70歳
・10/---:デイヴ・ブロックヘッド(イングリッシュ・ビートのキーボード)82歳<逝去日不明>
・10/---:エース・フィンチャム(タイガーテイルズのドラマー)62歳<逝去日不明>