最新号
人は、なぜ“生の声”を聴きに行くのか
久道りょう
音楽は、スマートフォン一つで聴ける時代になった。
どこでも携帯出来て、どんな場所でも気軽に聴くことが出来る。
サブスクリプションを開けば、世界中の音楽が瞬時に再生される。
昔のように、レコードを探し歩く必要もなければ、CDショップへ足を運ぶ必要もない。
音楽は、かつてないほど身軽で便利になった。
それなのに、人は今もライブ会場へ向かう。
高額なチケット代を払い、遠方まで移動し、長い行列に並び、数時間を費やして“生の歌声”を聴きに行くのである。
それは、なぜなのだろう。
私は長年、音楽評論と共に「声」というものを見続けてきた。
すると次第に、人は単に“音”を聴いているのではない、ということに気づかされる。
人は、“存在”を聴きに行っているのではないか。
例えば、同じ楽曲でも、配信音源とライブでは、まるで別物のように感じることがある。
音程やリズムの正確さだけで言えば、むしろ録音作品の方が完成されている場合も多い。
それでもライブで人は涙を流す。
そこには、“揺らぎ”があるからだ。
息の混ざり方、
言葉の置き方、
その日の感情、
一瞬の間、
観客との空気、
身体から発せられる振動…
それら全てが重なり、“その日、その瞬間にしか存在しない声”になる。
私は以前から、「声は無意識の名刺」だと感じている。
人間はどれほど言葉を整えても、声にはその人自身が出てしまう。
誠実さも、迷いも、孤独も、優しさも、あるいは人生の痛みさえも。
だからこそ、人は生の声に惹かれる。
歌がうまいからだけではない。
技巧が優れているからだけでもない。
その人の“生き方”が、声に現れるからである。
近年、ライブ会場へ行くたびに感じることがある。
観客は、音楽を消費しに来ているのではなく、「この人は本当に生きている」という感覚を受け取りに来ているのではないか、と。
特に今は画面越しに全てが完結してしまう時代である。
SNSには美しく加工された言葉や映像が溢れ、人は無意識のうちに“本物の温度”に飢えている。
だからこそ、生の声には価値が生まれる。
声は、振動である。
そして振動は、人の身体に直接届く。
どれほど映像技術が進化しても、どれほどAIが発達しても、生身の人間から発せられる声の震えだけは、完全には再現できないのではないか。
ライブ会場で、ある歌手が一声を発した瞬間、空気が変わることがある。
客席の集中力が一気に高まり、会場全体がその声に引き込まれていく。
あの瞬間、人は単に「歌」を聴いているのではない。
声の振動から生まれるエネルギーを受け取っているのではないか。
その歌手が発するエネルギー。
だから私たちは、何度でもライブへ向かう。
そこには、録音された音楽だけでは届かない、“生きている声”との出会いがあるからだ。
◆物故者(音楽関連)敬称略
まとめ:上柴とおる
【2026年4月下旬~5月下旬までの判明分】
・4/24:ギュンター・ピヒラー(オーストリアのバイオリニスト。「アルバン・ベルク弦楽四重奏団」創設者)85歳
・4/24:トニー・ウィルソン(英ソウル~ファンク・バンド、ホット・チョコレートの創設メンバー。ベーシスト)78歳
・4/27:Jerry.K(本名:キム・ジニル。韓国のラッパー。ソウル大学出身)42歳
・4/27:ビヴァリー・マーティン(英フォーク畑のシンガー・ソング・ライター。かつての恋人、バート・ヤンシュからギターを学ぶ)79歳
・4/28:五十嵐淳子(俳優。夫は俳優の中村雅俊)73歳
・4/29:デヴィッド・アラン・コー(米‘アウトロー・カントリー’シンガー)86歳
・4/30:ボビー・マレー(米ブルース・ギタリスト。エタ・ジェイムスと23年間活動。B.B.キング、アルバート・キング、アルバート・コリンズらとも共演。母は日本人、父はアイルランド人)72歳<逝去日は公表日>
・4/30:アレックス・リガートウッド(スコットランド出身のロック・ヴォーカリスト。1979年~1994年にかけてはサンタナのリード・ヴォーカリスト&ソング・ライターとしても活躍。他にジェフ・ベック・グループやブライアン・オーガーのオブリビオン・エクスプレス、アベレージ・ホワイト・バンド、デヴィッド・サンシャスとも共演)79歳
・5/04:大野雄二(ジャズ・ピアニスト。作曲家としてアニメ「ルパン三世」や映画「犬神家の一族」「人間の証明」「野性の証明」等の音楽を担当)84歳
・5/05:田中章弘(鈴木茂&ハックルバックのベーシストを経て松任谷由実、大瀧詠一、ティン・パン・アレー、山下達郎、井上陽水、高中正義等のレコーディングやツアーに参加)71歳
・5/08:上浦容充(レゲエ・バンド、KAJA&JAMMIN’のKaja。元ロック・バンド、ハイウェイ)75歳
★「日清『めんコク』のイメージ・ソングで売れた5人組ハイウェイとの縁」
https://merurido.jp/magazine.php?magid=00012&msgid=00012-1778433334
・5/11:ジャック・ダグラス(米音楽プロデューサー。エアロスミス、チープ・トリック、パティ・スミス、ジョン・レノン「ダブル・ファンタジー」など)80歳
・5/13:藤本統紀子(エッセイスト。タレント。シャンソン歌手。夫は作家の故・藤本義一。元スポーツニッポン大阪本社文化部記者)91歳
・5/13:クラレンス・カーター(米R&Bシンガー・ソング・ライター。ギタリスト)90歳
★「私の中の‘クラレンス’3人衆」
https://merurido.jp/magazine.php?magid=00012&msgid=00012-1778927081
・5/15:フェリシティ・ロット(英ソプラノ歌手)79歳
・5/16:デニス・ロコリエール(ドクター・フックのリードシンガー、ギタリスト)76歳
・5/16:アイク・ウィリス(フランク・ザッパのバンドでヴォーカル&ギターを担当)70歳
・5/17:高橋ロジャー和久(元X-RAY、レジスタンスのドラマー。ポルノグラフィティやCharなど多くのアーティストともセッション活動)64歳
・5/22:ディック・パリー(英サックス奏者。ピンク・フロイドと長く活動)83歳