ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
ミュージック・ペンクラブ・ジャパン

Classic Review

- 最新号 -

CONCERT Review

東京二期会オペラ劇場
カヴァレリア・ルスティカーナ/道化師(新制作)リポート

2026年2月10日(火)東京文化会館 大ホール

指揮:アンドレア・バッティストーニ
演出:ダミアーノ・ミキエレット
演出補:エレオノーラ・グラヴァニョーラ
装置:パオロ・ファンティン
衣裳:カルラ・テーティ
照明:アレッサンドロ・カルレッティ
合唱指揮:佐藤 宏
音楽アシスタント:松下京介
演出助手:彌六
舞台監督:村田健輔
技術監督:大平久美、村田健輔
公演監督:大野徹也
公演監督補:永井和子

マスカーニ:オペラ《カヴァレリア・ルスティカーナ》
全1幕 イタリア語原語上演(日本語及び英語字幕付)

サントゥッツァ:岡田昌子
ローラ:小泉詠子
トゥリッドゥ:前川健生
アルフィオ:今井俊輔
ルチア:与田朝子

レオンカヴァッロ:オペラ《道化師》
全2幕 イタリア語原語上演(日本語及び英語字幕付)

ネッダ:イ・スンジェ
カニオ:樋口達哉
トニオ:今井俊輔
ペッペ:高田正人
シルヴィオ:与那城敬

合唱:二期会合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

写真提供:公益財団法人東京二期会
撮影:寺司正彦

東京二期会はこの2月、2015年に英国ロイヤル・オペラで初演されローレンス・オリヴィエ賞を受賞したことでも話題となった《カヴァレリア・ルスティカーナ》と《道化師》を4日間にわたりダブルキャストで上演した(2月12日~15日)。英国ロイヤル・オペラ・ハウスとの提携公演。公演直前の2月10日の行われたGP(ゲネラルプローベ)を取材した。歌手は2月12日、14日出演組。

同人物が2作に現れる凝った演出、「復讐」と「救済」が連続するドラマの中で統合

ダミアーノ・ミキエレットの演出は、英国ロイヤル・オペラ・ハウスで2015年に初演されたものだ。舞台設定は1980年前後の南イタリアのある村で起こる出来事だ。イタリアの貧しい村、人々の信心深さ、衣装や舞台セットも含めノスタルジーを感じさせる舞台だった。ただし読み替えはない。2つのオペラを1つの物語として構成してるだけでなく、主要登場人物たちがどちらのオペラにも姿を現すのもおもしろい演出だ。

写真
《カヴァレリア・ルスティカーナ》より

「カヴァレリア・ルスティカーナ」では、冒頭に殺されたトゥリッドゥの周りを囲む群衆と母ルチアが悲しみにくれる最後のシーンを見せ、衝撃的に始まる。物語はルチアの営む「居酒屋」ならぬ「パン屋」の内と外を「回り舞台」で見せながら進んでいく。ルチアのパン屋の職人が「道化師」のシルヴィオだ。旅回り芸人のネッダとペッペが村で芝居のチラシを配っているときに、彼もそれを受け取ったことから、2つの物語が交差していく。ミキエレットの演出は良い意味で芸が細かい。例えば、芝居のチラシにはカニオ役の樋口達哉の写真を使っていたり、シルヴィオがネッダにプレゼントしたスカーフを「道化師」の中で大切にしているシーンがあったり、間奏曲ではついにシルヴィオとネッダが恋に落ちる様子が描かれる。

写真
《道化師》より

《道化師》でも村の集会所(芝居小屋)、楽屋、体育館が回り舞台上で使用された。回り舞台は、ネッダがシルヴィオと密会しているところをカニオが目撃し怒りをぶちまけるシーンや劇中劇をあえて見せないで、カニオが嫉妬から混乱、錯綜していく姿にスポットするシーンなど、それぞれの情景をテンポよく見せることにより、この心理劇をよりリアルに浮かび上がらせるのに効果的だった。間奏曲では「私は罪ある女だ」と何度も言っていたサントゥッツァが告解により罪を許されルチアと抱き合い「救済」されるシーンが描き出される。「救済」と対極にあるのが、今回唯一のダブルキャストであるアルフィオとトニオの役柄であろう。アルフィオは決闘の末とはいえ「殺人」を犯しているし、トニオはネッダにふられた「復讐」のためにカニオにネッダを殺させる役回りだ。少し安易かも知れないが、「殺人」や「復讐」と「救済」との対比がこの2つのオペラを1つの世界に統合する核になっていると感じた。

歌手陣の健闘とバッティストーニのバランス感が際立つ

歌手陣では、サントゥッツァの岡田昌子が安定して歌唱でドラマティックな役を演じていた。トゥリッドゥの前川健生は役柄が持つ直情的な性格を力強い歌唱で表現していた。アルフィオとトニオは今井俊輔。難しい役柄であったが、特に癖の強いトニオをバリトンの豊かな声で演じていたのが印象的であった。与田朝子のルチアと小泉詠子のローラも持ち味を活かしつつしっかりと脇を固めていた。樋口達哉はやや重めの声でカニオの混乱と錯綜を迫力満点で演じた。ネッダのイ・スンジェは奔放で自由になりたいと願う女性を巧みに歌っていた。シルヴィオの与那城敬は《カヴァレリア・ルスティカーナ》の演技も見事だったし、ネッダとの二重唱が情熱的で美しかった。ペッペの高田正人は劇中劇のコロンビーナとの二重唱がよかった。

指揮のアンドレア・バッティストーニは、東京フィルハーモニー交響楽団との息がぴったりで、歌手たちや合唱の息づかいを敏感に感じ取りながら絶妙に演出と音楽を融合していた。また声とオーケストラのバランスを崩すことなく、特に弱音の使い方が巧みで繊細に音楽を運んでいた。(玉川友則)

CONCERT Review

藤原歌劇団
妖精ヴィッリ/カヴァレリア・ルスティカーナ(新制作)

2026年1月31日(土)14:00 東京文化会館 大ホール

指揮:柴田 真郁
演出:岩田 達宗

総監督:郡 愛子
公演監督:斉田正子
副公演監督:川越塔子

合唱指揮:安部克彦
美術:松生紘子
衣裳:下斗米大輔
照明:大島祐夫
舞台監督:菅原多敢弘
副指揮:諸遊耕史、松村優吾
演出助手:手塚優子

プッチーニ:オペラ「妖精ヴィッリ」
全2幕 日本語字幕付原語(イタリア語 上演)

アンナ:砂川 涼子(1/31)/迫田 美帆(2/1)
ロベルト:澤﨑 一了/所谷 直生
グリエルモ・ウルフ:岡 昭宏/清水 良一
語り:豊嶋 祐壹(両日)

マスカーニ:オペラ「カヴァレリア・ルスティカーナ」
全1幕 日本語字幕付原語(イタリア語 上演)

サントゥッツァ:桜井 万祐子(1/31)/小林 厚子(2/1)
トゥリッドゥ:笛田 博昭/藤田 卓也
ルチア:牧野 真由美/米谷 朋子
アルフィオ:井出 壮志朗/森口 賢二
ローラ:丹呉 由利子/髙橋 未来子

合唱:藤原歌劇団合唱部
ダンサー:木村寿美、田川ちか、時安結女、西田知代
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
オルガン:藤原藍子

写真提供:公益財団法人日本オペラ振興会
撮影:池上直哉

今回の藤原歌劇団の公演は、プッチーニの「妖精ヴィッリ」とマスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」のダブルビル。ちょうど40年前の1986年に藤原歌劇団が「妖精ヴィッリ」を初演したときと同じ二本立ての演目だ。

写真
《妖精ヴィッリ》より
演出の岩田達宗は公演プログラムの中で「この2つのオペラは同じ物語である」と語っているように、故郷を離れたがゆえに身を滅ぼす男、死を前にして本来の自分を取り戻す男といった共通点を元に、ドイツと父親の視点(妖精ヴィッリ)、シチリアと母親の視点(カヴァレリア・ルスティカーナ)の対比も浮かび上がらせた演出だった。また両オペラの最後に、死後に結ばれたアンナとロベルトが抱き合うシーンと息子を失って悲しむルチアを抱擁するサントゥッツァのシーンを入れ、男の「魂の救済」を描き出し、2つのオペラを結び付けたのは見事だった。他にも、アンナとントゥッツァにそれぞれ恋人の不義の逢瀬を目撃させ、復讐心や嫉妬心を煽り、その後の悲劇につなげていく演出も面白かった。

写真
《カヴァレリア・ルスティカーナ》より
アンナの砂川涼子は柔らかくも厚い声で可憐な女性(「もしも私がお前たちのように小さな花であったなら」)と復讐に燃える女性(最後にセリフ「あなたは私のものよ!」)の対比を描き分けていたのが印象的だった。ロベルトの澤﨑一了は声量もあり、よく響く声で愚行を恥じる青年の歌「ここがあの家」を熱演していた。グリエルモ・ウルフの岡昭宏も娘を失った悲しみ、怒りの表現がよかった。語り手のバリトン歌手、豊嶋祐壹は、ディクションも明快でニュアンスに富んだ語りで、事の重大さを伝えていた。

サントゥッツァの桜井万祐子は、力強いフレージングと多彩な声で苦悩、嘆き、怒りの感情をドラマチックに歌い上げていた(「あなたもご存じです、お母さん」)。トゥリッドゥの笛田博昭は冒頭の「シチリアーノ」からその豊かで情情性を持つ声で観客を魅了した。通常、舞台裏で歌うこの曲を表舞台で歌唱する演出が功を奏していた。サントゥッツァとの喧嘩の二重唱や「かあさん、あの酒は強いね」等に至るまで出色の熱唱であった。アルフィオの井出壮志朗は威勢のよさや粗野な役柄に適した声の響きと演技が舞台を盛り上げていた。ルチアの牧野真由美は包容力のある母親役を表現豊かに、ローラの丹呉由利子は心のままに行動する女性を繊細に歌っていた。

4人のダンサー(木村寿美、田川ちか、時安結女、西田知代)の起用もよかった点だ。両方に出演していたが、特に「妖精ヴィッリ」のロベルトを誘惑する場面では素晴らしいパフォーマンスを披露してくれた。

柴田真郁指揮の東京フィルハーモニー交響楽団は威勢がよく、力強かった。時折、声とオーケストラの音量バランスが気にはなったが、2つのオペラにふさわしいドラマチックな音楽をオーケストラから引き出していた。金管楽器と打楽器の精妙な響きが劇的な音楽を作り出すのに貢献していた。

藤原歌劇団合唱部のメンバーも音の強弱、緩急を上手く使い分けた合唱で、群衆のにぎやかさや悲しみといった感情を的確に伝えていたのは好感が持てた。(玉川友則)