ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
ミュージック・ペンクラブ・ジャパン

Classic Review

- 最新号 -

CONCERT Review

東京オペラ・プロデュース ファンタスティックコンサート
G.ビゼー作曲 オペラ「カルメン」ハイライト
ピアノ伴奏・字幕付 原語(フランス語)上演

2026年4月30日(木)18:30 豊洲シビックセンターホール

カルメン:江口 二美
ドン・ホセ:青栁 素晴
ミカエラ:永井 千絵
エスカミーリョ:豊嶋 祐壹
フラスキータ:渡邉絵美子
メルセデス:坂野由美子
ダンカイロ:秋本 健
レメンダード:高橋 拓真
ピアノ・舞台構成:飯坂 純
監修:松尾 史子

(写真提供:東京オペラ・プロデュース)

写真
写真

結論から言えば、ハイライト版ながら音楽(ピアノ伴奏)と歌唱、そして各登場人物の造形の巧みさが上手くまとまっており、満足度の高い公演だった。舞台左手側にファツィオリ社のピアノを配置し、舞台美術等はないが出演者たちは衣装をつけ、演技もする形式で上演された。適宜、舞台裏からカスタネットやタンバリンを効果的に使用して雰囲気を盛り上げていたのもよかった。

冒頭、「前奏曲」を弾き終えたところで、当公演のピアノ・舞台構成担当で、東京オペラ・プロデュース副理事長でもある飯坂純から2020年以来、財務基盤等の事情から定期演奏会が出来ていない現状と昨年9月に公演予定であった今回の「カルメン」が延期された理由が語られた。その後、作品解説とともに本日は演奏の機会が少ない「モラレスの歌」、それに「恋は野の鳥(ハバネラ)」の初稿版が演奏されることが告げられた。

ハイライト版のため、まずは「モラレスの歌」からだ。モラレス役はキャスティングされていたいため、ダンカイロ役の秋本健が歌唱した。内容は手持ち無沙汰に往来を眺めていたモラレスが、年の離れた不釣り合いな男女と間男を見つけ観察するといったもの。秋本はその様子を時に面白おかしく、時にシリアスに歌い、幅広い表現力を駆使しながら我々を楽しませてくれた。続く「恋は野の鳥」の初稿版は、現行版と歌詞はほぼ同じだが、音楽はハバネラのリズムではなく、情熱的なオリジナル曲だ。カルメン役の江口二美は丁寧なフレーズ運びで情感豊かに歌い上げていた。情熱的であり、気性の激しいカルメンを好演していた。対するドン・ホセ役の青栁素晴は豊かな声のテノールだ。まじめでまっすぐな性格のホセを演じていたが、「花の歌」で見せた激情的とも言える歌唱との対比が印象に残った。ミカエラ役の永井千絵はホセを連れ戻す途中に歌う「何が出たって怖くないわ」でみせた健気で献身的な姿が胸に響いた。エスカミーリョ役の豊嶋祐壹もよく響く豊かな声を持っている。太っ腹で男気にあふれる役作りで「闘牛士の歌」を歌ってみせた。音の強弱を含め声を自在に操る歌唱は圧巻だった。
その他のメンバーたちは重唱で「カルメン」の魅力を伝えてくれた。例えば、ジプシー役のフラスキータ(渡邉絵美子)、メルセデス(坂野由美子)とカルメンがカード占いをする三重唱「混ぜて、切って」では、明るさや自由さに加え少しコミカルな歌唱と演技がこの曲にぴったりはまっていたし、早口の会話の面白さが楽しめた五重唱「うまい話があるぞ」では、強面でどこか胡散臭いダンカイロ役、秋本健とまじめだがどことなくおかしみがあるレメンダード役、高橋拓真のふたりの歌唱が光っていた。

飯坂はメリハリのある音運びでビゼーの音楽が持つ透明感をうまく引き出していたし、スペインの明るさや物語の悲劇性のニュアンスを絶妙にピアノで表現していた。コレペティ出身の指揮者だからというだけではないだろうが、音楽と歌手とのタイミングがぴったりと決まっていたことも彼の優れた資質のひとつだと感じた。ピアノソロでは「第3幕への間奏曲」がしっとりとした美しさを醸し出すような演奏で聴きごたえがあった。

最後にこのホールでしか出来なった演出について触れておきたい。オペラはホセがカルメンをナイフで刺して終わる。男と女の主張は最後まで交わらないし和解や救済もない。つまり死をもってしか終わることができない悲劇である。音楽の美しさに酔いしれているのに、終演後の後味が悪いはこうした理由からだろう。今回の公演では、この場面のあとに舞台後方のカーテンが開けられ、東京湾の夜景が目の前に飛び込んできて幕切れとなった。これはとてもよい演出だ。眼前に広がる夜景を見ていたら、後味の悪さがいつもよりも少ないことに気が付いた。(玉川友則)

次回公演も決まっているので楽しみに待つことにしたい。
東京オペラ・プロデュース ファンタスティックコンサート
W.A.モーツァルト作曲 オペラ「コジ・ファン・トゥッテ」ハイライト上演
2026年8月13日(木)18:30 開演予定
豊洲シビックセンターホール