2017年2月 

  

Popular ALBUM Review


「Unlikely Valentine / Ron Boustead」(ART-ROCK MUSIC)
 ロン・ボウステッドは、マーク・マーフィーの影響を受けたシンガー。1983年に初LP「First Light」を発表して、その中でチェット・ベイカー、チック・コリアやウエス・モンゴメリー等のソロをヴォ—カライズして歌って一部で注目を集めた。その後、作詞の方に力を注ぎジョージ・ベンソン、ポウリン・ウイルソン等に歌詞を提供したり、レコーディング・ミキサーとして活躍したりしていた。その間に3枚のポップなCDも作っていたが、今回、久しぶりにジャズに回帰してアルバムを発表した。ビル・カンリフとマイケル・フォアマンのテナー、フルート、ギター、トロンボーン等を使ったアレンジで彼が作詞した歌の他、チェット・ベイカーのソロをベースにした「枯葉」、ジョン・ヘンドリックスの「Along Came Betty」,64年のサーチャーズのポップ・ヒット「Love Potion Number Nine」、サイ・コールマンの「I Love My Wife」、ボブ・ドロウの「Love Came On Stealthy Fingers」等でマーク・マーフィーばりのジャジーでヒップな歌を聞かせる。カンリフが「My Funny Valentine」をベースに書いた曲に彼が詞を付けたタイトル曲が面白い。(高田敬三)


Popular ALBUM Review


「ロングブランチ/ペニーホイッスル//ロングブランチ/ペニーホイッスル」(ヴィヴィド・サウンド:VSCD-5717)
 米ウェスト・コーストのロック史における飛び切りのレア盤(1970年:AMOSレコード)がついに紙ジャケCDで復刻された。'ロングブランチ/ペニーホイッスル'はグレン・フライとJ.D.サウザーが組んだチームで、ラリー・ネクテルやライ・クーダー等の著名ミュージシャンも多数参加。2年後の1972年にはグレンがイーグルスの一員として、そしてのちイーグルスの数々の名曲作りに参画するJ.D.も同年にソロ歌手としてデビューを飾っており(共にアサイラム・レコードから)、まさに'イーグルス前夜'ともいえる重要なアルバムだ。J.D.が6曲、グレンが2曲、二人の共作が1曲。唯一のカヴァーはジェイムス・テイラーのデビュー作(1968年:Apple)の冒頭を飾った「ドント・トーク・ナウ」。'イーグルス目線'で聴くと納得出来る点も少なくない。昨年1月18日に67歳で逝去したグレン・フライの原点を探る意味でも非常に価値ある作品集。(上柴とおる)


Popular BOOK Review


「名曲・名盤のブルーノート物語」(行方均 編著、学研プラスより出版)
 最強のジャズ・レーベルと言われ、再来年には80周年を迎えるブルーノート。ごく小さなマイナー・レーベルとしてスタートしたブルーノートであるが、ひとつのレーベルがこれほどまでに長く存続しただけでなく、いまなお新しい音楽を生み出すべく進化を続けているというのは、まったく稀有な例であろう。そんな創立から現在にいたるまでの歩みを、ジャズ史を飾ってきた400枚以上のアルバムをまじえ、ふんだんに盛り込まれたエピソードとともに楽しく示してみせてくれている。編著者の行方均氏は、長らく第一線でブルーノートの現場に携わっていただけにポイントを知りつくしていて、ジャズ史の潮流がわかる読み物としても重厚な手応えを感じさせる。何度かメジャーに吸収されながらも、いつもブルーノートという形で単独にあり続け、モダン・ジャズの黄金時代だけでなく、80年代以降も多くのスター・プレイヤーを送り出すとともに、今なおジャズ・シーンを牽引しつづけていっているブルーノート。なぜブルーノートが80年近くにもわたって第一線のレーベルであり続けているのか。その長寿の秘密も解き明かしてくれる、ジャズ・ファン必携の一冊である。(岡崎 正通)


Popular CONCERT Review


「アルゼンチン・タンゴ コンサート 世界のタンゴ」 (11月11日 横浜・みなとみらいホール 小ホール)
 “リズムの王様”の異名をとるファン・ダリエンソ(ヴァイオリン、バンドリーダー)をリスペクトする日本の4人組グループ、チコス・デ・パンパの公演が行なわれた。平日の昼間の公演にもかかわらずホール内は満員。詩的でドラマティックなサウンドを存分に響かせた。曲目は「パリのカナロ」、「ジェラシー」、「エル・チョクロ」等。不滅のメロディの連続に、ぼくはすっかりいい気分になり、いまではすっかり使われなくなった“軽音楽”という言葉を思い出した。山口蘭子、菅原洋一(83歳!)のヴォーカルが曲によってフィーチャーされていたのも嬉しい。歌謡曲のヒット曲も持つ菅原だが、もともとは戦後に名声を轟かせたタンゴ・バンド、早川真平とオルケスタ・ティピカ東京出身。タンゴが沁みついているのだろう、「淡き光に」「永遠に別れを」などで依然としてみずみずしい美声を響かせた。(原田和典)


Popular CONCERT Review


「ニューヨーク・ゴスペル・ブラザーズ」(12月16日 富ヶ谷・Hakuju Hall)
 ヨーロピアン・クラシカル・ミュージックの会場というイメージの強いHakuju Hallに、アフリカン・アメリカン・ミュージックが鳴り響いた。ミュージカル俳優としても活躍するフィリップ・ボイキン(ぼくはニューヨークで彼の登場する舞台「ポーギー&ベス」を見たことがある)を中心とする4人組ユニットの公演だ。前半はいわゆる霊歌が中心。「スウィング・ロウ、スウィート・チャリオット」、「ウェイド・イン・ザ・ウォーター」などジャズやR&Bのファンにもおなじみであろうナンバーを続け、「ドライ・ボーンズ」ではデルタ・リズム・ボーイズのスタイルを再現して楽しませた。クリスマスにちなんだ選曲では「ゴー・テル・イット・オン・ザ・マウンテン」における熱のこもった歌唱が圧巻。ルイ・アームストロングの物真似や、チャビー・チェッカーの「レッツ・ツイスト・アゲイン」における踊りながらのパフォーマンスも場内を大いに沸かせ、客席通路に降りて手拍子や合唱を促すと、観客の誰もが、それに嬉しそうに応えていた。(原田和典)


Popular CONCERT Review


「ハビエル・ムグルサ」(1月13日 六番町・セルバンテス文化センター)
 スペイン・バスク生まれのシンガー・ソングライター、ハビエル・ムグルサが初来日を果たした。60年生まれの彼は子供のころからアコーディオン・コンテストで優勝を重ね、Joxe Ripiauというバンドで活動後、2000年代からソロ活動を軌道に乗せている。一部では“スペインのレナード・コーエン”という声もあり、シネイド・オコナー、ジョン・メイオールとも共演。ポール・マッカートニーが創立したリバプール芸術学校の講師をつとめたり、絵本を発表するなど、その才能は多岐にわたる。今回のステージは、キーボード奏者ミケル・アスピロースとのデュオ。演目は、最新作『Tonetti anaiak (トネッティ兄弟)』から選ばれた。ハビエルの歌唱はバスク語による、非常に柔らかで“間”を重視したもの。湿り気のあるテナー・ヴォイスに、モダン・ジャズからの影響を感じさせるミケルのコード(和音)が寄り添うように響く。16日にはジャズ・ベーシスト、クリス・ミン・ドーキーらとの共演を目黒で開催。この来日によって、ハビエルのわが国での知名度は間違いなく上昇したはずだ。(原田和典)


Popular CONCERT Review


「JAZZ@HALL Vol.2」((1月15日・渋谷文化総合センター大和田 さくらホール)
 “休日の昼間に、雰囲気の良いホールでゆったりとジャズを楽しむ”というコンセプトで始められた「JAZZ@HALL」(ジャズ・アット・ホール)。ミュージック・ペンクラブ・ジャパンも後援するコンサートの第2回目が、1月15日(日)に開かれた。すでにクラシックでは昼間のライブは一般化しているものの、やはりジャズのコンサートは夜の時間帯にクラブやホールで聴くイメージが強く、それだけに昼間にコンサートを聴いて、そのあと食事か一杯というコンセプトを打ち出しているのは逆に新鮮な印象を受ける。ステージには、いずれも現ジャズ・シーンのトップ・クラスをゆくプレイヤーと、これからのジャズを担ってゆくであろう実力派の若手が出演。おりから今年は“ジャズが録音されてから100年”(1917年2月26日、オリジナル・ディキシーランド・ジャズ・バンドが初吹き込み)という節目の年でもあって、ジャズ史を飾ってきた名曲を多くとりあげるというのが、もうひとつのコンセプトになっていた。この日のためにニューヨークから帰ってきたピアノの大林武司トリオは、ニューヨークでもっとも忙しいベーシストといわれる中村恭士と、現トップ・ドラマーのひとりであるネイト・スミスを従えたトリオで登場。やはり注目すべきサックス奏者の西口明宏もまじえて<レフト・アローン>をはじめとする名曲を演奏。これにシンガーのケイコ・リーも加わって、<アイム・ア・フール・トゥ・ウォント・ユー>など、聴きごたえあるステージが繰りひろげられていった。第2部は若手ピアニスト、栗林すみれトリオにヴァイオリンの寺井尚子が参加。<枯葉><ドナ・リー><スペイン>などのスタンダードを情熱的に演奏して会場の熱気は最高潮に。アンコールでは全員が登壇し、<この素晴らしき世界>や<明日にかける橋>のジャズ・アレンジを披露。まだ25歳の若いドラマー山田玲が今回も大活躍して、日本人ジャズの魅力を伝えきった。きちんと主張をもった演奏でありながら、どこかジャム・セッション的な楽しさとリラックスした雰囲気が生まれてゆくのが印象にのこるが、それはコンサートがしっかりと芯のとおった企画、プロデュースされたものであるからではないだろうか。「JAZZ@HALL」は、すでに第3回が今年の11月に開かれることが決まっており、次回も大いに楽しみである。(岡崎 正通)


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