2017年1月 

  

Popular ALBUM Review


「トニー・ベネット ザ・ベスト・イズ・イエット・トゥ・カム」通常盤(ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル SICP-31034)
 トニー・ベネット 90歳お誕生日おめでとう! 私は彼の80歳のお誕生日祝いコンサートに行っているが、このアルバムを聴き、以前にも増して声量の豊かさに圧倒され、全盛期は今なのではないかと感動した。あの時から10年。トニーは衰えるどころか依然として絶好調でいる。今回のイヴェントは当代きってのスター歌手たちを一堂に集め、NYのラジオ・シティ・ミュージック・ホールで2時間のTV特番として録音・録画された。(放映は12月20日)。真っ先に登場するのはトニーが今最も買っているレディ・ガガ。彼女のスタンダード・ナンバーはすでに定評通り。手慣れた表現のマイケル・ブーブレたち若手の実力者がいい導入部を作り、ビリー・ジョエルとの共演「ニューヨークの想い」では、ビリーを上回る熱唱で沸かせる。自作自演歌手ルーファス・ウェインライトが、いつもとは違う歌唱ぶりでスタンダード曲を巧みに歌うのも聞ける。80歳記念の時はトニーは3曲しか歌わず残念だったが、今回は充実した歌唱ぶりで5曲続けて歌い満足である。「霧サン」はともかく、吠えるようにプレイヤーを紹介し、アタックも力強くスウィングしながらの「フー・ケアーズ」「ザ・ベスト・イズ・イエット・トゥ・カム」「アイ・ガット・リズム」他、ジャズ・ヴォーカルの醍醐味を聴かせて大拍手となった。最後はスティーヴィー・ワンダーの「ハッピー・バースデイ」に出演者たちも加わり、お祝いムード共々、豪華なライヴを締めくくった。(鈴木道子)


Popular ALBUM Review


「NIGHT SHADE / Andrea Claburn」(Lot49 Labs,LLC)
 アンドレア・クラバーンは、10年以上のキャリアを持ちサンフランシスコをベースに活躍するシンガー、ソングライター、アレンジャー。本作は、彼女のデビュー・アルバムで自作を中心にパット・メセニーの「Bird On A Wire」やエリントンの「Echoes Of Harlem」に自ら詞を付けた「Infinite Wisdom」の他、ビル・エヴァンスの「Turn Out The Star」等器楽曲系を好んで取り上げている。スインギーなベテイ・カーターの「I Can't Help It」が出色だ。スタンダードの「After You've Gone」や「Skylark」は、独自色の強い編曲で歌う。伴奏は、マット・クラーク(p)サム・ベヴァン(b)アラン・ホール(ds)のトリオにギター、アルト、テナー、トロンボーン、トランペット、パーカッション、ヴァイオリン等を絡め、彼女自身の曲によって編成を変えたアレンジが面白い。幼児からピアノとヴァイオリンを勉強していたという彼女は、硬質で現代的感覚のクリエーティブなミュージッシャン・タイプのシンガーだ。(高田敬三)


Popular CONCERT Review


「カール・セグレム・アコースティック・カルテット」(11月19日 新宿ピットイン))
 1961年生まれ、アルバム数も約30点を誇るノルウェーのベテランが遂に来日した。エレクトリックな音楽にも意欲を示しているが、今回はアコースティック・カルテット。つまり編成はジョン・コルトレーンやデクスター・ゴードン等が残した古典的アルバムと変わることがない。だがカール・セグレムはテナー・サックスのほかにヤギの角笛を吹く。ちょっとディジリドゥーのような音色で、ときおり声を混ぜながら神秘的な響きを出す。そして曲はフォーク・タッチのものが多く、聴いていて不思議な懐かしさがこみあげてきた。「4ビートでスウィングし、奏者の順番にアドリブを回していく」というアメリカの古典モダン・ジャズとは程遠い世界だ。しかしこれが現代の北欧に住む彼らの、素直なジャズ表現なのだろう。ほとんどの部分が記譜されているようで、その世界は非常に繊細。ドラマーのヨナス・ハウデン・ショヴァーグ(元クラシック・ピアニスト)は音量を抑えに抑え、セグレムのテナーは高音域を多用してロング・トーンを響かせる。(原田和典)


Popular CONCERT Review


「リー・フィールズ」(11月22日 六本木・ビルボードライブ東京)
 待ちに待った初来日、しかも1日だけ。これこそプレミアム級のライヴだろう。ここまでディープなソウル・ミュージックを聴かせてくれる現役シンガーは彼とチャールズ・ブラッドリー(まだ日本に来てない)ぐらいではないか。69年(18歳の時)にレコード・デビューし、近年は映画『ジェームス・ブラウン 最高の魂を持つ男』で一部ヴォーカルの吹き替えも担当している。ライヴは、ファンにはおなじみのバック・バンド“ジ・エクスプレッションズ”を率いて行なわれた。バラードやミディアム・テンポ中心、とにかくコクのある歌声でじっくりと歌い上げる。こういうパフォーマンスにこそ円熟という言葉をポジティブに当てはめたくなるのだ。ニュー・アルバム『スペシャル・ナイト』からの曲がいくつも聴けたのも嬉しい。ソウルマンの一刻も早い再来日を切に願う。(原田和典)

写真:Yuma Totsuka


Popular CONCERT Review


「ピンキー・ウインターズ」(11月26日 横浜ファーアウト)
 ベテラン・ジャズ・シンガー、ピンキー・ウインターズは、フランク・シナトラのファンで、フランク・シナトラ・ソサエティ・ジャパンの招きで何度か来日している。今年も来日して7回のライヴを行った。其の中、3回の公演を鑑賞したが、その人間味溢れるステージは、素晴らしかった。今年86歳になる彼女だが、セット・リストが毎回変わっているのには流石ジャズ・シンガーと一寸驚かされた。横浜の公演は、歌伴では定評のある青木弘武(p)ジャンボ小野(b)山下暢彦(ds)のトリオをバックに「I Get A Kick Out Of You」から始まりファースト・セットで「One Note Samba」、[Don't Ever Go Away]などボサ・ノヴァも入れて10曲、セカンド・セットではシナトラで知られるクリスマス・ソング「Christmas Waltz」も交えて10曲とアンコールを2曲も歌った。シナトラが歌ったナンバーが多い選曲も素晴らしく、その心のこもった年季の入った歌の表現力、思わず手拍子を打ちたくなるスイング感にはいつもながら感動した。彼女の歌を聴いて、そのストーリー・テリングの巧みさなどシナトラから学んでいる面が多いんだなという感じを持った。(高田敬三)

写真:志保澤留里子


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