2016年12月 

  

Popular ALBUM Review


「OUT OF THE BLUE / Alyssa Allgood」(JeruJazz JJR 5 CD)
 アリサ・オールグッドは、ハード・バップが大好きで12歳の頃からジャズを歌い始めたというシカゴで活躍のまだ20代の若手シンガー。2015年に「Lady Bird」というEPを作り好評を得て、満を持して発表の本作品は、彼女の本格デビュー・アルバム。「思いがけない」という慣用句の「Out Of the Blue」とBlue Noteレーベルをひっかけたタイトルで、ハンク・モブレーの「Soul Station」の中の「Dig Dis」に彼女が詞をつけた「Watch Me Walk Away」からコルトレーンの「Moment's Notice」、ウエイン・ショーターの「Speak No Evil」、サム・リヴァースの「Beatrice」、ジョー・ヘンダーソンの「If」,ホレス・シルヴァーの「Peace」等などBlue Noteのアルバムからの名曲をスキャットも交えて達者に歌ってしまう。伴奏は、オルガンのダン・チェースを中心にクリス・マドセン(ts)ティム・フィッツジェラルド(g),マット・プラスコタ(ds)とファンキーな地元で活躍のミュージッシャンが受け持っている。デクスター・ゴードンのソロをスキャットで歌う「It's You or No One」がなかなか素晴らしい。ハード・バップの名演を「思いがけなく出現」のクールな女性の声で現代的味付けで聞かせる面白い企画の作品だ。彼女は、4曲で大先輩のアニー・ロスのように作詞の才能も見せる。(高田敬三)


Popular CONCERT Review


「アルヴァス」(10月21日 横浜・エアジン)
 一昨年、三越伊勢丹グループのクリスマス・キャンペーン・アーティストに選ばれて初来日。七色の声を持つヴォーカリストSara Marielle Gaupと、旧来のウッド・ベース観を打ち破るSteinar Raknesのデュオ・チーム、Arvvasが再びこの国を訪れた。Saraは、「ヨイク」(北欧少数民族サーミ族の伝統歌唱)の若き第一人者。その歌唱には神秘的な抑揚があり、ジャズ・ファンならばそこに脈打つスウィング感を見つけることができるだろう。Steinarは足元にたくさんのエフェクターをおき、こまめにコンピューターを操作しての熱演。へヴィ・メタルのギタリストのようなサウンドまで出してしまう。しかしこの日は会場の規模もあってか、生音の響きもしっかり聴こえてきた。後半にプレイされた「Drench My Soul」はピコ太郎の「ペンパイナッポーアッポーペン」を思わせる調子を持つ曲で、聴かせたら洋楽になじみのないひとたちや子供も大喜びするのではないかと思う。(原田和典)


Popular CONCERT Review


「King of Dixie 薗田憲一とデキシーキングス コンサート 〜結成56周年記念〜」(11月1日 銀座・博品館劇場)
 立川談志も彼らの音楽をこよなく愛したという。1960年11月に結成された名門、薗田憲一とデキシーキングスが結成56周年を祝うコンサートを開催した。創設者でトロンボーン奏者の薗田憲一が亡くなって今年で10年になるが、現在は息子の薗田勉慶があとをつぐ。75年以来このバンドで演奏し続けるドラマーの楠堂浩己の打ち出す歯切れのよいリズムにのって、全メンバーがソロにアンサンブルに快演を届ける。「世界は日の出を待っている」「タイガー・ラグ」などの大定番、童謡のディキシー化に加え、モンキーズの「デイドリーム・ビリーヴァー」も見事、ディキシーランド・ジャズ調に衣替えされた。勉慶はベル(朝顔)を外したプレイ、足でのスライド操作などでショウマンぶりも発揮。楠堂もスティックを空に放り投げたり、ステージ前面に出て自作のウォッシュボードで熱演したりと、目と耳の両方で思いっきり楽しませてくれた。終演後はロビーに出て、お見送りのプレイを披露。このサービス精神がうれしい。60周年、70周年と、ディキシーの炎を燃やし続けてほしい!(原田和典)


Popular INFORMATION


「ケルティック能『鷹姫』」(Celtic Noh ”At the Hawk's Well”)
 日本の伝統芸能“能”と、アイルランドのケルティック・コーラスとのコラボレーションによるケルティック能「鷹姫」が来年2月に上演されることになった。原作は、アイルランドを代表する詩人で劇作家のイェイツが“能”から大きな影響を受けて書いた作品「鷹の井戸」。これを基に50年前、新作能「鷹姫」が生まれ、以来、能の演目としては、外国人の原作で今も演じられている唯一の作品となっている。今回の新たな演出は斬新な試みではあるが、幻想的な響きを持つケルトの歌声と幽玄の世界は予想以上にしっくり溶け込み、更に奥行きを与えてくれるはず。主演は人間国宝の梅若玄祥、ケルティック・コーラスを担当するのはアイルランドを代表するグループのアヌーナ。ストーリーは寓話とも呼べるもので、そこに込められた意味は哲学的な奥深さを持つ故、様々な解釈がくみ取れよう。勿論、予備知識なしに幽玄の世界にどっぷりつかってみるだけでも新鮮な感覚を味わえるはずで、なかなか興味深い企画だ。 (YT)

* 2017年2月16日 Bunkamuraオーチャードホール
公演公式サイト:http://takahime.jp
お問い合せ:プランクトン 03-3498-2881
http://plankton.co.jp


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