2016年12月 

  

Audio Blu-ray Disc Review

「王様と私(製作60周年記念版)」(20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン)
 あまりに有名なシネマミュージカルゆえ内容は省略。凋密さと透明感を湛えた映像が復活した。色彩設計は本作の見所、王国の豪奢と落日をアンバー系、国王の神秘性と孤独をシアン系がそれぞれ象徴。当時はデジタルの色彩調整はなかったからセットと衣装、照明による演色で表現し切ったのだ。
 意外にも今回が初BD化。宮廷で上演の劇中劇(「アンクルトムの小屋」)のダークでエキセントリックな美も含めハイビジョンの広色域で全編のたたずまいがそっくり再現された。パッケージ決定版といっていい。
 Shall We Dance? 以外にこれといったヒットチューンがなく、この一曲だけで愛され続ける希有なミュージカル。満を持してのBD化だけあってS/N、分解能共に配慮され最良の音質が感動を盛り上げる。
 音声はDTS-HDマスターオーディオ。本作は4トラック収録で70ミリ公開時に6トラックになったが、本ソフトはオリジナルに準拠し構成はLCRとサラウンド(モノ)の4.0CH。ミュージカルシーンはフロントセクションをほぼ均等に割り付け、オーケストラは帯域、分解能も十分で重厚かつ絢爛に響き渡る。
(大橋伸太郎

Audio Blu-ray Disc Review

「ヘイル,シーザー!」(NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン)
 コーエン兄弟監督の近作で1950年代ハリウッドメジャースタジオを舞台に、撮影現場から突然失踪したスターをめぐる陰謀と周辺の人間模様を数本の劇中劇を交えオールスターキャストでコミカルかつシニカルに描く「映画愛」映画。米映画は舞台が設定された時代の映画のルックをしばしば再現(引用)するが、ミュージカルシーン(CH11)、西部劇シーン(CH02)は俳優のなり切り演技の甲斐もあって50年代のジャンルの佇まいを完璧に再現。ノイズ感と柔らかいディテール表現(35mmフィルム撮影)で名作映画のワンシーンさながらの完成度だ。
 整音とサラウンド(サウンドデザイン)も非常に優れている。セリフはセンターチャンネルから動かさないのが往年のハリウッド映画の鉄則だったが、ミュージカルシーンのセリフのセンターからの左右パンが効果的で楽しい。ミュージカルシーンのタップダンスの靴音や小道具のSEの移動感、質感を伝える解像感と濃やかさは秀逸の一言。サラウンド再生システムの試金石。
(大橋伸太郎