2016年9月 

  

Popular ALBUM Review


「ボビイ・ボイル・シングス』(ミューザック MZCF 1336)
 ボビイ・ボイルは、60年代の後半にロスアンジェルス近郊のサン・フェルナンド・ヴァリ—をベースにピアノ・ラウンジで活躍していたピアノの弾き語りシンガー。当時のコンテンポラリー・ナンバーを心地よいソフトな語り口で歌い、耳さわりの良い歌を聞かせるシンガーだ。彼女は、「A Day In The Life」と本アルバムの2枚のLPを発表していて、それらは、コレクターズ・アイテムになっていたが、今回、日本でその2枚が同時にCD化された。本アルバムの方は、世界初CD化ということになる。ジョージ・ハリソンの「Something」、キャロル・キングの「No Easy Way Down」、バカラックの「I'll Never Fall In Love Again」、ルグランの「Windmills of Your Mind」等8曲をエレキ・ギターのジミー・スチュア—ト、ベースのクリス・クラークとクレジットは、無いがドラムのカルテットに所によりオルガンか弦風の音も入るメンバーでソフト・ロック調のアレンジの懐かしみを覚えさせる歌を聞かせる魅力的なアルバム。中でも「Something」が特に印象に残る。彼女は、ヴォーカル、ピアノ、ヴィブラフォンとクレジットされているが、ヴァイブの音は、聞こえない。(高田敬三)


Popular ALBUM Review


「バーブラ・ストライサンド アンコール」(ソニー・レコーズSICP30959)
 50年以上にわたり女性歌手の頂点に君臨するバーブラ・ストライサンドは、85年に原点に立ち戻って『追憶のブロードウェイ』を、93年には『バック・トゥ・ブロードウェイ』をリリースし、ここに3枚目のミュージカル・ナンバー・アルバムを発表した。それも今回は舞台・映画界を代表する10人のスターたちとのデュエット集だ。舞台を直接見られない日本では、馴染みの薄い作品や曲も少なくないが、曲のうまみと共にバーブラ達の芝居のうまさで、名曲集とは違った臨場感のある面白いアルバムとなっている。14曲中の5曲がご贔屓S.ソンドハイム作品であることも彼女らしい。アンソニー・ニューリーの「フー・キャン・アイ・ターン・トゥ」は原作者の味わいとも相まって、孤独感から未来へ向かう演劇的な展開が素晴らしい。『アニーよ銃をとれ』の「あなたに出来ることなら何でも」のメリッサ・マッカーシーとの競い合いも面白いし、俳優としてのうまさが光るヒュー・ジャックマンとのせりふ回しが楽しい曲ほか、バーブラと仲間たちの面目躍如の好盤だ。(鈴木道子)


Popular CONCERT Review


「マリーナ・ショウ ラスト・ツアー・イン・ジャパン」(ビルボード・ライヴ 7月29日ファースト・ステージ)
 マリーナ・ショウの恒例のビルボード・ライヴ、2009年から続けてきたが、今回が最後の日本公演となる、というので超満員の盛況だ。1975年のブルーノートの名作アルバム「Who Is This Bitch, Anyway?」で共演の不同のメンバー、チャック・レイニ—(b)デヴィッド・T・ウォ—カ—(g)ラリー・ナッシュ(keyboards)ハ—ヴィー・メイソン(ds)と一緒に杖を持ってステージにあがった銀髪のマリーナは、中央の椅子にどっかりと座り、べナ—ド・アイナーのバラード「You Been Away Too Long」をソウルフルに歌い上げる。「Until I Met You」で知られるベイシーの「Corner Pocket」から、バーで云いよる男とそれを上手くかわす女といったシチュエーションでハービー・メイソンとのユーモラスなダイアロ—グから入って行く「Street Walking Woman」を効果的な照明も使ってドラマティックに歌う。ロバータ・フラッグのヒット・ナンバー「Feel Like Making Love」は、ラリーのエレピのイントロから拍手が起こり、デヴィッドのギター・ソロで手拍子となって大いに盛り上がる。楽しげに歌う愛の歌「Rose Marie」、メロディを崩して、彼女独自の解釈で立ち上がって歌った「What A Wonderful World」、40年前、初来日で前座を務めさせてもらったサミー・デヴィス・ジュニアの話、キャノンボール・アダレイの想い出から「Mercy Mercy Mercy」、ギター、ベース、ピアノのソロもフンダンに取り入れた「B flat Blues」からアンコールを兼ねた「Loving You Was Like A Party」まで全10曲を熱唱、熱演のステージだったが、歳には勝てないということか、以前のような迫力は、感じられず、これが最後という寂しさを感じた。
(高田敬三)

写真:Masanori Naruse


Popular FILM Review



「イエスタデイ」(10月1日、新宿シネマカリテほか全国順次公開)
 原題は「Beatles」。ノルウェーのベストセラー小説の映画化で、まさにビートルズ旋風が吹き荒れた1960年代を舞台に、彼等に憧れてバンドを組んだ4人の高校生の音楽と恋の物語。ファッションから社会情勢まで、当時のノスタルジックな香りを漂わせながら、ビートルズという絆につながれた少年達のまっすぐな心はほろ苦い恋に翻弄されたり、家庭のトラブルに悩まされたりと、様々な壁にぶつかりながらも成長を遂げていく。同じような体験をした人達はノルウェーに限らず、日本を含めた世界中にいたはずだが、ビートルズ世代だけでなく、誰もが共感できる甘酸っぱい青春音楽映画でもあり、気軽に楽しめる作品でもある。勿論、劇中に流れるビートルズ・ナンバーはこの映画の大事な彩りで、オーディションで選ばれたという4人の素朴な演技も瑞々しい存在感を放っている。個人的にはレナード・コーエンの「スザンヌ」が使われていたのも嬉しい発見で、意外な選曲にも思えるが、これが映像とはまっていてじんときたことにも触れておこう。尚、この映画のサウンドトラック盤「イエスタデイ」のCD盤が9月7日、LP盤が10月5日にそれぞれディスクユニオンより発売される。(滝上よう子)

写真:2014 Storm Rosenberg. All rights reserved. Exclusively licensed to TAMT Co., Ltd. for Japan Distributed by MAXAM INC.


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