2016年8月 

  

Audio Download File Music Review
日本の素晴らしい音楽・歌謡曲を今、高音質ハイレゾで聴こうじゃないか

今歌謡曲が見直されつつある。というかこの二十年間不当に軽んじられてきたといっていい。その背景に、歌謡曲に再演性がなかったことがある。歌謡曲はレコード会社を中心にした日本独自のシステムで生み出されて来た。作曲家、作詞家、編曲者、ディレクターのチームが専属歌手の声域、声質、キャラクターに合わせて似合いの服を仕立てるように一曲一曲を作り出した。だから歌謡曲イコール「あの年○○が歌ってヒットした××という曲」で、別の歌手が歌うと何だか代演を聴くような聖域を侵したような違和感があった。歌謡曲にスタンダードナンバーがごく稀にしか生まれなかったのはそのため。いい曲が星の数ほどあるのに埋もれているなんてもったいない…。

反面、歌手の個性や魅力が曲と溶合い凝縮されているのが歌謡曲だ。すべてがオリジナルの特注品。反動として現れたニューミュージックやJ-popが失ってしまったプロフェッショナルな音楽の仕事であることも魅力。昭和から平成までバックのミュージシャンの演奏の技術水準は世界有数だ。

そして職人的な録音技術。アナログ録音は収録後のごまかしがきかない世界だ。それを知らしめてくれたのが美空ひばりの名録音アーカイブだ。筆者のNASにも代表曲がストレージされていてネットワークプレーヤーで再生し耳を澄ますことがしばしば。音楽再生の手段が増え高音質化で歌謡曲のかつては聞き漏らしていた美味しい部分が今ならくっきり聴こえる。歌謡曲の偉大なストックを聴こうじゃないか。そんな機運が今盛り上がっているのだ。

音楽配信サイトGIGA MUSIC(フェイス・ワンダーワークス)が歌謡曲の名門にしてメッカ、日本コロムビアのキラ星のごときアーティストの音源のダウンロードを開始した。しかも、ハイレゾ。CDで今一つもどかしかった歌声や演奏の魅力をとことん味わうために21世紀になって現れた強力な武器といえるだろう。昭和の音楽は現代の無味乾燥なデジタル多重録音と違い、歌手とオーケストラ(バンド)が入念なリハーサルを経てスタジオで一緒に演奏した。そこには歌と演奏が一体になったヒューマンな音楽がある。当時のシングルレコードはいうに及ばずCDになっても遠かった一期一会の音楽がハイレゾならスタジオの空気ごとまるでその場に居合わせているかのように生々しい。歌謡曲が純粋な音楽としての魅力をいまようやく現そうとしている。

これからGIGA MUSICが配信開始するのは日本コロムビアの看板歌手のエヴァーグリーンな代表作。ニューミュージックまでカバーするフィールドは幅広く、平山みき、アン・ルイス、いしだあゆみ、庄野真代、ヒデとロザンナと歌声が心にしみついたワンアンドオンリーな個性派揃いが続く。それぞれの楽曲紹介はアルバムタイトル下のURLをクリックしてほしい。アルバム毎にCD(44.1kHz/16bit)から音質がどう変化したか、詳細に比較した。ハイレゾ時代のいまこそ歌謡曲を聴こう!(大橋伸太郎


「The Best of Miki Hirayama平山三紀ベスト・ヒット・アルバム」平山みき
(FLAC 96KHz/24bit)

http://gmsc.giga.co.jp/jsp/html.jsp?tmp=hifi/05&cmn=Y

LPとして製作され2007年に5曲を追加してCD発売された日本コロムビア時代のコンピュレーションアルバム。平山みき(三紀から改名)をユニークな声と日本人離れしたリズム感の和製R&B歌手、とだけ思ってはいけない。歌う本能を持った数少ない天性の歌手の一人。歌謡曲歌手からアルバムアーティスト、パフォーマーへ進化を遂げ現在も現役バリバリだ。天衣無縫のフレージング、明快なディクションが生む歌詞の世界の伝達力。ハイレゾの高音質なら、何故錚々たるクリエイターがみな彼女に「恋」をしてしまうのか分かるのだ。平山みきのワンアンドオンリーな魅力が凝縮した一枚。
「ドーナツ盤メモリー ヒデとロザンナ」ヒデとロザンナ
(FLAC 96KHz/24bit)

http://gmsc.giga.co.jp/jsp/html.jsp?tmp=hifi/04&cmn=Y#features

国籍を越えた庶民的な若者カップルのコンビが物珍しいだけの一発屋に終わらなかったのは、二人が本物の恋人同士だったから。運命の出会いと恋の初心を歌の世界に昇華させた歌謡曲史上稀な「恋物語」がハイレゾの高解像度とS/Nのよさでベールを取り去ったようにフレッシュに甦る。ユニゾン、デュエット、ソロパート、恋人同士の心の距離とすれ違いを微妙な定位で表現したことがハイレゾで伝わり日本コロムビアの録音陣の職人仕事に脱帽。
「me-mySELF-ann-i “refreshed” ~ミー・マイセルフ・アンアイ・リフレッシュド」アン・ルイス(FLAC 96KHz/24it)

http://gmsc.giga.co.jp/jsp/html.jsp?tmp=hifi/03&cmn=Y#features

アン・ルイスがロック歌謡に転じた後の代表曲11曲が網羅されているがベスト盤でなく、全て新編曲を与えられた2004年の新録だ。倍音が何オクターブも乗ったような明るく艶やかな美声と華やかな美貌を武器に、アイドルから歌謡ロックの女王へ進化したディーバがこだわりの新アレンジで歌う代表曲集。リミックス? と思う程歌声の定位やバックの楽器演奏が改善、ロックアルバムとしても聴き応えがある。
「いしだあゆみ・せれくしょん〜シングルヒッツ&モア」いしだあゆみ
(FLAC 96KHz/24bit)

http://gmsc.giga.co.jp/jsp/html.jsp?tmp=hifi/02&cmn=Y#features

ノンビブラートで一見ぶっきらぼうな唄い口は、シャンソンの率直で歯切れのいいディクションを取り入れたのではないか。小股の切れ上がったクールモダンに演歌のこぶしをまぶしてタメを効かせたフレージング。一度聴いたら忘れられない都会の歌声だ。第一集(Disc1)と第二集(Disc2)に分かれ、第一集に「ブルー・ライト・ヨコハマ」等の代表曲、第二集は「シェルブールの雨傘」「ある愛の詩」等ポピュラー曲のカバーが収録されている。CDと比べた時の音質の改善に目を(耳を)みはる。1960年代末から70年代の録音でリマスタ&ハイレゾ改善効果はその分大きい。
「The Very Best of MAYO SHONO」庄野真代
(FLAC 96KHz/24bit)

http://gmsc.giga.co.jp/jsp/html.jsp?tmp=hifi/01&cmn=Y#features

代表的な十五曲を選んだコンピュレートアルバム。CDは1997年に発売された。自由奔放で男のエゴや旧弊な社会通念に縛られないコスモポリタンな女性像という点でどの曲もぶれがない。「世界観」を歌の世界に持った最初の女性歌手かも。それを音楽に昇華するには歌手としての表現力が必要だ。庄野真代の声は明るい。軽やかに舞い上がっていくのが快感。地声からファルセットへポジションチェンジする時に声量が落ちないことはプロ歌手の条件。その点でも小気味よくプロの仕事を決める。こうした資質が時代の待ち望んだ軽やかに飛翔する歌の世界を支えた。今こそハイレゾの解像力で庄野の声の魅力に耳を澄ませたい。ハイレゾダウンロード配信シリーズの第一弾に選ばれたことも頷ける。