2016年8月 

  

Popular ALBUM Review


「イエスタデイ・ワンス・モア/ニッキ・パロット』(ヴィーナス VHCD-1204)
 ダブル・ベースを弾きながら歌う美人人気歌手ニッキ・パロットは、今迄数多くのコンセプト・アルバムを発表してきているが、今回は、70年代を風靡したカーペンターズのソング・ブック。リチャード・カーペンター作のタイトルの曲を始め、「Rainy Days And Mondays」、「Close To You」、「Please Mr. Postman」、「Top Of The World」等カーペンターズのヒット曲14曲を今回は、テナー・サックスも吹くクラリネットのケン・ぺプロウスキ—のコプロデュ—スで、何時ものジョン・ディ・マルチ—ノ(p)そしてフランク・ヴィニョラ(g)アルヴィン・アトキンス(ds)と共にジャズとして快調に歌い演奏する。心地よく親しみ易いカーペンターズの歌は、ニッキのスタイルにぴたりと決まっている。編曲者の表記はないが、ケン・ぺプロウスキ—が良い味を出している。ニッキは、丁度、日本ツアーを終わったところだが、共演メンバーの爲かこの最新作からは、あまり歌わなかったが、ベースを弾きながらソロで入るスインギ—な「Sing」は、ライヴでも歌っていた。彼女は、見ても聞いても魅力的で楽しいアーティストだ。(高田敬三)


Popular ALBUM Review


「二つの魂 広田智之 vs トモ・ヒロタ』(オクタヴィア・レコード OVCC00122)
 広田智之は日本を代表するオーボエ奏者として内外で活躍し、日本フィル初め特にオーケストラの首席奏者として著名だが、今回画期的な2枚組アルバムを発表した。1枚目はクラシック奏者の実力を遺憾なく発揮。「冬の旅」「水車小屋の娘」「詩人の恋」などシューベルトの代表的歌曲集に取り組み、歌詞を熟知した演奏ぶりは、曲の表現だけでなく音色を変えての表現で聴きごたえがある。こちらは本職だから当然かもしれないが、2枚目はがらりと変わってポピュラー、ロックへの挑戦。広田のオーボエの美しく甘い音色を最大限に生かした選曲、大久保治信の編曲で、一瞬楽器は違ってもケニー・ジーかなと思うほど酔わせてしまう。「セイリング」はスペイシーなボレロ調。甘い哀愁にみちた「ア・ソング・フォー・ユー」。シンプルなピアノ伴奏が似合う「人間の証明」。「明日に架ける橋」は広田のブレスの長さが反って原曲の雄大さを平面的にした感があったが美しい。 最後のシューベルトの「魔王」はプログレ調の力作だが、酔わせて終わった方がよかった? プロデューサーは当会員の上田和秀。(鈴木道子)


Popular ALBUM Review


「Sunday Night At The Vanguard / Fred Hersch』(Palmetto Records PM2183)
 定期的な出演とレコーディングを通じて、ハーシュにとって最上のジャズ・クラブとファンに知られるニューヨーク“ヴィレッジ・ヴァンガード”でのトリオ・ライヴ。ソロ作『ロジャース&ハマースタイン』の感動が編成を変えた形で甦るオープニングの「コックアイド・オプティミスト」で、「3人が音楽に“完全集中した”とわかった」と本人が語った通り、当夜が特別な雰囲気に包まれていたことが明らかになる。テンポ・ルバートで漂うピアノに魅せられる自作曲「サーペンティン」、原曲よりもスローなバラードで、旋律の美しさを際立たせたビートルズの「フォー・ノー・ワン」、右手と左手のメロディ・ラインが絶妙に交錯する故ケニー・ホイーラーの「エヴリバディズ・ソング・バット・マイ・オウン」、ジミー・ロウルズの名曲を深く掘り下げる「ザ・ピーコックス」。じんわりと胸に迫るアンコールの定番「ヴァレンタイン」まで、ハーシュの魅力が詰まった新たな代表作だ。(杉田宏樹)


Popular CONCERT Review


「ダイアン・シューア」(6月27日、丸の内コットン・クラブ、ファースト・ステージ)
 毎年のように来日しているダイアン・シューアは、この所、毎回、テナー・サックス・プレイヤーを伴っている。前々回は、ハリー・アレン、前回は、ジョエル・ファーラム、そして今回は、ザ・ハ—パー・ブラザース、ウィントン・マルサリス、べティ・カ—ターのバンドで活躍したドン・ブレ—デンだ。他のメンバーも変わってロジャー・ハインズ(b)ケンダル・ケイ(ds)いう布陣だった。昨年と同じように彼女のメントール、シナトラとスタン・ゲッツに捧げた直近のアルバム「I Remember You」からの「S'Wonderful」、「Nice'n Easy」から入り、同アルバムからの歌を中心に歌う。ドンのフルートをバックにマッコイ・タイナーの「You Taught My Heart To Sing」を3オクターブの伸びのある声で快唱し、コルトレーンの「Love Supreme」やレイ・ブラウンの「Gravy Waltz」等今回は、器楽曲も積極的に取り上げ、背中の後に位置した伴奏陣と言葉を交わしながら歌い進める。明確なディクションでシナトラ調に物語るバラードからスキャットも交えてエネルギ—全開で歌い上げるジャズ・ナンバー、正統派のシンガーの彼女の素直な心暖まるステージだ。舞台を下りたり上がったりでは、マネジャーの手を借りなければならないので「これはアンコールの代わりです。」と最後は、前回も歌っていた「For Once In My Life」を出だしで呼吸が合わずやり直しをしたしりながら歌い、全10曲を歌った。静かな聴衆だったせいか聴衆の反応に敏感な彼女なので、今一つ盛り上がりに欠けるステージでもあった。(高田敬三)

写真:米田泰久


Popular CONCERT Review


「カメラータ・ド・ローザンヌ&若林顕」(7月7日 東京文化会館 小ホール)
 多くのファンが待ち焦がれた世界的ヴァイオリニスト ピエール・アモイヤル率いるカメラータ・ド・ローザンヌの初来日公演は、デヴィッチ編曲による「ブラームス:スケルツォ ハ短調」から、鉄壁のアンサンブルを縦横無尽に聴かせる。続く「モーツァルト:アイネ・クライネ・ナハトモジーク ト長調」でも同様に、室内オーケストラ(バンド)としてのバランスの良さに加え、各人の卓越したテクニックも披露する。このバンドには、独特のグルーヴが感じられる。繊細なヴァイオリンとそれに厚みを加えるヴィオラ、グルーヴの最大の貢献チェロ、そして核となるコントラバスが全体をまとめる。この完全無欠のアンサンブルに、日本が世界に誇るピアニスト若林顕が挑む。強烈なスパイスは、元のまとまった味を壊すのではなく、より一層深い味わいを引き出す。だから、「ショパン:ピアノ協奏曲第1番 ホ短調」は、稀にみる美しさと気品に溢れた演奏となる。永年演奏を共にした同志の様なそんな感覚を残したまま、若林の演奏は終わった。再度カメラータ・ド・ローザンヌに戻り、「チャイコフスキー:弦楽セレナード ハ長調」の美しい旋律をものの見事に表現した。カメラータ・ド・ローザンヌは、人種・性別・年齢全てを越えた美しいハーモニー、これこそが音楽の真骨頂なのだと教えてくれた。プログラムも良く考えられていて、普段クラシックを余り聴かないという方にも充分に楽しんで頂ける内容だった。(上田和秀)


Popular INFORMATION


「YES」
 昨年6月にMr. YESとも言うべきクリス・スクワイア(B)が亡くなり、もう二度とYESのライヴを経験する事はないだろうと思っていたが、新生YESとして2年振りとなる来日公演が決定した。それもアルバム『海洋地形学の物語』から「神の啓示」「儀式」という難しさの頂点を極めた作品の完全再現と「イエスソングス」からのセレクションとなる特別公演なのだ。新生YESのメンバーは、スティーヴ・ハウ(G)、アラン・ホワイト(Dr)、ジェフ・ダウンズ(Key)、ジョン・デイヴィソン(Vo)、ビリー・シャーウッド(B)という布陣だ。今回の来日公演は、プログレッシヴ・ロック・ファンにとって、YESが完全復活出来るのかどうか、歴史の証人として見定める貴重なライヴとなる。

*11月21、22日 東京Bunkamuraオーチャードホール
*11月 24日 大阪 オリックス劇場
*11月25日 名古屋 Zepp Nagoya
*11月28日、29日 東京 Bunkamuraオーチャードホール

お問い合せ:ウドー音楽事務所 03-3402-5999
http://udo.jp/


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