2015年12月 

  

Popular ALBUM Review


「カス・カウンティ/ドン・ヘンリー」(ユニバーサルミュージック/UICC-10025)
 ドン・ヘンリーのソロ・アルバムとしては前作「Insight Job」以来15年ぶりのことになる。イーグルスのオリジナル・メンバーとしての看板はいつもつきまとうことになるが、「やっと自分のやりたい音楽ができた」と自身が語るように、原点に回帰したような実にのびのびとした味わい深い作品に仕上がっている。共同プロデューサーにスタン・リンチ(トム・ペティ&ハートブレイカーズの元ドラマー)を迎え収録曲のほとんどはドン・ヘンリーとスタン・リンチの共作だ。マール・ハガード、ドリー・パートン、ヴィンス・ギル、マルチナ・マクブライド、アリソン・クラウスなどカントリー界の人気スターたちがゲスト参加。オープニング・チューンではミック・ジャガーのブルース・ハープがソフトに彩を添える。マルチ楽器奏者ミロ・ディーリングのペダル・スチールが全体にわたってこの作品の雰囲気を作り出しているようだ。録音はナッシュヴィルとダラス。タイトルのカス・カウンティはテキサス州にあるドン・ヘンリーの生まれ故郷。(三塚 博)


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「プレイ・フォー・ピース/守屋純子オーケストラ」(スパイス・オブ・ライフ/SOLJP0014)
 「ポインツ・オブ・ディパーチャー/守屋純子オーケストラ」が2005年(第18回)のミュージック・ペンクラブ音楽賞で録音録画賞を受賞して10年。日本を拠点にアメリカ、オーストラリア、ロシアと海外にその活動範囲を広げている守屋純子の新作が登場した。通算8枚目のリーダー作。実力派ミュージシャン16人に守屋を加えたビッグバンド編成による繊細で迫力ある演奏は日本を代表するオーケストラといってよいだろう。最初の5曲は彼女の書き下ろしジャズ組曲、徳川家康公「厭離穢土、欣求浄土(おんりえど、ごんぐじょうど)」。家康公顕彰400周年記念事業として、家康公生誕の地、岡崎市から委嘱を受けたものだ。コンポーザーとしての高い力量を示す出来だ。ほかに「この素晴らしき世界」「バイ・バイ・ブラックバード」など全9曲。それぞれの楽曲でフィーチャーされるソロイストたちの高い技量と守屋の編曲が冴える。(三塚 博)


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「アローン・トゥゲザー / キャロル・ウエルスマン」(Muzak MZCF-1324 fab.)
 カナダ出身、ロス在住のピアノ弾き語りシンガー、キャロル・ウエルスマンは、祖父がトロント・シンフォニーの創設者と云う血筋の音楽一家の出身だ。彼女の通算11作目の本アルバムは、コーリー・アレンのプロデュースによる初のニューヨーク録音でウォーレス・ルーニー(tp)ルーファス・リード(b)ルイス・ナッシュ(ds)ジェイ・アッゾリーナ(g)スティーヴン・クルーン(per)という精鋭に囲まれての作品だ。アカペラで入る「Alone Together」をはじめ「It Might As Well Be Spring」,「Day By Day」,「My Ship」等のスタンダード・ナンバーを彼女らしいスタイリッシュなアレンジで歌い、チャーリー・パーカーの「Oh,Lady、Be Good」のサックスのソロにエディー・ジェファーソンが作詞した「Disappointed」はアニー・ロスを想わせる達者なヴォーカリーズで聞かせたりする。ジョー・デリーズの「The Blues Are Out Of Town」やマッコイ・タイナーの「You Taught My Heart To Sing」の選曲にも彼女のジャズ・ルートを探る意気込みが感じられる。彼女のピアノも冴えていて秀逸な作品だが、この素晴らしいメンバーに囲まれてもう少し冒険をしても良かったかなという思いも残る。日本盤のボーナス曲付。(高田敬三)


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「Songs Of Hope / Karolina Naziemiec」(Rhombus Records RHO 7129)
 カロリーナは、ポーランド出身、ロス在住のクラシックのヴィオラ、ヴァイオリン奏者、数多くのオーケストラで活躍、ショパンズ・レディーズ・オーケストラでは日本ツアーも行っている。そんな彼女だがジャズ・シンガーとしてのキャリアも積んでいて2008年に初アルバムを録音、今回、2作目を発表した。本作は、戦後70年となる今年の復員軍人記念日とポーランドの戦勝記念日を機会に世界大戦の戦没者を悼んで、「The White Cliffs Of Dover」、「I'll Never Smile Again」、「We'll Meet Again」等、戦時のつらい別れを歌った歌等を中心に愛と平和への願いを込めて歌う作品。ボブ・シェパード(sax)アラン・キャプラン(tb)等のソロも入る控え目な伴奏で、カロリーナは、優しい語り口で歌の内容を語り聞かせるような調子で歌っている。母の想い出として歌うジャック・ブレルの「If You Go Away」は、英語とフランス語で、「枝垂れ柳のざわめき」は、ポーランド語で自らヴィオラを弾きながら歌っている。味いのある作品だ。(高田敬三)


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「カイリー・クリスマス/カイリー・ミノーグ」(ワーナーミュージック・ジャパン:WPCR-17047)
 楽しい充実作♪日本盤は全16曲でうち6曲がオリジナル・ソング。カイリー自身が曲作りに加わった作品もある。1960年代のガール・グループ風の9曲目「ホワイト・ディセンバー」や妹ダニー・ミノーグとの姉妹デュオで歌われる1970年代のディスコ・ソウルみたいな15曲目「100ディグリーズ」は悔しいけれど何べんも聴いてしまった♪カヴァーがこれまたタダものではない。イギー・ポップと歌う4曲目「クリスマス・ラッピング」は米男女混成グループ、ウェイトレス(1982年:英45位)、英コメディアンのジェームス・ゴードンと歌う5曲目「オンリー・ユー」はヤズー(1982年:英2位)、10曲目「2000マイルズ」はプリテンダーズ(1983年:英15位)の持ち歌で、スタンダード曲「サンタが街にやってくる」(2曲目)では何とフランク・シナトラとデュエット!マイケル・ブーブレのクリスマス盤と並ぶ近年の名盤(愛聴盤?)になりそうな内容の良さ♪(上柴とおる)


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「フォーエヴァーグリーン/MIKKO」(FLY HIGH RECORDS:VSCF-1758)
 わかる人にはもう説明の要なし。とりわけ'ロン・バケ'あたりの大瀧詠一や竹内まりや(独身時代)の楽曲を愛するファンにとっては胸キュンの連続かも。既聴感のある作品のポップさにつられて全14曲、一気に♪ボサノバやカントリー・ポップ調もある。クセがなく、ちょっぴり甘さも感じさせる歌唱はCMじゃないが'サラリとした梅酒'みたいなさわやかさ♪決して派手な作りではないのに全体がキラキラとしている。「虹色の想い出」「ドリ−ミング・ガール」「ひと夏のカラーガール」「二人のドライブ」などタイトルを目にするだけでも雰囲気が伝わりそう。バディ・ホリーの「Words Of Love」以外はすべてMIKKO(ミッコ:山口県周南市出身)が作詞作曲を手掛けている。
(上柴とおる)


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「サン・サーンス:ヴァイオリン・ソナタ 第1番 フランス・ヴァイオリン作品集 / 小林美樹」( オクタヴィア・レコード / OVCL-00579)
 現在最も注目されている実力派ヴァイオリニスト小林美樹の最新アルバム『サン・サーンス:ヴァイオリン・ソナタ 第1番 フランス・ヴァイオリン作品集』は、19世紀半ばから20世紀前半に活躍したフランスの作曲家達によるヴァイオリン作品集である。若くして既に3枚目のアルバムを作成している事からも彼女の実力と期待度が理解されるが、この作品ではテクニックの素晴らしさだけでなく、感情の表現やヴァイオリンの歌わせ方が、達人の域に達している事が分かる。特にサン・サーンス「ヴァイオリン・ソナタ 第1番 ニ短調」、ショーソン「詩曲」、ラヴェル「ツィガーヌ」では、1音たりとも聴き逃せない程の迫力と深みを感じさせる。見逃してならないのは、小林と同様に、大注目の若きピアニスト田村響の存在だ。彼の多彩で美しく流れる演奏は、伴奏と言う域を超えて本人のソロ・アルバムの様な存在感を表現している。しかし、決してお互いが反発しあうものでも良さを消し合うのでもなく、高みを目指す共同体の様に響き合うのだ。全曲聴き終えて、「若いのに上手いなぁ」と叫びたくなる、そんな2015年のいや21世紀の名盤である。
(上田 和秀)


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TAKUYA TYCONIST ULTIMATE LIVE(10月8日 下北沢・北沢タウンホール)
 話題の和太鼓奏者、“タイコニスト”ことTAKUYAがワンマン・ライヴを行なった。彼は林英哲率いる“英哲風雲の会”出身。そのハイ・テクニックは音速にもたとえられている。共演者はアルバム『TYCONIST』のプロデュースを務めたホッピー神山(キーボード)を筆頭に、鬼怒無月(ギター)、ナスノミツル(ベース)、斎藤ネコ(ヴァイオリン)、川村葵山(尺八)という錚々たる顔ぶれ。TAKUYAは踊るようなアクションで大小さまざまな太鼓を叩き、さらに甘い声で歌も歌った。バックが彼の引き立て役に徹していた気もするが(即興の達人が揃っているのだから、アプローチによっては手に汗握る展開もできたはずだ)、CDの世界をスマートにライヴ・ステージの場に持ち込もうというコンセプトだったのかもしれない。(原田和典)


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いまも輝く昭和のスタンダード・ソングス〜テレビ番組ではなかなか聞けない上質のポップスを!〜「黄昏のビギン」の物語(10月11日 水道橋・文京シビックホール 大ホール)
 表題通りのコンサートであった。構成・演出はテレビの草創期にTBSに入社し、その後は渡辺プロダクションでも活躍した砂田実(1931年生まれ)。司会はTBSのアナウンサーとして長く親しまれた鈴木治彦(1929年生まれ)が務めた。前半は水夏希、彩吹真央など宝塚卒業生による歌唱が中心。途中、スクリーンには彼女たちの大先輩である越路吹雪の「愛の讃歌」も映された(70年代の収録であろう。ジョージ川口、河辺公一、藤田正明らが伴奏)。第2部は砂田が高く評価する山下久美子のパフォーマンスから始まり、つづく倍賞千恵子は「さよならはダンスの後に」、谷川俊太郎=武満徹コンビによる名曲「死んだ男の残したものは」、今こそその歌詞と共に聴かれるべき、さだまさしの隠れ名曲「幸せについて」などを、つややかな声と見事な音程でしっとりと聴かせた。さすがSKD(松竹歌劇団)出身、倍賞千恵子の歌手としての底力、パフォーマーとしての華やかさに最敬礼!(原田和典)
Photo by Koji Ota


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「イリーナ・メジューエワ」10月21日 関内ホール
 ロシアの妖精イリーナ・メジューエワの“ピアノリサイタル 高貴な詩情を奏でる美しい魂“は、バッハの「主よ、人の望みの喜びよ」から厳かに幕を開ける。決して華やかとは言えないステージだが、だからこそタイトルの重みを感じさせる。続く「イタリア風協奏曲 ヘ長調」までは、絶妙なペダル操作で、チェンバロの様な音色を聴かせる。前半最後のモーツァルト「幻想曲 ニ短調」「ピアノ・ソナタ 第9番 ニ長調」では、バッハとは全く異なった気持ち・感情を表現するかの様な演奏を聴かせた。彼女の演奏は、楽譜とピアノを通じて作曲者と語り合っている様に見える。後半のショパン「ノクターン 第2番 変ホ長調」から「スケルツォ 第2番 変ロ短調」までの9曲、これでもかと言う程に狂おしくピアノを弾きまくる姿とピアノの残響音が途轍もなく美しい。そして、アンコール曲ショパン「プレリュード 変ニ長調 雨だれ」で心静かに幕を閉じた。最後にこれだけは言っておきたい、彼女の日本語は、演奏と同様に素晴らしく美しかった。(上田和秀)


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「ダリル・ホール&ジョン・オーツ」10月21日 東京国際フォーラム ホールA
 80年代最高のデュオ ダリル・ホール&ジョン・オーツのライヴは、熱狂的な声援の中代表曲「マンイーター」で幕を開けた。最近のステージは、ホール&フレンズの様相を呈してきたが、歌や演奏に関しても、途中ノイズによるトラブルがあったシーンでも、今回は少なくとも前回よりはオーツが元気で存在感を出している。全体を通じて、アメリカン・ロックでノリの良さを表現したステージであったが、名曲「サラ・スマイル」では、もっとシンプルなアレンジでも良かった様に思える。2回のアンコールのラスト「プライベート・アイズ」で、観客を興奮の渦に巻き込み、ライヴは終了した。(上田和秀)


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「鈴木理恵子&若林顕」10月30日 JTアートホール・アフィニス
 真紅のドレスに身を包み風格と気品を漂わせるヴァイオリニスト鈴木理恵子と世界的ピアニスト若林顕による“プラチナ・デユオ・リサイタル”は、「モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ第28番ホ短調」で幕が上がり、「ヴァイオリン・ソナタ第35番ト長調」、「ヴァイオリン・ソナタ第40番変ロ長調」と続く。先日リリースされたアルバム『モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ集』と同じプログラムだが、ピアノの違いや生演奏と言う事を差し引いても今回の演奏の方が実に良い。時代背景を考慮して、ペダルを使用せずに、抑え気味ではあるが、モーツァルトが意図したであろう演奏を聴かせる若林は、日本流に言うと達人の域を超えた超人だ。後半は、「ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第9番イ長調」と前半とは全く異なった感情が昂るヴァイオリン・ソナタを聴かせる。史上最高のメロディ・メーカーであるモーツァルトは、その美しい旋律の中に、悲しみを秘めた彼の人生を感じさせ、ベートーヴェンでは、激しい演奏に彼の生き様を感じさせる。テクニックだけでなく、楽曲の歴史観や作曲者の心情を十二分に考慮した演奏は、この二人だけが成せる技なのかも知れない。これからも、日本いや世界を代表する最高のデュオ鈴木理恵子&若林顕から目が離せない。(上田和秀)


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「ブライアン・ウィルソン/『ペット・サウンズ』50周年アニバーサリー・ジャパン・ツアー」
 1960年代にカリフォルニアからデビューし、一時代を築いたビーチ・ボーイズの中心人物がブライアン・ウィルソン。そのサウンドはサーフィン・ミュージック、或はホット・ロッド・ミュージックと呼ばれる軽快なものに代表されるが、それだけではない。ブライアンがほぼひとりで作り上げたとされる彼らの代表作『ペット・サウンズ』は色々な実験的な試みが詰まった意欲作でポップス史上に残る傑作と言っていい。今回の公演はツアー・タイトル通り、その『ペット・サウンズ』の発売から50周年を記念して、このアルバムを生で再現してくれるという。ビーチ・ボーイズ・ファンだけでなく、ポップス・ファンも必聴ものだ。(YT)

* 4月12、13日 東京国際フォーラム・ホールA
* 4月15日 オリックス劇場(大阪)
公演公式サイト:http://bw-japantour.com

お問い合せ:キョードー東京 0570-550-799


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