2015年12月 

  

Audio Blu-Ray Disc Review

「ザ・ローリング・ストーンズ ライヴ・アット・ザ・トーキョー・ドーム1990」(ワーズレコーズGQXS-90061〜2)
 ストーンズの記念すべき初来日公演(スティールウィール・ツアー@東京ドーム)の完全収録版。音声のみ既に“StonesArchive” から2012 年に有料配信された。なかなか生のステージを見られなかったので昨日のことのように思われるストーンズ初来日ステージ。一昨年の来日公演を見た目にはミック・ジャガー始めメンバーが皆若い。ビル・ワイマンがいるではないか!
 二十代の筆者が偏愛したストーンズの映画が「レッツ・スペンド・ナイト・トゥゲザー」(ハル・アシュビー監督)。全米ツアーの記録で当時パフォーマンスの凄さ、演出と仕掛けのスケールに魅了された。東京公演にその迫力はない。本作は解散の危機を乗り超えた時期のバンド再生ツアーだが新作アルバムの音楽的インパクトは最早失われ、ライブステージの「伝統芸能」化はこの時期すでに始まっていた。
 日本テレビ放送網がオンエア用に収録した480映像(4:3)でスペックは如何ともし難いが撮影優秀でノイズがなく美しい。リニアPCM音声は96kHz/24bitで量感、鮮度共良好。(大橋伸太郎

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「JIMI:栄光への軌跡」(東宝TBR25401D)
 クラシックロック好きが集まるとしばしば話題になるのがもし1970年にジミヘンが26 歳で死なずその後もキャリアが続いたら、である。ジミヘンの才能を生前高く買っていた一人がマイルス・デイヴィス。両者のセッションは時間の問題だったから、ジミヘンがファンク、フュージョンの牽引者の一人になったことは間違いなく、二十世紀音楽のその後は変わっていたはず。果てしないIFをかき立てる存在、ジミヘンが主人公の劇映画だ。
 アメリカでチャス・チャンドラーの知遇を得たのがデビューのきっかけだが、本作ではキース・リチャーズの恋人だったリンダ・キースが彼を見いだした張本人である。渡英しての破天荒な日々、衝撃の米国デビューを果たすモンタレー・ポップフェスへ旅立つ直前で映画は終わる。
 1960年代末の狂躁のスウィンギングロンドンの残り香を写し取ったジェリービーンズのような甘く艶やかな色彩。コントラストを抑えた柔らかい発色だ。ジミヘン自身の演奏する楽曲が使われていないのが残念。(大橋伸太郎

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「セッション」(カルチュア・パブリッシャーズ GOBS-1158)
 名門音楽学校のサディスティックな教官と若きドラマーの対決を描く。大きな話題を呼んだ作品なのでこの際内容は省略。アメリカジャズ事情に詳しい当会音楽評論家S.T.氏に「こんなことが本当にあるのか?」と訊いたら「昔も今もゼッタイにない!」と一笑に付された。日本のスポ根漫画のジャズ版と考えればいい。
 本作は嬉しいことに96k/24bit音声で収録されている。しかしそれ以上にサウンドデザインとマッピングに注目したい。ほとんどの音の要素がセンターチャンネルに集中しているのだ。進行上の要のドラムソロはもちろんビッグバンドのアンサンブルも大半がセンターから再生される。フロントLRからも出ているが音場を広げる効果に限定。人間臭い情念と葛藤の音楽が「映画音楽」に拡散してしまうことを避けたのだ。
 センターチャンネルはモノラルを感じさせないワイドレンジと立体感。LRに増してサラウンドチャンネルの使用は控えめ。それが後半の交通事故のシーンの不意打ち効果で聴き手を襲う。(大橋伸太郎