2015年8月 

  

Popular ALBUM Review


「寺村容子トリオ / ブルー」(寺島レコード/TYR-1048)
 寺村容子トリオの第3作。ピアノ・トリオの定番曲とでもいおうか、ジャズ・ミュージシャンたちが好んで取り上げるスタンダード・ナンバーの姿が見えない。代わって「ブルーベリー・ヒル」(ヴィンセント・ローズ)、「君に夢中」(スティング)、「ハイダウェイ」(フレディ・キング)、「ジョニー・ボーイ」(ゲイリー・ムーア)といったジャズの中では日ごろあまり耳にしないロックやポップスのラインナップが目に留まる。彼女はそれらを一曲一曲、丁寧に自分の手の内に取り込み、時にタイトにときにリリカルに、完全に消化させてピアノ・ジャズとして聴かせてくれる。1作目から代わることのない新岡誠(b)、諸田富男(ds)とのコンビネーションや信頼関係に支えられた成果でもあるのだろう。オリジナル3曲を含む13曲で構成されている。(三塚 博)


Popular ALBUM Review


「ダイメ・アロセナ / ヌエバ・エラ」(ブラウンズウッド・レコーディングス/BRC-476)
 ビリー・ホリデイ、エラ・フィッツジェラルドの魂を継ぐキューバの秘宝モというキャッチコピーに思わず目が留まった。キューバからまた一人の新しい才能がデビューした。22歳という若さもさることながら歌手であると同時に作曲家・編曲家・合唱指揮者としての肩書きを持つダイメ・アロセナ。ジャズ、R&B、アフロキューバンの要素がそこかしこにちりばめられた本作品は英語・スペイン語そしてヨルバ語で歌われる。彼女のオリジナル作品で構成されているが、とりわけオープニング曲の「MADRES」はキューバの伝統音楽を色濃く反映している。曲が進むにつれてジャズの香りが強く漂ったり、R&Bを色濃く反映させた歌唱になったりと自然な変化に彼女の本物感を実感できるはずだ。サポートするのはロバート・ミッチェル(p)、ニール・チャールズ(b)、リチャード・スペイブン(ds)、オリ・サヴィル(perc)など今日の音楽シーンを牽引するメンバーたちだ。プロデューサーはジャイルス・ピーターソン。日本盤にはボーナストラックとして名曲「クライ・ミー・ア・リヴァー」が収録されている。(三塚 博)


Popular ALBUM Review


「山中千尋 / シンコペーション・ハザード」(ユニバーサルミュージック/UCCQ-9024)
 第27回(2014年度)MPCJ音楽賞で録音録画賞を受賞した山中千尋の最新作はラグタイムに現代的な解釈を与えて取り組んだ意欲作品。大半を占めるのがスコット・ジョップリンの作品。そして彼女のオリジナル曲に加えて「ニューラグ」(Keith Jarrett)、「優雅な幽霊のラグ」(William Bolcom)という全11曲の構成。19世紀後半から20世紀初頭に全米中を席巻したラグタイムをモチーフにして、リスナーをモダンジャズのフィールドに引き込んでいく。「メープル・リーフ・ラグ」と「優雅な幽霊のラグ」の2曲を除くと所謂ラグタイムとはかけ離れたところにある奏法に、聴くものは“よい意味”で大いに裏切られることになる。ベースは脇義典、ドラムスがジョン・デイヴィス、今年(2015)3月にニューヨークで録音された。(三塚 博)


Popular ALBUM Review


「THIS IS LIBEROBA / リベロバ」(Threeknowman Records / TKM-6102)
 思いもよらない劇的な運命の出会いとは、正にこの新ユニットLIBEROBA(リバロバ)の為に有る様な事だ。人気と実力を兼ね備える二人のアーティスト ピアニスト兼コンポーザー中村由利子とチェリスト植草ひろみが、お互いに尊敬する音楽家ピアソラを中心とした楽曲を思う存分に演奏したいと言う意識が融合しリベロバは結成された。そのリベロバの記念すべきファースト・アルバム『THIS IS LIBEROBA』は、今まで誰もが慣れ親しんだ曲に、アレンジャーとして中村が新しい息吹を与え、植草の情熱がそれに応え、唯一無二の演奏が始まる。そして、ピアソラの親友で作曲家・チェリストのホセ・ブラガードやアンドレ・ギャニオンから植草に託された貴重な楽譜と中村のオリジナル曲は、未だかつて誰も経験しない魅惑の楽曲・演奏で聴く者の心を捕えて放さない。リック・ウェックマンをこよなく愛する中村とクラシックをベースとした植草が、この先何処までリベロバとして音楽の世界感を広げられるのか興味の尽きないユニットの誕生だ。(上田 和秀)


Popular ALBUM Review


「デュオ・ワン/高樹レイ・中牟礼貞則」(Uplift Jazz Records UJRN 15006)
 高樹レイの前作は竹内直のテナー・サックスとのデュオと云う大変チャレンジングな作品だったが、今回も日本ジャズ・ギターの至宝、中牟礼貞則と二人でグレート・アメリカン・ソングブックからの聞き慣れたバラード6曲を気持ちの入った歌で聞かせるミニ・アルバムで、これも可なり意欲的な作品だ。彼女の持ち味は、常に新しいものに挑戦して行く姿勢だろう。今もライヴでは、コルトレーンを歌う、とか武満徹の曲を歌うとか新たな企画にチャレンジしている。ヴォーカルとギターのデュオというとエラとジョー・パスとかサミーとローリンド・アルメイダの名作を想い出す。そういえば、サミーがアルバムの一曲目で歌っていた「Here's That Rainy Day」を、高樹もここで取り上げて好唱している。全体に曲を変にいじったりせずにストレートに歌っていて好ましい。エラやサミーと比較するのはかわいそうだが、もう少し歌に膨らみと云うか、余裕があったらもっと良かったのではないか、と思う。次のデュオは、どんなことをやるのだろう。(高田敬三)


Popular ALBUM Review


「アイ・リメンバー・セカンド・セット/トリッシュ・ハトレイ」 (Kiss Of Jazz Records)輸入盤)
 トリッシュ・ハトレイは、シアトルとパーム・スプリングスを拠点に活躍するジャズ・シンガー。母親は、ジャズのベーシストで彼女を身籠った後も8カ月もステージに上がっていたというから彼女は、生まれる前からジャズに親しんでいたという歌手だ。本アルバムは、そんな彼女の8枚目の作品。5年前に色違いの同じカヴァー・デザインの「I Remember」を発表していてその続編と云った作品。永年の彼女のピアニストのダーリン・クレンデニンのアレンジによる殆ど同じメンバーの10人編成のバンドで60年代のジャズを想わせるように心地良くスイングする。バンドと掛け合いでスキャットするウディ・ハーマンで有名な「Four Brothers」や口笛も披露するサー・チャールス・トンプソンの「Robins Nest」等は、なかなかの聞かせ所だ。ジャズ・ヴォーカルの本道といったスタイルでスタンダード・ナンバーを中心に歌う彼女のスィング感、歌の表現力は、素晴らしい。心地良くとっつき易く大変親近感を持たせるシンガーだ。(高田敬三)


Popular ALBUM Review


「ザ・モンサント・イヤーズ/ニール・ヤング+プロミス・オブ・ザ・リアル」(ワーナーミュージック・ジャパン:WPZR-30662〜3)
 2006年に当時イラク戦争中の米ブッシュ政権にNo!を突き付けた強烈な反戦アルバム「リヴィング・ウィズ・ウォー」(2006年7月分の当レビューでもご紹介)を出したニール・ヤングが今度はモンサントに対して吼えた!危険な遺伝子組み換え作物や有害な農薬を世界中にバラまく巨大多国籍企業「モンサント社」が標的だ。遺伝子組み換え食材の使用を明記する制度を条例化したバーモント州を相手取って訴訟を起こしたモンサントをスターバックスが支援していることにニールがブチ切れたのがきっかけ(ニールはスタバの常連客だったそうで)。先のブッシュを撃ったアルバムのように時にはギターの音色も歪ませながら一発録りの'直言的'なサウンドで相手を土俵際まで追い込む。行動を共にするプロミス・オブ・ザ・リアルとはウィリー・ネルソンの息子たちが組んだバンドで、今回のリリースは全曲分の映像(収録時のパフォーマンス)を収めたDVDとセット(ボーナス映像含む)になっている。今年70歳になるが、ニール・ヤングの怒りの炎は命ある限り消えることはなさそうだ。(上柴とおる)


Popular BOOK Review


「THE DIG Special Edition ザ・ベンチャーズ」(シンコーミュージック・エンタテイメント)
 1962年以来、来日公演は今年で通算69回目((7月17日〜9月13日)となるベンチャーズを熱く、そしてマニアックに取り上げた224ページの最新ムック。バンドの詳細な軌跡、詳細なシングル&アルバムのリスト&その研究、メンバーの変遷をまとめたファミリー・ツリー、全69回の日本公演のリスト(来日メンバーの顔ぶれも)、そしてミュージック・ライフ誌(1965年〜1966年)に掲載された来日関係記事の再録など「これでもか!」とばかりの内容でファンにとってはまさに'パラダイス・ア・ゴー・ゴー'な気分。さらに極め付けは山下達郎がベンチャーズへの想いのたけを語る20ページに及ぶインタビュー、そして唯一のオリジナル・メンバーで、今回の来日公演をもってステージからは勇退するドン・ウィルソン(ギター)のラスト・インタビュー。(上柴とおる)


Popular CONCERT Review


「2CELLOS」6月30日 神奈川芸術劇場
 ご存知ハンサム二人組のチェロ奏者ユニット2CELLOSのライヴは、伴奏を伴った「オブリビオン」から始まったが、このユニットには伴奏は無用だ。ボディ無のエレクトリック・チェロで、如何に弾きまくるか、如何に音を作るかが肝であり、そして最も重要なのはそのアクションなのだ。本当は、選曲とアレンジが如何に重要であるか分かって欲しいが、ファンの多くは彼らが演奏している原曲をご存知ない様なのが少し寂しい。やはりこの日も最も盛り上がったのは、マイケル・ジャクソンの「ヒューマン・ネイチャー」「スムーズ・クリミナル」と言った定番だった。それでも、彼らとファンの間には、特別な空気感がある事は間違いない。彼らの成長と共に、ファンも音楽的に成長できるともっと盛り上がり、感動出来るのではないだろうか。(上田和秀)
写真:Masanori Doi


Popular CONCERT Review


「前田朋子」7月11日 横浜みなとみらいホール 小ホール
 オーストリア・ウィーン在住のヴァイオリニスト前田朋子の毎年恒例となった「音楽の贈りもの」シリーズの10回目となる今回のライヴのテーマは、「ヨーロッパ各地の音楽の響き」と題し、ヨーロッパ各国の作曲家の楽曲、特に多くの方が良くご存知の曲(モーツァルト「メヌエット」、エルガー「愛の挨拶」、ショパン「ノクターン」、ドビュッシー「月の光」等)を中心に、エレガントな演奏を披露した。この日は、ほとんどの曲を金子薫のピアノをバックに演奏したが、得意のバッハ「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番ニ短調 シャコンヌ」は、ソロで優雅に演奏し、聴く者を魅了した。ウィーンを中心に多くの演奏家と交流し、腕を磨いた実力者なだけに、1年に一度だけのリサイタルとは、勿体ない気がする。(上田和秀)


Popular CONCERT Review


「アヴェレージ・ホワイト・バンド」7月12日 丸の内コットンクラブ
 1970年代に全米No.1ヒットを飛ばし、解散期を経て再結成から約20年になるイギリスのソウル/ファンク・バンド。オリジナル・メンバーは二人だけになったが、オープニング・ナンバーから現役感を存分に見せてくれた。発足時以来バンドの中心メンバーであるアラン・ゴリー(el-b)と、専担のブレント・カーターのヴォーカリスト二名が、曲ごとにリードを交代したり、曲の中でリレーできるのがこのバンドの強み。ヒット曲「イフ・アイ・エヴァー・ルーズ・ディス・ヘヴン」「カット・ザ・ケイク」ばかりでなく、「ホワッチャ・ゴナ・ドゥ・フォー・ミー」(チャカ・カーン)、「アイ・ウォント・ユー」(マーヴィン・ゲイ)、デビュー作収録曲でジャズ・ファンにはクルセイダーズの演奏で知られる「プット・イット・ホエア・ユー・ウォント・イット」も選曲して、魅力をアピールする。折からのディスコ・リバイバルで再注目されるアンコールの「レッツ・ゴー・ラウンド・アゲイン」は、ミラーボールが場内を彩り、観客と合唱。大盛り上がりの一夜だった。(杉田宏樹)
写真提供:COTTON CLUB
撮影:米田泰久


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「ルーファス・ウェインライト」
 圧倒的なパフォーマンスのピアノ弾語りで、聴く者を感動の渦に巻き込むルーファス・ウェインライトの来日公演が決定した。何と言っても彼の味と癖のある歌声が堪らない。歌にしてもピアノにしても、スペシャルに上手い訳ではないが、一度耳にすると忘れられない程魅力的なのだ。まだ、彼が歌う「ハレルヤ」を聴いていない方は、是非今回のライヴをお見逃しなく。絶対に後悔させません。(UK)
* 9月30日 梅田クラブクアトロ
* 10月1日 東京国際フォーラム ホールC
お問い合せ:ウドー音楽事務所 03-3402-5999
http://udo.jp/


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「ダリル・ホール&ジョン・オーツ」
 ブルー・アイド・ソウルうんぬんと言うよりも、80年代最も成功・活躍したデユオであるホール&オーツの日本公演が決定した。名曲「サラ・スマイル」「プライベート・アイズ」「マンイーター」など、当時を知る者も知らない者も最高に盛り上がる事間違いない。音楽が一番愉しかった時代を満喫したい方は、是非集合して欲しい。(UK)
* 10月14日 グランキューブ大阪
* 10月16日 愛知県芸術劇場大ホール
* 10月19日 日本武道館
* 10月21日 東京国際フォーラム ホールA
お問い合せ:ウドー音楽事務所 03-3402-5999
http://udo.jp/
写真:Mick Rock


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「デフ・レパード」
 80年代に大成功を収めたHR/HMの代表ロック・バンド デフ・レパードの来日公演が決定した。大ヒットアルバム『炎のターゲット』『ヒステリア』から、大ヒット曲「フォトグラフ」「ロック・オブ・エイジ」「フーリン」「アニマル」等どんなセットリストと演奏で、ファンを魅了してくれるのか楽しみだ。(UK)
* 11月9日 日本武道館
* 11月10日 オリックス劇場
* 11月12日 Zepp Nagoya
* 11月13日 仙台サンプラザホール
お問い合せ:ウドー音楽事務所 03-3402-5999
http://udo.jp/


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「エルトン・ジョン」
 もはや何の説明も要らないだろう、世界で最も有名なピアノマン エルトン・ジョンのジャパン・ツアーが決定した。ジャパン・ツアーと言っても大阪と横浜の2公演だけだ。生で聴きたい曲は、数限りないが、彼がどんな曲をどう演奏し歌おうが、ファンにとっては歴史的なライヴになる事は間違いない。このライヴは、限られた幸運なファンにのみ与えられる至福の一時となるだろう。エルトン・ジョンのファンのみならず、全ての音楽ファン必聴のライヴである、チケットをゲット出来る事を心より願う。(UK)
* 11月16日 大阪城ホール
* 11月18日 横浜アリーナ
お問い合せ:ウドー音楽事務所 03-3402-5999
http://udo.jp/
写真:Andrew Potter


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