2014年1月 

  

Popular ALBUM Review


「ラヴド・ミー・バック・トゥ・ライフ/セリーヌ・ディオン」(ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル:SICP-3912)
 セリーヌが大きく変身した。あの磨き抜かれた金属味を帯びた美声で、伸びやかなスケールの大きな表現は、どこにも聞かれない。かすれ声も含めてラフな歌声は、彼女にこんな声もあったのかと驚くほど。表現には人間的なリアル感がうかがえる。曲・サウンドも端正なスケール感ではなく、コンテンポラリー。ベイビー・フェイスはじめ今を創造するクリエイターたちと組んでいる。彼女は従来の自分から変わりたかったようだ。それで6年の歳月を要して新作を発表した。出だしのタイトル曲が、え?と驚く作り。NE-YOとの「インクレディブル」も面白い。ジャニス・イアンの「17歳」も歌っている。こういう変化は完成されたセレブなセリーヌにとってプラスに出るか。今前線にいる女性歌手たちの一人に過ぎなくなってしまうか。スティーヴィーとの「オーヴァージョイド」にしても、従来の彼女らしい魅力や主張が感じられないまま終わっている。ただ変身しようという勇気は大したものだと思う。(鈴木道子)


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「デュエッツ/ウィリー・ネルソン」(ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル:SICP-3944)
 矢継ぎ早に新作を発表してくるカントリーの大御所ウィリーだが、休日の午後をゆったりと心安らかに過ごせるアルバムとなった。今回は気心の知れたカントリー系の女性歌手たちとのデュエット集なので、独特の歌唱を持つウィリーとも息の合った歌声を聞かせる。女らしさを落ち着いて表現したドリー・パートンとのデュエットで好スタート。ローザンヌ・キャッシュ、本国では人気の高いシンガー・ソングライター、ブランディ・カーライルなどが特に持ち味を発揮して魅力的。エミルー・ハリスともスプリングスティーンの曲を好唱。唯一例外のメイヴィス・ステイプルスとの「グランマーズ・ハンズ」は、スマートなビル・ウィザースの原曲以上に魂を感じさせる見事な表現に感じ入る。(鈴木道子)

 80歳を過ぎた今も、滑らかでつややか、ちょっぴり渋みの効いた歌声は健在。今年(2013)4月に発表された「レッツ・フェイス・ザ・ミュージック・アンド・ザ・ダンス」に続く新作は「デュエッツ」(原題TO ALL THE GIRLS)。全トラックがデュエット構成で、参加しているのはドリー・パートン、シェリル・クロウ、ロレッタ・リン、ノラ・ジョーンズ、エミルー・ハリス、娘のポーラ・ネルソンなどカントリー、ポップス、ソウル界の18人の歌姫たち。自らの作品に加えて、ウェイロン・ジェニングス、マール・ハガード、クリス・クリストファーソンといったカントリー界の重鎮たちの曲から、ビル・ウィザース、ブルース・スプリングスティーン、ジョン・フォガティらのナンバーまで、幅広く取り上げているのも魅力。娘ポーラ・ネルソンとデュエットしたCCRのヒット曲「雨を見たかい」(John Fogerty)やエミルー・ハリスとの「ドライ・ライトニング」(B.スプリングスティン)は聞きものだ。(三塚 博)


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「キャプテン・ラギッド/キザイア・ジョーンズ」(ワーナーミュージック・ジャパン:WPCR-15440)
 2月にビルボードライブ(大阪&東京)で公演予定のキザイアはナイジェリア生まれの国際的なシンガー・ソング・ライター(&ギタリスト)。デビューしてもう20年余りになる。2008年の「ナイジェリアン・ウッド」以来となる新作は2012年に母国に戻り制作。「この10年ほど温めていた」という渾身のアルバムでキザイアが作り出した'キャプテン・ラギッド'というスーパー・ヒーローに社会的なメッセージを託すというスタイルで難民、出入国管理、亡命等を題材にキザイア自身の内に込められた怒りを描写している。とはいえ過激な音作りというわけではなく、ファンクなギター・プレイと共にほど良く洗練されたメロウなタッチも取り入れており、独自の世界を展開している。公演、観に行こう♪(上柴とおる)


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「アンヴァーニッシュド/ジョーン・ジェット&ザ・ブラックハーツ」(ビクターエンタテインメント:VICP-65199)
 2006年の「シナー」以来、7年ぶりとなる新作は久々の'快作'といっていい。とにかく心地好い♪ ハンド・クラッピングな魅力に歯切れの良いハード・エッジなロックン・ロール。30年以上にも渡りジョーン・ジェットを聴いて来たが、これまでのアーカイブではないかと思うほどにすべての楽曲が一発で馴染めてしまう。何の装飾もなく、愚直?なまでにゴリ押しでシンプル一直線。今が2010年代であることも忘れてしまいそう。すでに50代も半ばに差し掛かっているジョーンの開き直ったような心意気には惚れ惚れする。日本盤に添付されたボーナス5曲に代表曲の一つ「クリムゾン&クローヴァー」のライヴ音源が含まれているのもファンには嬉しい♪(上柴とおる)


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「UNDER THE COVERS Vol.3/MATTHEW SWEET & SUSANNA HOFFS」(輸入盤/Shout!Factory:FREEM-5047)
 スザンナ・ホフス(バングルス)がマシュー・スウィートとコンビで往年の(彼らにとっての)名曲をパワー・ポップ風にカヴァーする企画の第3弾♪ Vol.1(1960年代)、Vol.2(1970年代)と来れば今回は当然ながら1980年代!さすがに(その筋のファンにとっての)ツボを押さえた選曲にまたもウキウキ♪ 「ガールズ・トーク」(エルヴィス・コステロ作。デイヴ・エドモンズでヒット)や「愛しのキッズ」(プリテンダーズ)には「よくぞ♪」(実はどちらも1979年の楽曲だが)。それにトレイシー・ウルマンの「夢みるトレイシー」など何とも相応しい曲の並びに酔い知れながら、バングルスにとっては先輩格ともいえるゴー・ゴーズの初ヒット「泡いっぱいの恋」のカヴァーには感涙。。。(上柴とおる)


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「Swan Dive/土屋昌巳」(Mazzy Bunny Records:DDCZ1910)
 前作『森の人』から15年ぶり、自身のレーベルからの発表となった全6曲入りのソロ作。ホッピー神山(key)、Der ZibetのIssay(vo)、RIZEのKen Ken(b)、元MAD CAPSEL MARKETSのMOTOKATS(ds)、渡辺等(Cello,Wood b)らを迎えた本作にはさまざまなスタイルの楽曲が収録されており、いまの彼が想い描く音世界が見事に表現されている。そのイメージされるデカダンスで独特の美意識に貫かれた世界観は変わらない(付属DVDにおける「Swan Dive Part-2」の映像でも顕著)が、根底には彼がこれまで培ってきたロック・スピリッツがこれまで以上に溢れているようだ。もっと彼自身の歌声(今回は2曲のみ)も聴きたかったが、リピートするごとにある種の凄みさえも感じる作品である。この充実振りからすれば早期の次なる展開も期待したくなる。(山田順一)


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「河辺浩市」 11月16日 銀座ジャズバー・エムズ
 河辺公一という名前でも知られる大ベテラン・トロンボーン奏者が、気の合う仲間と、お気に入りの場所で、心ゆくまで名曲を演奏する。それが「エムズ」で行なわれている定期ライヴだ。河辺は1927年生まれの86歳。東京芸大を卒業し、ゴールデン・チャリオティアーズやオールスター・ジャイアンツといった戦後ジャズ史上に残るグループを率いながら、「嵐を呼ぶ男」や「お早よう」などの映画音楽にも携わってきた(「お早よう」で子供たちがするオナラの音は、すべて彼のトロンボーンによる)。小林洋(ピアノ)、大津昌弘(ベース)、影山ミキ(ヴォーカル、各セット2曲に参加)と共に、「クレイジー・リズム」、「イッツ・ザ・トーク・オブ・ザ・タウン」など、最近ではめっきり聴かれなくなってしまったスタンダード・ナンバーの数々を颯爽と披露。ドラムスやクラリネットもないのに「シング・シング・シング」を演奏するチャレンジ精神にも恐れ入った。曲によっては、「トイレのスッポン」を楽器のベルの前にかざして、音色を細かくコントロールしながらプレイ。「プランジャー・ミュートよりも、こっちのほうが使いやすいんだよ」とのことだった。(原田和典)


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「ポール・マッカートニー・アウト・ゼア・ジャパン・ツアー」 11月18日 東京ドーム
 これは、コンサートではなく、ショウであった。見事にすみずみまで演出された、楽しい3時間に亘る“ポール・マッカートニー・ショウ”では、新作の「NEW」から3曲を含め、ビートルズ・ナンバー、ウィングス・ナンバー全37曲を、休みなしで歌い切った。観客へのサービスを意識し、アップライト、グランド・ピアノを使い分け、ギター、ベースを何本も持ち替えて、時折おどけた表情やしぐさを見せ、自分が誰であるかを良く知ったエンターテイナーの真骨頂がそこにあった。ジョンとジョージの曲も一曲づつ披露してみせたり、カタコトの日本語にも、サービス精神がみえた。一滴の水も飲まず、ぶっ続けで3時間のステージを歌い切ったポール・マッカートニーに乾杯!私と大して歳の違わないポールに喝を入れられた気分だった。どちらさまも、おつかれさんでした。(星加ルミ子)
撮影:MJ Kim / MPL Communication Ltd.


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「ウィリアムス浩子」 11月20日 モーション・ブルー・ヨコハマ
 最新アルバム『A Wish』の発売記念ライヴのラストを飾るこの日は、ジョン・ディ・マルティーノ(p)、井上陽介(b)、高橋信之介(ds)、三木俊雄(sax)という名プレーヤー達が、軽快にアレンジしたクリスマスソングで幕を開けた。そこへ真紅のドレスを身にまっとた現在ジャズ界人気NO.1の歌姫ウィリアムス浩子が登場し、会場は一気に華やかなムードに包まれる。アルバム『A Wish』を全曲歌い切る迫力とパワーは、他のジャズ・ヴォーカリストの追随を許さない上に、彼女のブリティッシュ・イングリッシュによる美しい発音は、唯一無二の歌声である。それ故に、「I Hear Music」、「Ev'ry Time We Say Goodbye」、「Rainy Days And Monday」等々どんな名曲も彼女のオリジナルの様に聴こえてしまう。唯、余りにも美しさのみが強調されるので、時には大人の女性の色香というかダークサイドな部分が時々顔を出すと歌の凄みが増すだろう。今ノリに乗ってるウィリアムス浩子の今後の活躍に、是非期待して欲しい。(上田 和秀)


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「ブルース・ガイチ&ジェイニー・クルーワーAOR東京セッションVol.2フィーチャリング・ランディ・グッドラム」 11月22日 コットンクラブ
 ブルース・ガイチとジェイニー・クルーワー夫妻による「AORトーキョー・セッション」、約1年ぶりの第2弾。今回はゲストとして'70〜'80年代に数々のヒット曲を生み出してきたソングライターで歌手でもあるランディ・グッドラムを迎えたが、中心となってステージを盛り上げ、輝きを放っていたのはやはりジェイニーだ。上質のクリームのように品格を伴った滑らかな歌声。円熟味を漂わせながら、どんな作品も歌いこなしてしまう技量。ブルースを始めとしたバックと息が合うのは当然かもしれないが、ステージ運びもそつがなく、彼女の歌の合間にランディの歌をはさみながらテンポ良く進めていく。ランディはいかにもソングライターといった味わいのある歌い手で、特にアップ・テンポでのひょうひょうとした個性が似合っていたが、アン・マレーで大ヒットした自作「つらい別れ(You Needed Me)」での素朴な歌声もよかった。会場の一体感も際立っていて、ひとりひとりの心にほのぼのとした暖かさを届けてくれるステージだったと言える。(滝上よう子)
写真提供:COTTON CLUB
撮影:米田泰久


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「西藤ヒロノブ」 11月27日 Tokyo TUC
 この日の西藤ヒロノブは、デビュー10周年の集大成とも言えるライヴ・ツアーの締めくくりに相応しいパフォーマンスを聴かせてくれた。西藤を知り尽くしたメンバーのマルコ・パナシア(b)、ミルトン・フレッチャー(p)、ジョン・ランプキン(ds)によるパーフェクトなサポートに加え、10年間西藤を支えてくれたファンや仲間達の見守るアットフォームな雰囲気の中、最新作「Golden Circle」を始め、自身の代表作「Traveler」、「Tasogare」等を伸び伸びと演奏した。西藤自身と西藤が作る曲には、人を引き付ける天性の魅力がある。10年間の努力により、国内だけでなく海外にも、西藤の演奏を多くのファンが待ち望んでいる。これからは、曲作りと演奏に加え、ライブ・パフォーマンスにも一段と磨きをかけ、更なる進化を期待する。西藤ヒロノブは、MPCJ音楽賞ニュー・アーティスト賞受賞が伊達じゃない事を証明する有望なアーティストである。(上田 和秀)


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「ボン・ジョヴィ」 12月4日 東京ドーム
 現在最高のスタジアム・ロック・バンド “ボン・ジョヴィ” のライヴは、前回に比べ肩の力が抜けたリラックスムードの中、カッコ良く歳を重ねたスーパー・スター ジョン・ボン・ジョヴィの登場で幕を開けた。歌声に全く衰えを感じないばかりか、スタイルも維持されプロ中のプロである事を実証し、聴かせ処をわきまえたベスト・ヒット集のセットリストで、ファンを熱くさせ飽きさせる事が無い。それにしても、永年に渡りこれ程までにキャッチーでノリが良く誰にも愛される楽曲を作り続けられるコンポーザーとしての才能には、驚かされる。結成以来もう一つの柱であったギターのリッチー・サンボラが抜けたことにより、バンドのバランスが良くなった事が皮肉としか言いようがない程、ジョンを中心にまとまりのある演奏を披露した。これからもロックは、ボン・ジョヴィが中心だと言わんばかりのパフォーマンスを見せつけたライヴだった。(上田 和秀)
撮影:Masayuki Noda


Popular CONCERT Review


「ブラサキpresents “Snuck宇宙”」 12月15日 下北沢440
 今年で結成15周年。昨年は“ホンカーの帝王”ことビッグ・ジェイ・マクニーリーと全国ツアーを敢行し、先ごろ発表されたニュー・アルバム『リズム&ブルース』も好評のブラッデスト・サキソフォン(6人グループ)が定例イベント“Snuck宇宙”を開催した。このイベントは演奏だけではなく、リーダーでテナー・サックス奏者の甲田ヤングコーン伸太郎がふるまう料理も楽しめるという内容。気のおけない雰囲気のなか、熱い音楽と美味しい料理が楽しめるという優れものである。演目は『リズム&ブルース』からのナンバーに加え、「ザ・クリスマス・ソング」、日本語詞の「アローン・アゲイン」、チャーリー・クリスチャンの十八番でもあった「ローズ・ルーム」、甲田のブロウが炸裂する「走れ!ヤングコーン」など。テナー・サックス、バリトン・サックス、トロンボーンが分厚いアンサンブルを響かせ、ピアノレスのリズムがそれを煽りに煽る。演奏する喜びを全身で発散する6人の男たちに目と耳が釘付けになった。(原田和典)


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「ジェフ・ベック」
 ご存知初代3大ギタリストの一角をなすジェフ・ベック(他2名は、言わずと知れたエリック・クラプトン、ジミー・ペイジ)の4年振りとなる待望の来日公演が決定した。鮮烈のヤードバーズ・デビュー以来常に第一線で活躍するだけでなく、他のギタリストの追随を許さない革新的な奏法とアイデアで、ロックのみならずジャズ界のミュージシャンにも影響を与えた最も進歩的なギタリスト、それがジェフ・ベックだ。2013年は、エリック・クラプトンが主催する「クロスロード・ギター・フェスティバル」への参加やビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンとのアルバム共作、ジョイント・ツアーが話題を呼んだが、2014年はもっとアグレッシブなジェフ・ベックの活動に期待しよう。(UK)

* 4月7〜9日 東京ドームシティホール
* 4月11日 ニトリ文化ホール
* 4月13日 岩手県民会館
* 4月14日 パシフィコ横浜
* 4月15日 名古屋市公会堂
* 4月16日 フェスティバルホール
お問い合せ:ウドー音楽事務所 03-3402-5999
http://udo.jp/


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