2013年11月 

  

Classic CD Review【協奏曲(ヴァイオリン)】

「ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲、ロマンス、マズレック、ユーモレスク / アンネ=ゾフィー・ムター(ヴァイオリン)、マンフレッド・ホーネック指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団」(ユニバーサル ミュージック、ドイツ・グラモフォン UCCG-1641)
 久し振りとなるムターの新譜。最初の協奏曲は情熱の籠もった力強い、如何にもムターらしい演奏である。第1楽章の遙かに高いポジションの強音にしても決して音を外さないポジショニングの完璧さは、聴いている方も気持ちが良い。次の第2楽章では一つ一つのパッセージでのフレージングでの気持ちの入れようが、さすがに聴き手をうならせるものを持っており、どの音一つとってもそこには意味があるようだ。第3楽章に入ると短調部分ではボヘミアの匂いを色濃く感じさせる。そして彼女の力一杯の演奏は聴く人に快い満足感を与えてくれる。後半3曲、最初の「ロマンス」は美しくも寂しさに溢れる郷愁の感じを上手く歌い、真ん中の「マズレック」ではあたかもリズミックなボヘミアの踊りの伴奏をしているかのようだ。最後は「ユーモレスク」であり、日本人の池場文美のピアノ伴奏に代わっているので、多分日本だけのボーナス・トラックではないだろうか。 この1枚で彼女の真骨頂を改めて知った思いがする。(廣兼 正明)

Classic CD Review【器楽曲(ピアノ)】

「ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第4&9-11番/マウリツィオ・ポリーニ(ピアノ)」(ユニバーサル ミュージック、ドイツ・グラモフォン UCCG-1640)
 ポリーニのベートーヴェン:ピアノ・ソナタが今回の4曲が出ると残った曲はあと4曲、即ち16番と18〜20番が出るとようやく完結する。だが全曲録音の完結までに約40 年もの時が経っており、このままの状態で果たして全曲セットは出るのだろうか。それはさて置き今回の初期の4曲、粒揃いのタッチから生まれる美しい音色に包まれた第4番の第1楽章からポリーニの魔術に翻弄される。ベートーヴェンの初期のピアノ・ソナタは若さに溢れており、弾き方によってはその若さばかりが出てしまいがちだが、ポリーニは胸襟を開いて若者を優しく迎えてくれる感じだ。第10番の終楽章などは戯れを感じて楽しい。今たしか71歳になったポリーニだが、その音楽は老成の域を通り越して今や逆に若さの中にある。(廣兼 正明)

Classic CD Review【器楽曲(ピアノ)】

「河村尚子/ショパン:バラード、リスト:ピアノ・トランスクリプションズ/河村尚子(ピアノ)」(ソニー・ミュージックエンターテインメント RCA SICC-10191)
 河村尚子のこれが3枚目のCDである。1枚目、2枚目と比較して河村は徐々にそして確実に大きくなっている。今回バラードを全曲録音の最初に持ってきたことは、形式に縛られないこのバラードで彼女のショパンを世に問うたのではなかろうか。実際聴いてみると一つ一つのタッチをとても慎重に、そして女性らしい節度をもって弾いている。例えば第2番の冒頭のsotto voceなどその典型と言える。そしてPresto con foco に入る前の間を可成り長くとっているのはff迄の気持ちの変換か。バラードだから無音の所に彼女の詩(うた)があるのだろう。
 後半はリストの歌曲からピアノへのアレンジ物である。最初のショパンはリストが選んだ6曲の歌曲(6つのポーランドの歌)から「乙女の願い」S480の1、「愛しき娘」S480の5の2曲を選んだ。リストはショパンの作風を上手く取り入れ、亡くなった友人ショパンへの追悼の意を表している。
 次はシューベルトが3曲で「ます」S563の6、「糸を紡ぐグレートヒェン」S558の8、「水車職人と小川」S565の2、最初の「ます」はもう少し釣り上げられた鱒の抵抗して飛び跳ねる躍動感が欲しい。
 最後ワーグナーの「イゾルデの愛の死」S447はワーグナー生誕200年に際しての河村本人の強い希望で録音した曲である。リストの大きな手の10本の指ならば軽く弾けるのだろうが、女性の手ではさぞかし大変なことだろうと無用の心配をしてしまった。(廣兼 正明)

Classic CD Review【器楽曲(ヴァイオリン&ピアノ)】

「J.S.バッハ:ヴァイオリン・ソナタ集(全6曲) /ミシェル・マカルスキ(ヴァイオリン)、キース・ジャレット(ピアノ)」(ユニバーサル ミュージック、ECM UCCE-7528〜9〈2枚組・直輸入盤〉)
 ジャズ界の大物キース・ジャレットが伴奏するJ.S.バッハのヴァイオリン・ソナタ全集である。ジャズ界にはこのジャレットのほかにクラシックを手がけている大物にチック・コリアがいる。この二人のクラシック・ピアニストとしての力量は並ではない。しかし上手いのだが、聴いているとどうしても一寸したところでジャズ的なパッセージが見え隠れするところもある。CD添付のリーフレットにはスタジオで撮ったジャレットの3枚の写真があるが、何となく真面目で緊張気味なクラシックのピアニストの風情である。この写真を見ながら聴いていると何となく暖かいムードが拡がってきて、微笑ましい気持ちになってくるから不思議である。因みにヴァイオリンのミシェル・マカルスキはナタン・ミルシュタインに師事し、バロックからアメリカ現代音楽までの広いレパートリーを持っている。(廣兼 正明)

Classic CD Review【器楽曲 (ヴァイオリン&ピアノ)】

「ヤッシャ・ハイフェッツ/ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第9番イ長調 Op.47《クロイツェル》、J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番 ニ短調 BWV1004〜シャコンヌ/ヤッシャ・ハイフェッツ(ヴァイオリン)、エマニュエル・ベイ(ピアノ)」(ユニバーサル ミュージック、TBSヴィンテージ・クラシックス TOGE-11111)
 このハイフェッツと次のグリュミオーの2枚のCDは、戦後たった1回づつの来日の折に、ラジオ東京(現・TBS)から放送された二人の巨匠の貴重なテープ音源からCD化されたものである。幸せなことに筆者はこの二人の来日時のコンサートを聴くことが出来た。当時既に日本のファンの間では神格化されていたハイフェッツの場合、学生向け特別演奏会の安価なチケット(それでも今の貨幣価値に直すと1万5千円位だろう)を、徹夜で並んでようやく入手したことなどを思い出しながら聴いてみた。
 この録音は当時としては予想外な音の良さに驚く。最初の故・村田武雄氏の解説に続き、クロイツェル・ソナタが始まる。第1楽章ではその鋭いボウイング、そして音程の良さと速さが重なって、まさに鬼気迫るものを感じさせる。 この音を聴くと、彼はこの頃名器ストラディヴァリウスの「ドルフィン」を既に所持していたのではないだろうか。そして彼の本領は何と言っても次のバッハの無伴奏パルティータ第2番の終曲シャコンヌにある。弾きながら弦の張りを調節できるバロック弓でなく現代の弓を使ってのダブル・ストッピングの完璧な運弓法は素晴らしいを通り越している。そして速いパッセージではスピッカートを多用することなど、常に完璧であることを求めるハイフェッツの性格と言おうか、これが彼の信念なのである。来日は円熟の極みとも言える53歳だった。
 このCDを聴くとハイフェッツの持っている、曲に対するしたたかとも言える追求心がそのままこちらに伝わってくる。ハイフェッツが苦手な人にもこのシャコンヌはお薦めである。(廣兼 正明)

Classic CD Review【器楽曲 (ヴァイオリン&ピアノ)】

「アルテュール・グリュミオー/ヴェラチーニ:ヴァイオリンと低音のためのソナタ イ長調 Op.1-7、ドビュッシー:ヴァイオリン・ソナタ ト短調、ラヴェル:ハバネラ形式の小品、バルトーク:ルーマニア民族舞曲、フィォッコ:アレグロ、ムソルグスキー:ホパーク(「ソローチンツィの定期市」より) / アルテュール・グリュミオー(ヴァイオリン)、イストヴァン・ハイデュ(ピアノ)」(ユニバーサル ミュージック、TBSヴィンテージ・クラシックス TOGE-11112)
 ハイフェッツに遅れること7年、ウジェーヌ・イザイが興したフランコ・ベルギー派の若手頭グリュミオーが1961年39歳の時に来日した。その端正な演奏スタイルと明るく美しい音色は当時世界中で絶大な人気を博していたが、来日がこの1回だけだったのは残念である。そしてこのCDは大阪のフェスティヴァルホールで録音されたもので、当時の録音としては若々しく豊麗なグリュミオー・トーンが余すところなく捉えられている。この日のプログラムにはバッハのシャコンヌも入っていたのだが、このCDの収録時間が35分半という短い時間なので、恐らくオリジナル・テープの状態が良くなかった等の問題があって残念ながら収録出来なかったのだろう。
 最初のヴェラチーニのイタリアン・バロックでの明るい音、ドビュッシーとラヴェルでは運弓法を変え印象派の色彩を出し、バルトークはルーマニアの田舎の土の匂いがする民族的な踊りをポルタメントで表現したりして、多彩な技を披露するなどグリュミオーの真価を発揮した。そしてアンコールでは普通殆ど弾かれることのないフィオッコのアレグロが登場、グリュミオーは子供の頃ヴァイオリンを習っていた人たちに懐かしい曲のプレゼントを忘れなかった。(廣兼 正明)

Classic CD Review【宗教曲】

「プーランク:スターバト・マーテル、グローリア、黒い聖母への連_ /パトリシア・プティボン(ソプラノ)、パーヴォ・ヤルヴィ指揮、パリ管弦楽団合唱団、パリ管弦楽団」(ユニバーサル ミュージック、ドイツ・グラモフォン UCCG-1644)
 エスプリに溢れた曲で人気のあるプーランクが書いた宗教音楽が、今やフランス一番の人気ソプラノ、パトリシア・プティボンと、フランスを代表するオーケストラ、パリ管弦楽団、そして指揮に時代の寵児パーヴォ・ヤルヴィを得て、ここに贅沢なキャストの揃い踏みとなった。
 グローリアの最初の音を聴いただけでパリ管弦楽団の洒脱なプーランクの音の虜になってしまう。始めてプーランクのグローリアを聴いた人にはこれが宗教音楽?となってしまうだろう。事実大いに楽しめる宗教音楽なのだ。そしてこの第3曲「神なる主、天の王」で現在フランス最高のソプラノ、プティボンの登場である。この辺まで来るとやっと宗教音楽であることに疑問を持たなくなるだろう。ヴィブラートを掛けないクロマティックな音階にもプティボンの本領が見えてくる。オーケストラと女声合唱による透明度の高い「黒い聖母への連_」は一転して美しい宗教音楽のハーモニーとなる。そしてこのCDの最後、12曲からなる「スターバト・マーテル」はプーランクの書いた宗教音楽の代表作だが、厳かなムードが横溢する第1曲からプーランク独特のエスプリを感じる。第6曲、第10曲と最後の第12曲にプティボンが登場するが、透明感のある彼女の声質はプーランクには欠かせないのは勿論だが、今回共演しているパリ管、パリ管合唱団、そして指揮のパーヴォ・ヤルヴィの何れが欠けてもこの名演は実現しなかっただろう。満足度の可成り高いCDである。(廣兼 正明)

Classic CONCERT Review【室内楽(弦楽四重奏)】

「Classic+Jazz エベーヌ弦楽四重奏団 革新×伝統 衝撃のHakujuデビュー!」 9月21日 Hakuju Hall
 エベーヌ弦楽四重奏団は1999年にフランスで結成された。2004年にミュンヘン国際音楽コンクールで優勝し、2006年から2年続けてラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン出演のため来日している。ぼくは残念ながらそれを見逃してしまったが、とても異彩を放つ弦楽四重奏がいる、という評判は伝わってきた。いわゆるクラシックに分類されると思うが、メンバー自身はとくにジャンルに対するこだわりはないようだ。また、4人とも学生時代にジャズを専攻していた経歴を持っている。Hakuju Hallでのライヴは二日間にわたって行なわれたが、二日目にはジャズの曲目も演奏され、大評判だったという。ぼくが見た初日で、圧倒的に光っていたのはバルトークの「弦楽四重奏曲 第 4 番」。この曲ってこんなにポップだったっけ、と改めて考えてしまうほど歯切れよくスポーティな解釈に、胸のすくような気分を味わった。(原田 和典)

Classic CONCERT Review【バロック音楽(弦楽合奏)】

「古典音楽協会 第148回定期演奏会 【創立60周年記念Ⅱ】」9月27日 東京文化会館小ホール
 台風20号一過、やっと爽やかな秋空の広がった上野で、温かい演奏会があった。故三瓶十郎氏が創立した室内楽を60年継続した記念の二回目の会である。曲はヘンデルの「合奏協奏曲二長調」から始まり、聴きものは、テレマンの「管弦楽組曲《食卓の音楽第三集》」Vn角道徹、新谷絵美、Ob石橋雅一、長谷川洋介、であった。後半はエマヌエル・バッハのチェンバロ協奏曲」で、Cem佐藤征子は困難な曲を難なくこなしていた、さすが作曲家の求める新しく若々しい響がした。ヴィヴァルデイの「リコーター協奏曲」Rec片岡正美は速いパッセイジを無難にこなしていた。同「四つのヴァイオリンの協奏曲」Vn中藤節子,山元操、今村恭子、石橋敦子、Vc重松正昭は音色が美しかった。コンサートマスターの角道徹はやっと肩の荷を下ろしたかのような、楽しい演奏をした。アンコール、パッへルベルの「カノン」では会場が盛り上がった(斎藤 好司)

Classic CONCERT Review【器楽曲(トランペット)】

「日本・ベネズエラ外交樹立75周年事業 エル・システマ フェスティバル 参加公演 フランシスコ・フローレス トランペット・リサイタル」 10月8日 Hakuju Hall
 愛称“パーチョ”。1981年ベネズエラ生まれの才人、フランシスコ・フローレスが来日した。ぼくはトランペットの響きが好きなので、それがマイクもPAもない生の状態で味わえるというだけでも嬉しくなってしまうのだが、フローレスの奏でる音色の艶、豊かな表情、細やかなニュアンスには、文字通り時間を忘れて聴き惚れてしまった。トランペット、コルネット、ピッコロ・トランペット、フリューゲルホーンを曲によって吹きわけ、ピアノとのデュオだけではなく無伴奏ソロも披露。しかもリズムの乗りが抜群で、強力なシンコペーションを感じさせる。ビブラートのかけ方を変えれば、今すぐにでもジャズやポップスの世界で活躍することができるだろう。楽曲も多彩そのもの、A.S.ペドロ作「1969」ではマイルス・デイヴィスばりの“芯抜きハーマン・ミュート”によるプレイまで堪能させてくれた。(原田 和典)

Classic CONCERT Review【オーケストラ】

「東京交響楽団第614回定期演奏会」 10月13日 サントリーホール
 ユベール・スダーンの任期切れに伴って、2014年度のシーズンからバンベルク交響楽団をはじめとして、世界の数多くのオーケストラ、ザルツブルク音楽祭を初めとする世界の音楽祭に定期的に出演するなど豊富なキャリアを持つイギリス人指揮者、ジョナサン・ノットが東京交響楽団の音楽監督を引き継ぐこととなった。10年に亘ってスダーンが描き上げたキャンバスを、今後どのような色合いにしていくのかが楽しみである。この日はこれからのオーケストラとの相性を占う上で大切な演奏会である。
 当日のプログラムはR.シュトラウスの2曲、ソプラノのクリスティーネ・ブリューワーによる「4つの最後の歌」と「アルプス交響曲」、音楽監督デビュー予告のプログラムとしては上手く選んだと思う。最初の4つの歌曲では、オペラのアリアとは異なる歌のオーケストラ伴奏という難儀なジャンルに少し手こずったのではないだろうか。ブリューワーの声の極端なダイナミックスの差がオーケストラとマッチしていないので、聴く耳が声の強音に耐えられなかった。しかしメインのアルペン・シンフォニーは聴衆に素晴らしい印象を植え付けることに成功した。弦も管も今までのオーケストラとは異なる充実した音を聴かせ、この指揮者とオーケストラの関係が堅い絆で完全に結ばれた。次回以降が楽しみである。(廣兼 正明)

Classic CONCERT Review【器楽曲(ピアノ)】

「マレイ・ペライア ピアノ・リサイタル」 10月15日 すみだトリフォニーホール
 米国ニューヨーク出身のギリシャ系ユダヤ人。大英帝国勲章第二位の受章者でもあるマレイ・ペライアが待望の再来日を果たした。指揮者としても著名な彼だが、今回はいちピアニストとしての登場。J.S.バッハ、ベートーヴェン、シューマン、ショパンといった大巨匠の曲を次から次へと弾いていくのだが、雄大にして重量感を感じさせるタッチは広いトリフォニーホールのすみずみまで響き渡り、気合いを入れているのだろう、ときおり発する「ウッ」という声が聴く側の興奮を倍化させる。何百年も前に譜面という紙の上に書かれた音符が、今、息を吹き返して、現在形の響きとなって届いてくる。長く手指の故障に苦しんでいたといわれる彼にとって、休憩をはさみつつも約2時間のソロ・コンサートはそれなりにヘヴィーな体験ではあっただろう。しかしプレイは鮮やかのひとことに尽きた。「台風の中、それでも足を運んで本当に良かった」と、全リスナーが満足したに違いない。(原田 和典)

Classic CONCERT Review【吹奏楽】

「東京佼成ウインドオーケストラ 第116回定期演奏会(巨匠、飯守泰次郎によるオール・ワーグナー・プログラム)」10月18日 東京芸術劇場コンサートホール
 ワーグナーの壮大なオペラのエッセンスを満喫できる演奏会があった。バイロイト音楽祭でチーフアシスタントとして三カ月間ぶっとおしで取り組んだりした経験を持つ飯守は、この日の全てのプログラムのスコアを置かず、常に演奏者に直接的確な指示を発していた。良かったのはオーケストラのために書かれた曲を吹奏楽でも再現できた、ということではなく、指揮者の体に染み付いたワーグナーの音楽が、高い技術を持った佼成ウインドオケによって演奏された、ということである。奏者も全身全霊を楽器に込めてこれに応えていた。また普通のオペラのステージでは聴き流してしまうような旋律の美しさに改めて気づかされることも多かった。特に「ローエングリンよりエルザの大聖堂への行列」の中のオーボエとクラリネットの美しい音色は素晴らしいものであった。。他のプログラムでは「さまよえるオランダ人より序曲」「トリスタンとイゾルデより前奏曲と愛の死」「タンホイザーより祝祭行進曲」「神々のたそがれより葬送行進曲」「ジークフリートより森のささやき」「ニュールンペルクのマイスタージンガーより第1幕への前奏曲」などであった。(斎藤 好司)

Classic CONCERT Review【器楽曲(ヴァイオリン)】

「前田朋子:バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ全曲演奏会(前半)」10月20日 建長寺 法堂
 ウィーンに拠点を置きヨーロッパを中心に活躍するヴァイオリニスト前田朋子の地元凱旋コンサートは、冷たい雨が降りしきる古都鎌倉 建長寺 法堂にて、小泉淳作筆の雲竜と千手観音坐像に見守られながら「バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第2番イ短調とパルティータ第2番ニ短調、第3番ホ短調」が演奏された。建長寺 法堂が成せる技なのか、敬愛するバッハが導くのか、前田朋子の落ち着きながらも鬼気迫る演奏は、音楽の神ミューズが舞い降りたかのように美しい調べを奏でていた。この日の演奏は、「音楽の父バッハと古都鎌倉」に加え、前田朋子がベトナム出身で世界的デザイナーのラ・ホンによる古き日本の着物をアレンジしたドレスを着用し、現在の名匠アンドレス・ヘリンゲにより前田朋子の為に作られた2009年製ストラディヴァリ1709年モデルを使用している事も、音楽だけでなく歴史や文化の古今東西の融合を感じさせる意味深いテーマとなった。時折叩きつける様な雨が、済まなそうに無伴奏曲の伴奏を奏でているようだった。(上田 和秀)