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「ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲、ロマンス、マズレック、ユーモレスク / アンネ=ゾフィー・ムター(ヴァイオリン)、マンフレッド・ホーネック指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団」(ユニバーサル ミュージック、ドイツ・グラモフォン UCCG-1641)
久し振りとなるムターの新譜。最初の協奏曲は情熱の籠もった力強い、如何にもムターらしい演奏である。第1楽章の遙かに高いポジションの強音にしても決して音を外さないポジショニングの完璧さは、聴いている方も気持ちが良い。次の第2楽章では一つ一つのパッセージでのフレージングでの気持ちの入れようが、さすがに聴き手をうならせるものを持っており、どの音一つとってもそこには意味があるようだ。第3楽章に入ると短調部分ではボヘミアの匂いを色濃く感じさせる。そして彼女の力一杯の演奏は聴く人に快い満足感を与えてくれる。後半3曲、最初の「ロマンス」は美しくも寂しさに溢れる郷愁の感じを上手く歌い、真ん中の「マズレック」ではあたかもリズミックなボヘミアの踊りの伴奏をしているかのようだ。最後は「ユーモレスク」であり、日本人の池場文美のピアノ伴奏に代わっているので、多分日本だけのボーナス・トラックではないだろうか。 この1枚で彼女の真骨頂を改めて知った思いがする。(廣兼 正明)
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