2013年11月 

  

Audio Blu-ray Disc Review

「カルメン」(ワ−ナーホームビデオ1000425544)
 フラメンコの巨匠アントニオ・ガデスが脚本・振付・主演し、『カラスの飼育』『血の婚礼』のカルロス・サウラが監督した1983年のスペイン映画。

 フラメンコの新作『カルメン』の主役探しは暗礁に乗り上げていた。舞踊団の看板舞踊手はベテラン過ぎて役のイメージに合わないのである。振付師アントニオの前に野生的で謎めいた一人の若いダンサーが現れる。娘の名もまたカルメン。アントニオは次第に娘の魅力の虜になり舞台の稽古と現実のドラマが次第に縺れ合っていく…。

 アントニオ・ガデス舞踊団の迫力ある舞踊の内側に映画のカメラが入り込み、従来のオペラ、映画とは異なる<第三のカルメン>が誕生した。着想的に特に優れているのは、ミカエラを登場させない点にある。ミカエラという役は言うならば、オペラ『カルメン』のフランスオペラとしてのアリバイである。フランス的な叙情的で端正なアリアを配することで一方のエキゾティクなスペイン風味を際立たせる役割を担っているのである。逆にいうと。ドラマとして見た場合、最初から邪魔なのである。

 本作ではミカエラのエピソードをすべて取り除いてしまった。その結果、ドラマに緊迫した淀みない進行が生まれ、やや冗長で散漫な五幕形式のグランドオペラ『カルメン』が一幕物の悲劇に生まれ変わった。

 本作の音声はDTS-HDマスターオーディオで2.0CHモノラル(スペイン語)一種のみである。しかし、歪なくきれいに収録されており、パコ・デ・ルシアのスパニッシュギター、フラメンコの歌声や足音も臨場感豊かで楽しめる。(大橋伸太郎)

Audio Blu-ray Disc Review

「さよならドビュッシー」(キングレコードKIXF-90153)
 『月の光』をモチーフにしたミステリー映画。コンサートピアニストになることを誓い合った従姉妹同士の少女の片方が祖父宅の火災で命を落とす。大やけどを負いながら生き残ったもう片方の娘・遥(橋本愛)は若いピアノ教師の指導の下、夢を叶えるために厳しいレッスンを続けるが、彼女の周りで不審な事件が起きる…。

 『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した小説の映画化だそうだが、何がすごいのか筆者にはよく分からない。展開は早々に読めてしまうし、異国で消息を絶った両親、祖父宅の火災と従姉妹の死という、主人公を見舞い運命を変える大事件が全体の謎解きに関連付けられていないので、ひどくこじんまりした話に終わっている。第一、中学卒業時点でブルクミュラーの「25の練習曲」を弾いている子にコンサートピアニストはムリである。

 つまり、内容はどうということはないが、本作の価値は別のところにある。音声がドルビートゥルーHDアドバンスド96/24アップサンプリングで収録されており、音質もサウンドデザインも日本映画として傑出している。

 CH05の主人公が子供時代の幻を見るシーンの移動表現は『パンズ・ラビリンス』を髣髴させ秀逸。子供が囁きあう声の弱音表現も素晴らしい。本作は5.1ch収録だがなるべく7.1CHにアップコンバートして聴くことを薦める。(大橋伸太郎)