2016年4月 

  

Audio Blu-ray Disc Review

「ラブ&マーシー 終わらないメロディー」(KADOKAWA DAXA-4932)
 今月東京(4月12、13日@東京国際フォーラム)で「ペット・サウンズ」全曲再現ライブを行うブライアン・ウィルソンの人生の最も困難な時期を描いた伝記映画。「スマイル」制作に挫折するまでをポール・ダノ、精神科医の支配下で復帰にもがく1980年代のブライアンをジョン・キューザックというタイプを異にした俳優のダブルキャストで演じる。
 1960年代前半の屈託ないサーフィンサウンドの時代は8mmあるいは16mmフィルムを模した質感の映像を挿入、ジェリービーンズのようなカラフルで甘美な色彩がノスタルジックだ。「ペット・サウンズ」制作期のカリフォルニアの風土と時代を感じさせる明美なトーンを引き継ぎながら次第にシリアスな人間ドラマの質感へ。クロマ濃度を高く設定した厚手の発色の映像だがその奥の解像感は豊か。
 映像よりサラウンドに注目したい。音声仕様はDTS-HDマスターオーディオ5.1ch/2.0ch(英)にコメンタリー(英)が加わる。
 プレッシャーとドラッグで精神を蝕まれて行くブライアンの内圧とドラッギーな幻聴をSEとサラウンドで巧みに表現する。音声スペックは通常の48kHzだがクリアでS/Nに優れる。劇中の楽曲の大半はビーチ・ボーイズのオリジナルではなく主演のポール・ダノが歌っている。(大橋伸太郎

Audio Blu-ray Disc Review

「Dearダニー 君へのうた」(KADOKAWA DAXA-4937)
 昔のヒットの遺産でルーズな生活を送る初老のロック歌手。デビュー時の彼の元に「届かなかった」ジョン・レノンからの励ましの手紙を四十年後になって初めて読んだのをきっかけにグルーピーに生ませた息子と初対面、再起までの悪戦苦闘を描くヒューマンドラマ。
 アル・パチーノという俳優は表情演技の達人でへこんだ時の曇った表情、虚勢を張っている時のポーカーフェイスが上手い。「セント・オブ・ウーマン/夢の香り」以来のノンシャランな不良老人役アル・パチーノに尽きる映画。
現代アメリカのセレブ生活と浮薄な風俗を描いているが、過度な色彩調整を避け人肌をナチュラルに描写するグレーディング。明るくハイコントラストなはりのある映像は解像度も高くディテールが濃やか。スクリーン大画面でも4K液晶テレビでも楽しく見られる良好な画質だ。
 音声仕様は、DTS-HDマスターオーディオ5.1ch(英)、2.0ch(日)。音楽がモチーフの映画だがハイレゾではなく通常の48kHzに止まるのは、挿入されるジョン・レノンの楽曲がカバーでなくオリジナル音源だからか。逆にサラウンド再生の場合LFEが加わると違和感を覚えることも。(大橋伸太郎

Audio Blu-ray Disc Review

「ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール」(アットエンタテインメントTCBD-0519)
 ザ・スミスやベルセバを生んだスコットランドのグラスゴーが舞台の青春音楽映画。心身を病んだ娘が身辺の出来事やときめきを歌に変える才能を発揮、バンドを結成し自らが進むべき道を見いだすまでの一夏の自己回復の物語。
 そう銘打ってはいないが感情が高まると主人公が自然に想いのたけを歌い出すれっきとしたミュージカル。ポール・マッカートニーやエルトン・ジョンを連想させる英ポップスらしいシンプルで素朴な楽曲ばかりだ。楽曲の大半を主演のエミリー・ブローニングが歌う。
 映像は敢えてシーン毎に画質設定の変化を付けている。主人公が病院に引き蘢っている冒頭はややくすんだ色彩設定だが、バンドを結成し自己開放のきっかけを掴むと窓が開かれたように明るくクリアでカラフルな映像へ。途中8mm/16mmシネフィルムの質感とノイズを取り入れたり変化と工夫に富む。スクリーン大画面でも液晶テレビでもノープロブレムの高画質。
 音声仕様は英語音声一種類に止まるが、リニアPCM48kHz/24bit/5.1chで収録。技巧的なサウンドデザインではないがサラウンドがミュージカルシーンに豊かな効果を生む。(大橋伸太郎