2015年9月 

  

Audio CD Review

「ギター・イン・ザ・スペース・エイジ/ビル・フリゼール」(SMJ)
 新譜の発売は2014年10月なのでいささか過去形になるが、まだ聴いてない人のために、ビル・フリゼールのCDアルバム「ギター・イン・ザ・スペース」を紹介してみたい。
 というのもこのアルバムの中に、ビーチボーイズのヒット曲をカヴァーした「サーファー・ガール」が収録されているからだ。夏真っ盛りの時期も過ぎ去ろうとしているので、タイミングとしては少しばかり機を逸しているかもしれないが、この夏にいいことのなかった人は、波音が聴こえてきそうな爽やかさと、砂浜を吹き抜ける涼しそうな風の音が目の前に広がる感じを楽しんでほしい。
 このアルバムはジャズシーンで活躍するビルが、音楽に目覚めたであろう60年代にラジオから流れていたポピュラーソングを中心に当時のミュージシャンに敬意を捧げて制作したものである。1曲目のパイプラインは日本ではベンチャーズの演奏が有名だが、見事なまでにビル流にアレンジされ、彼がプレイするとこんなにまで長閑になるのかと感心させられた。
 アルバムにはペダル・スティールの盟友グレッグ・リースがゲストで加わり彩を添えているが、演奏だけでなく録音のクォリティも抜群に高い。だからこのアルバムの楽曲を聴いて良い音がしないシステムは、きっとどこかに欠陥があるのだと思う。そうした意味でも興味深い作品だ。
 ラストはアルバムタイトルにもあるスペース・ミュージック、トルネードスのヒット曲「テルスター」がフィーチュアされている。1962年に米国のNASAが打ち上げた通信衛星テルスターを使いAT&Tがパリから米国への衛星放送の成功を受けて作られた楽曲だが、ビルの演奏はオリジナルを彷彿とさせる心地よいアレンジ・バージョン。夏の夜空を見上げるのに持ってこいの曲である。
 CDのほかにもLPレコードがリリースされている。厳密にはアナログレコードではなくデジタルレコードだが、このジャケットがたまりません。これこそアートと呼ぶにふさわしい。ハイレゾもいいけど、こんな芸当はレコードにしかできませんねぇ。(潮 晴男)