2014年5月 

  

Audio Blu-Ray Disc & DVD Review

「変身 METAMORPHOSIS 英国ロイヤル・バレエ団」(オーパスアルテOABD7137D)
 カフカの『変身』のバレエ版。2011年英ロイヤル・バレエがロイヤルオペラハウスの中規模劇場リンバリー・スタジオで上演した舞台のビデオグラム化である。

 今回、ロイヤル・バレエの男性舞踊手エドワード・ワトソンのためにアーサー・ピタが演出と振付を行った。ワトソンあっての新プロダクションというわけである。舞踊的要素は希薄でパントマイムに近く、ワトソンの柔軟な身体能力を活かした演技は中国の曲技を思わせる。

 カフカの小説の特徴として客観的で透徹した描写が挙げられる。ワトソンの「虫」としての生物的なリアリティ豊かな具体に富んだ演技はまさにカフカの文体を身体表現に置き換えたもので、表現の方向がピタリ一致している。この時点でこのプロダクションは成功したも同然である。

 一貫して白基調の舞台に照明で明暗の深いコントラストを作っているが、後半ザムザが黒いタール(体液)にまみれて舞台を汚す生理的感覚(嫌悪感)に訴える演出も優れている。

 本作は明暗効果が演出の基本にある。ディスプレイのコントラストのダイナミックレンジの試金石。白ピーク伸長機能を持った直下型LEDバックライトの液晶テレビが本領を発揮しそうだ。音声形式はリニアPCM(48bit)とDTS−HDマスターオーディオ5.1CHの二種。(大橋伸太郎)