2013年10月 

  

Audio Blu-ray Disc Review

「ロッシーニ:歌劇《バビロニアのチーロ》 ロッシーニ・オペラ・フェスティバル2012」(オーパスアルテOABD7123D)
 ロッシーニ・フェスティバルでの2012年の上演記録。旧約聖書に題材を採ったオペラセリエでロッシーニ20歳の作品。上演機会の非常に少ない作品だが、日本語字幕が選択できるのは賞賛に値する。初見で理解に痛痒ない鑑賞が楽しめた。

 バビロニアとの戦いに敗れ妻子を連れ去られたペルシャ王チーロ(チュロス)が使者に変装して交渉に向かうが、王妃の美しさに魅了されたバビロニア王は返還に応じないばかりかチーロの変装を見破ってしまう。バビロニア王は恐ろしい神託に我を忘れ、妻子共々処刑場に向かうが、軍勢が駆けつけ開放される物語。

 ダヴィデ・リモーモアの演出は映画創成期の無声映画館に舞台を設定、歌手達が白黒サイレントの映像から抜け出し観客(合唱団)を前に歌い演技する。モノクロ映画の古風なコスチュームプレイという設定で歌手陣の衣装はクラシックかつモノトーンで統一されている。加えて舞台装置にフィルムの傷を投射する凝り様。解像度、鮮鋭度は非常に高く、音質も鮮明かつクリア。

 流石に歌唱水準は高いが、チーロを歌うコントラルトのエヴァ・ボドレシは地声と裏声が違いすぎの響きのつながりが悪くむらに感じさせる。バビロニア王のマイケル・スパイレス(美声)、チーロの妻アミーラ役のジェシカ・プラットは安定した歌唱。

 音声はリニアPCM ステレオとDTS-HD Master Audio 5.1chサラウンドの二種。(大橋伸太郎)

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「カストラート」(キングKIXF90165)
 美貌の去勢歌手の人生と野望をほろ苦く描いた1995年の名作の初BD化。凡庸な作曲家の兄と当代を代表するヘンデルの引力の間で揺れ動くファリネッリの苦悩がストーリーの中心だが、本作の公開当時、バロックオペラは現在のように注目を集めていなかった。

 本作の企画の背景には『アマデウス』の世界的成功が作用していたと推察される。映画の出来自体は及ばないが、音楽ファンへの影響力という点では『アマデウス』に比肩あるいはそれ以上の作品である。ヨーロッパ各国でかくもバロックオペラ上演が隆盛でも日本でヘンデルやカヴァッリがさっぱり上演されないのは、客が入らない(採算が取れない)と決め付けているからである。本作のBD化が一石を投じればよいのだが。

 現代にカストラートは存在しないので、本作の歌唱はソプラノのエヴァ・ゴドレフスカとカウンターテナーのデレク・リー・レイギンの声をサンプリング合成した。それと主演俳優(ステファノ・ディオニジ)のクチパクが合っていないのが気になるが、ドルビートゥルーHDアドバンスド96/24アップサンプリングを採用、歌唱もピリオド楽器の鮮鋭な音色も歪みなく収録し、歌劇場のホールトーンを再現して心地よく響く。(大橋伸太郎)