2016年5月 

  

永田文夫さんを悼む・・・・・ 鈴木道子
 永田文夫さんが急逝された。永田さんはミュージック・ペンクラブ・ジャパン元会長であり、一昨年、その前年、総会で名議長ぶりを発揮されたことを覚えていらっしゃる方も多いと思う。やや問題のあった時期の議長だったが、鮮やかに議事を進められ、本人は「面白かったよ」などと言って、あの穏やかで楽しげな笑顔をみせていらした。丁度今から50年前の1966年、MPCJの前身だった音楽執筆者協議会の設立メンバーとしても活躍された。

 永田さんは1927年、大阪市生まれで、京大を卒業されて間もなく上京され、月刊「シャンソン」を刊行されたが、シャンソンのみならずタンゴ、ラテン、カンツォーネにも精通しておられ、それらの名曲とレコードについて多くの著書があり、音楽関係者はみな辞典がわりに愛用していた。また訳詞家としても優れた才能を発揮され、日本のシャンソン歌手で、彼の訳詞で歌ったことがない人は一人もいないのではないか。特に岸洋子が歌って大ヒットとなった「恋心」は素晴らしく、「愛の讃歌」「暗いはしけ」ほか優れた歌詞で多くのファンがいる。

 日本訳詞家協会現会長として長年職務を達成された。80歳を過ぎられてもシャンソンの講座で精力的に全国を回られたり、放送や特に若い女性歌手を育てることにも情熱を注いでおられた。タンゴ界の女王前田はるみさんは奥様。「永田文夫卒寿記念」のポピュラー音楽祭が5月18日から行われる直前の13日、突然この世を去られた。生涯現役の89歳。死因は虚血性心不全だった。日本の音楽界のリーダーを失った哀しみは大きい。いずれ「お別れ会」が開かれる予定。遺稿となった「シャンソン・カンツォーネ・ラテン永田文夫訳詞集」も刊行される。天国でも大好きな温泉につかってのんびり過ごしてください。ご冥福をお祈り致します

業界内453人が選んだプリンスの69曲・・・・・ 上柴とおる
 プリンス(1958年6月7日−2016年4月21日)にとって今年は初来日公演から30周年という記念の年になるはずだった。1986年9月3日、総勢26人のプリンス一行を乗せたエール・フランス274便が大阪国際空港(伊丹市)へ到着したのは午後4時25分。プリンスが初めて踏んだ日本の地は大阪で、公演は9月5日(〜6日)の大阪城ホールからスタートしている。来日時の様子や初日の公演評(産経新聞に執筆)等は是非、当方のブログ(4月22日に投稿)をご参照願いたい。◇http://goo.gl/YTF3py

 「ビートに抱かれて(When Doves Cry)」(1984年:No.1)「レッツ・ゴー・クレイジー」(同年:No.1)「パープル・レイン」(同年:2位)「ラズベリー・ベレー」(1985年:2位)「KISS」(1986年:No.1)と飛ぶ鳥を落とす勢いをそのまま持ち込んでの初来日公演。'旬'そのものだった。振り返ればアルバム「1999」(1982年)を機にプリンスは一気に大衆的なマーケットに入り込んで来たという印象だが、シンセ・ポップなサウンドが主流となっていた80年代と波長が合うだけではなく、幅広い音楽性をべースにした曲作りにおける独創的なセンスと時代を駆け抜けようとするかのような心地好い疾走感を伴って大きな潮流となった。そしてシーラ・E、ザ・タイム、アポロニア6、ヴァニティ6、アンドレ・サイモン、ジェシー・ジョンソン、タジャ・シヴィル、ジル・ジョーンズ、タイカ・ネルソン(実妹)といった彼を取り巻く'ファミリー'ともども一大勢力となり一時期、時代を紫色に染め上げた。

 そんなプリンスは'業界'内にも多くの熱心なファンを生み出した。今から23年前になるが、日本での発売元であるワーナーミュージック・ジャパンが新曲も収めたプリンスのベスト盤2枚「ザ・ヒッツ1」「ザ・ヒッツ2」、そしてこれにシングルのB面曲を集めたアルバムを加えて3枚組にした「ザ・ヒッツ&Bサイド・コレクション」を一気にリリースした際、そのプロモーション企画として全国の'音楽業界人'を対象に「プリンスのレパートリーの中で一番好きな曲はなんですか?」という一大アンケートを実施した。その投票結果を基に選出された上位10曲を収録した非売品のCD「My Name Was Prince」(当時名前を'例のマーク'にしていたので過去形に)が作られ、業界内に配布された。添付のパンフレットにはその結果が1票分まですべて掲載されている。しかも投票者の名前と所属、肩書等も(誰がどの曲に入れたかモロわかり♪)。ラジオ局員、制作会社ディレクター、音楽雑誌編集者、DJ、音楽評論家、。。。数えてみたら何と総数453人。投票された作品が計69曲!(1票が28人も)。これだけ'バラけて'いたということはプリンスに関しては一家言持つというか、選曲に'凝りたい'業界人がいかに多かったかと。全結果を上から順に掲載しておこう。

【81票】パープル・レイン【40票】リトル・レッド・コルベット【37票】1999【33票】レッツ・ゴー・クレイジー」【28票】ビートに抱かれて【22票】ラズベリー・ベレー【21票】KISS【17票】ウォナ・ビー・ユア・ラヴァー【12票】ナッシング・コンペアーズ・トゥ・ユー【11票】ポップ・ライフ【10票】「ドゥ・ミー・ベイビー」【8票】「7」【7票】「ダイ・フォー・ユー」【6票】「フィール・フォー・ユー」「バットダンス」「戦慄の貴公子」「サイン・オブ・ザ・タイムス」【5票】「ピーチ」「ダイアモンド・アンド・パールズ」「ダム・ユー」【4票】「アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ」「クリーム」「セクシュアリティ」「スノウ・イン・エイプリル」「デリリアス」【3票】「フリー」「マウンテンズ」「マイ・ラヴ・イズ・フォーエヴァー」「レディ・キャブ・ドライバー」「アルファベット・ストリート」【2票】「アナザー・ロンリー・クリスマス」「アメリカ」「ガールズ&ボーイズ」「クレイジー・ユー」「シーヴス・イン・ザ・テンプル」「ソー・ブルー」「ソフト・アンド・ウェット」「ストローリン」「テイク・ミー・ウィズ・ユー」「マネー・ドント・マター・トゥナイト」「エロティック・シティ」「グラム・スラム」【1票】「アドア」「アースクェイク」「アナ・ステシア」「アナザー・ラヴァー」「インターナショナル・ラヴァー」「ゲット・オフ」「君を忘れないで」「グラフィティ・ブリッジ」「ゲット・アップ」「スキャンダラス」「スロー・ラヴ」「スウィート・ベイビー」「SEXY MF」「シーズ・オールウェイズ・イン・マイ・ヘー」「ザ・クロス」「ストレンジ・リレーション・シップ」「スターフィッシュ&コーヒー」「サンダー」「ドロシー・パーカーのバラッド」「ダディ・ポップ」「ニュー・パワー・ジェネレーション」「バンビ」「ペイズリー・パーク」「モーニング・ペーパーズ」「ユー・ガット・ザ・ルック」「LOVE SEXY」「レッツ・ワーク」「マイ・ネーム・イズ・プリンス」。

 業界でもこんなに熱く愛されていたプリンス。それだけに突然の訃報がいかに衝撃的だったかは想像に難くない。

 ちなみに私自身は1960年代後期の'サイケ・ポップ'感覚を思わせる最も好きなヒット曲「ラズベリー・ベレー」を選んだのだが、今またアンケートが行なわれたならば1996年に'ジ・アーティスト・フォーマリー・ノウン・アズ・プリンス'名義で出された3枚組CD「イマンシペイション」からの曲「ラ・ラ・ラ・ミーンズ・アイ・ラヴ・U」に投票しようと思う。私にとっては生涯一番の大名曲で、フィラデルフィア出身のザ・デルフォニックスが1968年に放った大ヒット(米4位)のカヴァーである。プリンスはこのスウィート・ソウルの歴史的な名作を意表を突くようなこともせず、素直に慈しむように歌い上げる。当時「彼の原点はこれか♪」と大いに感動させられたのだが、この1曲を聴くだけでもプリンスと'出会って'良かった、とつくづく思う。57歳。合掌。

10年ぶりに 「グランド ホテル」 日本上演・・・・・本田悦久 (川上博)
☆ウィーンの作家ヴィッキー・バウムの小説に基づく映画「グランド・ホテル」(1932年、グレタ・ガルボ、ジョン・バリモア、ライオネル・バリモア共演) が、1989年にステイジ・ミュージカルになった。

ロバート・ライト&ジョージ・フォレスト作詞・作曲、モーリー・イェストン補作のミュージカル「グランド ホテル」を初めて観たのは1989年12月17日、ブロードウェイのマーティン・ベック劇場。同行者は東宝の前田忠彦さんだった。

あれから26年余・・・その間に筆者が観たのは、ベルリン(1991)、アメリカのツアー・カンパニーによる新橋演舞場 (1991)、宝塚月組の東京宝塚劇場公演 (1993)、東京国際フォーラム (2006)、そして今回の赤坂ACTシアター (4月9日-24日、筆者の観劇日は11日のGreen チーム)。

「グランド ホテル」の演出は、ブロードウェイ、ベルリン、新橋演舞場、そして宝塚も、トミー・テューンだった。2006年の東京国際フォーラムでの日本人キャストの時にグレン・ウォルフォードになり、そして今回の梅田芸術劇場主催の舞台、演出は「タイタニック」で手腕を発揮したトム・サザーランドとなった。

舞台は1920年代、ベルリンの豪華ホテル、グランド ホテルの宿泊客達の一夜を描いている。群像劇の代名詞にもなっている「グランド ホテル」だが、今回サザーランドは、メイン・キャストをGreenチームとRedチームの二つに分けて、役柄を掘り下げ、見応えのある舞台を創り出している。幕が開くと、出演者全員が次々に登場して、「グランド・パレード」を歌う10分間は圧巻で、観客をたちまち豪華ホテルの一員にしてしまう。

余命いくばくもない元会計士のオットー・クリンゲライン(G中川晃教 R成河)は、僅かに残された命を、貯金をはたいて豪華ホテルで過ごそうとやってくる。予約もすませてあるのに、高級ホテルには場違いな彼は、「空室はない」と、宿泊を拒否される。しかし、宿泊客のガイゲルン男爵 (G宮原浩暢 R伊礼彼方) の思いがけない口添えで宿泊が可能になる。死の重みに沈んでいたオットーの心に、男爵の親切が、ささやかな希望の灯をともす。若く優雅にみえる男爵は、実は多額の借金返済をギャングに迫られている。帝政ロジアで一世を風靡したバレリーナのグルシンスカヤ (G安寿ミラ R草刈民代) は、年をとり、今や落ち目で、何回目かの引退公演でも、人気は今一、もう踊らないと言って、金儲け目的のプロデューサーのサンドー (金すんら)、マネージャーのヴィット(杉尾真) 等を困らせる。グルシンスカヤの愚痴はいつものこと、秘書のラファエラ (G樹里咲穂 R土居裕子) が根気よく慰める。もう一人問題を抱えている客は、経営が傾きかけている会社の社長プライジング (G戸井勝海 R吉原光夫) は、ハリウッド・スターを夢見るタイピストのフレムシェン (G昆夏美 R真野恵里菜) を秘書に雇う。様々な客が泊まっている状況を見守るのはホテル所属の老医師 (G光枝明彦 R佐山陽規) と、死の象徴ともいえるスペシャルダンサー (湖月わたる)。彼女が舞台に立つ回数は少ないが、その存在感は強く観客に迫る。又、ボール・ルーム・ダンサーたち、そしてアメリカからやってきた二人組のエンタテイナー、ジミーズ (味方良介&木内健人) が華やかな雰囲気を盛り上げる。



ギャングに借金返済を迫られた男爵は、意を決してグルシンスカヤの部屋に忍び込み、彼女の宝石を盗もうとするが、グルシンスカヤに見つかる。だが、若き男爵は年の離れた彼女にひと目惚れ、男爵に本気で愛されて自信を取り戻したグルシンスカヤは、踊る気力を取り戻し、ベルリンでの引退公演に彼を伴い、出演する決心をする。経営が傾きかけている社長プライジング (G戸井勝海 R吉原光夫)は、ハリウッド・スターを夢見るタイピストのフレムシェン (G昆夏美 R真野恵里菜)を秘書に雇う。恋故に宝石を盗み損なった男爵は、プライジングの部屋に盗みに入ったところを見つかり、プライジングに射殺される。

一方、男爵の勧めで株を買ったオットーは、大金を掴んで大はしゃぎ。フレムシェンを誘って、パリに旅立って行く。たった一晩の間に、グランド ホテルで起きた目まぐるしい出来事は、人々の心に大きな変化をもたらすが、誰よりも大きく変わったのはオットー、人との出会いが彼を輝かせている。フィナーレでコンシェルジュのエリック (藤岡正明) が生まれたての我が子を大事に抱えて、客席を駆け抜けて行くのが象徴的な舞台となっていた。

ミュージカル・ナンバーは、いずれも四半世紀以上前の作品とは思えぬノリのよさで、観客を引っ張り続ける。全員で歌う冒頭の「The Grand Parade」、続く、オットーのGrand Hotel への憧れを歌う「Table With A View / At The Grand Hotel」、フレムシェンの「I Want To Go To Hollywood、踊り慣れないオットーとチャーミングなフレムシェンが歌い踊る「Who Couldn' t Dance With You」、オットーがお酒を飲んで、すっかり陽気になり、男爵と歌い踊る「We'll Take A Glass Together」は、ジミーズも加わり、まさに心躍る秀逸な場面。そして、ホテルの傍観者的な老医師が、孤独感をにじませて歌う「I Waltz Alone」は、心に響く。

公演は赤坂ACTシアター (4/9-24) の後、 愛知県芸術劇場 (4/27-28)、 梅田芸術劇場 (5/5-8) と続く。

写真: (C)GEKKO

本場ベルリンの「グランド・ホテル」・・・・・本田悦久 (川上博)
☆今回のヨーロッパの旅は、1991年4月15日から始まった。ロンドン・パラディアムで「ショウ・ボート」、オールド・ヴィック・シアターで「カーメン・ジョーンズ」、クイーンズ・シアターで「マタドール」、ドミニオン・シアターで「フォーティセカンド・ストリート」、パリへ移って、テアトル・モガドールで「コーラス・ライン」、ストックホルムのチャイナ・テアテルンで「アニーよ銃をとれ」、サーカス・テアテルンで「レ・ミゼラブル」。アムステルダムのテアター・カーレで「オペラ座の怪人」に出会った。

4月25日にドイツ入りして、ハンブルグのネウエ・フローラで「オペラ座の怪人」、そして待望のベルリンで、テアター・デス・ヴェステンズの「グランド・ホテル」、メトロポール・テアターの「ハロー・ドーリー!」となった。

テアター・デス・ヴェステンズの「グランド・ホテル」

☆時は1928年、所はベルリン。ここグランド・ホテルには、様々な人が来ては去り、人生を謳歌していた。この日の宿泊客は、老いの影に怯えるバレリーナのグルーシンスカヤ (レスリー・キャロン) と付き人のラファエラ (イザベル・ヴェイケン)、借金に苦しむ若いガイゲルン男爵 (フェルディナンド・フォン・プレッテンベルグ)、ハリウッド・スターを夢見るタイピストのフレムシェン (ミシェール・ベッカー)、アメリカの実業家プライジング (ロベルト・ディエトル)、義足の医師オッテルンシュラグ (F・ディオン・デイヴィス)、 死を目前に、豪華ホテルで余生を送ろうと有り金はたいてやってきたユダヤ人の会計士オットー (ヘルムット・バウマン)、等々。

ガイゲルン男爵は、盗みに入ったグルーシンスカヤの部屋で彼女に出会い、たちまち恋に落ちる。男爵の愛に触れ、グルーシンスカヤは、自信を取り戻す。しかし、プライジングの部屋に忍び込んだ男爵は、プライジングに見つかり射殺されてしまう。フレムシェンの明るさに励まされ、オットーも又、前向きな気持ちになっていく。たった一晩のホテルでの出会いが見つかり、人に与える影響はまさに計り知れない。

今回の「グランド・ホテル」は、上演されているのが、まさにご当地ベルリンというのがとても嬉しく、そして何より「巴里のアメリカ人」「リリー」「足長おじさん」「ジジ (恋の手ほどき)」等、数々の名作映画に出演してきたレスリー・キャロンがバレエ・ダンサーのグルーシンスカヤを演じているのが、忘れられない思い出となった。パリジェンヌのレスリー・キャロンがドイツ語で演じ、歌っているのが楽しかった。オープニングでレスリー・キャロンが舞台に現れると、彼女のオーラでそこはそのままグランド・ホテルになる。オットーはじめ、他の出演者も申し分なしの名舞台だが、終始レスリー・キャロンの存在感に圧倒される大満足な「グランド・ホテル」だった。

開演前にブロデューサー兼オットー役のヘルムット・バウマン氏に、色々と話を聞く機会に恵まれ、彼が舞台にかける情熱が良く分かり、更に舞台を楽しむことができて有難かった。

(1991.04.26. 記)


フレンチ・ミュージカル「1789−バスティーユの恋人たち」を観て
・・・・・本田浩子
4月12日、フレンチ・ロック・ミュージカルの「1789−バスティーユの恋人たち」を帝劇で観る。フランス革命のミュージカルといえば、宝塚のベルバラ、そして「レ・ミゼラブル」が代表作といえるが、既に宝塚で評判になったこのミュージカルが、帝劇版ではどうなるのか楽しみだった。

この大作ミュージカルは、ドーヴ・アッティアとフランソワ・シュクェが書いた脚本に、ロッド・ヤノワ、ウィリアム・ルソー、ジャン・ピエール・ピロ等、総勢12人の作曲家がミュージカル・ナンバーを作曲、ドーヴ・アティア、ヴィンセント・バギュアン、フランソワ・シュークェの3人の作詞家が詩をつけた。そして2012年10月に、パリで初演、好評を博し、スイス、ベルギーでもツアー公演を実現させている。

今回の舞台は、宝塚版同様、潤色・演出は小池修一郎、5月15日まで帝劇での上演で、続いて、梅田芸術劇場での公演が待っている。

幕が開くと、そこはフランス、マリー・アントワネット王妃 (花總まり/凰稀かなめ) をはじめ、貴族たちの贅沢三昧な生活のしわ寄せを受けて、人々の不満は限界に達していた。干ばつが続き、収穫がないのに、税金取り立ては厳しく、支払えない農民に、ロベール伯爵 (岡幸二郎) は、土地没収を言い渡す。そんな無謀に抗議をしたロナン (小池徹平/加藤和樹) は、ロベール伯爵の怒りを買い、伯爵の命で兵士たちが銃を放つ。しかし、犠牲になったのは、息子をかばったロナンの父 (立川三貴) ・・・怒りと悲しみを胸に、いつか土地を取り戻そうと、ロナンはパリをめざす。

パリに出てはきたものの、仕事もなく途方に暮れるロナンは、革命を起こそうとしている代議士のロベスピエール (古川雄大)、弁護士のデムーラン(渡辺大輔)、ダントン (上原理生) と出会い、彼らの世話で印刷所で働くことになる。無学のロナンと違いインテリの彼らが、本当に庶民の気持ちが分かるか疑問を持つが、彼らの「自由と平等」をという思想に共鳴して、仲間に入る。ロナンを追って妹のソレーヌ(ソニン)もパリにやってくる。

ひょんなことから、王妃とスウェーデ貴族のフェルゼン (広瀬友祐) の密会現場を目撃してしまったロナンだが、後をつけてきた兵士たちから、王妃を庇う侍女オランプ (神田沙也加/夢咲ねね) にひと目惚れしてしまう。しかし、ロナンは農民、彼を憎からず思うオランプは、貴族ではないものの、王妃に仕える身分、身分違いの恋がみのる日が来るのだろうか。

宮廷では、国王の弟アルトワ伯 (吉野圭吾) を筆頭に、貴族たちは仮想パーティでうつつをぬかし、財務長官のネッケル (立川三貴) は、国王に税を軽くするように進言するが、アルトワ伯の反対にあい、聞き入れてはもらえない。その後もネッケルは、革命から国と国民を守ろうと税の軽減を強く求めるが、解任されてしまい、故郷のスイスに帰る。いよいよ1789年、風雲急を告げる王宮では、アルトワ伯はじめ、亡命を計画する者も増え続けるが、王妃としての自覚に目をさましたアントワネットは、フェルゼンの誘いをきっぱりと断り、国王と運命を共にする。

生オケでなく打ち込みにのった、ロック「肌に刻み込まれたもの」「革命の兄弟」「叫ぶ声」他、バラード調「許されぬ愛」「世界の終わりが来ても」他の楽曲はどれも馴染みやすく、出演者全員の熱演もあり印象的だった。王妃とフェルゼン、ロナンとオランプの二組の恋人たちの場面は、かなりロマンティックに描かれているが、何といっても、革命直前のパリらしく、民衆の怒りを床に叩き付けるようなバトル・ダンスのシーンは圧巻。そして、革命の初の犠牲者は、オランプと故郷で暮らすのを夢見ていたロナン。ともすれば、重くなりがちなストーリーだが、王妃の動きを探る秘密警察員ラマール (坂元健児) の道化ぶりが、笑いを誘う。

余談だが、ロベスピエール、デムーラン、ダントンはいずれも実在した人物で、現実に革命に深く関わっていた。さすが本場フランスの作品だけに、力強い説得力があり、嵐のようなフランス革命に揺さぶられたひと時だった。

写真提供: 東宝演劇部

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