2016年5月 

  

Popular ALBUM Review


「HOMMAGE(オマージュ)/カンケ」(ユニバーサルミュージック:UICZ-4349)
 昨年12月号の当レビュー欄でも紹介させてもらった女性ポップ歌手MIKKOのアルバムの制作担当(プロデュース、アレンジ等)でもあったカンケが1990年代後半に仕上げながらお蔵入りになっていたアルバムが陽の目を見た。タイトル通りカンケ自身が愛する様々なアーティストへの'オマージュ'を込めて作られているが一聴してすぐに'わかる'ものの'原曲'が特定出来そうで出来なかったり。かなり高度なパロディー・センス、そしてきっちりと練り上げられたサウンド構成。山下達郎、大瀧詠一、ビーチ・ボーイズ、ビートルズ(実はラトルズへのオマージュとか)、ウィングス、カーペンターズ、S&G、フィル・スペクター/アラン・パーソンズ・プロジェクト。。。次から次へと、あまりの気持ち良さに(こちらも同様の趣味なもので♪)何回も何回もリピートしてしまった次第。言うまでもなく、ジャケットも「レア・マスターズ/幻のスペクター・サウンドVol.2」(1976年:ビクター)への'オマージュ'。(上柴とおる)


Popular ALBUM Review


「ザ・ブラックベリー・トレイン/ジェイムズ・マッカートニー」(ソニー・ミュージックジャパン インターナショナル:SICX-47)
 10代の頃から父ポールのツアーやアルバムに参加するなど音楽活動を始めるもファースト・アルバムを出したのは2013年で(すでに35歳)、この2作目が本邦デビュー作。'遅咲きのシンデレラ・ボーイ'がいよいよ開花宣言だ。風貌は父そのものだがポールやビートルズの面影を追うのは無意味なことだと納得させられる仕上がり('らしき'ところも一部にはあるが)。1960年代〜1980年代に聴いて来たような音楽がいろいろな形で見え隠れしてヘヴィー、サイケデリック、アコースティック。。。地道な活動が熟成して実を結んだかのようなアルバムで、年輩のうるさ型ロック・ファンにもアピールしそうな濃密さを感じさせるが、ザ・ナックの1stアルバム収録曲「リトル・ガールズ・ドゥ」も頭に浮かんだシングル曲「トゥー・ハード」(ダニー・ハリスン参加♪)のようなキャッチーさも魅力♪ (上柴とおる)


Popular ALBUM Review


「二つの魂 広田智之 vs トモ・ヒロタ / 広田智之 」 ( オクタヴィア・レコード / OVCC-00122)
 日本が世界に誇るオーボエ奏者広田智之の最新アルバム『二つの魂 広田智之 vs トモ・ヒロタ』は、プロ生活30周年を飾るに相応しい前人未到・前代未聞の作品となった。何とクラシック・ドイツ歌曲集とロッカバラード集と言う、誰も考えつかなかった2枚組みなのだ。ドイツ歌曲集は、シューベルト「冬の旅」、「美しき水車小屋の娘」、シューマン「詩人の恋」を中心に、一切アレンジせずにヴォーカル・パートをオーボエで再現するものだ。ピアニスト三輪郁とも息の合った絶妙な演奏(ヴォーカル)を聴かせる。ロッカバラード集は、誰もが知る有名な楽曲をキーボード奏者大久保治信が、素晴らしい感性で絶妙なアレンジを加えた傑作カバー集となった。特に、ピアノとオーボエのデュオによる「人間の証明」と完全にプログレッシヴ・ロックと化した「魔王」は、絶品である。この作品により、広田智之は誰も到達できない領域に達し、ジャンルなんて狭い世界に生きないミュージシャンとなった。どんなヴォーカリストよりも繊細且つ朗々と歌い上げる広田のオーボエに聴き惚れて欲しい。(上田 和秀)


Popular BOOK Review


「東京レコ屋ヒストリー/若杉実著」(シンコーミュージック・エンタテイメント)
 「レコードは求めるものではなく出会うものであり、その出会いをもとめてレコード屋を探す」(P.447)という著者による渾身の1冊。'アナログ復興'が何かと話題に上るご時世だが(著者は音楽業界に冷ややかな目を向けるが)、単に巡回した店の思い出を綴ったという類の本ではない。日本最古の輸入レコード屋が登場した1900年代から今日に至る1990年代以降までを大きく7つの章に分け、店主も含めた関係者への綿密な取材&文献(書籍、雑誌等)を軸にして東京におけるレコード屋(通称:レコ屋)の歴史を460ページにも及ぶヴォリュームにまとめ上げた力作で、店を通して見た音楽文化史といえる側面も。何より個人的に馴染みのある店名や店主の名前が次々登場するのも興味深い。(上柴とおる)


Popular CONCERT Review


「アジアン・ユース・ジャズ・オーケストラ」(1月28日 めぐろパーシモンホール 大ホール)
 2014年9月にオーディション開始。翌年4月に活動を開始したアジア(日本、フィリピン、マレーシア、タイ、シンガポール)の若者たちによるオーケストラが日本ツアーを開催した。指導にはトロンボーン奏者の松本治やピアニストの片倉真由子があたり、演奏レパートリーもデューク・エリントンの「極東組曲」メドレーやルイ・アームストロングの「ワイルド・マン・ブルース」以外、すべて新しめのものばかり。松本、片倉の書き下ろしに加え、香取良彦や岸本悠里のオリジナル曲も演奏された。いわゆる昔から続くスウィンギーなビッグ・バンドと一線を画す音作りで(カウント・ベイシー流でもグレン・ミラー流でもない)、クラリネット専業者が5人もいたり、打楽器を大きくフィーチャーしたりと、その響きはユニークそのもの。ジェラルド・バルカラ・プトラ・シバルドのきわめて技巧的なテナー・サックスを始め、ソリスト陣も充実しており、このバンドがアジアのみならず、世界のジャズ界の温床になる日も近いと感じた。(原田和典)


Popular CONCERT Review


「ローラ・ニーロ・トリビュート/ビリー・チャイルズ・フィーチャリング・ベッカ・スティーヴンス&アリシア・オラトゥージャ」(3月24日 コットン・クラブ)
 ジャズ・ピアニスト、ビリー・チャイルズの今回の公演は自身がリリースしたローラ・ニーロへのトリビュート・アルバムに因んだもの。フィーチャーされた二人の女性ヴォーカリストの内、まず登場したアリシア・オラトゥージャの歌声に圧倒された。生で聴くのは初めてだが、よどみのない歌声には凛としたたたずまいも感じられて、まるで光の束のように聴く者の胸に飛び込んでくる。もうひとり、ベッカ・スティーヴンスの確かな歌声は前回の来日公演でも証明済みで、今回も優しく丁寧に歌い上げて行く。そしてローラの歌にそっと寄り添うような抑制されたビリーのピアノ・プレイも秀逸。歌の奥深い詞は分からなくても、そこに秘められた思いはきっと伝わったはずだ。インテリジェンスに溢れた密度の高いステージだった。(滝上よう子)

写真提供:COTTON CLUB
撮影:米田泰久


Popular CONCERT Review


「エイドリアン・ヤング」(3月19日 丸の内・コットンクラブ)
 これほど豪快に低音が轟いたのはコットンクラブ史上、初めてではないだろうか。後頭部が揺さぶられる感じといえばいいか。衣服は間違いなく振動で揺れていたし、靴の底は地響きを感じていた。そのサウンドの主こそ、エイドリアン・ヤングだ。一部ではダニー・ハサウェイやアイザック・ヘイズの再来ともいわれているようだが、キーボードをブッ叩き、ベースから低音の塊を表出し、さらにアルト・サックスも吹きつつ、ときにメロウに、ときにアグレッシヴな歌声を届ける。狂気を50%ほどアップした岡村靖幸、という印象も受けた。曲調はひとことでいうと、「何がどうなっているかわからない、しかし確かにかっこいい」。スウィート・ソウルの名門グループ、デルフォニクス等のプロデュースでも知られるエイドリアンだが、この日のパフォーマンスはひたすらハードで尖っていた。帰り道、“『オン・ザ・コーナー』期のマイルス・デイヴィスが彼と組んでいたら、いったいどんなとんでもないことになっていただろうか”と夢想した。(原田和典)

写真提供/COTTON CLUB
撮影/米田泰久


Popular CONCERT Review


「ジャック・ムーヴス」(4月8日 六本木・ビルボードライブ東京)
 1月に国内発売されたファースト・アルバムが話題を集めている折、実にタイムリーな来日だ。アルバムでは恐らく多重録音によるものであろう、ヴォーカルにしてもバックの演奏にしても、音のつづれ織りと形容したくなるものであった(そしてシルキーでエロチックであった)が、ライヴはより、ごつごつした感触がある。メンバーはズィー・デスモンデス(リード・ヴォーカル、ギター)とテディ・パウエル(ドラムス)に、サポートのベーシストとキーボード奏者。完成度はCDのほうが高い、というのが僕の率直な意見だが、さらなる世界的ブレイクが期待されるこの時期に、我が国にいながらにして彼らのライヴに接することができたのはありがたい。功成り名遂げたベテラン・セレブ・アーティストばかり見ていたのでは、こちらも飽きてしまう。これからもどんどん、次代を担うかもしれない気鋭達を日本のステージで楽しみたいものだ。(原田和典)

写真:Yuma Totsuka


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