2016年2月 

  

Popular ALBUM Review


「リンカーン・ブライニー/ホームワード・バウンド〜サウンド・オブ・S&G」 (MUZAK MZCF 1328)
 リンカーン・ブライニーは、アメリカ西海岸で活躍するシンガー、チェット・ベイカーの歌に影響されていて、その語り口は、ベイカーそっくりの時もある。ボサ・ノヴァも彼のスタイルに合っていてお得意だ。彼の4年振りの新作は、60年代に活躍したサイモンとガーファンクルに捧げる作品。フェイスブックで出会ったというシカゴのプログラミング、キーボ—ズ、フェンダーローズなど担当のポール・ラングフォードとで作られた如何にも現代的作品。それにギター、パーカッション、フリューゲル・ホーン、そして 男女3人のバック・コーラスが大変効果的に加わる。サイモンとガーファンクルの作品集だが、表題曲や「So Long Frank Llyod Wright」そして、バーブラ・ストレイサンド、アン・バートン、フィービ・スノウ等のカヴァーも有る「Something So Right」以外は、耳馴染みのある曲は、あまり取り上げていない。「Bridge Over Troubled Water」や「Sound Of Silence」は、意識的に外したという。それが正解かどうかは、意見の分かれるところだろう。何れにしても肩の力の抜けたソフトで多少アンニュイな感じの漂う彼のスタイルには、ぴったりとはまった企画といえるだろう。(高田敬三)


Popular CONCERT Review


島田歌穂&島健 Duo Xmas Special Vol・6 いつか聴いた歌(12月12日 表参道・スパイラルホール)
 島田歌穂(vo)と島健(p)のおしどりコンビが、話題のスタンダード・ナンバー集『いつか聴いた歌』の楽曲をすべて披露するコンサートを開催した。ふたりがクリスマスにデュオ公演を行なうのは、なんと3年ぶりだという。アルバムではイラストレーターの和田誠が選曲・アートワーク・楽曲解説を担当していたが、この日のステージも1曲ごとに島田が和田の手掛けた日本語訳で歌詞の大意をオーディエンスに紹介し(この気配りが嬉しい)、そこから歌唱に入るというスタイルがとられた。島田の歌声は艶と伸びにあふれ、英語のディクションも見事。島健も、単にコードやハーモニーを提示するだけにとどまらず、歌と会話を繰り広げるかのようにピアノを奏でていた。ヴァースのあるものはヴァースからしっかり歌われていたところからも、両者の楽曲への深い愛情が伝わってきた。「ザ・ニアネス・オブ・ユー」のやさしさ、「モア・ザン・ユー・ノウ」の叙情、「アイル・リメンバー・エイプリル」の躍動感。歌とピアノという最小単位だけで綴られる世界は、どこまでも豊かだった。そしてラストは、ヴィンス・ガラルディ作のクリスマス・ソング「クリスマス・タイム・イズ・ヒア」。またしても抜群の選曲センスに脱帽だ。楽曲へのリスペクト、マイクの存在を感じさせないほど自然なPA、控えめで落ち着いた照明。すべてがハートウォーミングな一夜だった。(原田和典)


Popular CONCERT Review


キャロル・ウエルスマン(12月26日 丸の内コットンクラブ 1st stage)
 昨年、ルイス・ナッシュ、ルーファス・リード、ウォーレス・ルーニー等と初のニューヨーク録音でジャズ・アルバム「Alone Together」を発表したキャロル・ウエルスマンの4日間のクリスマス・ショウをフレンチのディナーを楽しみながら聴いた。会場は、何時もより若い年代層が多い。彼女のレギュラー・グループとも言えるピエール・コテ(g)、ジミー・ブランリー(ds)、レミ・ジャン・ルブランク(b)と登場した彼女は、クリスマス・パーティーに相応しいアンディ・ウイリアムスで有名なテンポの良い「It's The Most Wonderful Time Of Year」から「Winter Wonderland」と歌い、華やかに幕を開ける。日本語で挨拶、口癖の「どういたしまして」で会場を笑わせ、最新アルバムからのスインギ—な「Day By Day」「Sand In My Shoes」を快調に歌う。そして彼女な大好きな曲だというアイラ・ガーシュインとクルト・ワイルの「My Ship」は、トリオで情感豊かに歌った。続いて古いクリスマス・キャロル「The Holly And The Ivy」を静かなムードで歌い、一転 ドラム・ソロから入る「Cotton Tail」から、チャーリー・パーカーの「Oh Lady Be Good」のソロをエディ・ジェファーソンがヴォーカライズした「Disappointed」を快調に歌う。ジャジ—なムード満開だ。ボサ・リズムで歌うメル・ト—メの「Christmas Song」からビング・クロスビーで有名な「I'll Be Home For Christmas」と再びクリスマス・ソングをピアノから離れて立ち歌いする。新CDからの「Alone Together」、そしてトリオでの「It Might As Well Be Spring」と続き、最後は、ジョー・デリ−ズの楽しいブルース「Blues Are Out Of Town」で締める。アンコールは、「White Christmas」「Santa Claus Is Coming To Town」「Jingle Bell」のメドレーだった。巧みなヴォーカリーズでジャズ色も付けながらも、誰でもが楽しめる寛いだクリスマス・ショウだった。(高田敬三)
写真:米田泰久


Popular INFORMATION


「A.J.クロウチ」
 1973年に30歳の若さで飛行機事故のため、亡くなったシンガー・ソングライターのジム・クロウチ。活動期間はごく僅かだったものの、当時、アメリカでは国民的シンガーとしてヒット・チャートを席巻したが、その彼と夫人のイングリッド・クロウチの間に生まれたのがA.J.クロウチ。ジムとイングリッドは夫婦でデュオ・アルバムも出しているが、A.J.も10代半ばから音楽活動をスタート。1993年にアルバム・デビューを果たし、日本では「Hung Up(On You)」(2004年)がCMソングとして使われ、注目を集めた。声はジムほど野太くはないが、アメリカ南部に端を発したルーツ・ミュージックを土台にした音楽性には共通するものがあり、随所に父親のDNAも感じられる。(YT)

* 2月19〜21日 コットンクラブ
お問い合わせ:コットンクラブ (03)3215-1555


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「ローラ・ニーロ・トリビュート/ビリー・チャイルズ・フィーチャリング・ベッカ・スティーヴンス&アリシア・オラトゥージャ」
 シンガー・ソングライターのローラ・ニーロ、そう一言では語れないものが彼女の音楽にある。それはフォーク、ソウル、ジャズ、ブルース、ロック等、ジャンルを飛び越え、求道者のように自分を追求して生まれたスケールの大きな魂の叫び。自身のヒットは少ないのに、楽曲が実に多くのスター達にカヴァーされているのもその奥深さの所以だろう。今回、1997年に49歳の若さで亡くなったローラへのトリビュート・アルバム「マップ・トゥ・ザ・トレジャー」を引っ提げて登場するのはジャズ・ピアニストのビリー・チャイルズ。全米ジャズ・チャート1位を獲得したこの中の「ニューヨーク・テンダベリー」はグラミーの最優秀編曲賞にも輝いている。更に、去年の来日公演も好評だったベッカ・スティーヴンスとオバマ大統領の就任式で歌ったアリシア・オラトゥージャの歌声も華を添える予定。じっくり味わいたいライヴだ。(YT)

* 3月24〜26日 コットンクラブ
お問い合わせ:コットンクラブ (03)3215-1555


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