2015年10月 

  

Popular ALBUM Review


「Two Songbirds of a Feather / Becky Kilgore Nicki Parrott」 (Arbors Records ARCD19447)
 ニッキ・パロットは、日本でもお馴染みのダブル・ベースを弾きながら歌う美人歌姫だが、ベッキー・キルゴアは、日本での知名度は、今一つ低いがアメリカのジャズ・ファンには大変な人気で、多分現在活躍するジャズ・シンガーの中ではレコードの数が一番多いアーティストの一人だろう。そんな二人は、ステージでは何度も共演してデュエットを聞かせることもあった。二人が共演で歌うという作品は、作られるべきして、やっと実現したという感じだ。「似た者同士」という成句をもじったタイトル曲は、このアルバムのためにニッキが書き、ベッキーがヴァースを書いて歌詞は、ニッキの旦那が書いたというヒップな歌だ。伴奏の良く歌うテナーのハリー・アレン、歌伴では定評のあるマイク・レンジ(p)とチャック・レッド(ds)という人選も的を射ている。姉妹のように似通った二人が歌う、マリリン・モンローとジェーン・ラッセルが映画「紳士は金髪がお好き」で歌った「Two Little Girls From Little Rock」から始まるデュエットありソロありの13曲、全編乗っていて素晴らしく楽しいアルバムだ。伴奏陣の好演も聴き逃せない。(高田敬三)


Popular ALBUM Review


「The Dream I Dreamed / Michael Dees」(Jazzed Media JM1071)
 マイケル・ディーズは、50年代後半から活躍しているシンガー。64年にドット・レーベルに「マイケル・ディーズ・シングス・スティーブ・アレン」というアルバムを残している。その後もキャピトルに「ザ・マイケル・ディ—ズ・アフェアー」、「トーク・トゥ・マイ・ベイビー」と2枚のアルバムを録音した。その後は映画のサウンドトラック、TVのCM音楽等で幅広く活躍してきたが、本作は、彼の久々のアルバムになる。全編、緩急とりまぜて自作の歌をテリー・トロッターのピアノ・トリオ、又は、曲によりテナー・サックス、トランペットも入るジャズ・コンボで歌う。彼は、数年前、フランク・キャップとジャガーノート・ビッグ・バンドと共演で、シナトラとベイシーの舞台を再現するショーを行ったが、渋いシナトラ張りの魅力的な声とスインギ—な歌いっぷりで聴き手を惹き付ける。彼の書く歌もグレート・アメリカン・ソングブックの伝統を引き継ぐ内容の素晴らしいものが多い。注目したい作品だ。
(高田敬三)


Popular ALBUM Review


「Silver / フォープレイ」(ユニバーサルミュージック/ UCCO-1160)
 1990年にグループを結成して25年、91年にデビュー作品を発表してから概ね2年に1回のペースで新作を発表してきたフォープレイの通算13作目に当たる新作。ボブ・ジェームス(p)、ネイサン・イースト(b)、ハーヴィー・メイソン(ds)の三人は結成当初からの不動のメンバー。ギタリストはリー・リトナー、ラリー・カールトンと変わり、5年前に現在のチャック・ローブ(g)が参加してからは3作目となる。収録曲10曲は4人のメンバーによる書き下ろし。歴代のギタリスト、リー・リトナー、ラリー・カールトンがスペシャル・ゲストとしてそれぞれ1曲に参加している。チャック・ローブが語るように、パフォーマンス、コンポジション、レコーディングそしてミックスに到るまで安定していて、優れた内容だ。フュージョン/コンテンポラリー・ジャズのスーパーグループと呼ぶにふさわしい作品。(三塚 博)


Popular ALBUM Review


「Can We Do It? / Ayuko」(Audio Fab Records AFD114)
 最近は、CDの製作が割合簡単になったせいか、新しい歌手のアルバムが次々と発表になっている。スクールでジャズを習いましたといったものが多いが、今回のAyukoは、ちょっと異色だ。5歳の時、マイケル・ジャクソンの公演を見て音楽に興味をもち、中学卒業後、カナダに留学してジャズのグループで研鑽をつみ、帰国してからは、幼児の頃から属していた何と和太鼓の集団で活躍して公式指導員の資格まで取ったという。良く通る綺麗な伸びやかな声で歌う彼女の元気一杯といった歌は、聞き手を明るい気分にさせる。大自然の中の「花」、「空」、「鳥」が主題になっている曲を選んだことも、おおらかなスケールの大きな彼女のスタイルにはぴったりはまっている。ドラムスとパーカッションを多用したアレンジも効果的だ。オーディオの専門家のプロデュ—スらしく隅々まで気を配った録音も素晴らしい。限りない可能性を秘めたアーティストの登場だ。(高田敬三)


Popular BOOK Review


「ジャズ・レディ・イン・ニューヨーク/ロレイン・ゴードン&バリー・シンガー著 行方均訳」(ディスク・ユニオン)
 ニューヨークに生きる一人の女性の恋と仕事の楽しみとともに、ジャズの変遷の謎が浮かび上がる。今やモダン・ジャズの名門レーベルとして名高いブルー・ノートの創始者アルフレッド・ライオン、伝統は今に続くジャズ・クラブ、ヴィレッジ・ヴァンガードのオーナー、マックス・ゴードンの妻として、ジャズ界の裏舞台を支えた名花ロレイン・ゴードン。彼女が巧みな話術で語るエピソードや生き様に、貴重なジャズの鼓動が重なり合って、実に面白い。ルイ・アームストロング、マイルス・デイヴィス、セロニアス・モンク、シドニー・ベシェはじめ多くの巨人や、短命で散ってしまった才能豊かなミュージシャン達も登場する。それらがいかにも女性らしい語り口で訳されている行方均の表現力も秀逸で、一気に読ませてしまう。ロレインは92歳の現在も現役として、夫亡き後もクラブを積極的に経営し続けている。余談ながらその姿はバーブラ・ストライサンドの『ワン・ナイト・オンリー・アット・ヴィレッジ・ヴァンガード』でも見ることが出来る。(鈴木道子)


Popular CONCERT Review


「UEda KENji 50th.BIRTHDAY FESTIVAL〜Female night〜 」8月30日 六本木・ビルボードライブ東京
 KENZI & THE TRIPSやthe PILLOWSのベーシストとして活躍後、現在は作曲家、プロデューサーとして日本の音楽シーンを牽引する上田健司の50歳記念ライヴが昼夜2回にわたって開催された。夜の部は〜Female night〜と題され、錚々たる女性シンガーたちが集合。上田と上原子友康の男性フォーク・デュオ“MOIL&POLOSSA”(上田はギターとヴォーカルを担当)がオープニング・アクトを務めたあと、宍戸留美「コズミック・ランデブー」、PUFFY「アジアの純真」、渡瀬マキ(LINDBERG)「今すぐKiss Me」、加藤いづみ「好きになって、よかった」、小泉今日子「夜明けのMEW」などを立て続けにライヴで味わうことができた。なかでも光るバトンを振り回しながら歌った宍戸、安定した歌唱力を持つPUFFY大貫亜美、やはり歌のうまさを再認識させられた小泉のパフォーマンスは圧巻。上田も2本の楽器を使い分けながらベーシストとしての底力を発揮した。司会は上田と同郷・北海道出身の増子直純(怒髪天)が担当。常に笑いを取ることを忘れない軽妙な語り口で出演者から数々の逸話を引き出し、ライヴを一層華やかにした。(原田和典)
写真:石井麻木


Popular CONCERT Review







「フレアーク・グローバル・オーケストラ」9月2日 中野サンプラザ
 5カ国出身12名の実力派ミュージシャンにより結成されたフレアーク・グローバル・オーケストラの奏でる音楽は、ジプシー音楽の流れをくむ「ロマ音楽」を主体とした多国籍バンドのクロス・オーバー・ミュージックである。フレアーク・グローバル・オーケストラの魅力は、何と言ってもその情熱的な演奏にある。名曲・名演奏「地中海の舞踏」で故パコ・デ・ルシアとギター・バトルを繰り広げたアル・ディ・メオラを彷彿させるリード・ギター、素足で大地からのエネルギーをパワーとパッションに変換し心を揺さぶる魂のヴァイオリン、トーキング・モジュレーターを使用しているかの様な特殊技法やあらゆるテクニックで観客を魅了するフルート、手数と音色の多彩さで圧倒するツィンバロイ等、見処聴き処満載のライヴは、名曲「マイナー・ウィング」や「ジプシー移民」で聴く者のハートに火を付け、オリジナル曲は、60年代後半から70年代前半に世界中に衝撃を与えたユーロ・プログレに通じるローカルに根付いたワールド・ミュージックで、心に何処か懐かしさと躍動感を感じさせ、ラストの「黒い瞳」では、会場全体で魂が共鳴すのを覚えた。こう言う音楽は、下手な先入観にとらわれるのではなく、時間と空間を忘れ、ライヴの臨場感に心と体を委ねればいいのだ。そうする事で、音楽と言う感性の世界で地球を感じられる。どうぞこれからは、ジャンルに関係なく音楽を楽しんで下さい。(上田和秀)


Popular CONCERT Review


コレサワ自主企画「シュシュっとパーティー」9月3日 渋谷・CHELSEA HOTEL
 コレサワは大阪出身のシンガー・ソングライター。ウェブや紙媒体では一切顔を出していないが、ライヴではその姿を拝むことができる。「シュシュっとパーティー」は彼女の自主企画ライヴで、しなまゆ、アカシックという、やはり女性主体のユニットも登場した。バンドと共にあらわれたコレサワはライヴのトリを飾り、この4月に初の全国流通盤として発売され話題を集めた「君のバンド」を筆頭に、わかりやすい言葉とメロディが印象的なナンバーを立て続けに届けた。“自然体”とか“等身大”とかいう使い古された言葉は、彼女のような音楽にこそ使われてこそ陳腐に響かないのではないか。12月16日に新作EP『女子、ジョーキョー。』を発売予定。(原田和典)


Popular CONCERT Review


「東京JAZZ」9月5、6日 東京国際フォーラム ホールA
 今年で14回目を迎えた本邦最大規模の国際ジャズ・フェスティバル。例年同様、5000席のメイン・ステージには昼夜2日間にわたって計12組が出演した。今回の筆頭アーティストは2組で演奏したボブ・ジェームス(p)。東日本大震災で心を痛めたジャズ/フュージョン界の大御所は、被災地で演奏するなど、本イベントと連動する活動を継続的に行っており、交響楽団との共演による世界初演のオリジナル・コンチェルトで大舞台の幕を開けた。さらに最終ステージでは自身がリーダーを務めるフォープレイで登場。結成25周年の歴史を一夜に集約すべく、リー・リトナー、ラリー・カールトンの歴代ギタリストも加わった夢のリユニオンを実現させ、ファンには感涙もののシーンが現出した。一つ指摘したいのは、優れたドラマーが数多く揃ったこと。交響楽団と自身のリーダー・バンドでさすがの存在感を光らせたスティーブ・ガッドを始め、ベテランのジャック・ディジョネット、若手のカリーム・リギンズ、ユリシス・オーエンス・ジュニア、イスラエルのオフリ・ネヘミヤまで、実力者たちの多彩な魅力が堪能できた。(杉田宏樹)
写真:(c) 岡利恵子


Popular CONCERT Review


「東京JAZZ2015 エリ・デジブリ」9月6日 東京国際フォーラム ホールA
 日本最大のジャズ祭「東京JAZZ」が今年も9月4日から6日にかけて盛大に行なわれた。例によってフュージョン系の大ベテランの割合が多かったが、個人的に最も楽しみにしていたのはイスラエル出身の気鋭テナー・サックス奏者、エリ・デジブリのステージだ。しかも鬼才トランペット奏者、アヴィシャイ・コーエンがゲスト参加するのだから期待はさらに高まる。2000年代、彗星のごとくシーンに飛び出した彼らも今や中堅どころ。日本での評価がもう少し高まってもいい。プログラムはまずデジブリのワン・ホーン・カルテットで始まった。太く柔らかい音色が実に魅力的だ。ドラマーに向かってオフ・マイクで吹いても、広い会場にしっかりと音が届く。3曲目から入ったアヴィシャイも驚異的な楽器コントロー
ル(ステージ両脇にスクリーンがあるので、唇とマウスピースの角度や頬のふくらみも目の当たりにできる)でクライマックスをつくる。短めの持ち時間だったが、両人とも過不足はない。次はデジブリとアヴィシャイが壮絶にやりあうピアノレス・カルテットの、2時間ノンストップ・ライヴなどどうだろう。(原田和典)
写真;(c)Rieko Oka


Popular CONCERT Review


「04 Limited Sazabys CAVU tour 2015〜追加公演〜」9月8日 赤坂BLITZ
 フォーリミテッドサザビーズと読む。2008年名古屋で結成され、今年4月にメジャー・デビュー・アルバム『CAVU』をリリースした。ヴォーカルとベースを担当するGENがMCで「パンク・キッズもいるし、じっくり演奏を聴くひともいる。客層が本当に多彩だ」と言っていたが、僕も客席とステージ上を交互に見ていた。演奏に集中している観客あり、モッシュやダイブを繰り返す観客あり、走り回る観客あり、手拍子を打つ観客あり、黄色い声援(という懐かしい言葉を出したくなる)を送る観客あり。客層も、ざっと見たところ高校生〜30代ぐらいが主体か。それぞれが自分のスタンスでパフォーマンスを楽しんでいる感じと、さまざまな要素をミックスしながら自分たちのサウンドを創造しているバンドの雰囲気がシンクロする。10月28日発売の4曲入りシングル『TOY』からいち早く、タイトル未定のナンバーをプレイしてくれたのも嬉しかった。
(原田和典)
写真:Viola Kam (V'z Twinkle)


Popular MUSICAL Review


「ブロードウェイ・ミュージカル『ピピン』」 9月5日 東急シアター・オーブ
 こんなにも演出によって違ってしまうのか、と感慨深いのが「ピピン」だ。私は72年の初演をブロードウェイのインペリアル劇場で観たが、8世紀のローマ時代、学問を収めて帰国した王子が、真の人生を求めて戦争や放蕩はじめ様々な旅を重ねる物語は、地味でやや教訓的なミュージカルだった。ベトナム敗戦の空気も漂っていたかも知れない。ボブ・フォッシーが振付・演出家として名を成した作品とはなったが、その後40年間リヴァイヴァルなしだった。ところが今回の来日公演を観て、目を疑った。これが同じミュージカルなのか? ダイアン・パウラス演出は華やかなサーカスを前面に投入。実にカラーフルでエンターテイメントたっぷりの「ピピン」になっていた。歌もダンスもサーカスも皆しっかりしていて、大きな拍手がわいた。主役のピピンも好演だったが、中でも注目は、ピピンに影響を与える祖母バーサ役のプリシラ・ロペス。彼女は43年前の初演でも踊ったヴェテラン・ダンサーで、今回空中サーカスの修行もして見応えのあるパフォーマンスを披露した。貫録の王様は、初演の時のピピンなどなど。来日公演が二流の歌手・役者であることが少なくない中で、今公演は充実していて実に楽しいステージだった。(鈴木道子)
写真:(c) Shinobu Ikazaki


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「イリーナ・メジューエワ」
 昨年度の第27回ミュージック・ペンクラブ音楽賞クラシック部門独奏・独唱部門賞を受賞した“ロシアの妖精”イリーナ・メジューエワのピアノ・リサイタル「高貴な詩情を奏でる美しい魂」が、間近に迫った。今回の演奏曲は、前半ここの所力を入れている18世紀のバッハ、モーツァルトの様式美を堪能し、後半はショパンの詩情を思う存分に感じて頂こうと言うものだ。とは言っても決して難しい事ではなく、個々に感じて頂ければそれで良いのです。彼女の重要な活動のひとつとして、子供達に演奏を聴かせる事を続けています。子供達に、決して難しい事を言うのではなく、音楽を感じさせるのです。イリーナ・メジューエワの奏でる可憐なピアノを全身で体感して、音楽を聴く喜びを感じて下さい。(UK)

* 10月21日 横浜・関内ホール大ホール

お問い合せ:MIN‐ONインフォメーションセンター 03-3226-9999


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「アダム・ランバート」
 今年6月にリリースされた全世界待望のサード・アルバム『The Original High』が絶好調な魅惑のヴォーカリスト アダム・ランバートの来日公演が決定した。シンガー・ソングライターとしての確固たる地位を築きながら、「クイーン + アダム・ランバート」として全世界ツアーを行うなど唯一無二なヴォーカリストとして、絶大なる信頼を得ている。そんな大人気のアダム・ランバートが、年明け早々に日本に来るなんて、なんて縁起が良いことだろう。2016年のスタートは、アダム・ランバートでロケット・スタート!!!(UK)

* 1月7日 仙台サンプラザホール
* 1月8日 TOKYO DOME CITY HAL
* 1月10日 BLUE LIVE HIROSHIMA
* 1月12日 なんばHatch
* 1月13日 ダイアモンドホール
* 1月15日 EX THEATER ROPPONGI
お問い合せ:ウドー音楽事務所 03-3402-5999 http://udo.jp/


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