2015年5月 

  

Popular ALBUM Review


「ウェンディ・モートン/タイムレス〜ウェンディ・モートン・シングス・リチャード・ホワイティング」(ミューザック MZCF 1313)
 ウェンディ・モートンは、1992年の初アルバム「ウェンディ・モートン」の中で歌った「Come In Out Of the Rain」が大ヒット、日本へもデヴィッド・フォスターの率いる「JT Super Producer'94」の武道館のコンサートやフリオ・イグレシアスのコンサート、又、単独でも90年代に何度も来日している歌手だ。主に録音やコンサートでのバックアップ・シンガー、ゲスト・デュエット・アーティストとして活躍してきた。ホイットニー・ヒューストンばりの素晴らしい歌唱力のシンガー。本アルバムは、そんな彼女の最新作、1920年30年代にティン・パン・アレイやハリウッド映画で活躍して多くのスタンダード・ナンバーを書いた作曲家のリチャード・ホワイティング(歌手マーガレット・ホワイティングの父親)の作品集をジャズのピアノ・カルテットをバックに伸び伸びと、時には、しっとりと心地よく聞かせるアルバムだ。彼女は、ジャズ・コンボとの録音は初めてだというが、今後は、ジャズをやりたいらしい。どうなるか多いに期待したい。 (高田敬三)


Popular ALBUM Review


「引き潮 〜ベスト・オブ・フランク・チャックスフィールド」(KICP-1720/キング・レコーズ)
 ムード音楽はポピュラー系音楽の表舞台からすっかり影を潜めたしまった観があるが、今なお根強い支持者が多いのも事実。本作品はフランク・チャックスフィールドの生誕100周年を記念して発表された。「ベスト・オブ・・・」のタイトルは旧録音のコンピレーション盤を思わせるが、ピーター・へミングを指揮者に迎えて、今年(2015年)1月にロンドンのアビー・ロード・スタジオで収録された最新録音盤。チャックスフィールドはムード音楽界の代表的なアーティストの一人で、華麗なストリングスの調べにジャズのエッセンスを取り入れたサウンドは世界中の音楽ファンの心を捉え、「引き潮」や「ライムライト」の名演奏は日本でも60年代にヒットチャートの上位を賑わせた。2002年にVocalionレーベル名で、50年代から70年代にかけての一連の作品が2LP1CDのスタイルで復刻されたが、新たな録音という企画は初めてであろう。「引き潮」「ライムライト」はもちろんのこと、「みじかくも美しく燃え」「学生王子のセレナーデ」「トセリのセレナーデ」「白い渚のブルース」「枯葉」「ムーンリバー」「ナイト・アンド・デイ」「バリハイ」など22曲が収録されている。聴き比べてみるのも面白いかもしれない。
(三塚 博)


Popular ALBUM Review


「ヴァン・モリソン/デュエッツ:リワーキング・ザ・カタログ」(SICP-4418/ソニーレコーズ)
 今年70歳を迎えるヴァン・モリソンが、この半世紀にいかに多くの名曲を世に送り出し、素晴らしい音楽家たちの尊敬を集めているかをこの一枚から読み取ることが出来る。「リワーキング・ザ・カタログ」のタイトルどおり、これまでに積み上げてきた自作品360曲の中から16曲を自らピックアップして、彼が敬愛するアーティストたちとともにデュエットという形で一曲一曲に新たな息吹を与えて作り上げたのがこの作品、通算35作目のスタジオ・アルバムだ。昨年逝去したソウル・リジェンド、ボビー・ウーマック、スティーブ・ウィンウッド、マイケル・ブーブレ、ナタリー・コール、マーク・ノップラーなど16人の共演者が登場して、彼の音楽スタイルの多様な空間を再構築している。決してぶれない彼のソウルフルな歌唱がふと40年前、50年前へと引き戻してくれる。(三塚 博)


Popular ALBUM Review


「カサンドラ・ウィルソン/カミング・フォース・バイ・デイ」(SICP-30710/ソニーレコーズ)
 カサンドラ・ウィルソンの新作はビリー・ホリディの生誕100周年を記念したトリビュート作品。レディ・デイゆかりの名曲を、彼女なりの革新的な解釈を加えながら歌い綴ってゆく。ソウルフルでエモーショナルな歌唱スタイルが、それを可能にしたといってもよいだろう。ストレートなジャズ・ヴォーカル・アルバムではないし、歌唱スタイルがビリー・ホリディをそのまますぐに想起させるものでもない。しかしながらそこに彼女のビリーに対する深い敬愛の念が込められていることは本作品や、プレスへのメッセージからも読み取ることが出来る。プロデュースはニック・ケイブやトーキング・ヘッズらをプロデュースし、ジャズ・アルバムを手がけるのはこれが初めてというニック・ローネイ、ストリングス・アレンジにヴァン・ダイク・パークス、ゲストにTボーン・バーネットらの個性派を起用しているのも興味深い。「ドント・エクスプレイン」「奇妙な果実」「オール・オブ・ミー」「今宵の君は」ディーズ・フーリッシュ・シングス」「アイル・ビー・シーイング・ユー」など11曲に、レスター・ヤングに捧げたオリジナル曲「レスター・ソング」の12曲を収録。(三塚 博)


Popular ALBUM Review


「トゥトゥ・プワネ/イランガ」(インパートメントAGIP 3547)
 トゥトゥ・プワネは、南アフリカ出身、1979年生まれのヨーロッパで活躍する中堅ジャズ・シンガー。2007年に初アルバム「SONG」を発表、ご主人のエ—ワウト・ピエルー(p)のトリオニ曲によってトランペット、テナー、ギターが入る伴奏でボブ・ドロウの「Just About Everything」ジョニ・ミッチェルの「A Case Of You」等を歌うもので日本盤も発売され注目された。その後、「Quiet Now」、南アフリカの先輩、ミリアム・マケバに捧げる「Mama Africa」、「Breathe」,「Live In Roma」と既に4枚のアルバムを発表している。彼女は、二—ナ・シモンのように押しつけがましさは、ないが、祖国アフリカの誇りを歌に込めて歌っている事を強く感じさせるシンガーだ。本アルバムでもエーワウトのトリオにトランペットとテナー、そして曲によりコーラスも入り工夫されたアフリカらしいリズムで自作のナンバーも含めて、時にはアフリカの言葉を交えてピュアでしなやかな声で歌っている。通常歌われる歌詞とは違う1930年にルース・エッチングが録音したヴァース付きの歌詞で歌う「Body and Soul」が特に印象に残った。注目のシンガーだ。
(高田敬三)


Popular ALBUM Review


「猫と音楽の休日/V.A.」(ユニバーサルミュージック:UICZ-4323)
 一昨年の「猫と音楽の蜜月」(FLY HIGH RECORDS)に続く待望の第2弾♪カンクロー、ポチ実、ぐるり、ちょろ、コウタロー、ナイト、マミ、吉良そら。。。といった猫ちゃんたちがブックレット(歌詞カード)であどけない姿を披露♪('写真集'としてもGood)。全12曲、言うまでもなくすべて題材は「猫」♪。EPOや庄野真代らの楽曲はそれぞれ既存のアルバムから提供された作品だがあとはこの素敵な企画アルバムのために録音された新作。歌詞がキュンキュン胸に来る杉真理の「君が元気になれば」や私みたいな世代には懐かしさも感じさせるサウンドがたまらない玉城ちはるの「Brand New Day」など全12組。紙ジャケのCDに潜り込んだ猫好きのアーティストたちが温もりと癒しを感じさせてくれる。猫ファンにとってはかけがえのない'愛猫盤'になるはず。(上柴とおる)


Popular CONCERT Review


「イン・ザ・カントリー」 2月9日 中目黒・楽屋
 2004年に結成。ACTレーベルを中心に数々の意欲作を発表し、2014年度ノルウェー・グラミー賞では2部門にノミネートされた3人組“イン・ザ・カントリー”が来日した。レパートリーはすべて彼らのオリジナル曲。ジャズ、プログレッシヴ・ロック、テクノ等からの影響を受けつつも、そのどれにもとどまらない音楽を志向しているといえばいいだろうか。アコースティック・ピアノ、アコースティック・ベースに数えきれないほどのエフェクターを通して音質を加工し、ドラムスはいわゆるリズム・キープをほとんどせずにメロディ楽器に絡みつく。専属の音響エンジニアを連れてきたというだけあって抜群に奥行きのあるサウンドが店内に響き、聴き手はただ幻想的な演奏の数々に酔いしれるばかりであった。約90分、ほぼノンストップのパフォーマンスだったが、「あっという間に終わった」という表現がぴったり。再来日をぜひ望みたい。(原田和典)
フォトクレジット:Masanori Doi


Popular CONCERT Review


「ソフト・マシーン・レガシー」 3月26日 六本木・ビルボードライブ東京
 1966年に結成、84年に解散した伝説のバンド“ソフト・マシーン”の同窓生を中心とするバンドが来日した。ニュークリアスから移籍したロイ・バビントン(エレクトリック・ベース)、ジョン・エサリッジ(ギター)は70年代に同バンドで演奏したことがある。世代の異なるテオ・トラヴィス(テナー・サックス)とギャリー・ハズバンド(ドラムス)は在籍したことがない。ライヴは大ベテランふたりと中堅ふたりの丁々発止から始まった。ロイとギャリ—のリズムはうねりにうねり、エサリッジのフレーズは溢れ出しては止まらないといったところ。ブリティッシュ・ジャズ・ロックは永遠なり、と声を出したくなった。中盤からはキング・クリムゾンとの共演で著名なマエストロ、キース・ティペットが参加。時に鍵盤をいたわるように、時に鍵盤をぶっ叩くようにアコースティック・ピアノを鳴らした。(原田和典)
撮影:jun2


Popular CONCERT Review


「ウィリアム・ベル」 3月28日 六本木・ビルボードライブ東京
 奇跡の初来日が実現した。60年代からソウル・ミュージック・シーンの第一線に立ち続けるウィリアム・ベルのステージだ。生きているだけでもすごいのに、動きは軽快でしなやか、声もとてもよく出ている。ときおりマイクを外してシャウトして生声を響かせたり、マイクと口の距離を伸ばしたり縮めたりしながら声の強弱を強調するなど、動きのひとつひとつが絵になる。もちろん出世作「ユー・ドント・ミス・ユア・ウォーター」、故ジュディ・クレイとのデュオ曲「プライヴェート・ナンバー」、さらにオーティス・レディングを偲んで「トリビュート・トゥ・ア・キング」や「ハード・トゥ・ハンドル」も聴かせてくれた。60年代スタックス・レーベルを支えたシンガーとしては、エディ・フロイドと共に、数少ない生き残りになってしまったウィリアム・ベル。値千金の“ソウル”にふれた思いだ。
(原田和典)
撮影:jun2


Popular CONCERT Review


「ジル・バーバー」 4月14日 コットン・クラブ
 ジル・バーバーって誰?と思う人も多いかもしれない。カナダの女性シンガー・ソングライターで今回が初来日ということだが、ファッション、スタイル、キュートな声、ミッド・テンポ中心のポップな曲調など、すべてが1960年代にも通じるノスタルジックな雰囲気で統一されていて、その親しみやすさのせいだろう、会場をすぐに打ち解けた雰囲気に包んでしまった。プログラムも自作のオリジナル中心だから馴染があるわけではないが、短めのシンプルなラヴ・ソングの数々はくつろいで聴けるものばかり。キャロル・キングの影響を受けたというのも納得だ。カナダ出身ということもあり、間にはフランス語で「パリの空の下」なども披露。こ惑的な歌声はフランス語になると更に愛らしさを増して聞こえる。一言でいうと、身の丈サイズに合ったレトロなステージ。でもそれは妙に新鮮で楽しさに満ちたものだった。(滝上よう子)
写真提供:COTTON CLUB
撮影:米田泰久


Popular CONCERT Review

「ヘレン・メリル」 ブルー・ノート東京 4月1日ファースト・ステージ
 昨年の来日公演は、彼女の急性肺炎の爲、急遽中止になってファンを心配させたヘレン・メリルの2年振りのステージ。テッド・ローゼンタール(p)ショーン・スミス(b)テリー・クラーク(ds)のトリオの演奏する「Out Of This World」が終わるとピアノにメモが廻ってきて彼女からもう一曲やってくれということらしい。未だ、調子が悪いのかと心配したが、「Have You Met Miss Jones」が終わってやっと登場する。腰も少しまがり動作もゆっくりしてやはり歳を感じさせたが、「Born To Be Blue」、「Autumn Leaves」、「Gee, Baby Ain't I Good To You」と続けて歌う歌は、そんな危惧を払しょくしてくれた、前回より調子が良いようだ。ピアノの側でピアノとデュオで歌った「Lover Man」は、レジェンダリ—という言葉相応しい歌唱だった。ここでピアノ・トリオによる「チャイコフスキーのシンフォニーNo.5」をベースにしたナンバーが華麗なタッチで演奏される。ピアノの後で一休みした彼女は、アップ・テンポで「All Of Me」を軽快に歌い、ここで孫娘のローラが登場、デュエットで「Summertime」を歌う、打ち合わせが上手く行ってなかったのか、という場面もあった。「People Will Say We Are In Love」もワン・コーラス歌ってあとはピアノに任せる。その後は、「Wild Is The Wind」「You'd Be So Nice To Come Home To」とお得意ナンバーを歌い。アンコールは、「'SWonderful」で締めた。歳による声と体の衰えは、否めないが、ホーン奏者のようなアプローチによる彼女のスタイルは、以前と変わらない。休み休みといったステージだったが彼女の歌うことへの執念を感じさせた。満員の聴衆の拍手は、彼女をおおいに勇気付けたに違いない。(高田敬三)
撮影 : 山路 ゆか


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