2015年3月 

  

Popular ALBUM Review


「ウォールフラワー/ダイアナ・クラール」(UCCV-1150/ユニヴァーサルミュージック・ジャパン)
 ダイアナ・クラールの最新作は、ジャズにのめりこむ以前から慣れ親しんでいたという70-80年代のヒット曲を取り上げたいわば“マイ・フェイヴァリット・ソング集”。ソフトでメロウなナンバーを好んで選んでいるが、彼女のアルト・ヴォイスによくマッチしている。プロデューサはデイヴィッド・フォスターで、ストリングスを贅沢に使いながら全曲のアレンジを手がけて、歌の魅力を最大限に引き出している。「夢のカリフォルニア」「スーパースター」「アイム・ノット・イン・ラヴ」「デスペラード」「アローン・アゲイン」「オペレーター」など懐かしいナンバーがずらりと並ぶ。オリジナル・ソングの魅力を損なうことなく、それでいてすべての曲に新たなイメージを吹き込んでいるかのような作りだ。ブライアン・アダムス、マイケル・ブーブレ、ブレイク・ミルズがゲストで参加しているのも嬉しい。「イフ・アイ・テイク・ユー・ホーム・トゥナイト」はポール・マッカートニーの書き下ろしによる新曲。(三塚 博)


Popular ALBUM Review


「イエスタデイ・アイ・ハド・ザ・ブルース / ホセ・ジェイムス」(UCCQ-1025/ユニヴァーサルミュージック・ジャパン)
 The Music of Billie Holidayの副題どおり、今年生誕百周年を迎えたビリー・ホリデイへのオマージュ作品。ホセ・ジェイムスにとって最初の音楽の明確な記憶は4歳の頃、ビリー・ホリデイの「ゴッド・ブレス・ザ・チャイルド」だったようだ。ニルヴァーナやデ・ラ・ソウルに夢中だった十代の頃にビリーの魅力を再発見し、それが彼をジャス・シンガーへの道を歩ませるきっかけになったという。「グッド・モーニング・ハーテイク」「身も心も」「奇妙な果実」「ラヴァー・マン」など全9曲はいずれもビリーの名唱で知られるゆかりのバラッドだ。ジェイソン・モラン(p)、エリック・ハーラン(ds)にベテラン、ジョン・パティトゥッチ(b)が参加したピアノ・トリオのサポートを得て、どこまでもストレートなジャズ・ヴォーカルを心行くまで楽しませてくれる。ヒップホップやネオソウルなど様々な要素を消化しながら新たな作品を発表してきているが、6作目に当たる本作品はある意味で原点に再び立ち返ってみたということなのだろう。(三塚 博)


Popular ALBUM Review


「Solitary Moon 輸入盤 / Ginger Berglund & Scott Whitfield sings
The Johnny Mandel Songbook
Bi Coastal Music BCCD 1401)
 「The Shadow Of Your Smile(いそしぎ)」「Emily」「Close Enough For Love」等などの多くの名曲を書いたジョニー・マンデルは、今も現役の名作編曲家だ。本アルバムは、ジンジャー・バーグルンドとスコット・ホイットフィールドの夫婦デュオがスコットの率いるビッグ・バンドで、あるいは色々な編成の小グループでマンデルの曲を歌う作品。ジンジャ_は、スタン・ケントンのアルミ二・オーケストラで歌っていたケントン・ガールズの系統のクール派のシンガー。スコットは、トロンボーン奏者で歌も歌う。ここで歌うLAヴォーカル・アライアンスというヴォーカル・グループのメンバーでもある。ザ・モダニアーズの創設者のポーラ・ケリ_の娘が率いる現在のモダニア_ズに二人が加わって歌う場面もあり,二人それぞれのソロ・ヴォーカルもある。ケン・ぺプロウスキー(cl)やピート・クリステリィ_ブ(ts)等のソロも出て来る。アイアート・モレイラ(perc)やジェニファー・リーサム(b)も活躍する。何度も聴きたくなる、おしゃれで明るく楽しくヴァラエティに富んだ出色のマンデル集だ。(高田 敬三)


Popular ALBUM Review


「ザーズ/PARIS〜私のパリ〜」(WPCR-16205/ワーナーミュージック・ジャパン)
 フランスで、今最も旬な女性シンガーといっていいだろう。ザーズのサード・アルバムは日本でも親しまれているシャンソンの名曲をカバーした好作品。アルバム全体をスイング感で包み、一曲一曲にパリのエスプリを練り込んでいるかのようだ。アカペラで大胆に歌われるフランシス・ルマルクの「A Paris」は出色。クインシー・ジョーンズをエグゼクティヴ・プロデューサーに迎えて、ビッグバンドをバックに歌うコール・ポーターの「I Love Paris」は彼女の真骨頂と言ってもよいだろう。ジャンゴ・ラインハルトやステファン・グラッペリの活躍した時代に引き戻してくれるかのようなマヌーシュ・ジャズのバッキングには彼女のちょっとハスキーな声がほどよく溶け込む。「パリの空の下」「パリ野郎」「オー・シャンゼリゼ」「パリのロマンス」アズナブールとのデュエット「5月のパリが好き」など決して飽きることがない選曲。エディット・ピアフ、イヴ・モンタン、エラ・フィッツジェラルド、フランク・シナトラら偉大な歌手へのオマージュ作品でもある。 (三塚 博)


Popular ALBUM Review


「 ショパン:24の前奏曲 作品28 ラフマニノフ:ショパンの主題による変奏曲 作品22 / 中桐望 」( オクタヴィア・レコード / OVCT-00110)
 期待の大型新人ピアニスト中桐望のデビュー・アルバム『ショパン:24の前奏曲 作品28 ラフマニノフ:ショパンの主題による変奏曲 作品22』は、彼女がショパンのレッスンを受講する為にポーランドの名ピアニスト エヴァ・ポブウォツカのもとへ旅立つ前に録音された、まっさらな彼女の演奏が収められた作品である。繊細さと力強さ、そしてテクニカルな演奏がバランス良く録音されているがしかし、まだ彼女の秘めたるポテンシャルが充分に発揮されていないのではないかとも感じられる。本格的にショパンを習う前の演奏がこれ程の腕前であれば、帰国後の彼女の演奏は飛躍的に進歩し、目を見張るものだろう。ポーランドから帰国後、デビュー・アルバム発売記念コンサート等ピアノ・リサイタルが続くが、進化した中桐望に多くの注目が集まるに違いない。(上田 和秀)


Popular ALBUM Review


「ジャージー・ビート・ボックス/フランキー・ヴァリ&ザ・フォー・シーズンズ」(ワーナーミュージック・ジャパン:WPZR-30618/21)
 昨年公開の映画「ジャージー・ボーイズ」の評判や今年予定されている同ミュージカルの来日公演(6月25日〜7月5日:渋谷「東急シアターオーブ」)という話題もあって今が'旬'のフォー・シーズンズ。ベスト盤の類はこれまでにも各種世に出てはいるが今回は3枚組全76曲(フランキー・ヴァリやワンダー・フー名義〜1984年のビーチ・ボーイズとの共演曲〜1992年の音源まで網羅)+貴重な1960年代〜1970年代の映像(全12作品)を収めたDVD(すべて初DVD化)まで付いた過去に例を見ない総決算盤♪もう50年もリアルタイムで耳にして来た楽曲の数々をクリアな音質で改めて聴くうちに彼らの音楽が何とも素敵な'ビート・ポップス'であることを再確認。ちなみにバックインレイ(CDケースのトレイ下に入れられる裏ジャケット)にあしらわれている様々なレコード・ジャケットの中に日本盤の「シェリー」(オリジナル盤:ビクター・ワールド・グループ/ヴィー・ジェイ・レコード)が♪
(上柴とおる)


Popular DVD Review


「クリント・イーストウッド監督作品「ジャージー・ボーイズ」(ワーナー・ブラザース・ホーム・エンターテイメント)
 2005年にブロードウェイで上演され、翌2006年にトニー賞で4部門を制覇したミュージカル「ジャージー・ボーイズ」。昨年(2014)クリント・イーストウッド監督が映画化し劇場公開された作品がDVDで登場した。ニュージャージーの片田舎に生まれた4人の不良少年たちが60年代を席巻するポップス・グループ「フランキー・ヴァリ&ザ・フォー・シーズンズ」へと上りつめていく実話がもとだ。挫折、誘惑、裏切り、業界の裏事情などが渦巻き、音楽界の成功者たちの光と影をあぶりだす。オールド・ファンには懐かしい「シェリー」「恋はヤセがまん」「悲しきラグドール」「君に夢中」などのヒット曲がフォーシーズンズならではのハーモニーで繰り出されるので、50年以上経った今になって新鮮に蘇ってくる。フランキー・ヴァリ役を演じるのは、舞台版でトニー賞を受賞した。ジョン・ロイド・ヤング。(三塚 博)


Popular BOOK Review


「東京ロック・バー物語/和田静香著」(シンコーミュージック・エンタテイメント)
 昔ながらの'ロック喫茶'の伝統を今の時代に受け継ぐ隠れ家的な音楽バー11店を取材した著作だがいわゆる総花的なガイド・ブックではなく、こだわりを持ってロック音楽をお客に提供する店をピック・アップ、経営する音楽フリークのマスターの人生(ある意味破天荒とも言えるような)に焦点を当てている。ロック・バーにはあまり縁がなかったという女性の音楽ライター(和田靜香さん)の視点で男性にありがち(?)な説教臭さも何も感じさせず巧みな筆致で軽妙に描かれており、読み進むうちに1960年代からの日本における音楽業界周辺の流れも見えて来るようで実に興味深く面白い。(上柴とおる)


Popular CONCERT Review


「ベッカ・スティーヴンス」1月29日 丸の内・コットンクラブ
 ベッカはニューヨーク・エリアで活動するシンガー・ソングライターだ。ソロ・アルバムを2枚出しているほか、東日本大震災のチャリティ・アルバム『ホーム』にも加わっている。意外にも今回が初来日公演だという。ジョニ・ミッチェルからも影響を受けているともきくけれど、より明るくポップな印象を受けた。よって非常に親しみやすい。個人的には2010年代のフォーク・ロックだと思っているが、コードやリズムからはジャズへの造詣がうかがえるし、バックの3人もジャズ経験が豊富であることはワン・コーラス聴かないでもわかる(バック・コーラスのハーモニーも絶妙であった)。ベッカはギターやウクレレやチャランゴ(アンデスから伝わってきた10弦楽器)を弾きながら軽やかに歌い、リアム・ロビンソンはピアノのほかにアコーディオンでも名サポーターぶりを披露した。バンド・メンバー全員の仲がよさそうなところもいい。客席も満員、早くも再来日が実現しそうな気がする。(原田和典)
フォトクレジット:米田泰久


Popular CONCERT Review


「Synapples 2.0 〜no border between sounds〜 Produced by agehasprings. “tone”」2月7日 豊洲PIT
 音楽プロデューサーの玉井健二が代表を務めるクリエイター集団、agehasprings。その10周年を記念した一大ライヴが行なわれた。出演者は安田レイ(元・元気ロケッツ)、back number、Faint★Star、Aimer、JUJU、ゆず、そしてこの日が初お目見えとなったヴァーチャル・アーティストのSynapples2.0。3時間以上に及ぶ内容だったが、各アーティストのセッティング時間は極めて短く手際よく、パフォーマンス中もスクリーンやレーザービームを効果的に使うなど、耳と目の両方を楽しませる内容だったので、あっという間に時が過ぎた。代表曲と新曲を織り交ぜたステージが続いたが、JUJUが「情熱」(UAのカヴァー)、玉井プロデュースの新曲を「Hold me, Hold you」をバンドと共に歌うのは、このときが初めてだったとのこと。実に貴重なステージを味わえたわけだ。ゆずは、agehasprings所属の蔦谷好位置をバンド・マスターに迎え、彼のキーボード・プレイもフィーチャー。この日のために用意された「ゆず×蔦谷好位置スペシャルメドレー」で、場内の熱狂は最高潮に達した。
(原田和典)
撮影:佐藤 拓央


Popular CONCERT Review




「リッチー・コッツェン」2月2日 赤坂ブリッツ
 リッチー・コッツェンのソロ・プロジェクト・ライヴは、最新アルバム『カニバルズ』リリース記念と思われたが、『カニバルズ』から演奏されたのはタイトル曲のみと言う大胆な内容であり、ファンキーなリズム隊をバックに、実に自由に思う存分に歌い、ギターを弾きまくったトリオ・バンドによるロックの原点を感じさせる熱いものだった。この日のリッチーは、ギタリストと言うよりは、ヴォーカリストに力を入れたフロントマンとして、如何にバンドを盛り上げるかを考えた演奏だった。それにしても、ブラウン・サンバーストのテレキャスターと彼のフィンガー・ピッキングによるサウンドは、他のフィンガー・ピッキング・ギタリストよりもよりハードで、バンド全体のグルーヴを引き出す。良く言われるブルースに云々ではなく、ひたすらハードに自己表現する21世紀型トリオであり、アコースティックなナンバーも楽器を変えることなくフィーリング優先なのだ。大変息の合ったこのトリオには、当分活躍して欲しいものだ。
(上田和秀)
フォトクレジット:斉藤春美


Popular CONCERT Review



「マイケル・ブーブレ ライブ2015」 2月6日 日本武道館
 10年経つと、こんなにも大きなスーパースターになるのかと感慨深いものがある。ブーブレは新進ジャズ・シンガーとして初来日した時から筋のいい歌手だったが、尊敬するシナトラの影響を隠さず披歴していた歌唱ぶりが微笑ましかった。それが今回は曲目にこそシナトラ・ナンバーが目立つものの、すっかり師匠から抜けきって、どれも自分の歌にして魅了したのは立派だった。「フィーヴァー」に始まり、見事な乗りの「カム・ダンス・ウィズ・ミー」、力に満ちて自在な表現の「フィーリング・グッド」。2曲のビージーズ・ナンバーもよくこなれていた。2時間近いショウのアンコール最後にマイクなしで「ソング・フォー・ユー」を朗々と歌い、歌手としての真価を発揮。大拍手だった。笑いを誘う話術も身に付け、ステージングも巧みなエンターテイナーに成長して、聴衆はみな大満足だった。実力あるミュージシャンによるビッグ・バンドもよく、今年のハイライトの一つと言える。(鈴木道子)


Popular CONCERT Review


「ヘイリー・ロレン」 2月12日 コットン・クラブ
 ヘイリーはアラスカ生れのオレゴン在住。大都市を拠点にしていないが、実にこなれた歌唱と
ステージングは、実力と相当なキャリアの持ち主であることを物語っている。幼少時代はエラ、
エッタ・ジェイムス、ナット・コール、カントリーのパッツィー・クラインなどを好み、長じてポピュラー・シンガー/ソングライターの影響を受けた。ジャズ批評誌からベスト・ジャズ・ヴォーカル・アルバム賞を受賞しているが、今回は最新作「バタフライ・ブルー」をもって5度目の来日となる。巧みな歌唱にはどこか懐かしいような風情も漂い、女性の魅力もたっぷり。スタンダード・ナンバーにラテン、シャンソンなども加え、「バタフライ」ほか自作もよく溶け込んで、「ストーミー・ウェザー」はまとわりつくような表現で魅了する。年配の男性ファンが多かったのも頷ける魅力とうまさだった。(鈴木道子)


Popular CONCERT Review



「ダイアン・シューア」2月20日ファースト・ステージ 
丸の内コットン・クラブ
 2013年の秋以来、久し振りのダイアン・シューアの来日公演、今回は、彼女がスタン・ゲッツに見出され表舞台に出てから35年の記念で昨年6月に発表したゲッツとシナトラに捧げるアルバム「I Remember You」のライヴ版と云ったステージ。レコードではアラン・ブロードベントがピアノを弾いていたが、今回は、彼女のピアノとアルバムでも共演のジョエル・フラーム(ts)とベン・ウルフ(b)が参加, ドラムスは、ドナルド・エドワーズに変わっていた。彼等の演奏に導かれて登場、「友達の輪」といって手が床につくほど深々とお辞儀をしていきなり「'S Wonderful」をジョエルのテナーとスキャットで渡り合いながら快調に歌う。「Nice'n' Easy」「 Watch What Happens」「 I've Got You Under My Skin」とアルバムと順番も同じに聞き慣れたスタンダードを全身全霊を込めてと云った感じで歌うレンジの広いダイアン節が続く。PAの関係か、以前に比べ声に艶がなくなった感じを受けた。ボサ・ノヴァの「How Insensitive」は、アルバムではソプラノ・サックスだったがジョエルはクラリネットに持ち替えていた。彼のテナーは、ゲッツを想い出させる。客として来ていたオール・アート・プロモーション社長の石塚氏に呼び掛けて彼の好きな「Bewitched 」を通常とは違うイントロから茶目っけたっぷりに歌う所などなかなかのエンタティナー振りだった。「Here's That Rainy Day」の後、彼女の歌は、休んでインストで「Nobody Else But Me」を演奏、ジミー・ウェッブの「Didn't We」は、ソロで入り、ベース、ドラムスと絡んで来る組立てでテナー抜きだったが、当夜のハイライトだった。「Fly Me To The Moon」の後、最後は、ロード・マネジャーの手を借りなければ舞台の乗り降りが出来ない彼女なので「これは、アンコールです」と云って「For Once In A My Life」をアップ・テンポで歌い上げる。楽しいステージだったが企画倒れの感じも残るステージだった。
(高田敬三)
フォトクレジット:米田泰久


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