2015年2月 

  

Popular ALBUM Review


「6才のボクが、大人になるまで。」(ワーナーミュージック・ジャパン:WPCR-16424)
 日本でもすでに公開されて評判を呼んだ映画のサントラ盤。一人の少年が子供から大人へと成長する過程の12年間を同じ俳優で追い続けたというかつてない手法で製作されたこの映画のサントラ・アルバムはまさにその趣旨に沿うような形になっており、撮影された12年間(2000年〜2013年にかけて)に世に出された楽曲の数々を中心に全16曲。コールドプレイ、ザ・フレーミング・リップス、キャット・パワー、ウィルコ。。。オープニング曲にはそのウィルコのジェフ・トゥイーディが息子のスペンサーと組んだプロジェクト、トゥイーディの新作「サマー・ヌーン」が収録されている(アコースティック感覚のこの楽曲の仕上がりが一番沁みる♪)。それにボブ・ディラン2006年のアルバム「モダン・タイムズ」からの「ビヨンド・ザ・ホライズン」や何故かポール・マカートニー&ウィングス1974年の「バンド・オン・ザ・ラン」までも(ディランとポールが一緒に収まっているのも珍しい!?)。この映画作品にしてこのサントラ盤ありというわけで、こちらもまた画期的な内容といえるかも♪(上柴とおる)


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「きっと、星のせいじゃない。」(ワーナーミュージック・ジャパン:WPCR-16241)
 同名映画(2月20日公開)のサントラ盤。こちらもまた内容的に話題を呼んでいるアルバムで、エド・シーラン、バーディ、ジェイク・バグ、グループラヴ、トム・オデールなどなど全16曲。若くして末期の癌患者になった男女の青春ラヴ・ストーリーともいえるこの映画の主人公に合わせて(劇中では10代のカップル)若手アーティストの楽曲が総動員されている。最初に音源だけを聴いているうちはこれといって感じるところもなかったのだが(今どきの音作りになっていることもあって)その後、試写を鑑賞するとキャッチーな配分でシーンごとにタイミング良く流れて来るこれらのサントラ曲が何とも効果的でハマってしまう。題材的にはかなり重い映画ではあるけれど'深刻'な作りではなく、お涙ちょうだいでもなく、さわやかな仕上がりになっているのは次々とあふれんばかりに流れて来る若々しい数々のサントラ楽曲の効能かも。(上柴とおる)


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「イン・ザ・ロンリー・アワー/サム・スミス」(ユニヴァーサル・ミュージック・ジャパン /UICC-10015)
 今世界が最も注目視している男性シンガー・ソングライターと言っていいだろう。2014年1月にイギリスBBCは批評家や音楽関係者の投票で最も有望な新人の第一位に選出した。同年5月には本作品がデビュー・アルバムとして海外で一足早く発表になり、すでに数百万枚売り上げているともいう。まもなく開催される第57回グラミー賞には6部門にノミネートされた。日本ではシングル「ステイ・ウィズ・ミー」が昨年末からチャートを賑わせ、日本語カバーも登場している。サム・スミスの子供時代、家にはソウル・ミュージックが流れ、ホィットニー・ヒューストンやチャカ・カーン、アレサ・フランクリンなどに親しんだようだ。メランコリックな声質とソウルフルな唱法はそのことを思わせるし、青い目のソウル・シンガーといわれる所以だろう。ノーティ・ボーイの「LA LA LA」を含めて収録されたオリジナル14曲はいずれもポップなヒット曲として大いに楽しめる。(三塚 博)


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「イッツ・ザ・ガールズ!/ ベット・ミドラー」(ワーナー・ミュージック・ジャパン / WPCR-16190)
 大物女性歌手の好作品が続く。バーブラ・ストライサンド、アレサ・フランクリン、そしてベット・ミドラー。いずれも、いまだに来日公演が行われたことのない点が共通するのはちょっと淋しい気もするがここは一番レコードで味わうことにしたい。ベット・ミドラーの通算25作目にあたる本作品は、60年代のガールズ・グループのヒット曲をカヴァーしたオールディーズ・アルバム。当時、ロネッツ、クリフトンズ、アンドリュース・シスターズ、マーヴェレッツ、シュープリームスなどキラ星のごとく女性グループが台頭していた、ガールズ・ポップの黄金時代でもあった。ハイティーンのベット・ミドラーにとってはもっとも身近にあったヒット曲だったに違いない。白黒TVにトランジスタ・ラジオ、レコードショップの店先のドーナツ盤・・・・聴く者をたちまち半世紀前の世界に引き戻してくれる。名曲の一つひとつに、彼女があらたな生命力を吹き込んでくれたようだ。「あたしのベイビー」「素敵な貴方」「恋はあせらず」「今宵教えて」「愛しているんだもの」など15曲。そういえば当時の邦題は味わいがあった。(三塚 博)


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エッダ・マグナソン&二ルス・ラン・ドキー・トリオ
ブルー・ノート東京 12月20日 ファースト・ステージ
 スウェ—デンの伝説的ジャズ・シンガーで女優のモニカ・ゼタ—ランドの半生を描いた映画「ストックホルムでワルツを」でモニカ役を演じたシンガー・ソングライターで女優のエッダ・マグナソンがデンマークの人気ピアノ・トリオと共演の初来日ステージ。日本では殆ど知られていないエッダ・マグナソンだが、丁度上映中の映画のお陰か、超満員の盛況だった。二ルスのオリジナル、「Contemplation From A Mountain Top」のタイトなトリオ演奏の後、「あら、綺麗」と場内から声がもれる、美しく魅力的なエッダが登場、モニカのビル・エヴァンスとの名作アルバム「Waltz For Debby」から3曲を二ルスのMCも入って続けて歌う。満員の日本で初めてのステージの所為か、一寸堅い感じだが、後半の二ルスのオリジナル「Between a Smile and a Tear」あたりから本来の調子になり、アルツハイマー症を扱ったというフランス映画に触発されたという自作の「Hombre I Know」は、ピアノの弾き語りで聞かせた。モニカが好きだったスウェーデンの民謡を主題にした物語性のあるスウェ—デン語の「Trubbel」は、流石女優らしく気持ちの入った素晴らしい歌だった。アップ・テンポの「What a Moonlight Can Do」で締め、アンコールではチック・コリアの「You're Everything」で盛り上げた。彼女の新作アルバム「Woman Travels Alone」は、全曲、英語で歌うフォーク・ロック調の彼女のオリジナルだが、「Monica Z」をきっかけにジャズの方向へ進むのだろうか。興味のあるところだ。(高田敬三)
写真:山路 ゆか


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ディー・ディー・ブリッジウォーター&ザ・レジェンタリー・カウント・ベイシー・オーケストラ
ブルー・ノート東京 12月22日 ファースト・ステージ
 グラミー賞に三度輝き、女優としてもトニー賞を受賞、いまや押しも押されもせぬ大スター、ディー・ディー・ブリッジウォーターが伝統あるカウント・ベイシー・オーケストラと共演するクリスマスの特別舞台は、歯切れよくスイングするスコッティ・バーンハート(tp)の指揮するカウント・ベイシー・オーケストラの演奏で始まった。白人も女性も交じる現在のベイシー楽団だが、伝統的なベイシー・サウンドは、健在だ。4曲目でディー・ディ—が登場、彼女の最初の旦那のセシル・ブリッジウォーターの編曲によるサド・メル楽団時代のチャートで「オー・レディ・ビー・グッド」を熱唱、続けてスライド・ハンプトン編曲の「アンディサイデッド」をヴァースも付けて歌った。エラに捧げる「ミスター・パガニーニ」の後、「そこの眠っているお兄さん、」と云ってステージから下りて前の座席のお客の前に座ってスライド・ハンプトン編曲でグラミー賞を取った「コットン・ティル」を歌う。「私は、サミー・デヴィス・スクールのジャズ・エンタテイナー」と云っていた彼女らしいエンタティナー振りだ。その客にアナウンスさせて再びセシル・ブリッジウォーターの編曲による「クリスマス・ソング」を歌い、最後は尊敬するビリー・ホリデイに捧げる「ゴッド・ブレス・ザ・チャイルド」と「ファイン・アンド・メロウ」を感動的な歌で聞かせた。7月にロスのハリウッド・ボウルで行ったプログラムが大変好評だったので、是非、日本でもやりたいと思ったと云っていたが、ダイナミックでエンタテイメント性の濃い楽しいステージだった。(高田敬三)
撮影:佐藤 拓央


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ジャズ喫茶ちぐさ 応援JAZZ コンサート
2014年11月21日 横浜にぎわい座
 濃厚なモダン・ジャズをたっぷり味わった。第1部の前半は「第2回ちぐさ賞」を受賞したベース奏者、遠藤定トリオの演奏。名匠・藤原清登に師事しており、力強いベース・ライン、雄弁なソロはまさに藤原流。アコースティックな響きを重視した音色にも好感が持てた。師匠の影響を完全に呑み込んだ時、さらにすごい存在になりそうだ。後半と第2部は、“横濱 JAZZ ALL STARS”。類家心平(トランペット)、向井滋春(トロンボーン)、川嶋哲郎(テナー・サックス)、板橋文夫(ピアノ)、池田芳夫(ベース)、守新治(ドラムス)。70年代当時の若手であった4人に、90年代の若手であった川嶋と2000年代の若手であった類家が加わる一種のジェネレーション・バンドだ。向井や板橋の自作に加え、ウォルター・デイヴィスJr.の「ジョディ」等も演奏。守新治のきめ細かなスティックさばきに酔いしれた。(原田和典)


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マーク・ジュリアーナ's BEAT MUSIC
2014年12月5日 六本木・ビルボードライブ東京
 ブラッド・メルダウとのデュオでも話題を集めるドラマー、マーク・ジュリアーナが自身のユニットで来日した。キーボードとエレクトロニクスは鬼才ジェイソン・リンドナーが担当。この少し前にはジョジョ・メイヤーのバンドで来ていたことをご記憶の方もいらっしゃるだろう。彼はよほど超絶ドラマーに好かれているようだ。といってもリンドナー、もともとはバリー・ハリスにビ・バップ奏法を習ったことのあるバリバリのアコースティック・ジャズ奏者だった。しかし今の彼はエレクトリック、テクノ、ダンス等に、より強い興味を抱いているとおぼしい。ジュリアーナのドラム・セットはジャズ系としてはバスドラひとつとっても口径が大きく(24インチだとか)、シンバルの形状も多彩。見ても聴いてもあざやかなリズムと、リンドナーの電子音が正面衝突する。快感だ。(原田和典)
撮影:jun2


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ルイス・ヘイズ・ジャズ・コミュニケイターズ
1月7日 丸の内・コットンクラブ
 1956年、19歳の若さでホレス・シルヴァーのバンドに入団。77歳になった現在も、ひたすら実直にアコースティック・ジャズのハートビートを打ち続ける存在がルイス・ヘイズだ。60年代後半に率いていた幻のバンド“ジャズ・コミュニケイターズ”の名称を、若手中堅ミュージシャンの尽力を得て復活させての来日公演である。共演メンバーはエイブラハム・バートン(テナー・サックス。ジャッキー・マクリーンの弟子)、スティーヴ・ネルソン(ヴィブラフォン)、デイヴィッド・ブライアント(ピアノ)、デズロン・ダグラス(ベース)。小気味よいハード・バップであることはあるのだが、テーマ・メロディを演奏した後は冗長なアドリブ・ソロが回るだけなので飽きが来た。シルヴァー・バンドのように、ソリストの後ろで手の空いたものがアンサンブルをつけるとか、テーマに戻る前にキャッチーなリフを入れるとか工夫があればなおいいのに。CDのほうがまとまっている。(原田和典)
写真提供:COTTON CLUB
撮影:米田泰久


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