2014年6月 

  

Popular ALBUM Review


「ガソリン/チップ・テイラー」(BSMF RECORDS:BSMF-7510)
 74歳にして今も現役で精力的に新作を発表し続けている大ベテランのチップ(女優アンジェリーナ・ジョリーの叔父)が1972年に出した記念すべきファースト・ソロ作が再び復刻された(2000年に日本のBMGが世界初CD化している)。1960年代に「ワイルド・シング」や「エンジェル・オブ・ザ・モーニング」「アイ・キャント・レット・ゴー」など世界的に知られる名曲の数々を書いた作者としても著名だがシンガーとしての活動に華やかさはない。しかし落ち着いたのどかな味わいと歌唱の魅力、そして何よりも楽曲の良さ。タイトル曲は子供の頃から慣れ親しんだというカントリー・タッチの作風ではあるがチップならではのポップ・センスが織り込まれている。全10曲中、「ホーム・アゲイン」(キャロル・キング作品)以外は自作。1970年代前期、シンガー・ソング・ライターが芽生えた時代の隠れた名盤といえる。(上柴とおる)


Popular ALBUM Review


「インサイド・ルーウィン・デイヴィス〜オリジナル・サウンドトラック」(ワーナーミュージック・ジャパン:WPCR-15439)
 すでに今年1月に日本でも出されていたアルバムだが映画の公開(5月30日)に合わせて改めて。1961年のニューヨーク/グリニッジ・ヴィレッジのコーヒー・ハウスで歌い演奏するミュージシャンたちの中にいたのがデイヴ・ヴァン・ロンク。ボブ・ディランが憧れた知る人ぞ知るこのシンガーをモデルにその時代を描き出したこの作品には当然ながらフォーク系音楽が全般に流れる。しかも主演のオスカー・アイザック(ジュリアード音楽院出身)やジャスティン・ティンバーレイク(元イン・シンク)など'心得'のある出演者たちが吹き替えなしで歌を披露しておりリアリティーを感じさせるが、PP&Mを思わせるタッチの「500マイルもはなれて」や当時の社会状勢を鑑みたオリジナル・ソング「プリーズ・ミスター・ケネディ」(コミカル・フォークっぽい)など今興味を引く楽曲も少なくない。デイヴ・ヴァン・ロンクやボブ・ディランの歌声も収録。(上柴とおる)


Popular ALBUM Review


「ひとり〜プレイズ・スタンダード/ポリーニョ・ガルシア」(Muzak MZCF 1289)
 ポリーニョ・ガルシアは、シカゴを中心に活躍するブラジルのシンガー・ギタリスト、彼の前作は、ポーランドのグラジ_ナ・アウグスチクとのビートルズ・カヴァー集で彼等は6月23・24日に丸の内コットン・クラブに出演するが、本作は、ポリーニョのソロ・アルバム。愛をテーマに最初と最後は、ポルトガル語の歌で他はスペイン語の「ある恋の物語」以外はスタンダードを綺麗な英語によるギターの弾き語りで聞かせる。珍しくヴァースから歌う「Beautiful Love」や同じくヴィクター・ヤングの「When I Fall In Love」等見事な感情移入で聴き手の心に沁み入って来るような素晴らしい歌だ。彼のギターの妙技と優しく柔らかな声と相まって大変ロマンチックな雰囲気をかもし出す心温まる注目したい作品。彼の「コットン・クラブ」の来日公演が待ち遠しい感じだ。(高田 敬三)


Popular ALBUM Review


「ムーンリヴァー/ 飯田さつき」(t-tocrecords / XQDN-1052)
 飯田さつきの3年ぶりの新作は、デビュー作「I Thought about You」同様、宮本貴奈(p)がプロデュースとアレンジを担当。飯田の厚みを増した表現力と余裕を感じさせる歌唱が、本作品に一層の深みを与えている。宮本貴奈(p,keyb,)、マルコ・パナシア(b)、アルヴィン・アトキンソン(ds)のトリオの繊細なバックアップが安定感をかもし出している。クリスチャン・タンバー(vib)が2曲にゲスト参加、「マイ・フーリッシュ・ハート」でのアラン・ハリスとのデュエットが新鮮だ。タイトル・チューンのほかに「ラヴ・レターズ」「スイングがなけりゃ意味がない」「わが恋はここに」「ニューヨークの秋」などおなじみのナンバー11曲を収録。スタンダード曲は多くの先人たちが数々の名唱を残してきただけに、あえて真正面から取り組む姿勢は、ジャズ歌手としての並々ならぬ決意の現れ。実力派シンガーの道を着実に歩んでいる。(三塚 博)


Popular Cinema Review


「NY LIVE」
 ニューヨークという名称の街が誕生したのは1664年のこと。以来、350年という節目を迎えた今年、所縁のアーティスト4組の同地でのライブの模様が映像作品としてシリーズ化されて順次公開中だ。先月5月24日公開のポール・マッカートニー(2009年:シティ・フィールド)を皮切りに6月21日公開のビリー・ジョエル(2008年:シェイ・スタジアム)、7月5日公開のサイモン&ガーファンクル(1981年:セントラル・パーク)、7月12日公開のボン・ジョヴィ(2008年:マディソン・スクエア・ガーデン)と続く。ポールとビリーの公演にはお互いがゲスト出演して「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」や「レット・イット・ビー」を協演したり。ビリーが「ニューヨークの想い」を歌う際には超御大のトニー・ベネットまでが登場するなど見どころも多い。4組の中では映像が唯一うんと古いS&Gがこの翌年(1982年)に開催された日本公演を鑑賞したこともあってか名門デュオの歴史的な復活を目の当たりにした当時の思い出が蘇り、個人的には神々しくて眩しい。世界有数のエンタテインメントの拠点、NYという街ならではの高揚感が伝わるライブ映像シリーズだ。(上柴とおる)


Popular CONCERT Review


「フレッド・ハーシュ」 4月7日 丸の内コットンクラブ
 今年もまた名匠、フレッド・ハーシュの生演奏を日本で聴けたことを嬉しく思う。しかも今回はソロではなくジョン・エイベア(ベース)、エリック・マクファーソン(ドラムス)とのレギュラー・グループによる公演。ニューヨークでのライヴ盤『アライヴ・アット・ザ・ヴァンガード』と同一メンバーが、目の前でプレイしているのだから感激もひとしおだ。エイベアはひとつひとつのフレーズをかみしめるように音を置き、マクファーソンは極めて繊細に、ピアノとベースの絡みにそっと相槌を打つかのようにドラムを叩く。ベースとドラムスが伴奏して、そこにピアノが乗っかるという展開はほとんどない。おそらく3人は心の中だけで定常ビートを刻み、あとはインスピレーションに従ってメ音の対話モを交わしているのだろう。僕が見たセットは非常に静謐なナンバーが中心だったが、彼らは思いっきりリズミカルにスイングすることもできる。今度はそういう演奏も聴けたらと思った。(原田和典)
撮影:COTTON CLUB 米田泰久


Popular CONCERT Review


「ウェイン・ショーター」 4月15日 渋谷・オーチャードホール
 彼のように常に創造的なミュージシャンなら、毎年、いや、毎日でも来日してほしい。レジェンドの域に留まらない現在進行形の奏者、ウェイン・ショーターの公演が今年も実現した。昨年はドラマーが急きょ変更されたが、ことしはダニーロ・ペレス(ピアノ)、ジョン・パティトゥッチ(ベース)、ブライアン・ブレイド(ドラムス)という15年来のメンバーが顔を揃えた。ショーターはテナー・サックス、ソプラノ・サックスのほかに口笛も吹く。テナーはロング・トーン中心で、細かいフレーズはソプラノで奏でていた。もちろん若い頃のようにあれこれと吹きはせず、音を点在させるという感じ。しかしそのメ間モというか、音を出すタイミングが実にかっこよく、さすがショーターと大拍手せざるをえない。「御大がソプラノで超高音を力強く吹くと、それに呼応するように他の3人が楽器をフォルテ気味に鳴らす」という展開が多めのように感じたが、終演後の満足感は100%。やはりショーターは偉大だ。(原田和典)
撮影:Masanori Doi


Popular CONCERT Review


「Ninth Innocence」 4月20日 目黒ブルースアレイ・ジャパン
 最近ではラジオのパーソナリティーとしても活躍するシンガー・ソングライターの鈴木結女とギタリストの高橋圭一によって2013年のクリスマス・イヴにスタートしたユニットのステージは、今後の活躍を期待せずにはいられないエナジーに溢れていた。TVアニメ「NINKU-忍空-」のオープニング・テーマ「輝きは君の中に」のヒット・シンガーとして記憶もされている鈴木だが、彼女が約10年に及んだ米国での生活から帰国しての活動はとても新鮮だ。ファースト・ステージではボブ・ディランの「見張り塔からずっと」のカヴァーも含む英詞中心の楽曲を披露。セカンド・ステージは彼女の誕生日を祝うサプライズを幕開けに、主に日本語詞によるセットを展開した。このユニットが奏でる(どことなく英国ロックの香りも漂う)バラエティに富んだオリジナルはスケールが大きく、グローバルな可能性を持っていると思う。バックを支えた根岸孝旨(b)、倉内 充(ds)、白井アキト(key)がこれを機に正式メンバーとして加わり、バンドとしての活動が始まることも決まったそう。現在YouTube限定で新曲を発表してもいるので、ぜひ注目していただきたい。(山田順一)
撮影:五月女京子


Popular CONCERT Review


「TOTO」 4月27日 Tokyo Dome City
 TOTOと言えば、70年代後半から80年代にかけて、アメリカン・ミュージックの中枢にあり、産業ロックの権化の様なバンド・メンバーではあるが、今聴いても名曲・名演の宝庫であることは間違いない。楽曲の良さに加え、アレンジの妙、イントロからメロディ、各パートのソロまで計算尽くされたかの様な演奏は、見事の一言に尽きる。加えて、前回に比べメンバー全員のコンディションの良さが際立っている。全員が難しい事をいとも簡単に演奏するが、プロ中のプロだからこそ成せる技なのだ。特に、スティーヴ・ルカサーは、ソロ・プロジェクトと比べても驚く程ギターを弾きまくり、バンド・マスターとしてもやり尽くした感があった。この日は、「Rosanna」「99」と言ったヒット曲の中で、名曲「Africa」では会場全体での大合唱は、最高の盛り上がりを見せた。何だかんだ言っても80年代の音楽は、輝いていたと思う。(上田和秀)
撮影:Masayuki Noda


Popular CONCERT Review


「忌野清志郎 ロックン・ロール・ショー 渋谷公会堂 Love&Peace」 5月2日 渋谷公会堂
 不世出のロック・ミュージシャン、忌野清志郎のスピリットに会いに行くイベント「忌野清志郎 ロックン・ロール・ショー」が、渋谷公会堂に場所を移して開催された。渋公といえば、1983年にRCサクセションがアルバム『キング・オブ・ライヴ』を収録した場所。RCはまた70年代初頭、公園通りの南側にあった「ジャン・ジャン」でレギュラー公演していたこともある。さて、今回のテーマはメ弾き語りモ、メアンプラグドモ。70年代後半から90年の活動停止までRCに在籍した仲井戸メCHABOモ麗市を筆頭に、奥田民生、Char、トータス松本、真心ブラザーズ、浜崎貴司が集い、それぞれのヴォーカルやギターをフィーチャーしたナンバーから、全員のセッションによる「つ・き・あ・い・た・い」まで、清志郎ゆかりの名曲を次々と披露した。RCのアルバム『BLUE』からのナンバーが多めに歌われていたのも個人的には嬉しかった。(原田和典)
撮影:山本倫子


Popular CONCERT Review


「ジョン・メイヤー」 5月2日 東京武道館
 ギタリストなのかヴォーカリストなのか、はたまたシンガー・ソングライターなのか、時に天は特定の人間に二物を与えるものである。現代のその代表の一人が、ジョン・メイヤーである。味のあるヴォーカル、ギタリストとして卓越したテクニック、コンポーザーとしての才能は、エリック・クラプトンとプリンスの良いとこ取りと言ったところだろうか。しかし、ゴリ押しのギタリストではなく、スタイルはオーソドックスだが楽曲のメロディを重視したフレーズ、アーミング、早引き、タッピングと何でもありのギタリストであり、この日は自分以外にも二人のギタリストを要するなど、バンドとしてのバランスを考えたステージだった。確かにロックではあるが、カントリー・フォークを交えたセットリストも彼の音楽の幅の広さや才能を感じさせた。ジョン・メイヤーの様なミュージシャンが、多くの若者から支持されているのなら、音楽業界もまだまだ満更悪くない。(上田和秀)
撮影:田浦ボン


Popular CONCERT Review


「PASSPO☆渋谷公会堂ワンマンフライト」 5月3日 渋谷公会堂
 ここまでロックに打ち込んでいるアイドルは稀だろう。9人組グループ、PASSPO☆が久しぶりに渋谷公会堂に戻ってきた。オープニング・アクトのprediaが熱の入ったパフォーマンスでとことん場内の空気を熱くした後、割れるような拍手のなかPASSPO☆が登場。約3時間、ノンストップで歌い、煽り、踊りまくった。バックはもちろん凄腕ロック・ミュージシャンで構成されたメThe Ground Crewモが担当。いつもはツイン・ギターだが、今回はトリプル・ギター。各奏者のカッティングやオブリガートがからみあい、その上に森詩織を始めとするメンバーたちの力強い歌声が乗る、この気持ちよさ。キーボード奏者がいないせいもあるのか、PASSPO☆のロックは飛び切りソリッドなのだ。また、今回は曲によって弦楽四重奏メエアポート・カルテットモも登場。サウンドに鮮やかな彩りを加えていた。PASSPO☆はまた、3月から自ら演奏しはじめてもいる。この会では「Perfect Sky」と「キャンディー・ルーム」をメバンドPASSPO☆モとして披露。なかでも玉井杏奈のドラムは重量感と安定感があり、音色の抜けもよく、大変な聴きものであった。(原田和典


Popular CONCERT Review




「ブライアン・セッツァー・オーケストラ」 5月19日 渋谷公会堂
 元ストレイ・キャッツの悪ガキ、ブライアン・セッツァーが率いるオーケストラのライヴは、最高のノリの良さで、ロックンロール、ロカビリー、スウィングを熱演し、スタイル重視(これ程リーゼント率の高いライヴも珍しい)オーディエンス中心の会場を盛り上げた。唯一無二のギタリスト&ヴォーカリストであるブライアン・セッツァーは、自分自身が楽しむかのようにトレード・マークのグレッチを抱えステージを動き回る。しかし、ギタリストとして卓越したテクニックを持つブライアンだが、オーケストラでもトリオであってもギターを弾きまくると言うよりは、バンド全体を盛り上げることに力を注いだプレイとなった。これ程楽しいライヴなので、コアなファンだけでなくもっと多くの音楽ファンに堪能して欲しいものだ。(上田和秀


Popular INFORMATION


「BOYZ Ⅱ MEN Japan Tour 2014」
 ボーイズⅡメンは1991年にモータウンからデビュー、以来数多くのヒットを放ち、グラミー賞を始め、数々の賞に輝いているソウル・コーラスの代表的なグループ。アップ・テンポのナンバーからア・カペラ・バラードまで、その卓越した歌声はポップ、かつ親しみやすさを兼ね備えており、ソウルというジャンルを超えて万人の心に届く魅力を持っている。きっと、聴いているだけで歌うことの楽しさが伝わってくるはずだ。2年ぶりとなるこの秋の日本ツアーでも、彼らは極上のハーモニーを届けてくれることだろう。(YT)

* 9月19、20日 東京国際フォーラム・ホールA
* 9月22日 愛知芸術劇場大ホール
* 9月23日 オリックス劇場
お問い合せ:キョードー東京 0570-550-799
http://www.kyodotokyo.com


Popular INFORMATION


「ナイト・レンジャー」
 80年代に、華麗なるツイン・ギター、キャッチーなメロディ、当時流行りだったロッカ・バラードで大人気だったアメリカン・ハード・ロックのナイト・レンジャーの日本公演が決定した。大ヒット曲「ロック・イン・アメリカ」、「シスター・クリスチャン」、「センチメンタル・ストリート」等も楽しみだが、最新アルバム『ハード・ロード』からの楽曲も興味深い。メンバー・チェンジはあったものの、輝かしいサウンドに変わりはないだろう。ロック・ファン必見のライヴになること間違いなしだ。(UK)

* 10月5,6日 渋谷公会堂
* 10月8日 なんばHactch
* 10月9日 ダイアモンドホール
お問い合せ:ウドー音楽事務所 03-3402-5999
http://udo.jp/


このページのトップへ