2014年6月 

  

Classic CD Review【管弦楽曲・協奏曲】

「メンデルスゾーン:劇音楽《真夏の夜の夢》(抜粋)、ピアノ協奏曲第1番・第2番、序曲《ルイ・ブラス》(1839年初稿ホグウッド校訂版) /リッカルド・シャイー指揮、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団、サリーム・アシュカール(ピアノ)」 (ユニバーサル ミュージック、デッカ/UCCD-1398)
 このCDはシャイーが手兵ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団と組んだ3枚目のメンデルスゾーンのデッカ録音である。2005年に始まるシーズンから第19代ゲヴァントハウスのカペルマイスターとなったシャイーは、世界最古のオーケストラであるゲヴァントハウスに最も相応しい指揮者ではなかろうか。古い中にも新しさを求めて行く情熱が大きく感じられるからだ。今回新しくリリースされたCDは歯切れの良いリズムで一つ一つの音をとても大切に扱い、その上で分かり易く組み立ててくれる。最初の序曲「ルイ・ブラス」では金管を吠えさせ、ヴァイオリンを表情過多に語らせ、その上に強弱を用いて序曲だけで終わる内容としたのだろう。次の劇音楽「真夏の夜の夢」は可成りドラマティックな進行となっている。特に有名な「結婚行進曲」は実際の結婚式で使えば最高のムードが得られるのではないだろうか。一言で言ってとても心のこもった演奏である。最後2曲のピアノ協奏曲を弾いているサリーム・アブード・アシュカールは1976年イスラエル生まれの俊英ピアニスト。多くの欧米有名オーケストラと数多く協演している。清潔感のあるタッチと有り余る技巧を感じさせる。第1番第2楽章のオーケストラの弦とのアンサンブルは誠に美しい。ヴィルトゥオーゾの誉れ高かったメンデルスゾーンの2曲のピアノ協奏曲は両曲とも美しいが、この2曲をシャイーと何回も協演しているアシュカールの演奏は既に貫禄のようなものを感じる。(廣兼 正明)

Classic CD Review【音楽祭(協奏曲・室内楽)】

「ルガーノ・フェスティヴァル・ライヴ2013 アルゲリッチ&フレンズ/マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)、ミッシャ・マイスキー(チェロ)、ルノー・カピュソン(ヴァイオリン)他、ユベール・スダーン指揮、スイス・イタリア管弦楽団」(ワーナーミュージック、ワーナー・クラシックス/WPCS-12720〜22〈3枚組〉)
 昨年行われたアルゲリッチ&フレンズのルガーノ・フェスティヴァル・ライヴ2013は楽しめる。例によって彼女のフレンズは幅が広いだけでなく、今年は選曲が素晴らしい。アルゲリッチのベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番は少し遅めのテンポの堂々としており彼女の貫禄を感じる演奏だ。次のマイスキーとアルゲリッチによる同じベートーヴェンのチェロ・ソナタは巨匠2人の対決と言える丁々発止の音楽を感じる。そして2枚目では、レスピーギのヴァイオリン・ソナタ(ルノー・カピュソン-Vn.)、リストの「悲しみのゴンドラ」(アリッサ・マルグリス-Vn. ユーラ・マルグリス-Pf.兄妹)、ショスタコヴィチ:チェロ・ソナタ(ゴーティエ・カピュソン-Vc.)、その他ラヴェルの遺作ヴァイオリン・ソナタ、ピアノ四手版の「小組曲」、3台のピアノによるオッフェンバックの「パリの喜び」が終わって、最後の一曲に普段は中々聴く機会のない楽しい曲が入っている。それはサン=サーンスの「動物の謝肉祭」の室内楽版だが、パロディと風刺に溢れた曲と演奏の面白さは絶品である。しかし有名な「白鳥」の生真面目な演奏は逆にそぐわない感がある。(廣兼 正明)

Classic CD Review【室内楽(クラシカル・ニューミュージック)】



「ザ・フィルハーモニクス/魅惑のダンス~私のお気に入り」 (ユニバーサル ミュージック、ドイツグラモフォン/UCCG-1658)
「ザ・フィルハーモニクス2/オブリヴィオン~美しきロスマリン」 (ユニバーサル ミュージック、ドイツグラモフォン/UCCG-1659)
 これはクラシックというジャンルを超越した、弦を中心にした2年前ごろから新らしく誕生した超一流クラシック演奏家による新時代のアンサンブルである。実は演奏しているのはれっきとしたウィーン・フィルとベルリン・フィルのメンバーによるアンサンブルなのだ。名前は「ザ・フィルハーモニクス」といい、ご存じの方は意外に多い筈だ。それは世界中にTV中継されているウィーン・フィルの「ニューイヤーコンサート」の休憩時間にテレビで流れて大フィーバーをひき起こした彼等が余興代わりに演奏したことが始まりである。彼等はこれを商売にし始めたが、何はともあれめちゃめちゃに楽しいCDだ。2枚リリースされ、1枚目が「魅惑のダンス〜私のお気に入り」、2枚目が「オブリヴィオン~美しきロスマリン」と各々副題が付けられている。
 最初の1枚は有名なクラシックの知られた曲をラテン、ジャズ風にアレンジしたものや、リチャード・ロジャースの曲、それにこのザ・フィルハーモニクスの主宰者でウィーン・フィルのセカンド・ヴァイオリン首席のティボール・コヴァーチ(スロヴァキア出身)が作曲・編曲をした曲が多い。メンバーの中の半分はルーツを辿ればハンガリー、アルバニア等の血が流れている。まさに彼等の民族性がこのようにアレンジされた曲を演奏することを自分たちで楽しんでいるのだ。だから聴いていて楽しい。先ず全員が素晴らしいテクニックを持っており、聴く人たちにクラシックとは異なった楽しさを与えてくれるのだ。このコヴァーチのアレンジの見事さも特筆に値する。
 2枚目は1枚目よりオリジナルからは離れていないのでお堅いクラシック・ファンでも大いに楽しむことが出来そうだ。演奏はすべてウィーン・フィルの伝統的な奏法を固執している。これが又このCDが楽しめる要因になっている。特に最後のルーマニア狂詩曲では民族音楽で良く聞く鳥の囀りをヴァイオリン2人が実に見事に再現するが、他の演奏メンバーも客も大喜び、最後を締めくくる全員の大拍手へと続く。 (廣兼 正明)

Classic CD Review【室内楽(弦楽四重奏)】

「メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲集 第3番 ニ長調 作品44-1、 第6番 ヘ短調 作品80、 第2番 イ短調 作品13/アルテミス・クァルテット」(ワーナーミュージック、ワーナー・クラシックス/WPCS-12720〜1〈2枚組〉)
 1989年にリューベック音楽大学の学生4人により創設されたこのクァルテットは、結成後7年目の第45回ミュンヘン国際音楽コンクールで第1位を獲得したが、これは昨年6月に解散した東京クァルテットが第1位をとって以来の26年振りとなる快挙となった。このところ数多くの名門クァルテットが、メンバーの年齢上の問題その他で解散せざるを得なくなり、これからの世代を担うクァルテットの台頭が待たれていた。そしてそこに他の若手クァルテットに大きな差を付けてきたのがこのアルテミス・クァルテットである。暫くは自己研鑽に没頭したり、欧米の秀れたジュリアード、エマーソン、アルバン・ベルク等のクァルテットに結成後早い内から師事したりしたことが現在の基礎を作ることになった。しかし好事魔多し、腕の病、家庭の事情他で3人のメンバーが代わらざるを得なくなり、最終的には2012年8月にラトヴィアの名手、ヴィネタ・サレイカが第1ヴァイオリンを固め、ようやくメンバーの定着が出来たようだ。考え方を変えれば2012年がこのクァルテットの結成年と言っても良いのではなかろうか。さて今回のメンデルスゾーンのクァルテットを聴いてみて驚いたのは第1ヴァイオリン、サレイカのセンスの良さである。技術的なことは言うに及ばず、彼女の音楽の作り方の上手さで、特に第2番で聴かせる軽やかなボウイングから生み出される自由自在なしなやかな音は他のクァルテットでは味わえない音だ。因みに昨年の2月に発売のピアノのアンスネスとの旧メンバーによるシューマン、ブラームスのピアノ五重奏曲とを聴き比べてみたが、当然のことながらまるで異質のクァルテットとしか考えられない。(廣兼 正明)

Classic BOOK Review【オペラ】

辻昌宏 『オペラは脚本から』 明治大学出版会
 オペラにおける永遠の課題のひとつ、」脚本(リブレット)」と音楽の関係を扱い、台本作者たちがオペラの成立にあたえた影響をたどる意欲的な1冊。対象となっているのはイタリア(語)オペラだが、プッチーニを冒頭に置き、時代を遡ってモーツァルトへと至る形を取って、台本作者の領分に口を出し、テキストと音楽のきわめて密な関係を成就させたプッチーニを、この相互関係のひとつの完成者と位置づける。終章に置かれた、オペラ創成期の台本の分析も興味深い。一般的なオペラの研究において見落とされがちな分野なだけに、貴重な研究の上梓を喜びたい。 (加藤浩子)

Classic CONCERT Review【吹奏楽】

「東京佼成ウインドオーケストラ 第119回定期演奏会」 4月27日 東京芸術劇場コンサートホール
  春の大型連休の始まった頃、池袋の演奏会場は楽器を抱えた学生や吹奏楽部員らしい制服姿も多く、若々しい活気に溢れていた。今年1月より正指揮者となった大井剛史の控えめながら正確なタクトにより、難度の高いヒンデミットの「吹奏楽のための交響曲 変ロ調」が演奏され、各プレーヤーの巧みな演奏技術も堪能できた。また邦人作品も二曲あって、中橋愛生の「科戸の鵲巣 吹奏楽のための祝典序曲」、長生淳の「Paganini Lost in Wind」では、日本の吹奏楽のレベルが今や世界に誇れるものになったことを証明された。今年は、1984年から常任の後、現在まで桂冠指揮者を務めたフレデリック・フェネルの生誕100年にあたり、会場には自筆の手紙や腕時計なども展示されていた。"音楽"が大好きだったフェネル氏の思いが今なおTKWOのメンバーに引き継がれていることを感じた。プログラム最後の曲は、A・リード「アルメニアン・ダンス」で全楽章通して演奏された。A・リードも1981年にTKWOの客演指揮者として来日、我が国の吹奏楽の発展に貢献した。客席で聴いている学生達は真剣に耳を傾け、ステージ上のプレーヤーもその情熱に応えるような真摯な演奏であった。(斎藤好司)