ヘルベルト・
ブロムシュテット
レオニダス・カヴァコス
|
ヘルベルト・ブロムシュテット レオニダス・カヴァコス(ヴァイオリン) ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団(11月12日、サントリーホール)
ブロムシュテットのブルックナーは「純粋」だ。夾雑物や誇張、テンポの動かしや、余計なアゴーギクとは無縁。それはブルックナーのひとつの理想形と言える。
ゲヴァントハウス管弦楽団は素晴らしかった。バイエルン放送響の明るい音とよい対照を示す影のある深く、しっとりとした音。弦と木管に特に顕著だ。金管の落ち着いた艶のある音もブルックナーにぴったり。
第1楽章のひそやかなヴァイオリンのトレモロと、チェロとホルンによる第1主題を聴いて、名演を確信した。インテンポで揺るがない全管弦楽によるコーダの厚みは圧倒的。
第2楽章アダージョ、3度目の主題が第1ヴァイオリンの艶やかな6連符の上に盛り上がっていく。ノーヴァク版による演奏だが、練習番号Wの頂点ではシンバルとトライアングルは使われなかった。これは、バンベルク響と同じ。練習番号Xの4本のワーグナーテューバと続くホルン2本が加わっての、ワーグナーに捧げた葬送音楽のふくらみと芯のしっかりとしたハーモニーも実に深い。
第3楽章スケルツォの予想を超える雄大さに、ブロムシュテットのこれまで知らなかった一面を見た気がした。大きな波とも、荒れ狂う海とも形容したくなる、スケールが大きいスケルツォ。90歳のマエストロの小さな動きの指揮から、これほど巨大な音楽がどうしたら生まれるのか。トリオのなんと雄大なことか。
第4楽章フィナーレは見事の一言。隙がまったく無い。滔々と流れる大河のように、広く大きな世界を築き上げて、演奏を終えた。
前半のレオニダス・カヴァコスをソリストに迎えたメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲は、音楽性の高い演奏であることは確かだが、カヴァコスが本来持っている実力を完全に発揮したとは言えないのではないだろうか。その理由は、演奏に輝くものがなかったから。もっと内側から湧き出すべきエネルギー、覇気が感じられなかった。昨日のブラームスの疲れがとれていないのでは。ただ、アンコールに弾いたバッハのガヴォットは繊細な装飾音で魅了した。ゲヴァントハウス管弦楽団のオーボエの深い音に酔った。そして弦のピチカートのなんと奥深いことだろう。本当に味わい深いオーケストラだ。(長谷川京介)
写真:ヘルベルト・ブロムシュテット(c)
レオニダス・カヴァコス(c)MarcoBorggreve
|