2017年5月 

  

Popular ALBUM Review


「IN2UITION / Cathy Segal-Garcia」(Dash Hoffman Records DHR 1021)
 キャッシ—・シーガル・ガルシアの10枚目の新作。彼女は、歌手、ソングライタ—、ヴォーカル・コーチ、プロモーターと幅広い分野でロスを中心に世界的に活躍している。日本にも第二の故郷というほど度々訪れてライヴやワークショップを行って多くのファンや生徒をもっている。「二人の直観」というような造語をタイトルにした今回の作品は、2枚組アルバムでコール・ポーター、ロジャース・アンド・ハート、セロニアス・モンク、ジョビンなどによるよく知られたナンバーに自身のオリジナルやピアニストのベヴァン・マンソンが書いたビル・エヴァンスに捧げる歌などを交えて14曲をジョシュ・ネルソン、ジェーン・ゲッツ、ゲイリー・フクシマなど今迄共演の経験のある10人の異なるピアニストとデュオで歌うという大変面白い企画。綺麗なアルト・ヴォイスでそれぞれのピアニストと感じたままの音楽的対話を楽しんでいるような温かく人間味のある作品だ。日本との係わりが深いのに彼女の日本盤のCDがないのは一寸不思議な気もする。(高田敬三)


Popular ALBUM Review


「コリン・ヘイ/FIERCE MERCY」(BSMF RECORDS BSMF-6106)
 1980年代に世界的な人気を誇ったメン・アット・ワーク(オーストラリア)のリーダーでソロとしてもすでに30年のキャリアを持つコリン・ヘイの最新作。今年64歳。独特のちょっとクセのあるトーンで枯れたようなあの印象的なヴォーカルの魅力は言うまでもないが、加えて今回はとりわけ楽曲のメロディーの良さに引き込まれる。「ノックは夜中に」はもとより数々のヒット・ナンバーを自ら手掛けて来たコリンのソング・ライターとしての資質、才能を再認識。6曲目「The Last To Know」なんぞ、ポール・マッカートニーがやりそうな?とか。ボーナス入れての全13曲。私が今もラジオ番組をもっていたら是非かけたいと思う曲が半数以上もあるほど。クォリティーの高さに感服させられる新作。(上柴とおる)


Popular CONCERT Review

「プラチナ・シリーズ 第5回 渡辺貞夫〜ジャズ界のスーパー・レジェンド〜」(2月17日・東京文化会館 小ホール)
 御年84歳。ますます精力的な活動を続ける渡辺貞夫が孫ほど年齢の離れたアメリカ人ミュージシャンとリサイタルを開催した。しかもベースの音が少々アンプで増幅されていた以外、すべて生音。マイクは一切使用されていなかった。曲目は盟友チャーリー・マリアーノが書いた「プラム・ブロッサム」、スタンダード曲「ディープ・イン・ア・ドリーム」、70年代からのレパートリー「エピソード」など、近年のステージにおける定番が中心。いつも通りテーマ→アドリブ→テーマというモダン・ジャズの伝統的な展開に沿って行なわれたが、スピーカーを通さないナマの音がダイレクトに飛び込んでくるので、聴感上はすこぶる新鮮だ。渡辺のアルト・サックスは力強くホール内に響き渡り、リズム・セクションのきめ細やかなプレイも圧巻。共演者は渡辺の大のお気に入りである(可能な限り共演したいという)ベン・ウィリアムス(ベース)、渡辺が1968年のニューポート・ジャズ祭で共演したピアノ奏者ビリー・テイラーの最後の愛弟子であるクリスチャン・サンズ(ピアノ)、そしてケンドリック・スコット(ドラムス)。(原田和典)


Popular CONCERT Review

「ナチュラルボーンキラーバンド」(2月19日・新宿ピットイン)
 今年で40周年を迎えるKANKAWA(オルガン、キーボード)が、世代の異なる本田珠也(ドラムス)、類家心平(トランペット)と組んだ強力ユニットのライヴが行なわれた。ちなみに“生まれながらの殺し屋”という命名は本田による。演奏は基本的に打ち合わせなしのフリー・インプロヴィゼーション。しかし経験豊富な3人だけあって、演奏にはごく自然にメリハリや、山あり谷ありの展開が生まれる。巨匠ジミー・スミスに師事し、ハモンドB-3を用いたブルース色の濃いプレイにも定評のあるKANKAWAも、このバンドでは徹底的にアグレッシヴに、鍵盤をぶっ叩くかのように弾きまくる。エフェクターを巧みに操作しながら音の塊を放出し続ける類家、ジョン・ボーナムばりの重厚な音でメロディ楽器を煽り立てる本田もすさまじかった。この日のライヴは録音されており、秋ごろにCDリリースされる予定。(原田和典)


Popular CONCERT Review

「幸弘の会 一噌幸弘の能楽堂へ行こう2017 第一弾/アースアワーチャリティー公演『らいちょうの舞』」(3月24日・千駄ヶ谷 国立能楽堂)
 地球環境保全団体のWWFと、爬虫類・両生類をこよなく愛する一噌幸弘が、とびきりぜいたくな公演を開催した。第一部はまず「自然の恩恵と音楽」というトーク・セッションから開始。ミジンコの研究家としても知られる坂田明、WWFジャパンの草刈秀紀との会話は自分にとって、新しく知る事実の連続。なかでもミドリガメが外来種であるということに衝撃を受けた。続いては一噌の笛、坂田明のアルト・サックスやクラリネット、吉見征樹のタブラ、高本一郎のリュート、佐野登(能楽師宝生流シテ方)などを交えた一大セッション。一噌はローランド・カークばりの3本同時吹奏でも客席を大いに沸かせた。また第2部では「世界の鳥」と題し、クープラン作曲「恋のうぐいす」、カタルーニャ民謡「鳥の歌」、一噌作曲「らいちょうの舞」などを次々と披露。息の合ったアンサンブル、各人の磨き抜かれた技巧、そしてジャンルや国籍や時代を飛び越えた幅広い選曲が、すばらしく爽快な気分にさせてくれた。(原田和典)


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