2016年11月 

  

Popular ALBUM Review


「The Song Is All / Nancy Harrow」(BenFan Music 88295 48222 6)
 1960年のキャンディドの「Wild Women Don't Have The Blues」で有名なナンシー・ハーロウが書いたパペット・ミュージカル「蜜蜂マーヤの冒険」がブロードウエイで7年間もロングランを続け日本でも公演されたということは案外知られていない。彼女は、ナサニエル・ホーソン、F・スコット・フィッツジェラルド、ウイラ・ケイサ-等の小説を主題にしたアルバムを多く発表してきた。エリザベス・コーツワースの「天国へ昇った猫」もミュージカル化されている。昨年は、ホーソンの「大理石の牧神」のアルバムを時代と舞台を変えて≪For The Last Time≫というタイトルでミュージカル化してNYで公演されていた。今回の新作CDは、このミュージカルの舞台で共演した才能ある若手ジャズ・グループにルーファス・リード(b)、デニス・マックレル(ds)等のベテランをゲストに迎えたバンドをバックにジョン・ルイスと書いた「As Long As It's About Love」から始まり「蜜蜂マーヤ」、「Winter Dream」,「Lost Lady」、「天国へ昇った猫」、「大理石の牧神」等のアルバムで歌った自作ナンバーを新たなアレンジで歌うもの。力強い声で相変わらず素晴らしい説得力のある歌を聞かせてくれる。(高田敬三)


Popular ALBUM Review


「Songs Of Life / Scott Morgan」(Miranda Music MMCD1024)
 スコット・モーガンは、ニューヨークで活躍するシンガー。フロリダ州立大学時代は、ピアノを弾き歌っていてミュージカル出演などもしていたが、実業界に入り暫く音楽から遠ざかっていた。2001年にフレッド・ハーシュ(p)の勧めもありジャズの世界に復帰する。本アルバムは、そんな彼の遅咲きのデビュー・アルバム。今までの人生経験を歌に込めて様々なかたちの「愛」をテーマに歌う。「I'm Just A Lucky So And So」、「Lost In The Star」等スタンダード・ナンバーにドリ・カイミ、ジェームス・テイラー、ザ・ビートルズ等のコンテンポラリーな歌にフレッド・ハーシュのオリジナル等を交えて、感受性豊かな歌に寄り添うようなにフレッド・ハーシュのトリオ、あるいは彼とのデュオで歌う。3曲ではテナーのジョエル・フラームが参加している。スインギーな「It's You Or No One」では、セカンド・コーラスでチェット・ベイカーのトランペット・ソロを巧みにヴォ—カライズしたりするが、柔らかな声といい、彼の歌は、チェット・ベイカーの雰囲気をもっている。ミュージカル経験もあるという彼の、一曲でゲスト参加するマントラのジャニス・シーゲルとのやり取りも聴きものだ。(高田敬三)


Popular ALBUM Review


「SOLO-DUOギラ・ジルカ&矢幅歩 / Morning Light」(JUMP WORLD/DDCZ-2117)
 ギラ・ジルカと矢幅歩のツイン・ヴォーカル・ユニットSOLO-DUOの初アルバム。ギラはジャズやR&Bで、矢幅もまたジャズやJ-POPのフィールドでそれぞれ長年研鑽を積み重ねてきたが、2006年に二人の偶然の出会いがきっかけとなってコンビが結成された。ユニットとしての活動歴10年、かれらの魅力はなんといっても息の合った歌唱スタイルにある。 ジャンルを問わず、いままでにも男女二人によるデュオ作品はいくつもの名作品を生みだしてきたが、それらに共通しているのは流れるようになめらかな対話をしているがごとき見事なコンビネーションとハーモニーだ。本作品にはそれがある。
 今までに発表されてきた8曲に新たに5曲を録音してアルバム化された。曲は「ラヴ」「サマーサンバ」「クリスマス・ソング」「愛はきらめきの中に」「スピニング・ホイール」「イエスタデイ・ワンス・モア」「夏の終わりのハーモニー」など。ジャズ、ポップス、J-POP、ふたりのオリジナルとジャンルを超えた選曲となっている。(三塚 博)


Popular ALBUM Review


「ジス・イズ・キャロル / キャロル・ウエルスマン」 (ミューザックMZCF 1340)
 カナダ出身、ロス在住のジャズ・シンガー、キャロル・ウエルスマンの前作「アローン・トウギャザー」は、ルーファス・リード、ルイス・ナッシュ、ウォーレス・ルーニー等と共演のジャジーなNY録音だった。今回は、一転してしっとりとした日本制作のピアノの弾き語りのソロ・アルバムだ。数曲でブラジル出身のギタリスト、シンガー、ポリーニョ・ガルシアがゲスト出演している。より広いファンに彼女の歌の魅力を伝えようという意図か、スタンダード・ナンバーの名曲を20曲、それぞれの曲の魅力、美しさを凝縮するように、お得意のピアノのソロも封印して、ほとんどを心のこもったワン・コーラスの歌で聞かせる。彼女ならではの企画だ。5か国語を話す彼女は、「枯葉」や「シェルブールの雨傘」は、フランス語で、「イパネマの娘」や「コルコヴァード」等は、ポルトガル語で「或る愛の物語」は、スペイン語で歌っている。数曲のボサ・ノヴァ・ナンバーで共演するポリーニョのサウダーヂ感の溢れるギターとヴォーカルも良い味を出している。(高田敬三)


Popular ALBUM Review


「うたひあそび。/ゆげみわこ」(Fututuka Record:FUTUTUKA-001)
 デビュー作「こはくうたひ」に続く2作目(新作は3年ぶり)。生まれ故郷は岩手県の久慈市だが彼女の'歌の古里'は日本各地ばかりか海外にも。今回は「こきりこ節」(富山県民謡)、「北前舟組曲」(奄美六調〜佐渡おけさ〜南部あいや節)、「ウナ・セラ・ディ東京」、そしてフィリピンの子守唄「Sa Ugoy Ng Duyan」も収録。加えて金延幸子の書き下ろし作品や郷土食をテーマにしたオリジナル曲でライヴの定番「久慈まめぶ音頭」(詩・ゆげみわこ/曲・中野督夫)も収められた。洋楽、歌謡曲、民謡。。。何を歌っても'琥珀の歌声'がジャンルを超える。1970年代からのキャリア派ミュージシャンが多数サポート。制作は音楽評論家の増渕英紀。(上柴とおる)


Popular BOOK Review


「夢街POP DAYS 音楽とショップのカタチ/土橋一夫、鷲尾剛著」(ラトルズ)
 アナログ盤の'見直し'ブームも背景にいわゆる「レコード屋」の存在意義を改めて振り返ってみようという1冊。熱心なファンの間ではよく知られたレコード店の店主さんたちを対談ゲストに迎えて著者がいろいろな話を引き出し掘り下げる。パイドパイパーハウス、すみや、銀座山野楽器、ペット・サウンズ・レコード、WAVE、downtown records、レコファンの各店主、バイヤー、マネジャーなど購買層とダイレクトに接する店側から見た音楽史の記録でもある。近年はYouTube、配信、ネット通販等でずい分と'便利'にはなったが「書店」や「映画館」へ直接足を運ぶのと同様にレコード屋へ出向く楽しさを経験した世代は言うまでもなく、初心者マークのアナログ・ファンにも是非とも目を通してもらいたい。(上柴とおる)


Popular CONCERT Review


「Daniel Herskedal vs 太田惠資」(9月3日 新宿・ピットイン)
 実に興味深いライヴだった。前半は太田惠資と天田透のデュオ。太田はエレクトリックとアコースティック、2種のヴァイオリンを使い、天田は一見、水道管のように見える大型フルートをエフェクターにつなげて幻想的な響きを紡ぐ。太田の書くメロディ・ラインは、どこかわらべ歌のようだ。後半はノルウェーのグル—プ、ダニエル・ハシュケダル・トリオが登場した。ピアニストのエイオルフ・ダーレが立てかけていた分厚い譜面を見る限り、ほとんどの部分が記譜されているようだ。ダニエルはバス・トランペットとチューバを持ち替えていたが、チューバでのマルチフォニックス奏法連発はとりわけ刺激的だった。トロンボーン奏者の故アルバート・マンゲルスドルフの得意技をチューバでやってしまうとは。しかもそれを循環呼吸で繰り広げるのだ。そこにエンジニアのダニエル・ヴォイドがエフェクトを加えると、何人ものチューバ奏者が大聖堂で演奏しているように響く。旧来のドラム・セットという概念を破壊するかのようなセッティングでシャープなビートを送り出すヘルゲ・アンドレアス・ノールバッケンのプレイも見事。現代ジャズのトレンドのひとつであろう“コンテンポラリー・チェンバー・ミュージック”を満喫した気分だ。(原田和典)


Popular CONCERT Review


「プレストン・グラスゴウ・ロウ」(10月5日 六本木・ビルボードライブ東京)
 “メタリカ・ミーツ・チャールズ・ミンガス”との声もあるという英国の気鋭3人組が初来日を果たした。メンバーはデヴィッド・プレストン(ギター)、ケヴィン・グラスゴウ(6弦エレクトリック・ベース)、ロウリー・ロウ(ドラムス)。2012年ロンドンで結成された。全員が大変な巧者であることはいうまでもないが、個人的にはケヴィンのプレイに大きく引き寄せられた。とにかくプレストンのギターに、絡みに絡む。タッピング、コード奏法などを織り交ぜながらのプレイはベースというよりも低音ギターという感じ、しかもエフェクターでトーンや音量をどんどん変えていく。なんだかツイン・ギターのプログレッシヴ・ロック系バンドを聴いているような気分になってきた。(原田和典)

写真・Yuma Totsuka


Popular CONCERT Review


「水木一郎アニソンデビュー45周年記念ライブ 〜GREATEST HERO SONGS〜」(10月9日 勝どき・第一生命ホール)
 ぼくは水木一郎のファンなので何度も彼のステージを見ているが、そのたびにパワーアップしているのには驚かされる。アニメのヒーローたちのパワーを吸い取って、彼自身も超人化しているかのようだ。この日はなんと約60曲を21トラックにわけて披露。「バビル2世」や「マジンガーZ」など大定番に加え、1971年に発表された記念すべきアニソン・デビュー曲「原始少年リュウが行く」、2016年の近作「オーブの祈り」など幅広い年代にわたるナンバーを熱唱した。乗りに乗ったトークも含む、約3時間半。ともにアニソン界を牽引する“大王”、ささきいさおとのデュオも場内を大いに盛り上げた。(原田和典)


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