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OPERA News from Italy
TEATRO LIRICO SPERIMENTALE DI SPOLETO - A. BELLI・・・・by Mika Inouchi
スポレート歌劇場の歴史と今シーズンの活動・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・井内 美香
スポレートはローマから126キロ、ウンブリア州にある風光明媚な小都市である。人口4万人、緑に囲まれたこの地は、紀元前12から11世紀頃人が住み始め紀元前5世紀頃にはウンブリ人が城壁を築いた記録があるそうで、古代ローマにも栄え、その後はゲーテを始めとする多くの文人に愛された歴史を持つ。スポレートは現代においても国際的に知られる文化都市である。中でも戦後のイタリアを代表する作曲家の一人、ジャン・カルロ・メノッティがスポレートの美しさに魅せられ、この地に「二つの世界のフェスティヴァル」という国際音楽祭を設立したのが1958年、それ以来、オペラ、バレエ、クラシック音楽のコンサートなどを中心にしたフェスティヴァルが毎夏開かれるようになった。二つの世界というのはアメリカのチャールストンでも同じフェスティヴァルが開催されているからである。
しかしオペラ界にとってのスポレート市の重要性は、スポレート歌劇場の存在を抜きにしては語れない。イタリア語ではTeatro Lirico Sperimentale、直訳すれば「スポレート実験歌劇場」となるが、実際の活動とかけ離れた印象になってしまうので、通常日本では「スポレート歌劇場」と訳される。スポレート歌劇場は7月から10月にかけてコンサートとオペラ上演のシーズンを持つ歌劇場だが、そのもっとも重要な活動は、国から認定されたプロのオペラ歌手養成機関である、という事である。音楽院を卒業した歌手達は、そのままですぐ舞台に立つだけの実力を持っていないのが普通である。レパートリーを作り、楽曲解釈を深め、そして舞台での立ち居振る舞いを学び、それを実際の舞台で披露する機会を与えるのがスポレート歌劇場の役割である。今でこそ、スカラ座他の歌劇場でもアカデミーを開催しているが、スポレート歌劇場の研修所が開設されたのは1947年、地元の名士アドリアーノ・ベッリによってであった。毎年コンクールがあり、そこで8〜10名の歌手が選ばれる。彼らは、滞在費、食費などを支給されて2年間スポレートで勉強する。かつてはイタリアの文化庁、ウンブリア州、スポレート市の資金で運営されていたためイタリア人歌手のみを受け入れていたが、近年はEUの補助金もおりるようになったため今ではEU各国から若い歌手達が集まっている。
この研修所で学んでプロになった歌手は数多い。歴史的名歌手で言えば、フランコ・コレッリ、アントニエッタ・ステッラ、エットレ・バスティアニーニ、アンナ・モッフォ、ガブリエッラ・トゥッチ、ローランド・パネライなど、近年の名歌手ではルッジェーロ・ライモンディ、レオ・ヌッチ、レナート・ブルゾン、マリエッラ・デヴィーア、ソニア・ガナッシ、ロベルト・フロンターリ、ジュゼッペ・サッバティーニ、ノルマ・ファンティーニ、ニコラ・ウリヴィエーリ、ダニエラ・バルチェッローナなど数多くのアーティストが世界中の歌劇場で活躍している。常駐の声楽コーチ、音楽コーチの他に、ライナ・カバイヴァンスカ、レナート・ブルゾンなど名歌手達が講師として招かれる。運営資金的に可能な年は、指揮者、音楽スタッフ、オーケストラなどのコースも併設、また、現代音楽の作曲コンクールを開催するなど、幅広い育成を行っている。コース履修者、そして卒業者を中心にした歌劇場のシーズンは地元のオペラ・ファンのためのポピュラーな演目に加えて、必ず18世紀のオペラ、現代オペラを含めることにより、観客に対する啓蒙活動も忘れないようにしているという。
7月6日にはスポレート市庁舎内の会議室にて今シーズン内容に関する記者発表があった。今年は歌曲の夕べ、スポレート歌劇場の委託作曲の現代オペラ「オペラ・ミグランテ」(ルーチョ・グレゴレッティ作曲、マリオ・ペッロッタ台本「アンダンテ・イタリアーノ・アッラ・ベルガ」とアンドレア・チェーラ作曲、マリオ・ペッロッタ台本「フーガ・ストラニエーラ・コン・モート」の2本立て)の上演、18世紀オペラの蘇演としてはカルロ・ゴルドーニ台本、ヴィンチェンツォ・レグレンツィオ・チャンピ作曲「三人のせむしのおとぎ話」、若い歌手達が出演するウンブリア州各地の歴史的名所を使ってのオペラ・ガラコンサート、そしてステファノ・モンティ演出、カルロ・パッレスキ/ダニエーレ・スクエオ指揮の「ラ・トラヴィアータ」。「ラ・トラヴィアータ」はウンブリア州各地とローマを含めて全21回上演される。スポレート歌劇場と日本の交流に長年尽力した音楽研究家、永竹由幸氏の逝去にともない「ラ・トラヴィアータ」は永竹氏に捧げる公演になるそうだ。
7月24日にはペルージャ近郊のフォッサート・ディ・ヴィーコという人口3千人の町にあるサン・セバスティアーノ教会にておこなわれたコンサートに行って来た。地元の人々の暖かい反応に歌手達も実力を発揮、今シーズン「ラ・トラヴィアータ」に主演するアンナ・カルボネーラ、ジュゼッペ・ディステーファノ(往年の名歌手と同じくシチリア出身のテノール)、ダニエーレ・アントナンジェリ、そして同歌劇場の特別オーディションを経て現地で研修中の二人の日本人歌手、又吉秀樹、宮澤直子も出演して「ラ・トラヴィアータ」「ラ・ボエーム」「イル・トロヴァトーレ」「フェドーラ」「アルルの女」そして「メリー・ウィドウ」からの二重唱などを披露する楽しいコンサートであった。
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