2011年7月 

OPERA Review (ミラノ発)
Roméo et Juliette - Teatro alla Scala・・・・・・・・・・・・・・by Mika Inouchi
スカラ座グノー「ロミオとジュリエット」・・・・・・・・・・・・・・・井内 美香
Photo: Brescia e Amisano
 ミラノ・スカラ座でシャルル・グノーの「ロミオとジュリエット」が上演された。スカラ座で最後にこのオペラが上演されたのは1934年、その時はイタリア語での上演であった。グノーのオペラの中でも『ドラム・リリック』として劇的効果よりも抒情性に主眼を置いたこの作品はあまりイタリア人が好む演目ではないのかもしれない。公演プログラムによると、ジュゼッペ・ヴェルディは「グノーは偉大なる音楽家、フランス最高のマエストロだが、劇的な体質に欠けている」(1876年2月5日付の手紙)と評したそうだが、「ファウスト」の8年後に書かれた「ロミオとジュリエット」においてその傾向はより強いのではないだろうか。

 今回のスカラ座上演は2008年にザルツブルク音楽祭で初演されたプロダクションを採用している。演出はバートレット・シャー。ザルツブルク音楽祭では祝祭大劇場での上演ということもあり、収録されたDVDを観ると舞台奥にある3列の横長い柱廊をセットの一部として活かし、床には木目の舞台をしつらえそれが場面によっては上に持ちあがる、という動きのある舞台を実現していたようだが、スカラ座での上演はその美術を普通の大きさの劇場用に作り直した物で、石に見える素材で作られた館が並びヴェローナの街角を表し、床にはやはり木目の舞台が置いてある(上下はしない)。1回の休憩をはさんだ2部構成で上演される全5幕がこの美術セットのままなので単調な印象となってしまった。特に、第一幕のキャピュレット家の舞踏会が野外で行われているように見えるのはおかしい。シャーの演出は冒頭部分に貴族による若い娘の強姦シーンを入れたり、ロミオがティボルトを殺す時に友人が手渡す短剣を使うなど、芝居として余計な部分がある。それ以外は写実的な演出で決闘シーンなどは良くできていたが、趣味の良くない派手な衣裳を使ったミュージカル的な演出で、このオペラの音楽の持つ美しい詩情が感じられなかったのは残念である。


 詩情が感じられなかった、と言えばそれはヤニック・ネゼ=セガンの指揮にも当てはまる。音のバランスもテンポも良く、溌剌とした演奏で、ソロ・パートで活躍するスカラ座のオーケストラ奏者達の優秀さも相まって聴きごたえのある演奏だったが、弦パートの音が一貫して強すぎる印象を受けた。もう少し場面によるニュアンスが欲しかったところである。

 しかし今回の上演は優れた若い二人の歌手達の活躍によって大いに楽しめるものとなった。まずはロミオのヴィットーリオ・グリゴーロ。グリゴーロはロミオ役にふさわしい美青年で、舞台での動きも機敏だ。声は少々ヴィブラートがかかっているが、声量は十分で良く通る声。カヴァティーヌ「恋よ、恋!L'amour!」も最後の高音をクレッシェンドしてフォルティッシモまで持って行って見得を切り、観客の大喝采を浴びていた。


 そしてジュリエットのニーノ・マチャイーゼはスカラ座アカデミーで学んだグルジア出身のソプラノ。2008年のザルツブルク音楽祭でアンナ・ネトレプコの代役としてこのジュリエット役に抜擢され注目を集めた。素直な発声で高音が楽に出る彼女が歌うのに今一番いいのはベル・カントでは「清教徒」のエルヴィーラ、「愛の妙薬」のアディーナもいいだろうし、フランス・オペラではこのジュリエットなどの、個性が強すぎない若い娘役が向いている。アリエット「私は夢に生きたいのJe veux vivre dans le rêve」も技巧のみに走らず愛らしい乙女を表現した大変良い歌唱であったが、このオペラに4つもあるロミオとの二重唱や眠り薬を飲むシーンもしっかりとした音楽作りで聴かせた。そして彼女のキャラクターが可愛らしいおてんば娘、という演出意図によく合っており、フクシア・ピンクのドレス姿も目に鮮やかであった。


 その他の出演者はティボルトのファン・フランシスコ・ガテルが伸びのあるテノールの声と身軽な決闘シーンなどで活躍。ロレンス神父のアレクサンデル・ヴィノグラドフは役に合った声だが痩せて背が高い若者で歌も少々頼りない。マキューシオのラッセル・ブラウンは容姿も声も役に合っている。ステファノのコーラ・ブルググラーフは身軽で演技は上手いが歌は不安定。ジェルトリュード(乳母)はDVDと同じスザンヌ・レスマルクで貫録たっぷり。その他の役はそれなりに適材適所、という印象であった。スカラ座合唱団はグノーにふさわしい重厚な歌を聴かせてくれた。(6月13日鑑賞)

ロンドン・リポート
LIVEエリック・クラプトン&スティーヴ・ウィンウッド・・・大友 博
 5月27日と29日、ロンドン/ロイヤル・アルバート・ホールで、年末に来日が予定されているエリック・クラプトンとスティーヴ・ウィンウッドのライヴを観た(恒例となっている同ホールでの連続公演の一部で、今年は前半がクラプトンのソロ、後半がウィンウッドとの共演という構成になっていた)。
 
 あらためて振り返っておくと、1960年代の半ば、ともに若き天才的アーティストとしてロック界に登場した彼らは、クリームとトラフィックがほぼ同時に分裂したあと、69年、ブライド・フェイスを結成している。しかし、理想的な創作活動を追求する場だったはずのこのバンドは呆気なく消滅してしまう。原因は、主にクラプトンの側にあった。
 
 以来、本格的な共演はなかったが、2007年、二人の距離が急速に縮まっていく。5月にバークシャーで開催されたフェスティバルで、彼らはひさびさに並んでステージに立ち、そこで予想以上にいい感触を得たクラプトンは第2回クロスロード・ギター・フェスで自身のセットにウィンウッドを招いた。ウィンウッドのソロ作『ナイン・ライヴス』へのクラプトンの参加もあり、そして、ファンからの熱い要望に応える形で、翌年2月、二人はニューヨーク/マディソン・スクエア・ガーデンのステージに立ったのだ。
 
 09年の全米ツアー、10年の欧州ツアーにつづいて実現したロイヤル・アルバート・ホールでの共演、27日は、ブラインド・フェイスの「泣きたい気持ち」でスタート。このプロジェクトではウィンウッドがギターを弾く曲がプログラムの半分近くを占めているのだが、ここでも二人は強烈なギター・バトルを聞かせている。ブラインド・フェイス時代の曲は他に「プレゼンス・オブ・ザ・ロード」、「マイ・ウェイ・ホーム」、「ウェル・オールライト」。
 
 マディソン公演の前、彼らは、それぞれ相手の作品のなかから「これをやりたい」とか「これをやるべきだ」などと提案しプログラムを固めていったという。その成果のひとつと思われるのが「ホワイル・ユー・シー・ア・チャンス」。近年ウィンウッドは80年代の作品をほぼ封印してきたが、ここではクラプトンのギターを大きくフィーチュアする形であの時代の音を甦らせている。彼の作品としては他に「ミッドランド・マニアック」、トラフィックの「グラッド」、「ミスター・ファンタジー」、またその原点となったスペンサー・デイヴィス・グループ時代の「ギミ・サム・ラヴィン」も取り上げられている。
 
 単独のアーティストのカヴァーで目立ったのはJ.J.ケイル。「アフター・ミッドナイト」、「コカイン」、そして「ロウ・ダウン」と、3曲もピックアップされている。ケイルに向けた敬意の深さをあらためて教えてくれる選曲でもあった。また、ジミ・ヘンドリックスの作品からは「ヴードゥー・チャイル」が、15分近くの長いヴァージョンで演奏された。
 
 ひときわ大きな拍手を集めていたのが「我が心のジョージア」。マディソンではスティーヴのハモンド弾き語りだったが、ここではバンドでの演奏となり、椅子に腰を下ろしたエリックが渋いオブリガードを聴かせている。
 
 アコースティック・セットではスティーヴもマーティンを弾く編成で、「ドリフティン」、「ザッツ・ノー・ウェイ・トゥ・ゲット・アロング」、「レイラ」、「マイ・ウェイ・ホーム」。「レイラ」は『アンプラグド』のアレンジを踏襲したものだったが、よりブルージィな仕上がりとなっていた。
 
 なお、29日は「ミッドランド・マニアック」がトラフィックの「パーリー・クイーン」、「ドリフティン」が2月に急逝したゲイリー・ムーアの「スティル・ガット・ザ・ブルース」にかわっている。

 27日の公演直前にインタビューすることもできた。来日公演をテーマにしたものだったため、深い話は聞けなかったが、とにかく二人が楽しんでこのプロジェクトに取り組んでいる様子が印象に残った。なるほどと思ったのは、クラプトンがずっと昔からウィンウッドを本物のブルース・ギタリストとしてとらえてきたということ。一方のスティーヴは「あのころエリックはリーダーになろうとしなかったけど、今は素晴らしいバンド・リーダー」と皮肉る。インタビューの途中、突然、前日のライヴについて触れ、「クリスがピアノを弾くはずだったのに、オルガンを弾いた」、「でもよかったよ」などと話しあう二人。まるで『モンディ・パイソン』を観ているような気分だった。

【セットリスト】
*5月27日
1. Had to Cry Today
2. Low Down
3. After Midnight
4. Presence Of The Lord
5. Glad
6. Well Alright
7. Hoochie Coochie Man
8. While You See A Chance
9. Key To The Highway
10. Midland Maniac
11. Crossroads
12. Georgia
13. Driftin' (acoustic)
14. That's No Way To Get Along (acoustic)
15. Layla (acoustic)
16. Can't Find My Way Home (acoustic)
17. Gimme Some Lovin'
18. Voodoo Chile
19. Cocaine
20. Dear Mr. Fantasy(encore)

*5月29日
1. Had to Cry Today
2. Low Down
3. After Midnight
4. Presence Of The Lord
5. Glad
6. Well Alright
7. Hoochie Coochie Man
8. While You See A Chance
9. Key To The Highway
10. Pearly Queen
11. Crossroads
12. Georgia
13. Still Got The Blues (acoustic)
14. That's No Way To Get Along (acoustic)
15. Layla (acoustic)
16. Can't Find My Way Home (acoustic)
17. Gimme Some Lovin'
18. Voodoo Chile
19. Cocaine
20. Dear Mr. Fantasy(encore)


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