今回のコンサートは(CD録音直前の)昨年7月にフランス、ボーヌの古楽音楽祭で演奏され、Arte TVでインターネット生中継されたものとほぼ同じ内容。アカデミア・ビザンティーナによる付随音楽「解かれたゴルディアスの結び目The Gordian Knot Unty'd」組曲の演奏で始まり、その次にショルが登場して「 音楽が愛の糧であるならばIf music be the food of love」「薔薇よりも甘くSweeter than roses」、そして「夕べの讃歌 Evening Hymn:いまや太陽はその光を覆い隠しNow that the sun hath veil'd his light」を続けて歌う。ショルは始めの数曲は歌に少し固さがあるようであったが、透明感のある独特の美声は健在。そして再び器楽曲となり「アーサー王King Arthur」からシャコンヌが演奏されると、前半の重要曲「ダイドーとエネアスDido and Aeneas」から「私が地に伏す時(ダイドーの嘆き)When I am laid in earth」へ。ショルは観客に「この曲はご存知の通り本来女性が歌うものですが、その美しさと感情表現は性別を超えたものだと信じて私も歌う事にしました」と話しかけてから歌へ。その細やかな表現は、死に行くカルタゴの女王ダイドーの悲劇を鮮やかに描き出した。
休憩時間を挟んで後半は「アーサー王」からの「コールド・ソングCold song」でスタート。弦の不気味な音色がショルの演劇的表現に色を添える。そして器楽曲のパヴァーヌとヴァイオリン3台がソロを奏でるト短調のシャコンヌが演奏された後、音楽の守護聖人、聖セシリアの祝日のためのオード「来たれ、歓喜よWelcome to all the pleasures」が高らかに歌われた。この日のクライマックスとなったのは次の「おお、孤独よ」。アルバムのタイトルにもなっているこの曲の「おお、孤独よ、我が甘美なる選択よ…」で始まる長い歌は、ショルの知的で繊細な感情表現が観客に強く訴えかけた一曲となった。続く「つかの間の音楽Music for a while」は「つかの間の音楽が、あなたの全ての心配を慰めてくれる」という、琴線に触れる歌詞とメロディーを持つ名曲で、こちらも「おお、孤独よ」と同じ緊張を保った素晴らしい演奏であった。