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Opera News(ペーザロ発)
31st Rossini Opera Festival at Pesaro・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・by Mika Inouchi
第31回ロッシーニ・オペラ・フェスティヴァル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・井内美香
Photo: studio amati bacciardi
今年で31年目を迎えるロッシーニ・オペラ・フェスティヴァルは、ロッシーニの生まれ故郷であるアドリア海に面した都市ペーザロで毎年開催される音楽祭である。海水浴客が多い街に、世界中から集まるロッシーニ・ファン達が混ざる光景はペーザロの夏の風物詩となっている。今年はフェスティヴァルで初めて上演される「シジスモンド」「デメトリオとポリビオ」、そして1998年に初演されたプロダクション「ラ・チェネレントラ」の3つのオペラが上演された。
8月9日にフェスティヴァルの開幕を告げたのは「シジスモンド」である。イタリアの夏の音楽祭の中でも最も重要な一つであり、音楽関係者の評価も極めて高いフェスティヴァルだけあり、ヨーロッパのみならずアメリカ、日本などからもプレス、劇場関係者が数多く集まり華やかな初日となった。
「シジスモンド」は「タンクレディ」の翌年1814年にヴェネツィア、フェニーチェ歌劇場で初演されたオペラ(・セリア)である。妻に裏切られたと信じて彼女を死刑にした王シジスモンドが後悔のため狂気に陥るが、実は生きていた妻に再会する事によって正気と愛を取り戻す、というストーリーで、当時としては意欲的すぎる音楽のためもあり不評に終わった。そのためロッシーニはこのオペラに書いた音楽を「セビリャの理髪師」、「ラ・チェネレントラ」などのメジャーな作品の中に転用している。この音楽祭で2007年に演出した「泥棒かささぎ」で一挙に有名になったダミアーノ・ミキエレットの演出は狂気に陥った王が入っている精神病院を第一幕の舞台にし、妄想と現実の間をたくみに行き来しながら真のドラマを描き出す鮮烈なもの。病院患者達の演技など強烈な表現もあり、初日の観客の反応はブラヴォーとブーイングに分かれた。タイトル・ロールのシジスモンドを歌ったのはメゾ・ソプラノのダニエラ・バルチェッローナ。ロッシーニのズボン役を得意にしており、この音楽祭でもっとも愛されている歌手の一人である。今回は素晴らしい歌唱に加えて英雄的人物の弱さを浮き彫りにした秀逸な演技を見せ、観客の熱狂的な反応を巻き起こした。悪役ラディスラオにはロッシーニ歌手として名高いテノールのアントニーノ・シラグーザが扮し演技と歌唱両面で貴重な存在感を示し、王妃アルディミーラ役にはオルガ・ペレチャッコが出演し若き美貌と安定した高音で好演した。演奏はミケーレ・マリオッティ指揮のボローニャ歌劇場管弦楽団、合唱団。ボローニャ歌劇場はこの音楽祭に長年参加してきており、地元オケでもあるためロッシーニはまさにDNAに入っているが、現在同歌劇場の首席指揮者でもあるマリオッティの指揮が音楽の細かいニュアンスを丹念に描き出した陰影に富むもので、素晴らしい演奏を聴かせてくれた。このように今までほとんど知られていなかったオペラを、質の高い舞台で提供する所にまさにこの音楽祭の意義はあり、その意味では今年の成果は非常に大きなものであったと言えるだろう。
もう一つフェスティヴァルが初めて取り上げたのが、ロッシーニが14歳の時に書いた処女作と言われている「デメトリオとポリビオ」。作曲過程についてはまだ分からない事実も多く、ロッシーニ以外の人の手も入っているらしい作品だが、随所に彼ならではの特徴ある音楽が顔を出す。紀元前2世紀のギリシャに舞台をとったという敵対する父親二人とその娘と息子に当たる恋人達の愛情と行き違いの物語で、かなり荒唐無稽なストーリーである。ダヴィデ・リヴァーモアの演出は劇場の舞台裏を舞台上に再現し、ロッシーニの時代の衣裳を着た『劇場の幽霊たち』が終演後の無人化した劇場で生命を得て動きまわる、という設定。出演はマリア・ホセ・モレーノ、シー・イージェ、ヴィクトリア・ザイツェワ、ミルコ・パラッツィなど同音楽祭が併設するアカデミー出身の歌手達が中心となった。演奏はコッラード・ロヴァリス指揮のロッシーニ交響楽団、合唱はプラハ室内合唱団。
第3作目は1998年に上演されて斬新で豪華な舞台が大評判になった「ラ・チェネレントラ」である。ルカ・ロンコーニのシュールでスペクタルな演出とイヴ・アベルの指揮するボローニャ歌劇場管弦楽団、合唱団の出演。ケイト・アルドリッチが妊娠したため降板し、この6月に藤原歌劇団の「タンクレディ」に主演し好評だったマリアンナ・ピッツォラートが急遽主役のアンジェリーナを歌った。王子はローレンス・ブラウンリー、ダンディーニがニコラ・アライモ、ドン・マニフィコがパオロ・ボルドーニャ、アリドーロがアレックス・エスポジト。
音楽祭ではこの他にもレクチャーやコンサートが数多く開催された。ベル・カント・コンサート・シリーズはエヴァ・メイ、デジレ・ランカトーレ、フランチェスコ・メーリなどの人気歌手が出演し、また日本人指揮者、園田隆一郎指揮の「ディドーネの死」とカンタータ「テーティとペレオの結婚」のダブルビル・コンサートなど、興味深い企画が目白押しで、13日間の充実した音楽祭は今年も成功裏に幕を閉じた。
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