初夏に入ると樹々の葉の緑や、茶色の地面から緑の雑草が凄い勢いで茂生してくる。毎年繰り返される自然の営みに改めて驚く。テラスの階段を降りて、ナシとスモモの樹の間を抜けて、毎朝散歩する。気がつくと、一面の雑草の中に通り抜ける足跡の道ができている。雑草たちが、解ってくれるのである。そこに、通り過ぎる道が現れるのである。小さな感激を感じることができる。人の道である。
人間は、大自然を切り開き、道をつくって来た。その道をスルーする事で、その道をダビングする事で、人間の歴史が、文化が、経済が、国が造られて来たのだ。島国の日本では、松尾芭蕉の「奥の細道」があり、相応しい感性の道であるが、世界の大陸ではシベリアの果てから中国の万里の長城、シルクロードを経て、ヨーロッパ大陸へと繋がる壮大な道がある。そこにはまさに、過酷な大自然をくぐり抜けた人間の道がある。
テレビ朝日の「世界の街道をゆく」という紀行帯番組がある。世界各地の街道を訪れ、出会った人々の生活や、大自然の魅力を、毎月ごとのテーマで、デジタル映像でスチルとムーヴィーで表現している。構成・演出・撮影に狩野喜彦、撮影は写真家の横木安良夫。そしてオリジナルサウンドをキーボード奏者の篠原信彦が担当している。ミニ番組ながら毎週独特の映像世界をさりげなく見せてくれる、果てしない街道の進み具合の中に、人間の過去と現在が交錯した証が見えて来る。
「世界の街道をゆく」<オリジナルサウンドトラック> 発売元/ポニー・キャニオンPCCR-00537
映像にとけ込むサウンドを提供してる篠原信彦は、ロックのキーボード奏者であり、1969年、グループ・サウンズ割拠の中で「ザ・ハプニングス・フォー」でその音質の高さを誇り注目される。その後フラワー・トラヴェリン・バンド、トランザム、ピタゴラス・パーティのバンドで、日本のロック世界をキーボードをたたき通して来た。1971年フラワー・トラヴェリン・バンドでジョー山中と、1981年、ドン・ジュアンで萩原健一と、1986年ココロ・バンドで澤田研二と作曲作品を通じての活動でも知られている。

篠原信彦
この音楽がきっかけとなり篠原信彦がプロデュースして、スーパーユニットで「On The Road」が結成された。6月7日そのオープニングライブが西麻布の音楽実験室「新世界」であった。ステージでは、オンエアされた映像がスクリーンで表現され、ややアンダーなライティングの中で、長井ちえ(Vocal,Guitar),富倉安生 (Bass),堀越彰(Drums),高宮マキ(Guest Vocal)の腕利きのメンバーが共にパフォームした。そのサウンズは、映像に染み入る様な、悠久のリズムで大きなものだった。近頃の音楽シーンでは味わえない、ゆったりとしたリズムは、一種のヒーリング・サウンドでもある。アップテンポのデジタルサウンドにはないミュージックがそこにはあった。
テーマ曲の「Goin' On」が全体に流れている様だ。キーボードのインストメンタルは、流れてゆく音や、スローなバイブレーションにフィットしている。篠原信彦は百も知り尽くしているのだろう。ヴォーカルがエコーの様に響く。映像あってのミュージックサウンドだが、どこかで超えたくなる部分はあるだろう。もしかしてピンク・フロイド的 なインパクトとニューロックの世界に挑戦しても良いかもしれない。し かし、シニアな音の世界の「On The Road」は、今、必要な音だ と思った。自然と融合するサウンズ、そこに人がチラホラ見えるサウン ズ、そんな環境で今日の朝も迎えられたら、真昼の太陽を、真夜中の帳 を感じさせてくれる、それを感じる人の道の音があれば、サティスファクションだと思う。

On The Road
<写真撮影/池野 徹>
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