2012年3月 

Belakiss at Zepp Osaka・・・犬伏 功
 昨年、日本先行でデビューを果たした英国バンド、Belakiss。シャドウズのドラマー、トニー・ミーハンの息子ルアリーとリンゴ・スターの息子でザ・フーのドラマー、ザック・スターキーの娘ターシャという2人の存在がクローズアップされがちな彼らだが、そこにとらわれると彼らの本質を見失ってしまうかも知れない。しかし、彼らはそのルーツからしっかり引き継いだものがある。それは「バンド」という演奏形態へのこだわりだ。

 そんな彼らがまた日本にやってきた。英国で人気絶頂のバンド、カサビアンのオープニング・アクトを務める彼らの姿をZepp Osakaで見ることができたのでレポートしたい。

2012年1月12日 Zepp Osaka (Opening Act For Kasabian)
1. Fall Down *
2. Rise
3. Till the End of Days
4. High Tide *
5. Only You
6. Open the Skies *
7. Run Red
*:New Song

 さすがカサビアン、というべきか会場は満員状態だが、客層は仕事帰りの20代が中心といった感じで、いわゆる「ギター・ポップ」系と言われるバンドの客層より整然とした印象を受ける。そんな空気の中、Belakissをカサビアンのファンはどう受けとめるのだろうか、という思いが高まる。そして客電が落ちると4人がステージに登場、大きな歓声が響いた。オープニング・アクトを見つめるとき、観客の反応にはいつも不安がよぎるものだ。しかし今回は「これはいける!」という高反応。そして登場したのはなんと新曲㈰だ。Belakissのこのツアーに対する気合いが伺えるではないか。

 ファースト・アルバム『Belakiss』から半年。このアルバムのリード・トラックとなった甘酸っぱいポップ・ナンバー「オンリー・ユー」のイメージが些か先行した感のある彼らだが、ステージではファースト・アルバムが些か端正に過ぎるように聴こえてしまうほど“轟音”が鳴り響いていた。2人のギターが醸すホワイト・ノイズにも近い音の壁はまるで後期ライドのようでもあったが、楽曲後半のジャム・セッション的な展開を見せるなど、ライヴ・バンドとしてさらに大きくなった彼らの姿がそこにあった。しかもそれには明らかに“奥行き”も出ており、英国サイケデリックを思い起こされるイントロで始まる新曲㈮では、中盤で突如スロットルを踏み込むような展開に思わず息を飲んだほどだ。これら新曲3曲から想像するに、次のアルバムはきっと面白いものになるだろう。

 彼らはカサビアンのヨーロッパ・ツアーにも参加することが決まったという。これからの活躍が非常に楽しみなバンドだが、次はニュー・アルバムとともにメイン・アクトとして帰ってくることを心から期待したい。

写真:Soundcheck in Nagoya. Pic by Yumiko Shirai

「AKB48」は、学芸会レベルのゲームソフトだ・・・池野 徹
 AKB48は、昔、旅回り一座の出し物か、学芸会の発表会の子供たちのイメージがするのだ。団長がいて自在に操り藝をさせる。先生が発表会のために一生懸命練習させている。プロデューサー秋元康が、まさに団長であり先生である。この秋元康が仕掛けたAKB48は、現在の世の中を席巻している。この状態は、正常なのか、異常なのか、秋元康のほくそ笑んでいるポーカーフェイスだけが印象に残るのである。

 秋元康は、作詞家として美空ひばりをはじめ、その才能と実力を見せて来たが、放送作家として、マスコミや、芸能世界の環境を知り尽くしている男だ。また、ゲームソフトのSEGAの広告戦略プロデューサーも経験しており、芸能世界を斜めに見る事が出来る男でもあるのだ。はっきり言うと、マーケティングを知っているという事だ。音楽世界もデジタル化されCD媒体が、低迷されているのを見つめていたに違いない。だから、AKB48を使いCDのセールスを、かつてのアイドル、ピンク・レディーを凌駕する100万ヒットをこの時代にやってみせた。

 AKB48は、はっきりいって、学芸会の延長レベルで、集団で斉唱して、同じコスチュームで、可愛らしく、決して変な色気はなくダンシングしながら歌うチアリーディング的グループだ。そのスタートにかの電気街の親しみある秋葉原を選び、そのネーミングをAKBとした。下手 でも親しみある芸人が出来上がったのである。韓流ブームのグループとミックスして日本的な可愛子ちゃんとしてポジショニングした。テレビ媒体に露出を計りコマーシャルのごとく登場させる。リフレインを高める事は、そのゲーム性を高めるのと同じ事だ。さらに仕掛けとしては、AKB48のメンバーをランキング投票させる。それをCDセールスに連動させる。楽曲のランキング投票をさせる。同じ戦略のネーミングのグループを創り、入れ替える。間髪を入れずに次から次へとストラテジックに芸能界をいや、不安で軽薄な民衆を攻めて行く。まさに、デジタルとゲームと芸能エンターテインメントを一体化させたのである。

 AKB48の持っている歌唱能力はない。それでいいのだ。一人一人が一コマのごとく動いてくれれば良いのだ。世間は歌手だと思ってるが違う。AKB48のメンバー自身の問題はあるだろう。一コマだから有象無象の1人だ。個人的スターとしての主張も知名度も上がらないワンサで大半は終わってしまう運命にある。使い捨てできるのだ。普通の女の子が普通にならなくなるのだ。しかし世の民衆は、かような低年層グループに、うつつを抜かしているのはそのファンのターゲットを見るにつけ、これでいいのかと思うのだが。まあ、可もなし不可もなしだから、一種の癒しとして平和なのかもしれない。団長、秋元康は、次の手を考えているに違いない。

「モンティ・パイソンのスパマロット」日本初演!・・・本田浩子
 ブロードウェイ・ミュージカル2005年度のトニー賞作品賞はじめ、最優秀女優賞、最優秀演出賞の三部門で受賞した「モンティ・パイソンのスパマロット」が、今回日本で初めて上演された。2005年度のトニー賞授賞式は日本でも放映されたので、勿論「スパマロット」の楽しい舞台の一部はテレビで見ることができたが、実は5年前に折角NYに出かけたのに、前評判の高かったミュージカル「ヤング・フランケンシュタイン」他の新作を見て、まだ続演中だった「スパマロット」は見落としてしまったので、今回の日本初演を見ようと、1月18日赤坂ACTシアターに出かけた。

 余談だが、2005年度のトニー賞リバイバル作品賞候補には宮本亜門氏の「太平洋序曲(Pacific Overtures) http://www.musicpenclub.com/talk-201108.html
が上げられていて期待したが、「ラ・カージュ・オ・フォール」にリバイバル賞がいってしまい残念ながら受賞は逃したが、このトニー賞にノミネートされるというのは大変なことだから、日本人としての画期的な快挙といえる。

 Spamalot は、欧米の庶民の食べ物として人気の缶詰Spamに「たくさん」を意味するa lotをくっつけた造語で、原作はといえば、1974年にコメディ・グループのモンティ・パイソンの映画「モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル(Monty Python and the Holy Grail)」で、このミュージカルはそのグループのメンバーのエリック・アイドルが脚本と詞を担当、音楽はアイドル自身とジョン・ドゥ・プレの共作で、伝説のアーサー王物語を映画同様に思いっきり面白可笑しく、はっきり言ってバカバカしい程コミカルに作っている。偉大な英雄の筈のアーサー王が、誰にも王だとは気づいてもらえないし、そんなアーサーが (人間が扮した) 馬パッツイをお供?に円卓の騎士を集めに遍歴の旅をするという設定がまず可笑しい。アーサーと一緒にヤシの実のようなものでパカパカ音を出してパッツイが登場すると、とにかくその奇抜なアイディアに笑い出さずにはいられない。下層階級の泥集めデニスが湖の貴婦人(元タカラジェンヌ彩吹真央) に変身させてもらい、ガラハッド卿として円卓の騎士に加わる時には、ミュージカル「オペラ座の怪人」をパクって船に乗って仮面をつけて登場 (写真1)、会場を笑いに包む。こうした次々におかしな出会いと共に、(写真2) 右から馬(マギー)、アーサー(ユースケ・サンタマリア)、ベディヴィア卿(皆川猿時)、ガラハッド卿(賀来賢人)、伝説では武勇を誇ったランスロット卿 (池田成志) がただ人殺しをしたくて円卓の騎士に加わったり、ロビン卿 (戸次重幸)にいたっては騎士になれば着飾ってダンスができるというのが動機だったりと、伝説とは程遠いユニークな円卓の騎士が加わって、旅を続けて行くというドタバタ振りで楽しさ可笑しさは倍増していく。といっても、物語はそれなりに鋭い世相風刺と上質?なギャグ満載で、おまけに楽曲の良さ、脚色・演出 (福田雄一) のセンスは抜群で、出演者全員が楽しんで歌い踊る舞台は、客席を単なる笑いに包むだけでなく、ミュージカルの醍醐味をしっかりと味わわせてくれる。

 アーサー一行には聖杯を探すという試練が加わり(写真5)、冒険の旅が続くが、聖杯探しが何となく自分探しに繋がる感があり、おふざけの部分が多いとはいえ、真面目さとおふざけのブレンド加減の絶妙さに、ドタバタ喜劇のミュージカルを見終わって、不思議な満足感があり、今までにないミュージカル形態でトニー賞作品賞を受賞したことに敬意を表する思いで帰路に着いた。

写真提供:エイベックス・ライヴ・クリエイティヴ

ミュージカル「ハロー・ドーリー!」日本初演!・・・本田浩子
 ミュージカル「ハロー・ドーリー!」はキャロル・チャニング主演で1964年にブロードウェイで初演され大ヒットとなり、64年度のトニー賞作品賞、主演女優賞、音楽賞、振付賞他計10個を受賞している。この作品は、翌65年にメリー・マーティン主演の来日公演が実現し、その後ジーン・ケリーがメガホンをとり、バーブラ・ストライサンド主演で映画化されていて、ジュリー・ハーマンの作詞・作曲によるこのミュージカルは日本でもたくさんのファンがいるというのに、何故か50年近く日本人による上演は実現していなかった。

 テーマ曲の「ハロー・ドーリー!(Hello Dolly!)」はサッチモことルイ・アームストロングの当時LPではなくSPレコード盤が、ブロードウェイ初演前にヒットし、この曲は日本でも良く知られているので、このミュージカルの日本語上演が長らく待たれていたが、今回、富山市民文化事業団主催で初めて上演された。主演は富山出身の元宝塚男役トップの剣幸(つるぎ・みゆき)、年齢・キャリアからいってもドーリー役にピッタリ、これ以上は望めない適役といえる。東京公演の予定はないと知り、雪国富山に2月5日富山市芸術文化ホールでの千秋楽公演目指して、朝早い上越新幹線に乗り込む。途中の車内放送で大雪の為に不通になっている路線をアナウンスしていたが、地理不案内の為に果たしてどの路線が不通か分からないまま、幸運にも数分遅れで、越後湯沢に到着、無事に特急はくたか号に乗り継ぎができた。切符を手配した時には、みどりの窓口で、豪雪ですから富山に到着できるか約束はできませんと言われていたので、富山に到着した時には、思わず歓声をあげたい気分になった。

 この作品は19世紀後半のニューヨーク州ヨンカーズが舞台となっているが、実は50年前!の1962年から5年間、私は両親とそのヨンカーズに住んでいた。住所は62 McGeory Avenue, Yonkers, New York 電話番号の初めは、当時は数字でなく地域が分かるYOで始まっていた。NY市内に通勤可能な郊外の静かな住宅地を懐かしく思い出すが、舞台となった19世紀といえば、もっとニューヨーク市から遠い田舎町だったと思える。大きな話題となったキャロル・チャニング主演の「ハロー・ドーリー!」初演も勿論見ている。個性的でハスキー・ヴォイスのチャニングが、結婚仲介人の世話好きのドーリーとして舞台に登場するや客席が沸き返り、まさにNice to See You と歌うこの主題歌「ハロー・ドーリー!」がピッタリの舞台だった。

 物語はいたって単純というか分かりやすく、未亡人のドーリー(剣幸)がヨンカーズ(写真1)の住人で金持ちのホレス・ヴァンダゲルダー(モト冬樹)に、結婚相手としてニューヨーク市内で帽子店を経営するアイリーン・モロイ(井料瑠美)を紹介するが、実は自分がホレスとの結婚を目論んで、かつて亡き夫とよくでかけたNYの高級レストラン(写真3)にホレスを誘う。出演者や演出(ロジャー・カステヤーノ&寺崎秀臣)如何で物語は嫌味になりかねないが、そんな心配は全く無用、訳詞(寺崎秀臣)は歯切れよく演出も爽やかで、見ていて心弾む。その上、何といっても富山出身の剣ドーリーが晴れやかに歌う主題歌の「又お会いできて嬉しい!」(写真4&7)という歌声は感動的で、その圧倒的な存在感で終始観客を魅了し尽くし、会場は華やかな雰囲気で一杯となった。

 ヨンカーズのホレスの店(写真2)で働くコーネリアス(本間憲一)は、同僚のバーナビー(藤岡義樹)とNYに出かけ、ボスの結婚相手のアイリーンに一目惚れしてしまう。コーネリアスはアイリーンをダンスに誘うようにドーリーに言われるが、踊ったことがないとためらう。タップダンサーで振付師としても活躍する本間コーネリアスが、ドーリーの手ほどきで、たどたどしくステップを踏み始めるシーンは微笑ましく実に楽しい。ホレスはドーリーを憎からず思っているのに、頑固でなかなか本心を見せようとしない。ドーリーがもうあなたとはさようならと、ホレスに「グッバイ・ダーリン(So Long Dearie)」を歌って去って行き、一人ぼっちになったホレスがドーリーを失った悲しさを独白するシーンは、男の悲しさ切なさをしっかり客席に伝え、ドーリーが戻って来た時の喜びが会場に満ち溢れる。

 躍動的で熱気溢れる舞台の出演者は、野田久美子、大内慶子、佐藤弘樹、坂井宏彰、柳川玄奈他。特別出演で、剣自身の出身校、富山県立富山工業高校吹奏楽部の若者達が「パレードが過ぎる前に(Before The Parade Passes By)」(写真5&6)で登場、見事な演奏を披露して会場を沸かせた。

 ミュージカルの良さは何といっても、楽曲の良さに尽きるともいえるが、「メイム」、「ラ・カージュ・オ・フォール」などの作詞・作曲で知られるジュリー・ハーマンの代表作といえるこの「ハロー・ドーリー!」は、「一番素敵な服を着て(Put On Your Sunday Clothes)」、「ほんの一瞬で(It Only Takes A Moment)」他いずれも名曲揃いで、楽しさ満載の富山公演は、いつか、東京他の都市でも是非上演して欲しいと願いながら、会場を後にした。

写真提供:(財)富山市民文化事業団

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