2011年12月 

中尾ミエ主演 ミュージカル「ヘルパーズ!」を見て・・・本田浩子
 11月2日、中尾ミエ自身のプロデュースによる主演作品で、シーエイティプロデュース制作協力のミュージカル「ヘルパーズ! ~あなたがいる風景~」を観に、博品館に行く。2009年新国立劇場で上演された時に、ミュージカルになりにくいヘルパーと介護を受ける人の世界を描く真摯な姿勢と、暗くなりがちな介護の世界を、時にしんみりと、全体的には楽しめる舞台になっていることに感動した記憶があり、今回も期待が先立つ。

 芸能界で長年活躍している大物タレント矢沢マリ子(中尾ミエ)は、本人のスター意識とは裏腹に、マネージャーの高杉晋太郎(松尾伴内)のとってくる仕事といえば、テレビの旅番組の取材が続く。おまけに、聞いたこともない土地だったりと余りパッとしない話に、マリ子は高杉に当たり散らす。そんな時に、テレビの歌番組の収録が終わると、車椅子の少年がサインが欲しいとやって来る。気を良くしたマリ子はいそいそとサインするが、少年におじいちゃんが喜ぶと言われてがっかりする。気を取り直して、「私にも車イスを押させて」と言うが、あっさり断られてしまう。「私を誰だと思っているの!」と怒るマリ子だが、車椅子を押すにはそれなりの資格がいると言われてしまう。

 スターの気まぐれから、どうやったら介護の資格がとれるか、高杉に調べさせると、学校に行って勉強をして資格を取れば良いと分かる。面倒で諦めるだろうという高杉の思惑に反して、子供の頃から芸能界で活躍し、ろくに学校へ行けなかったことを残念に思い、その上、日頃から形だけのボランティアは無意味だと感じていたマリ子は、逆に喜んで学校に通い始める。

 こうしてマリ子は介護ヘルパーを目指して入学したのだが、実際に車椅子に乗せるのも降ろすのもやってみると、大変なことばかり、おむつとりかえの練習なども当然含まれていて、介護される側の誇りを大切にしながらの会話運びなども授業には盛り込まれている。生徒仲間にはヘルパーとして実際に働いている高円寺小百合(花山佳子)も参加していて、彼女の現場での様々な苦労話、例えばヘルパーがしていい仕事と、頼まれてもできない仕事があったりするという話に、マリ子はじめ生徒仲間は初めて知る世界に真剣に耳を傾ける。

 ともすれば、暗くなりそうな話だが、最初の授業こそマリ子の場違いなお洒落な格好に先生の松本(本間ひとし)に注意されたり、スターのプライドが捨てきれずに他の生徒たちと多少のギクシャクがあったマリ子だが、持ち前の明るさで仲間とも打ち解けあっていく姿が微笑ましく、しっかりと観客を魅了していく。

 ベーシストで実際にヘルパーとしても活躍中の山口健一郎の作・音楽だけに、曲の良さは勿論のこと、ストーリーに説得力がある。出演者は他に、森川由加里、tohko、田中恵輔、山本聡子と少人数ながら、長谷川晃示の脚本は中尾ミエの実像をダブらせて笑わせるし、ミュージカル経験豊かな本間憲一の演出・振付が冴えていて、題材とは裏腹に小品ながら見応えのある明るい舞台に仕上がっていた。

 東北大震災の後、公演の自粛が続く中、やはり舞台を通して元気を取り戻してほしいという願いがあるらしく、「お帰りの時に、皆様に素通りはさせません。私たちもロビーに立ちますので、皺もしっかり見ていって下さい。」と舞台上での中尾ミエの義援金を呼びかける言葉通りに、出演者全員が義援金箱の前に並ぶ様子に、おそらく観客全員が(長い行列を作って)快く寄付をしていったと思われる。中尾ミエさんが一人一人とにこやかに握手を交わす姿に、一段と爽やかな気分になって劇場を後にした。



写真提供:シーエイティプロデュース

33年前のザ・ローリング・ストーンズ"Some Girls Live In Texas'78"の映像・・・池野 徹
 ロックグループ最長のザ・ローリング・ストーンズも2012年には、デビュー50周年を迎えようとしている。ニューディスクがリリースされるとか、ライヴツアーが始まるとか、ロンドンにメンバーが集結、ミーティングが開かれるとか噂はしきりである。ロックグループが50年もやっているというのは、奇跡に近い。ロックは若者のサウンドだったが、今や70歳にも近いロックン・ローラーは、全てのロックフリークにとっては、勇気を与える見本の様なものである。何しろフィジカルにパワーが必要とされるミュージックだから。

 そんなフィジカルにも若き日のストーンズを33年の時空を超え、映像で見る事が出来るのである。1978年7月18日テキサス州フォート・ワースのウイル・ロジャース・メモリアルセンターでのライヴパフォーマンス映像が、デジタル・リマスタリングされ高画質化され甦ったのである。云える事は、DVD等もリリースされているが、映画館でビッグスクリーン、デジタルサラウンドで見る事が必見である。

 当時のストーンズは、ギターのキース・リチャーズが、麻薬問題で裁判を繰り返し、終身刑も覚悟してミック・ジャガーがストーンズの存続を聞かれ、キースはジェイルで作曲するしかないとまで云っていた。ミックは、妻ビアンカから、モデルのジェリー・ホールとつきあい出した頃である。新加入した、ギターのロン・ウッドには、初の世界ツアーだった。名盤「Black And Blue」を出して、アンディ・ウォーホルがデザインしたジャケット「Love You Live」をリリースした後、新譜「Some Girls」を送り出して、USツアーをはじめたのだった。

 実は、ストーンズ・フリークの自分は、この1978年、CFの"GEORGIA"撮影のためロスアンジェルスに滞在。女優ティッピー・へドレンのプロダクションに頼み、7月23日アナハイム・スタジアムでのストーンズ公演を見ることができたのだった。初のライブ公演だったので強烈な印象を受けたのだった。この5日前に行われたテキサスでの公演を映像で見れる事の因縁に驚いたのである。

 映画は、イントロにミック・ジャガーの当時の回想インタビューが入っている。「Some Girls」のジャケットに、エリザベス・テイラーとか、ブリジッド・バルドーとか使用して、ルシル・ポールから肖像権侵害の告訴され変更せざるを得なかったと当時の甘さをミックは語っている。そして、「Let It Rock」からライヴはスタートする。ミックは、赤いキャップに、ホワイトジャケット、ブラックのパンツで、はじめから全開で走り出す。そこには、まだシワの刻まれてない若き日の、今一現在のカッコヨイ決まりポーズには至らぬナマの、フィジカルをさらけ出した、パワフル・ストーンズが見る事ができる。キースは、心無しかやや、おとなしめだが、ドラムのチャーリーとベースのビルは変わらぬパフォーマンスをしている。新加入のロンは、キースに気を使い、ミックからぶたれたり、触られたり、可愛がられる様子をしっかり見る事が出来る。ロンは、ペダルスティールギターをはじめ、リードを取ったり、大活躍している。

 それにもまして凄いパワーを見せつけるのはミックである。「Beast Of Burden」「Miss You」そして「Shattered」と、ボディを小刻みにふるわせながら歌う。ステージ狭しと絶えず飛び跳ね、しゃがみ独特のミックパフォームが、実に色っぽいのだ。キースやロンに媚を売りながら、男を超えた男を演じる。そして、そのヴォーカルが、止む事のないパワフルパフォームするのである。勿論、会場のステージのアトモスフィアに乗りまくって歌う様がブロウアップされる。テキサスを意識してか、チャック・ベリーの「Sweet Little Sixteen」を、そして「Brown Sugar」でTシャツになり、さらに脱ぎ捨て、上半身裸でステージ上から観客へバケツの水を数回投げつける。そして、「Jumpin' Jack Flash」と息も継がせず全17曲をミックはパフォーマンスする。その姿は、若いとは言いながらRock'n' Rollの音楽としてのレベルを見せてくれる。これは、Rockファンならずとも必見の映像である。現在にしてみれば、文字通り様々なRollingしてきたストーンズだが、50年にも渡ってRockしている事が確認できるのである。

 夜中の映画館を出た時、まるで、フランスのニースで見たストーンズのコンサートの様に、帰る時間が無くなって来たのに気がついたのだった。


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