2011年10月 

フィル・スペクター関連の作品集が続々登場♪  by:上柴とおる
ソニー・ミュージックが「フィル・スペクター再発プロジェクト」を立ち上げた。今も新鮮な輝きを放つ'ウォール・オブ・サウンド'を生み出した20世紀の大音楽プロデューサー、フィル・スペクターが自身のフィレス・レコードをスタートさせたのは1961年。以来今年で50周年を迎えるというわけで主力アーティストたちの新編集のベスト盤や企画編集盤、さらには豪華ボックスも用意されるなどまさに待ち焦がれた嬉しいプロジェクト。すでに様々な音源を収集しているマニアックなファンのみならず、スペクターといえば受けないダジャレをかますデイヴさんがまず頭に思い浮かぶような、またその名を多少なりとも耳にはしていても例の事件以上に特に詳しくはないといった人たちにもその楽しさ、魅力、感動を大いに味わってもらいたい。そしてまたスペクターがロック史に残した大きな功績の数々も認識してもらいたいなぁと切に願うところ。これを機にビートルズやストーンズ、ブライアン・ウィルソン、スプリングスティーン、ビリー・ジョエル、デイヴ・エドモンズ、ラモーンズ、大瀧詠一、山下達郎。。。といった多くの著名アーティストたちを虜にした'フィル・スペクター'の存在をファンの一人としても改めて広く世に知らしめたいと思う。スペクター関連の復刻企画はこれまでにも何度か敢行されていて個人的にはアナログ時代の1976年に日本でもビクターから出されたロネッツ、クリスタルズ、ボブ・B.ソックス&ブルー・ジーンズの各ベスト盤やオムニバス盤「スペクター・イエスタデイズ・ヒッツ」や「レア・マスターズ/幻のスペクター・サウンドVo.l.1」「同Vol.2」が衝撃的だったのがいまも記憶に残っている(LPも大切に残してます♪)。CD時代になって間もなくの1991年にはまた新たにabkcoからBOXが、翌1992年にはロネッツ、クリスタルズ、ダーレン・ラヴの各ベスト盤が世に出されたが今回はそれらとも内容がまた異なっているので要注目♪

◎まず10月26日にフィル・スペクターがプロデュースを手掛けた音源による新編集のベスト盤が4枚(最新リマスター/高品質Blu-spec CD:各税込\2,000)。

◆ウォール・オブ・サウンド〜ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・フィル・スペクター1961-1966(ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル/SICP-20310)
ロネッツやクリスタルズ、ライチャス・ブラザースなどスペクターProdで送り出された代表的なヒット曲を中心に組まれたオムニバス盤(全19曲)。1966年No.88ながらも'ロックン・ロールの殿堂入り'を果たしたアイク&ティナ・ターナーの「リヴァー・ディープ、マウンテン・ハイ」も収録
<英文ライナー訳、特別寄稿、解説付き>

◆ダ・ドゥ・ロン・ロン〜ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・ザ・クリスタルズ(SICP-20311)
フィレス初の全米No.1ヒットになった「ヒーズ・ア・レベル」(1962)や表題曲(1963:No.3)がロックン・ロールの殿堂入りとなった女性トリオの全18曲入りベスト盤。未発表テイク「ウーマン・イン・ラヴ」CD初収録
<英文ライナー訳、特別寄稿:亀渕昭信、解説:萩原健太>

◆ビー・マイ・ベイビー〜ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・ザ・ロネッツ(SICP-20312)
2007年にグループとしてロックン・ロールの殿堂入りという栄誉を授与された女性トリオ。ロック系アーティストたちから熱い視線を送られるロニー・スペクター(フィルと一時結婚生活)の独特の歌唱と共に堪能出来る全18曲の中にはCD初収録の「アイ・キャン・ヒア・ミュージック」(ビーチ・ボーイズがカヴァー・ヒット)も
<レニー・ケイによる英文ライナー訳付、特別寄稿:木崎義二、解説:上柴とおる>

◆ザ・サウンド・オブ・ラヴ〜ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・ダーレン・ラヴ(SICP-20313)
ザ・クリスタルズやボブ・B.ソックス&ザ・ブルー・ジーンズのヴォーカリストとしても活躍したダーレン・ラヴのフィレス時代の音源を全17曲。ブロッサムズ名義での音源も収録。2011年にロックン・ロールの殿堂入り
<ジム・ベスマンによる英文ライナー訳付、特別寄稿:高浪慶太郎、解説:長門芳郎>

*10月26日にはまた日本編集(監修・選曲:土橋一夫)のオムニバス盤「テイスト・オブ・ウォール・オブ・サウンド」(SICP-20314:税込\2520:高品質Blu-spec CD)の発売も予定されている。この音作りに影響された楽曲の数々を集めたものでロニー・スペクター&E.ストリート・バンドの「さよならハリウッド」(曲:ビリー・ジョエル)、トレイド・ウィンズ「ニューヨークは淋しい町」、ソインー&シェール「ジャスト・ユー」、プリファブ・スプラウト「ア・プリズナー・オブ・ザ・パスト」、ラヴィン・スプーンフル「ユー・ベイビー」などなどを収録予定。

◎11月2日には今やすっかり定番のクリスマス盤が紙ジャケットで新に登場♪(2009年最新リマスター/高品質Blu-spec CD:税込\2,200)。

◆ア・クリスマス・ギフト・フォー・ユー・フロム・フィル・スペクター(SICP-20315)
スペクターの手によるウォール・オブ・サウンドに包まれたおなじみのスタンダードなクリスマス・ソングが13曲。今や20世紀のクリスマス名盤♪
<フィル・スペクターによるオリジナルLP掲載の英文ライナー&ジム・ベスマンによる英文ライナー訳付、解説:土橋一夫>

*1962年〜1964年にかけて発売されたオリジナル・アルバム6枚(紙ジャケット盤:オリジナルの内容ではすべてが世界初CD化!)+ボーナス・ディスク1枚を収めた7枚組のボックスもついに12月21日にリリースの予定(オリジナル・モノラル音源からの最新リマスター/日本盤のみ高品質Blu-spec CD:価格未定/豪華コレクター・ボックスに収納)

◆「フィル・スペクター・プレゼンツ フィレス・レコード・アルバム・コレクション」(品番未定)
収録アルバムは「ザ・クリスタルズ・ツイスト・アップタウン」「ヒーズ・ア・レベル/クリスタルズ」「ジップ・ア・ディー・ドゥー・ダー/ボブ・B.ソックス&ザ・ブルー・ジーンズ」「ザ・クリスタルズ・シング・ザ・グレイテスト・ヒッツVol.1」「フィレス・レコーズ・プレゼンツ・トゥディズ・ヒッツ」「プレゼンティング・ザ・ファビュラス・ロネッツ・フィーチャリング・ヴェロニカ」「フィルズ・フリップサイズ・バイ・ザ・フィル・スペクター・ウォール・オブ・サウンド・オーケストラ(全17曲)」 <詳細な英文ライナー訳付>

涙のアメリカン・ロック・ドリーム!栄冠を手にするまでドラマティックかつ苦難の道を歩んだREOスピードワゴン。デビュー40周年を記念してその名作群が一挙に紙ジャケCD化!・・・小松崎健郎
 1980年11月発表のアルバム『禁じられた夜』が世界的メガ・ヒット作となったUSアリーナ・ロックのヒーロー、REOスピードワゴン。
 この出世作たる『禁じられた夜』は、それまで全米アルバム・チャートにて8週連続で首位をキープし難攻不落とも言われたジョン・レノンの遺作『ダブル・ファンタジー』を追い抜き、以後15週間にもわたってNo.1をキープ、そればかりか現在に至るまで1000万枚を突破する売り上げを記録し続けているのだ。まさに80sロックを代表するモンスター・アルバムともいえるだろう。
 とはいえ、栄冠を手にするまでに、実に長い歳月を必要としたのも事実。『禁じられた夜』以前までの彼らといえば、評論家やマスコミからは“アメリカで最も有名な売れないバンド”はたまた“ゴールド・ディスクを手に入れるまでに7枚ものアルバムを必要としたバンド”などと揶揄されてきたのだから。
 そう、映画『ロッキー』よろしく、彼らこそは、まさにアメリカン・ドリームの体現者なのである。
 さて、そんなREOスピードワゴンにとり、今年(2011年)は、ファースト・アルバム『REOスピードワゴン』で米エピックよりデビューを飾ってから40周年、しかも『禁じられた夜』で世界のロック・シーンの頂点に立ってから30周年、というまさにメモリアル・イヤーということになる。

 というわけで、それを記念して今回、ソニー・ミュージックジャパンインターナショナルより、(LP時代も含め)国内初登場となる3タイトルを含む計10タイトルが、2回に分け紙ジャケCDとして発売されることとなった。全タイトルいずれも2011年DSDマスタリング、でもってもちろん完全生産限定盤での登場だ。
 ちなみに■は米RIAA(全米レコード協会)公認のゴールド・アルバム(50万枚以上のセールス)、★はプラチナ・アルバム(100万枚以上)。
 “あれっ?『ライディング・ストーム』、100万枚売ったのに、なんで174位なの?”と思われる方もいらっしゃるかもしれないが、これは現在までの累計枚数だからである。REOが初めてゴールド・ディスクを与えられたのは1977年、『ライヴ〜嵐の中へ』によってであり(現在ではこれも100万枚超えを記録、プラチナに輝いている)、また初めて100万枚超えを記録してプラチナをモノにしたのは、1978年の『ツナ・フィッシュ』だ。

<10月5日発売>
1971 『REOスピードワゴン』 (ソニー・ミュジックジャパンインターナショナル EICP-1480) \1995(国内盤初発売)★
1972 『REO/T.W.O(輝く大地)』 (EICP-1481) \1995(国内初CD化)
1973 『ライディング・ストーム』(EICP-1482) \1995 全米174位 (初紙ジャケ化)
1974 『ロスト・イン・ア・ドリーム』(EICP-1483) \1995 全米98位 (国内盤初発売)
1975 『ジス・タイム・ウィ・ミーン・イット(こんどはホンキだぜ)』(EICP-1484) \1995 全米74位(国内盤初発売)


『REOスピードワゴン』

『REO/T.W.O(輝く大地)』

『ライディング・ストーム』

『ロスト・イン・ア・ドリーム』

『ジス・タイム・ウィ・ミーン・イット』

 まずは第1期発売分。王道アメリカン・ハード・ロック路線だった頃の彼らの魅力がたっぷりとパッケージングされている。ファーストでのヴォーカリストは、テリー・ルットレル。そしてセカンド以降、ケヴィン・クローニンとなるが、『ライディング・ストーム』のレコーディング中に音楽的方向性を巡って、ケヴィン脱退、マイク・マーフィーへと交代。こうしたゴタゴタは売れないバンドにつきものだが、それでも年間300本のライヴを黙々とこなし続けたREO、さらにはたとえ売れなくともバンドの将来性に賭け、契約を打ち切ることなく見守り続けた米エピックの姿勢には頭が下がる。
 なお、『ジス・タイム・ウィ・ミーン・イット』についてだが、もともとLP時代にも日本盤は発売されておらず、当然邦題なんぞあろうはずもない。ということで、今回、36年の時空を越えて、初めて邦題がつけられるに至ったのである。その名もずばり「こんどはホンキだぜ」!
 また、同時に、今回国内初登場となる3タイトル、LPすら出てないということは、当然のように「帯(タスキ)」もないわけで、それらについては、いわゆる「妄想帯」を制作。当時の雰囲気、時代の空気を伝えるべく、元CBSソニー・グループ時代のツワモノ・ディレクター集団、洋楽研究会(http://ameblo.jp/nihonyogaku/)の「ホンキ」度全開な制作・監修のもと新規に作成。この出来栄えも紙ジャケ・マニアにはたまらないプレゼントといえそう。

<10月19日発売>
1976 『キープ・プッシン』(EICP-1485) \1995 全米159位 (国内初CD化)
1977 『ライヴ〜嵐の中へ』(EICP-1486/7) \2940 全米72位 (国内初CD化)2枚組 ★
1978 『ツナ・フィッシュ』(EICP-1488) \1995 全米29位 (初紙ジャケ化)★
1979 『ナイン・ライヴス』(EICP-1489) \1995 全米33位 (国内初CD化)■
1980 『ディケイド・オブ・ロックンロール』(EICP-1490/91) \2940 全米55位 (国内盤初発売)2枚組 ★


『キープ・プッシン』

『ライヴ〜嵐の中へ』

『ツナ・フィッシュ』

『ナイン・ライヴス』

『ディケイド・オブ・ロックンロール』

 第2期発売分は、ケヴィン・クローニンが復帰、いよいよ「ホンキ」モードに突入したREOの姿を捉えたラインナップだ。『ライヴ〜嵐の中へ』は前述のように初のゴールド・ディスクを獲得。そして『ツナ・フィッシュ』も100万枚を売り上げ、遂に全米ロック・ファンにその名を知らしめたのであった。この頃には、サウンドもグッとポップなものとなり、ポピュラリティーを高めてゆく。そして、苦難の1970年代に総決算を告げるべく2枚組ベスト『ディケイド・オブ・ロックンロール』をはさみ、満を持して発表されたのが『禁じられた夜』だったのである。

 以後の彼らの活躍についてはあえて触れるまでもないだろう。
 「キープ・オン・ラヴィング・ユー」(米1位)、「テイク・イット・オン・ザ・ラン」(米5位)、「涙のレター」(米20位)、「涙のフィーリング」(米1位)、「涙のドリーム」(米19位)、「涙のルーズ・ユー」など、彼らが放ったヒット曲は、ここ日本でも頻繁にエアプレイ、オンエアされまくったものである。

 さて、前回の紙ジャケ化の際、アッという間に売り切れ店続出、コレクターズ・アイテムとなっていたままの以下4タイトルも今回特別にアンコール・プレスが決定。まさに「涙のアンコール・プレス」だ!

1980 『禁じられた夜』(EICP-1223) \1890 全米1位 ★ 
1982 『グッド・トラブル』(EICP-1224) \1890 全米7位 ★
1984 『ホイールズ・アー・ターニン』(EICP-1225) \1890 全米7位 ★
1987 『人生はロックンロール』(EICP-1226) \1890 全米28位 ■

 さらに、名盤『禁じられた夜』は30周年記念盤も登場!
★『禁じられた夜』<30周年記念エディション>(EICP-1492/3) \3780  2枚組
 こちらは2011年デジタル・リマスター。過去未発表のレア・トラックが満載(9曲)だというディスク2にも注目したい。

『禁じられた夜』

『グッド・トラブル』

『ホイールズ・アー・ターニン』

『人生はロックンロール』

『禁じられた夜』

 最後になるが、当時あまりにも売れすぎた反動からか「産業ロック」とも呼ばれたREOスピードワゴン。しかし、当たり前の話だが、やはり良いものは良いのである。
 今でも時おり「涙のレター」をラジオで耳にするたび、僕はそんな確信を強めてしまうのだ。
 そんな彼らは現在でも現役バリバリ、全米をくまなくライヴして回り、新旧のロック・ファンを喜ばせている。

プログレッシヴ・ロックの祭典〜美しき旋律の饗宴 プログレッシッヴ・ロック・フェス 2011 日比谷野外音楽堂 8月28日・・・上田 和秀
「プログレッシッヴ・ロック」何と甘美な響きだろうか。その代表選手を募って開催されるのが、既に夏の終わりを愛しむかの様な恒例行事となったプログレッシッヴ・ロック・フェスだ。そのプログレッシッヴ・ロック・フェスが昨年に続き、第2回目を迎えた。今年は、イギリスを代表する美しきツイン・リード・ギターのウィッシュボーン・アッシュ、イタリアを代表するロック・バンドPFM(プレミアータ・フォルネリア・マルコーニ)、そしてアメリカン・ハード・プログレの元祖カンサスと言う凄いラインナップだ。

トップバッターのウィッシュボーン・アッシュは、オリジナル・メンバーのアンディ・パウエル(G,Vo)を中心に、マディ・マンニネン(G)、ボブ・スキート(B,Vo)、ジョセフ・クラブツリー(Dr)というメンバー構成だ。
1曲目:『百眼の巨人アーガス』より、「The King Will Come」。
さすがに1曲目からファンが期待するツイン・リード・ギターは、聴かせてもらえないが、アンディのトレードマークのフライングVは、健在であり、マディのワウを多用したレスポールによるリードが観客を魅了する。
2曲目:『百眼の巨人アーガス』より、「Warrior」。
この曲での二人のリード・ギターは、アンディの力強さとメロディアスなマディといった、お互いの特徴がよく表れている。しかし、この曲の本当の特徴は、コーラスの巧さにある。
3曲目:『百眼の巨人アーガス』より、「Throw Down Sword」。
この辺りからバンドとしての調和が聴けるようになる。アンディのリフにマディとボブのベースがユニゾンで絡んでくる。演奏のバランスは素晴らしいのだが、アンディのヴォーカルは、雰囲気はあるのだが少し無理があるかな。
4曲目:『因果律』より、「The Way Of World」。
いきなりイントロから美しいツイン・リードを聴かせてくれる、これですよファンが待ち望んでいたのは。
5曲目:『巡礼の旅』より、「Jail Bait」。
古い曲だが、二人のギターのバランスがとても良く、非常にポップにアレンジされている。それに加え、リズム隊のボブのベースとジョセフのドラムが素晴らしく安定している。
6曲目:『光なき世界』より、「Phoenix」。
彼らの代表曲のひとつでもあるこの曲は、ギターのバッキングとリードによる二人の掛け合いが楽しい。これに、ベースが加わると俄然音の厚みが増す。唯、プレイにもう少し遊び心があっても良いだろう。
7曲目:『百眼の巨人アーガス』より、「Blowin' Free」。
何とも時代を感じさせるイントロは、ロックを愛してやまない我々の世代の琴線に触れ堪らない。アンディは、ボトルネックを駆使し、マディのレスポールは泣きまくり、ツイン・リードは白熱する。長尺でスケールが大きなこの曲が、この日のハイライトであることは間違いない。
アンコールは、最新アルバムから軽いポップな曲が演奏された。最後まで心おきなく世界一美しいとされているツイン・リードを堪能させてくれた。

PFM(プレミアータ・フォルネリア・マルコーニ)は、フランコ・ムッシーダ(G,Vo)、フランツ・ディ・チョッチョ(Dr,Vo)、ヤン・パトリック・ジヴァス(B)というメンバーに、ヴァイオリン、キーボード、ドラムのサポートを加えた構成だ。
1曲目:『幻の映像・友よ』より、「Rain Birth/River Of Life」。
幻想的で重厚なストリングスとアコースティック・ギター、そしてシンバルを多用したドラムによるイントロは、正にこれぞプログレと叫びたくなる。フランツは、クラシカルなアコギからレスポールへ、そしてヴォーカルと続け、少しブーミーなパトリックのベースが絡んでくる。メロディとリズムが複雑な上に、スケールの大きい大作で、多彩な展開を聴かせてくれる。
2曲目:『幻の映像・友よ』より、「Photos Of Ghost (友よ、幻の映像)」。
アコギとベース・ソロによるイントロから始まり、キーボードとバイオリンがリードを取り、そこのまたアコギとベースが絡むという何とも構成の難しい曲だが、アコギのバッキングがカッコイイのだ、これはギター小僧(オヤジ)には堪らない至福の演奏であり、どんな教則本よりも優れた教えである。それに加え、シンセの味付けが上手い。一人一人が演奏家として素晴らしい才能の持ち主であることの証明である。
3曲目:『幻の映像・友よ』より、「晩餐会 (晩餐会の三人の客)」。
難解な曲から一転して分かりやすい曲となる。アコギのリフからヴォーカルに入るが、フランコのギター・リフは、テクニック的にもフレーズ的にも聴かせ何処満載だ。しかも、ヴォーカルも力強い。このバンドの良い所は、ひとつの楽器だけが目立つのではなく、必ず楽器の集合体としてアンサンブルが成り立っている。ギターのバックには、恐ろしく美しいアレンジのシンセが無駄なく重なり、シンプルなエレピは、フランコのヴォーカルを極限まで際立たせる。
4曲目:『甦る世界』より、「新月(原始への回帰)」。
力強いドラム・ソロからヴァイオリン、レスポールの印象的なフレーズで始まり、鉄壁のリズム隊をバックにディレイを上手く効かせたレスポールのアルペジオとバイオリンの奏でるフレーズが余りにも美しい。この複雑な曲を聴いているとイエスの『危機』を思い出す。
5曲目:『チョコレート・キングス』より、「Out Of The Roundabout」。
アコギの美しいフレーズのイントロに、フランツによる鳥の鳴き声が続き、そこにヴァイオリンが加わるという、PFMの必殺技の様なイントロから、少しかすれた声が良い味を出しているフランツのヴォーカルが入る。バックに流れるアコギの美しいフレーズは、聴く者を虜にして止まない。ここへ危機迫るヴァイオリンが加わる迫力満点の演奏である。聴く側に覚悟が無ければ、絶対に受け止められない気迫溢れる演奏である。
6曲目:『チョコレート・キングス』より、「ハーレクイン」。
ピアノの優しいイントロに、フランツのヴォーカルが入るこの曲は、70年代プログレ全盛期を思い起こさせてくれる。フランツがドラムへ戻り、スピード感ある演奏へ、ヴァイオリンの調べが夕闇に響く。
7曲目:『幻想物語』より、「ハンスの馬車」。
壮大な宇宙を想像させるSF的シンセにドラムが加わり、ヴォーカルのフランコが叫ぶ。オルガンは、ブルース・ジャズを奏で、キング・クリムゾンの「21世紀の精神異常者」の様に、全ての楽器が一体となって迫り来る。一転ヴォーカルも重厚なブルースとなるが、演奏は破壊的だ。
8曲目:『幻想物語』より、「九月の情景」。
レスポールのハーモニックスからドラム、そしてフィル・コリンズを粋にした様なフランコのヴォーカルとギターのアルペジオ、スケールの大きなフレーズを奏でるシンセ、これぞプログレの王道たる曲。
アンコール:『幻想物語』より、「祭典の時」。
プログレで、ここまで盛り上がるかと言う程、会場全体が歓喜の渦と化した。誰がプログレに、これ程迄のエネルギーがあることを想像しただろうか。PFMが登場する前に、「今日は、Best Of PFMです。」とMCは説明したが、それ以上の盛り上がりと感動があった。PFMはイタリアのバンドであるので、イギリスのプログレ・バンドと異なり、国民性だと思うが暗く陰鬱ではなく、何処か明るく粋なのである。それに加え、イマジネーションを感じさせる楽曲と演奏は、音楽の無限の可能性を感じさせる。この辺を理解してもらえると、21世紀にもう一度新たなプログレ・ブームが来るかもしれない。

トリを飾るカンサスは、スティーヴ・ウォルシュ(Vo,Key)、ビリー・グリアー(B,Vo)、フィル・イハート(Dr)、リチャード・ウィリアムス(G)、デヴィッド・ラグスデール(Vi)というメンバーだ。
1曲目:「Magnum Opus / Musicatto / Belexes」メドレー。
ヴァイオリンにキーボードが絡むイントロから、やる気を感じさせる展開の激しいメドレーで始まったカンサスのライヴだが、リチャードのポール・リード・スミス(PRSエレキ・ギター)のセッティングが上手くいっていないことと、気持ち程声が出ていないスティーヴのヴォーカルが気になる。
2曲目:『暗黒の曳航』より、「帰らざる航海」。
自分達が影響を受けたバンドの後と言う事もあって、緊張のせいかどうも演奏が走り過ぎの様に思える。唯一の救いは、少しづづではあるがスティーヴのヴォーカルが懐かしい歌声に聴こえてくる。何よりも、WBA、PFMに比べると、やはりアメリカン・プログレは、ポップでキャッチーな楽曲であることが分かる。
3曲目:『ソング・フォー・アメリカ』より、「ソング・フォー・アメリカ」。
ヴァイオリンのフレーズが印象的でスケールの大きなイントロから始まる初期のヒット曲だが、セッティングの問題でアコギの音が出ていない。リチャードは繊細なフレーズを弾くので、惜しい所だ。また、せっかくの大作が勿体ないと思える程、まだ走り過ぎている。聴き応えがある展開が魅力的な曲だけに、この辺で落ち着かないと聴く側が疲れてしまう。
4曲目:『オーディオ・ビジョン』より、「Hold On」。
80年代に入ってからのヒット曲は、アコギが効果的に使われていて、PRSはリチャード渾身のスケールの大きいフレーズを聴かせてくれる。
5曲目:『暗黒の曳航』より、「すべては風の中に」。
アコギによる美しい3フィンガーの有名なイントロが、聴こえてきた。この辺から、本当にバンドとして落ち着きを取り戻してきた様だ。とにかくこの曲に関しては、ヴァイオリンのアレンジが素晴らしい。安心して、落ち着いて演奏を楽しめる。
6曲目:『永遠の序曲』より、「The Wall 壁」。
感傷的なイントロから始まるこの曲に於いて、完全にバントとして落ち着きを取り戻し、完璧なまでに各パートともに充実した演奏になる。勿論、スティーヴのヴォーカルも歌う程に声が出て来た。
7曲目:『永遠の序曲』より、「奇跡」。
ベースのビリーがヴォーカルを取るこの曲は、非常に凝ったアレンジで聴き応えがある。余り触れていないが、フィルはロック・ドラマーとして、安定感抜群だ。中盤からの演奏こそが、彼らの本当の実力なのだろう。
8曲目:『仮面劇』より、「イカルス」。
キーボードのリフにヴァイオリンが絡む得意のイントロから、デヴィッドがヴァイオリンをレスポールに持ち変え、リチャードとツイン・リードを聴かせるなどマルチ・プレーヤー振りを聴かせる。
9曲目:『暗黒の曳航』より、「神秘の肖像」。
プログレと言うよりもブルース・ロックと言った感じの曲で、観客もノリ易い様だ。プログレが暗いと言うイメージは何処吹く風か。ここでもツイン・リードが聴ける。
10曲目:『ドラスティック・メジャーズ』より、「Fight Fire With Fire」。
エンディングが近づき、会場全体が盛り上がる曲を選曲したようだ。待ってましたとばかりに、総立ちとなり、大合唱が始まる。80年代に入り、一段とポップス化した感がぬぐえない曲ではあるが、やけに楽しい。
11曲目:『永遠の序曲』より、「伝承」。
たたみかける様に、この日のラストを飾るに相応しい待ちに待ったヒット曲でエンディングを迎える。ここまで来ると、普段静かであろうプログレ・ファンの気持ちが一気に爆発したかの様な勢いが会場を包み込む。誰もが心の中で「プログレ最高!!!」と叫んだに違いない。

こうして4時間を超える真夏の祭典は、大成功の上に感動を残し、惜しまれつつ幕を閉じた。この日この場所に集ったプログレ・ファンは、来年の開催に大きな期待を持ったことだろう。60年代から70年代にかけて難解なジャンルとして扱われてきたプログレッシヴ・ロックに、ようやく光が当たる時が来たのかもしれない。今も現役で活躍するプログレッシヴ・ロック・バンドには、心から敬意を表したい。個人的には、キャメルやムーディ・ブルースと言ったバンドの出演をお願いしたいと考える。最後に、プログレッシヴ・ロックは、永遠です。
写真:YUKI KUROYANAGI

*アルバム紹介
カンサス(ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル)


カンサス・ファースト・アルバム」(EICP20071) 

「ソング・フォー・アメリカ」(EICP20072)

「仮面劇」
(EICP20073)

「永遠の序曲」
(EICP20074)

「暗黒への曳航」
(EICP20075)


「偉大なる聴衆へ」
(EICP20076〜7)

「モノリスの謎」
(EICP20078)

「オーディオ・ヴィジョンズ」(EICP20079)

「ビニール・コンフェッション」(EICP20080) 

「ドラスティック・メジャーズ」(EICP20081)

PMF(ビクターエンタテインメント)


「幻の映像」
(VICP-75012)


「甦る世界」
(VICP-75013)

「クック」
(VICP-75014〜6)

「チョコレート・キングス」(VICP-75017〜8)

「ジェット・ラグ」
(VICP-75019)


「エジプシャン・ダンサーREIKAは パンク・ロックシンガーだっ た 処女作「The NURSE 1983-1984」リリース・・・ 池野 徹
1976年イギリスロンドンの「セックス・ピストルズ」から、パンク・ ロックが始まった。短期でそのムーヴメントは終わるが、80年代にハードコア・パンクが起きる。その背景は、社会的アナーキーと云うより、音楽的前衛性を目指していた。日本にも同期に入り「竹の子族」が登場したりした背景で波及して数々のパンク・バンドが 輩出する。

現在、日本のアラブ、エジプシャン・ダンサーの代表的存在であるREIKAから、Youtubeに若き日のパンク・ロック映像が掲載され、それがきっかけで、30年振りに再リリースされたと聞いた。 REIKA自身も驚いていた。「THE NURSE」という、女性4人組の ハードコア・パンク・バンドである。「ナース」というバンド名でセーラー服などをまとった、ややドキッとする怪しげな女学生バンドであったらしい。「THE NURSE 1983-1984」は、エクス キュート在籍時のBAKI[ガスタンク]プロデュースの83年発表の1stソノシートと、スターリンのTAMプロデュースの84年発表の2nd EPに、未発表ライヴ音源17曲を加えた全30曲を収録した集大成アルバムである。

84年スタジオ音源にはデッドコップス在籍時のTASTU(g)[ガスタンク]と、EURO(drs)[エクスキュート]が全面参加している。同年ライヴ音源には、PILLが(dr)[リップクリーム]で協力参加もしている。

そのパンク・ロック振りは、ヴォーカルにNEKO(REIKA)、ギターにTATSU、ベースにKEIKO、ドラムスにDR.EUROである。ライヴを含めてストレートなパンクが続く。「ナース」の曲は、”何時でも何処でもあなたのナース”と滑り出し、「またたび」の曲で、”踊り狂って猫の陶酔、みんなで仲よく手を取りあって、ニャアー”と歌っているのは可愛いい。シンプル・パンクに、中近東的オリエンタル・トーンがあるのは、現在のREIKAの世界が視えていたのかもしれない。このシンプル・パンクをバックにREIKAがダンシングするのも面白いかもしれない。

現在のロック・シーンに、アグレッシブなムーヴメントが生まれて来ないのは何故だろうか。環境か、社会か、生き方か、人間か。全てはつまらなく輝いてもいないのに。REIKAのナデシコ・パワーにでも期待しよう。

「THE NURSE 1983-1984」

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