5月20日に開かれた「JVC ケンウッド・トワイライトイベント MPCJスペシャル」は回を重ねて12回目。これでちょうど1年が経ったことになるが、今回も会場に入りきれない程の盛況で、イベント自体も例月にも増して聴き応えのあるものだった。
タイトルは、先日の来日公演でクラブ・ツアーを行って話題を呼んだボブ・ディランに焦点を当てた≪ディラン・ナイト≫。ディランを語るには欠かせない菅野ヘッケル氏を始め、ディラン・フリークの中川五郎氏やサエキけんぞう氏(3人共にミュージック・ペンクラブ・ジャパンの会員でもある)、それにディランが大好きという若手の女性デュオ、THE DUETによるライヴもあるとあって、いやが上にも期待は高まる。
まずは、日本で撮影されたことで話題となった「タイト・コネクション」のプロモ・ビデオ上映でスタート。続いて、いつものストーンズ・ナンバーをバックに登場したMike Koshitani氏の紹介でTHE DUETが登場、ディランについての語りを交えながら「I WANT YOU」「ディポーティーズ」「ONE MORE CUP OF COFFEE」の3曲をギターの弾き語りで披露。二人とも1960〜70年代のディランの活躍を知らない世代で、ひとりはまだ19歳という若さにも驚かされたが、美しい歌声から紡ぎ出されるクリアーな日本語のメッセージがとても新鮮で、その真っすぐな歌唱が皆の心に染み渡っていくようだった。
会場にいらしていた方の中にも先日の日本公演全てを見たという人がいらしたが、菅野ヘッケル氏は更にソウルにまで足を延ばしたそうで、中川五郎氏、サエキけんぞう氏を交えてのトーク・セッションでは韓国と日本の観客の違いや毎日変わったというセット・リスト等、クラブ・ツアーの話を中心に興味深いトークが繰り広げられた。けんぞう氏がディランの歌声を“胆汁”のようと表現したのにも妙に納得させられたが、一番の聞きものはヘッケル氏が明かしてくれたディランのオフの姿。彼の偉大さについては誰もが認めながらも、どうしても近づき難いイメージがあるが、宝塚や歌舞伎を見に行った等というエピソードの数々で、少しは彼が身近に感じられたのではなかろうか。
最後はけんぞう氏と五郎氏によるライヴ・タイムで、まずけんぞう氏が、メロディーに載せる詞(譜割り)の言葉が多くなったきっかけの曲だというディランの「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」を、オリジナルのCDにのせて手書きのメッセージ付きで披露。機関銃のような言葉の放出がいかにも彼らしいパフォーマンスだった。
そしてトリをつとめたのが五郎氏のライヴ。まず、ボブ・ディランに触発されたというお馴染みの「受験生ブルース」のオリジナル・ヴァージョンを、新たに書き加えた歌詞を交えて披露(高石友也のヒット曲として知られるが、作詞は五郎氏だ)。続いて横須賀の街で歌い続けている友人を歌った「1台のリヤカー」、前政権の“狸親父”の言葉を並べて皮肉った「お手並み拝見」を説得力ある歌唱で歌い上げ、会場を魅了した。
更にはTHE DUETを再びステージに呼んで、3人で極め付きの「時代は変わる」「ライク・ア・ローリング・ストーン」を熱唱。終わってみれば予定時間を30分以上も過ぎていたが、誰もが時が経つのを忘れていた程、引き込まれていたように思う。出演者の年代も個性もヴァラエティーに富んでいながら、根っこの部分では皆、ディランとつながっている。時と場所を越えて私達を触発し続けるディラン。紅白歌合戦のキャッチフレーズではないが、歌の力、言葉の重みをあらためてひしひしと感じさせられた密度の濃いイベントだった。
写真:轟 美津子
=MPCJ会員からの声=(アイウエオ順)
1960年代半ばの若者が牽引したカウンター・カルチャーの時代を懐かしく思い出させた。また「時代が変わってしまった」ことも確認させた、なかなか貴重な一夜であった。(石田 一志)
THE DUETのアコースティック・ライヴに始まり、菅野ヘッケル・中川五郎・サエキけんぞう・マイク越谷による中身の濃いボブ・ディラン裏話、サエキけんぞうによる危ない歌詞説明付ライヴ・パフォーマンス、そして中川五郎によるプロテスト・ソング・ライヴとケンウッド・イベント始まって以来のバラエティに富んだ内容は、出演者全員の個性がカラフルなトーンとなって表現され、この日集まった観客を120%満足させる内容となった。(上田 和秀)
菅野ヘッケル、中川五郎、サエキけんぞう、皆さんMPCJのメンバー。さすが、ディランに造詣が深く、それぞれの思いでディランについて語り、歌ってくれた。100分では物足りないほどの内容だった。それにしても、ヘッケルさんのディラン情報には本当に驚かされる。THE DUETの優しい感じも良かった。(鈴木 修一)
韓国公演を含め、ボブ・ディランの全アジア公演を制覇した菅野ヘッケルはじめ、中川五郎、サエキけんぞう、THE DUETと多彩な顔ぶれが、熱くディランを語り、演奏したのに感動し、心から楽しんだ一夕でした。ディランが常に世の中に向かって毅然たる態度と文学性をもってメッセージを発していることも、再認識させられました。(鈴木 道子)
菅野ヘッケルさんによる、ボブ・ディラン来日ツアーの総括は、ディランに対する熱い思いに満ちていて、聞いているこちらまでワクワクした。中川五郎さんとTHE DUETの歌には、軽々と世代を越えて影響を与えるディランのパワーを感じた。サエキけんぞうさんの、ディランに対する鋭い分析力とそれに基づくパフォーマンスには脱帽。こうして様々に、ディランは愛され続けているのだと再認識させられた。(細川 真平)
実は私、フォークソング系は苦手です。従って、ボブ・ディランもエレキ・ギター&皮ジャン以降の楽曲しか、対応出来ません。そんな一抹の不安を抱えながら迎えた今回のイベント。不安を払拭してくれたのはサエキけんぞうさんでした。通常の2倍以上のボリュームがある歌詞を一気に早口で歌うサエキさんには、ラッパーとクラブ・ミュージックの匂いを感じた。また、ボブ・ディランの芸術的な歌詞の韻のふみかたは、ラップのライムと比較すると、とても興味深いことに気付いた夜でした。(松本 みつぐ)